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何気ない平穏に。
「いい天気ですね〜、大殿」 「うん。そうだね、さん」 は元就ととある場所に向かって歩いていた。 普段、屋敷に籠りがちの元就とこうして外を出歩くのは、にとって一つの夢だったようなものだ。 だから、隣を歩く元就を見るとつい笑みが零れる。 「ん?どうかしたのかい?」 の視線に気づいた元就。 気づかれて恥ずかしいと思う反面、はそれでも嬉しくてしょうがない。 「夢が一つ叶ったなぁと思って」 「さんの夢?へぇそれはなんだい?」 「大殿とお出かけすることですよ」 「え…」 元就は瞠目し、困惑した。 ただ、はそんな元就に気づかないまま、ご機嫌に話す。 「だって、大殿が外にお出になるのって、出陣する際ってくらいだし」 「そ、そんなに不精じゃないと思うけどなぁ…」 「あ。大げさに言うとですよ」 一人でふらっと散歩や、釣りに行くこともあるから。 ただ、あくまで元就が一人で出かけてしまうだけで、と一緒にということがなかったから。 小さな夢。といえばいいのか、そんな元就と一緒に出掛けられたらいいなとは願っていたのだ。 「あと…前にも一度、大殿とお出かけしたいって言ったこともあるから…」 「そうだったね…」 元就と城下にでも行ってみたい。それがきっかけかもしれない。 約束したものの、中々果たされることはなく時間は過ぎていた。 それに。 「本当だったら、先月一緒に桜を観に行きましょうって約束もしたのに、私が寝込むから…」 城下よりも先にちょうど桜が見ごろの時期だったので、花見にでも行こうかと元就が言ってくれた。 は嬉しくて、張り切ってお弁当を用意しようと思っていたのに。 いざ、当日になったら風邪をひいてしまい、完治するころには桜は散ってしまっていた。 「だから、今日はその埋め合わせをしようって決めたじゃないか。桜は見れずとも、他にいいものがあるだろうし」 「大殿…」 思い出し、落ち込み始めたを元就はやんわりと宥めた。 「それに、さんが風邪をひいてしまった原因は、元々は私のせいだからね。さんが悩む必要はないよ」 「そんな」 「私が風邪をひいて、さんが看病してくれたのに、うつしてしまったからね」 先に風邪をひき寝込んだのは元就だった。 「だから、気にしなくていいんだよ。桜なら来年見に行けばいいさ。今日は今日で楽しもうじゃないか。ね、さん」 軽くの背中を叩く元就。 にっこり笑って、それがの気持ちを浮上させてくれる。 「だけどねぇ…」 元就がため息を吐いた。 「もっと上の方に行きますか?元就公」 「えー!もういいよ、ここらでお弁当にしようよ。俺お腹空いちゃったよ」 出かけに出たのは、二人きりではなかった。 「男なら簡単に音を上げるな。情けない」 「なぜ、私まで…」 いつもの客人達。 宗茂、半兵衛、ァ千代、官兵衛も一緒だった。 「なんで、君たちまで着いてくるんだい…」 「あれ?今更の話だよ、元就公」 出かけようと計画をし、実行しようとした前日にそれぞれが元就の屋敷に来たのだからしょうがない。 客が来たから、計画を断然するほどのものでもないし、あと少しすれば梅雨になり、さらに外に出かけることが適わなくなる。 だったら、大勢で楽しむのも手だと思って、は半兵衛達も誘ったのだ。 「別に俺たち、二人の仲を邪魔しているわけでもないし」 「しているだろう。今、盛大に」 「あはは。元就公は本当殿が大事なんですね。普段二人でいるのに、たまにはいいじゃないですか」 前方を歩く半兵衛達は楽しげである。 「それにこれはちゃんの希望でもあるんだし。一緒に行こうって誘ってくれたんだし、断る理由なんてないでしょ」 「城下に行くのもいいが、こういうのもいいものだ」 ァ千代も割とご機嫌だ。 「ちゃんと二人で。なんていつでもできるでしょ、今回は我慢してよ、元就公」 元就は後頭部を掻く。 「やれやれ。なんだか、私一人が悪者みたいだな」 「悪者なんて、誰も思っていないですよ。大殿」 は小さく笑う。 「皆さんも、大殿とこうして出かけられるのを喜んでいるんですよ」 「それはどうなのかなぁ」 小さな子供ならともかく、すでに大人の彼らにそう思われても微妙なところだ。 元就にしてみれば、絶対にからかう目的なんじゃないかと疑わしいくらいだ。 ァ千代や官兵衛はないだろうが、半兵衛と宗茂は怪しいものだ。 「いいじゃないですか、たまには。私も皆さんとお出かけするのは好きですし」 「あれ…やっぱり私だけの我儘みたいに聞こえるなぁ」 「違います。半兵衛さんも言ったじゃないですか。二人で出かけるのはいつでもできますから。今日は大勢でいいんじゃないですか?」 ね?とに笑いかけられると元就も嫌とは言えない。 「大殿だって、桜なら来年見ようって言ってくださったし。いつでも一緒に居られますよ」 「そうだったね」 いつでも。なんて…本当は怪しいものだ。 だけど、そう願うのが普通なのだろう。 「ちゃん!あそこでお弁当にしよう!!見晴らしがいいよ」 半兵衛の呼ぶ声が。 「はい。そうしましょう」 大分歩いたから腹も空いてきた。ちょうどいいのかもしれない。 元就も気分を変えて今を楽しむことにした。 「いやぁ。ここからだと城下が見事に見渡せるね」 「陣を敷くならいい場所かもしれんな」 「んー…そうかなぁ?逆に向こうから丸見えのような気もするし。でも、俺が指揮するならば」 「こらこら。物騒な話をするんじゃないよ」 半兵衛と官兵衛の会話に元就が釘をさす。 「いやぁ、つい軍師として見ちゃったんだよね。俺個人の考えならば、いい昼寝場所だと思うよ」 悪びれる様子はなく半兵衛は笑った。 「大殿。お弁当の用意できましたよ。半兵衛さん、官兵衛さんもどうぞ」 に呼ばれて三人は素直に従う。 「ん。これは見事なお弁当だね、さん」 どれから箸をつけていいのか迷うと元就は感心する。 「本当。美味しそうだね」 半兵衛は昆布巻きを一つ摘み食べた。 「うん。見た目だけじゃなく、美味しいよ」 「ありがとうございます。早起きして頑張った甲斐がありました」 お弁当というだけあって、あれもこれもと少し贅沢して沢山詰め込んでしまった。 皆に、元就に喜んで欲しくて。 あとは、自分がたくさん楽しみたくて。 元就と二人きりでもいいけど、こうしていつも来る客人達が揃うことは珍しいから。 特に官兵衛など、半兵衛が理由でも作らないとやってくることはないから。 「ァ千代も殿に教わるといいと思うな」 「………いつもならば否定するところだが…今回は否定できぬ…」 だし巻き卵を食べたァ千代は小さく唸る。 立場的に料理などできずともよいァ千代なのだが、どこかで料理をと思っているのかもしれない。 「だが、貴様に言われると腹が立つな、宗茂」 ァ千代は宗茂を睨み付けながらだし巻き卵を頬張った。 「本当、頑張ったね。さんは。別におにぎりだけでも私はよかったんだよ。さんが出かける前に疲れてしまうじゃないか」 「疲れなんてないですよ。皆さんが美味しいって食べてくださる姿を見ただけで嬉しくて」 「大げさだよ、ちゃん」 「本当のことですよ」 本来ならばこうして共に過ごすこともなかった人達かもしれない。 敵同士として一生会わなかったかもしれない。 そして、この先どうなるかはわからない。 再びこじれて敵対するかもしれない。 難しいことだ。にはわからない。 わからないから、今を楽しむことにしたい。 「次はいつ一緒に出掛けられますかね」 何気なくは呟いた。 「んー…ちゃんが行きたいって言えば、いつでもいいよ、俺は」 「え、あの」 「そうですね。殿のお願いならばいつでも聞きますよ」 半兵衛と宗茂が優しく笑いかけるものだから、は照れてしまう。 「ここで、いつもみたいなことを言えば、私が大人げないって言われるのだろうね…」 元就が息を吐く。 「卿も苦労するな…」 官兵衛が珍しく呟いた。 「あと少ししたら梅雨だ。遠出は無理だろう。だが、晴れた日は城下に買い物にでもまた行こう。」 ァ千代は周囲など無視してあっさりに約束を取り付ける。 「はい。行きましょうね、ァ千代さん」 は嬉しそうに頷いた。 帰り道、が目元を擦っていた。 それが目についた面々。 「殿」 「はい?」 宗茂に何か?と問う前に、宗茂がから手荷物を、空の弁当箱を取った。 「あれ。宗茂さん?」 宗茂は何も言わずに先を歩く。 「さん、もう眠いのだろう?」 「え、えと…」 「早起きして、あれだけ見事な弁当をこさえたのだ。仕方あるまい。元就、ちゃんとを背負うのだぞ」 ァ千代に言われて元就は苦笑する。 「誰に言っているんだい、君は。そんなことはわかっているよ」 「大殿」 「遠慮しないで、さん。私だってまだまだ体力はあるさ。さん一人背負うくらいなんてことないよ」 の前に背を向けしゃがむ元就。 は申し訳なく思うが、周りがそうさせてくれるので素直に従う。 「お、重くないですか?大殿…」 「あははは。重くないよ」 を背負い歩き出す、元就。 「元就公ー!ゆっくりでいいですからね。俺達先に行ってるよー」 半兵衛がヒラヒラ手を振る。 元就は頷く。 「あ。夕餉の準備が」 が先を歩いていく半兵衛達を見て言う。 「大丈夫だよ、さん」 身を乗り出しそうなに元就は言う。 「半兵衛達がね、夕餉は自分たちが用意するってさ。昼間の弁当のお礼を君にしたいそうだよ」 だから、ゆっくり来いと半兵衛達は言ったらしい。 「…いいんですか?」 「あぁ。さんは少し頑張りすぎだよ、たまにはいいじゃないか。こういうことがあっても」 は頬を元就の背につける。 「眠たいなら我慢しないで寝てもいいよ」 「………」 「皆さん、私を甘やかしすぎです」 そんな呟きが背中から聞こえた元就は声に出して笑った。 「一番甘やかしているのは、大殿ですけどね」 「それは否定できないなぁ」 夕餉もきっと楽しく過ごせそうだ。 13/04/28
19/12/29再UP
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