変わらないもの。



ドリーム小説
「信州名物…なのですか?これが…」

「はい。私はそのように聴いていたのですが…真田様はご存知ないのですか」

が真田幸村と話をしていた。
皿に盛った何かを幸村に見せているのだが。

「信州の郷土料理だと。具の野沢菜漬けも信州名物だと」

「すみません。私は初めて聞きました」

申し訳なさそうな幸村には慌てる。

「いえ。真田様が謝ることはないですよ。なんとなく真田様がご存じない理由がわかりましたから」

はにっこり笑み、皿に盛られたそれ。
信州の郷土料理おやきを幸村に勧めた。

「私が食べてもいいのですか?」

「はい。真田様に味見をお願いしようと思っていましたので」

「あなたの作ったものはどれも美味しいと軍でも評判ではありませんか。味見役をさせてもらうのが私でよいものか…ですが、ありがたくいただきます」

幸村は両手を合わせる。

「具は三種類ありますから。さっきも言った野沢菜漬けに、こっちは餡子で、こっちはかぼちゃです」

「へぇ。どれを食べてよいやら迷いますね。ですが、野沢菜漬けに興味が湧いたので、そちらをいただきます」

幸村は一つを手に取り一口食べた。
は幸村の反応が気になるのかそわそわしている。

「ど、どうですか?真田様…」

急かすのも悪いと思うが、どんな具合か気になるのだ。

「少し辛めなのですね。でも美味しいです」

「よかったぁ」

は心底安堵したように笑顔になる。

「真田様は甘いのがお好きだとお聞きしました。野沢菜漬けよりも、餡子やかぼちゃの方がお好みに合うかと思います」

そちらもどうぞ。とは進める。
幸村は遠慮なくとおやきを手に取った。




「いいんですかい?毛利の大将。大事な子が幸村さまにうつつを抜かしておりますよ〜」

幸村との様子を窺っていた影が二つ。
一人は元就。もう一人は幸村に仕えるくのいちだ。

「それは君の方が困るんじゃないのかい?」

「ありゃあ。大人の余裕ですかい?大将」

にゃははと陽気に笑みを浮かべるくのいちだが、目が笑っていない。

「私はさんの行動を制限するつもりはないよ。さんが幸村殿に気があるならばそれは仕方ない。彼とは年も近いようだし、人間性も悪くない」

「もう〜余裕と言うより、諦めちゃっているじゃないですか。まったく、大将ならばえげつない策でも講じてでもちゃんを渡さないと思ったんですけどねぇ」

元就は苦笑する。

「えげつないって酷いなぁ、君は…だけど、そのえげつない策を使ってさんに嫌われたくはないんだよ、私は」

後頭部を掻きながら元就は言った。

「ただの臆病者なんだ、私は」

「中国の覇者とは思えない言葉ですなぁ」

くのいちは呆れる。

「そうかい?」



しばらくして、元就の元へがやってきた。

「大殿!これ、食べてみてくれませんか?」

はご機嫌で皿を元就の前に置いた。

さん?」

食べるとはまだ答えていないのだが、はさっさと食べる準備をしてしまう。
お茶も淹れて、おしぼりまで用意して。

「焼きたてなので熱いですけど…味は保障します!自信ありです」

「いや、さんの料理の腕前を疑う事なんかしないよ、私は。特に最近は目に見張るほどの上達ぶりじゃないないか」

「そうですか?それは先生が良いからです。おねね様と月英様に沢山教わっていますから」

三国志の時代と戦国の時代が一人の魔王によって融合した。
世界は荒れようが、人々は負けず戦っていた。
英傑達は一つとなり妖蛇を倒そうとしているのだが、殺伐した中でも日常生活はあるわけだ。
は自分ができる事を少しずつだが実行している。
そんな中で、主婦として大先輩にあたる人達に色々学んでいるそうだ。

「大殿。早く食べて見て下さい」

「う、うん」

皿の上のものは、さっき見かけた。
これはが幸村に勧めていたものだ。

「おやきって言うんですよ」

「おやき…ね」

「具は野沢菜漬けと餡子とかぼちゃです」

うん。知っている。そんな話をしているところを見てしまったから。

「大殿?」

いつもならば喜んで食べる所だが、先ほどのあれを見て戸惑う自分がいた。
くのいちには大人の余裕だとは言われて、えげつない策でも講じてを誰にも渡さないだろうとも言われて。
に嫌われたくないからそんな真似はしない。
ただの臆病者。だと答えても、実際はそうじゃない。
幸村のような若者相手ならば、遠慮もしないで様々な策を講じて排除する気だ。
に嫌われない為。なんて言うより、きっとに知られないように秘密裏に行って。
真っ黒だから、自分の手は。
国の為なら今までだって何でもしてきた。
最善と思える手段がどんな方法でも、被害を最小に抑えられるならばどんな方法でも。
が思っているような人間じゃないのだ、自分は。

「もう。大殿ってばぼーっとして。どうしたんですか?」

「あ。あぁいや、私が食べてもいいものかと思って…」

「いいに決まっているじゃないですか。これは大殿の為に作ったんですから」

「私の為?」

「そうですよ。いつもそうしているじゃないですか。なんですか、急に…」

だって幸村に食べてもらっていたじゃないか。

「真田様に味見してもらったので、問題ないです」

「味見役?」

「はい。おやきって真田様の故郷である信州の郷土料理なんですよ。おやきを作ってみたいなと思って、でも味付けがこれでよかったのか不安だったので、真田様に味を確かめてもらったんです」

それをちょうどくのいちと目撃してしまった。

「だけど、真田様はおやきをご存知なくて」

「有名じゃなかったのかい?」

「いえ。多分、おやきができたのはずっと後の時代なんだろうなって」

「あぁ。そういう事か。さんが知っていて幸村殿が知らないならばそうだろうね」

「はい。でも、真田様は美味しいって言ってくださったので。これで大殿に食べてもらえるって嬉しくて」

元就はため息を吐いた。
自分の為にしてくれたことだったとは。
少しでもが幸村に気があるのかと疑ってしまった。

「大殿?」

「なんでもないよ。じゃあ食べようか、おやきとやらを」

元就は内面を悟られないように笑う。
とは思いつつも。

「いやぁ、私はさんが私を捨てて幸村殿に乗り換えたのかと思ったよ」

「な!お、大殿!!?」

仄かに芽生えた感情をかき消すように、いつもみたいに飄々と言って見せる。
その方が幾分自分らしいというか、が知る自分らしいだろう。

「さ、真田様に乗り換えるなんて…しませんよ、そんな事」

「うん。だろうね。さんは私の為にこうして美味しいものを作ってくれるんだから。あぁ、美味いね、おやき」

元就に褒められては破顔するも、すぐさま唇を尖らせる。

さん?」

「大殿がそうおっしゃるならば、真田様に乗り換えてもいいですよ?私は」

「だ、ダメ!絶対ダメだよ!」

は小さく笑う。

「どうしましょう。大殿は私の事を信じてくれていないみたいだし…
さきほど、郭嘉さんにお茶に誘われてしまいましたし…あ、そう言えば魏のもう一人の軍師さん。大殿と声が似ていますよね。お話しているとなんだか不思議な感じがします」

「う…さん。ほいほい知らない人に着いて行ってはダメだよ?」

「郭嘉さんは知らない方ではないですよ?」

「あ〜じゃあ…下心ありのような人には」

「表面上下心を見せる方っていませんよね?」

さん、勘弁してほしいなぁ」

苦笑交じりの元就には楽しげに笑う。

「じゃあ、ほいほい着いていないように、見張っていてくださいね。大殿」

「見張るのはさんじゃなくて、その他大勢だろうなぁ」

何はともあれ。
相変わらずが大事だと言う元就の話だ。







12/06/24
19/12/29再UP