君に会えてよかった。



ドリーム小説
「……暇…なんだけどなぁ…」

は青く広がる空を見上げながら呟いた。

「なんか…お役御免…って感じ…」

いつもならば暇などと考えることなく忙しくなく動いているから。
だけど、今日に限って、元就から。

さん。今日は何もしなくていいよ。というより、働くのは禁止。君の好きな事をして過ごすといい」

と言われてしまい、家事一切することなくぼーっとしていた。
しかも、屋敷に居てもすることもない。というより、やろうとすると止められて取り上げられてしまうので居場所もないのだ。
だから一人町に出てみたものの、何もすることなくぼーっとしていた。

「一人でぶらぶらしても面白くないし…」

一人で行動しないわけではない。
元就の使いで買い物やら届け物やら、一人で町に出ることはある。
でも基本、町へ出るのは誰かと一緒。
たまにやってくるァ千代と一緒に買い物をするのは楽しい。
半兵衛たちとも茶屋で甘味を食べたりするのも楽しい。

「そう言えば…大殿と一緒にって事ないなぁ…」

元就の立場を思えば難しいのかもしれない。
だけど、どうせならば元就と一緒にお出かけしてみたいと思うのだが。

「あ」

仕方なく座っていた縁台から通りゆく人々を見ていたが、そのうちの一人を見てしまう。

「あの人の着物の色…大殿に似合いそう…」

若草色、派手な柄もないものだ。
着ている人より元就の方が似合うだろうなんて考えてしまう。
そうだ。今度あの色の着物を繕ってみようか。
裁縫はあまり得意ではないが、こっそり元就のために仕立ててしまおう。

「…って…結局…離れられないかぁ」

やはり自分は何かをしていないとダメなようだ。
同時に元就の為に何かしていたいと言うのが一番のようで。
ここまで誰かの為にと思うことがなかったから、そこまで思わせるくらい元就が大事で、大切で。大好きなんだ。
けど、今日ばかりはその想いにへこまされる。

「今日は家事をしちゃダメなんて…なんでかなぁ…」

いつもしていることなのに。
何か自分に落度でもあったのだろうか?
失敗などした覚えはないし、滅多にないが、元就を怒らせるようなこともしていないし…。

「…していないのかな?…気づかないうちに何かしでかしたのかな?」

元就が集めた書物。先日いくつか処分してしまった。
いや、だってあれは同じものが数冊かぶっていたからいらないだろうと思ったわけだし。
書物だって、1冊、2冊じゃない。かなりの冊数を所蔵している元就。
いくら広い室だと言っても、限度というものがあるから、処分できるものはしてしまわないと室中書物で溢れかえってしまうではないか。
それが崩れでもして元就が生き埋めになってしまっても困るし。
けど、元就はそう思う事をないのだろう…。
よかったのか、ダメだったのか、考えれば考えるほど不安になる。
そして人と言うのは不安になれば後ろ向きな考えも沸いてしまうもので。
は結末を悪い方向へしか考えられなくなっていた。






さん。悪いんだがお茶を…あ…そうだった…」

元就は頭を掻いた。
には休みを言いつけたのだ。
だから執筆中であった元就が、休憩しようといつもみたいにに頼もうとしたが、彼女は不在だった。

「満喫してくれているといいんだけどね」

ただ、急に休みを言いつけたことによりが驚きよりも戸惑いをその表情に見せていた。
に休暇を与えたのは、を想っての事だ。
先日、家事に勤しむを見て、来ていた客人。
半兵衛やァ千代たちが何気なく言ったことがあった。

ちゃんは本当元就公に尽くすよねぇ」

殿の時間は元就公の為にある。ように見えますよ、羨ましい話だ」

「何が言いたいんだい、君たちは」

がそばで何かしてくれる事に元就は不満を持ったことはないし。
他人にとやかく言われることはないと思う。

に頼りすぎではないのか、貴様は」

不満を述べたのは意外にもァ千代だった。

「頼りすぎ?…そうなのかい?」

「俺たちに聞くのですか?それ」

宗茂は苦笑した。

「頼り過ぎ。というか、依存している…ような?ほら。殿だって、自分のしたい事とかあるんじゃないですか?年頃の娘さんなんですし」

「貴様の世話ばかりでは周りから浮いてしまうのではないのか?」

「ほら。ァ千代にまで思われるくらいなんですから」

「宗茂…何が言いたい…」

ァ千代が宗茂を睨む。

「ま。僕たちが言える義理じゃないのだけど、ちゃんって同い年くらいの友達っているのかなーって。いつも屋敷の中で囲っていたら友達なんてできそうにないけど」

言われてみて元就も確かにと思ってしまう。
ずっとこの屋敷の中で、自分の世話ばかりさせての好きな事をさせてあげているのかと。
友達と呼べる子の話は元就は聞いたことはない。
以前、元々いた場所での家族や友達の話を聞いたことはあるが、ここ最近では皆無だ。
思い出しても、再会できそうもないから寂しく感じ口を閉ざすのだろうか。

「元々貴様に仕える女中ならば、そのような事を気にする必要などないのだがな」

別に職の差別などするつもりはないが、は下女などではない。
最初は行くあてのない彼女にここに居れば?と元就から提案したのだ。
下働きをさせるというか、そのくらいならば彼女でもできるだろうと。
一緒に過ごしているうちに、互いに芽生えた想いもあって、今の状況になっているのだ。

(芽生えた想いって…自分で言うのも何か恥ずかしいものがあるなあ)

自分の娘より年下の子をそばに置いておくなど。
息子たちからは「早く娶って差し上げればいいのに」と愚痴られる始末だ。
自分はを大事にしているのだが、傍から見ればそうは見えないのだろうか?

「ま。とにかく。別の言い方をすれば。殿は働きすぎじゃないんですか?って事ですよ」

「働き過ぎ…そうかぁ…」

しばし考えた元就。
そこで、に1日ぐらいは休暇を。と思い休ませたのだ。

「ふぅ…さんがいないだけで、こうも静かだとは…」

が不在の時間などいくらでもある。
だけど、彼女がいない時間は寂しく感じる。
彼女と出会う前はそのような事を考えることも、感じることもなかったのに。

「……まぁ、楽しんでくれているといいんだけどねえ…」

それでお土産話でも聞かせてくれたならば上々だ。





そろそろも帰ってくるだろうと元就は待っていたのだが。
なぜだか、その気配がまったくない。
1日と言ったのだ、時間を忘れて楽しんでいるのだろう。
いつまでに帰ってきなさいとはこちらも言っていないのだ。
好きにさせたのだから。
けど、待つだけのもつまらない。

「……どうしたものか…」

そわそわし始めた元就は待ちきれなくなり、腰を上げた。
を待つのは初めてではない。
だけど、万が一何か事故、事件に巻き込まれていやしないか心配、不安になった。
屋敷を出たところで、小さな塊を見つけた。
薄暗くなっていたので、元就にしては珍しく小さく唸った。

「…って、さんかい?」

小さな塊はしゃがみこんでいただ。
は元就の声に顔を上げた。

「大殿…」

「中々帰って来ないから心配したよ。というより、どうしたんだい?そんな所で。具合でも悪くなったのかい?」

元就はの前にしゃがみ込み、の手を取る。
いつからそうしていたのだろうか?の手は冷え切っている。

「大殿…私…」

不安げに元就を見る

「ん?」

「帰ってきてもよかったんですか?」

え?と元就は瞠目させる。

「え、えと…さん?」

「だ、だって…大殿が急に何もしなくていいって言うから…屋敷にいちゃいけないのかなって…」

は口をへの字に結び、上目で元就を見ている。
元就は後頭部を掻いた。

「いや…そんなつもりはまったくないのだけどね…そもそも…さんの為を思ってした事だったんだが…」

まさかそんな風にとられるとは思わなかった。
これは誤算だ。

さんが毎日一生懸命働いてくれるから、たまには休みを…と思ったんだけどね」

「別に、そんなの気にしなくても」

「いやぁ、まぁ…けど、さんにだって色々したいことがあるだろうと思ったわけだし」

宗茂達に言われた所為でもあるが。

「私のしたい事って…大殿のお世話に決まっているじゃないですか」

さん…」

「好きで毎日やっている事だから、それを大変だと思う事ないし…寧ろ、ひとりで町に出ても面白くないくらいで…」

自分第一に考えてくれることにほんのり嬉しくなる。
同時に、自分がそこまで彼女を縛っているのではないかとも思う。

「でも、さんはまだ若いんだし…」

「若いとか、そんなの理由にならないです。好きな人の為にって思うじゃないですか」

面と向かって好きな人とに言われて、元就は照れた。
お互いの気持ちはわかっているものの、こうも改めて言われると…。

「大殿が私を大事に想ってくださるのと同じで、私も大殿が大事なんです」

だから。とは珍しく、彼女の方から元就に抱き着いた。

「大殿のそばにいられるのが、一番なんです。今日一日…大殿のことばかり考えていたし…」

「ははっ。私は幸せ者だね、本当…」

の背に手を回す元就。

「感謝のつもりでしたことだったんだけど」

「お気持ちだけで十分です。大殿のそばに居られないことの方が辛いです」

「ありがとう。さん」

子ども扱いをするわけではないが、二三度の背を軽く叩く。

「さて。中に入ろう。夕餉の準備はできているんだ。話の続きはそこでしよう」

元就はを立たせる。

「はい。大殿」

「私もね…本音を言えば、今日一日寂しかったのさ。さんの淹れてくれるお茶が飲めなかったからね」

あと、どこでどうしているのか。そんな事ばかり考えて過ごしたものだ。
のんびり縁側などで、の淹れてくれた茶を飲みながら、談笑するのが日課なのだ。

「あと。さんが中々帰って来ないから、愛想をつかれてしまったのかと思ったよ」

「もう…そんな事ないです」

「だろうね。杞憂だったね」

はさきほどの不安げな表情が消えて、元就の隣で笑顔になっている。

「大殿。私、町で大殿に似合いそうな色の着物を見つけたんですよ」

「へえ、私に?」

「はい。着ている方より大殿の方が絶対似合う!って思うくらいの」

「それは大袈裟なんじゃないのかい?」

「そんな事ないです。絶対、大殿の方が似合います」

自信たっぷりに言うに元就は笑う。

「それで、大殿…」

「ん?」

「いつか…いつかでいいんで…今度は二人で町に遊びに行きましょう。私、大殿ともお出かけしたいです」

いつもはァ千代や、半兵衛達としか行かないから。たまには元就ともと…。

「あ。無理なのはわかっているんですけど…大殿の立場から言って…」

「いや。そんな事は気にしなくていいよ。以前みたいに死んだふりは止めてしまったんだし、室に籠りっぱなしの理由もないからね。たまにはいいんじゃないかな」

「本当ですか!じゃ、じゃあ。ァ千代さん達と出かけた時に見つけたお店とか一緒に行きましょうね、大殿」

「ああ」

子どもみたいにはしゃぐ
確かに自分から見ればは子どもだ。
だけど、子どもとは違う。とても大事な、大切な人なんだ。
以前も思った。は最後の恋の人だから…。

「まぁ…宗茂達にはまた叱られるだろうなあ…」

けど、いいんだ。
誰がなんと言おうが、これで。







12/12/09
19/12/29再UP