きっと当たり前。



ドリーム小説
「そう言えば…ふと思ったのですがね」

当たり前のように元就の屋敷を訪れていた立花宗茂。
日の当たりがいい室でのんびりしていた元就。

「何をだい?」

「元就公と殿はどういう風に出会ったのですか?」

「あ!それ僕も知りたーい!」

はいはい!と子供のように手を上げるのは、今まで寝転がっていた竹中半兵衛だ。

「私とさん?」

「えぇ。親子ほどに年の離れた二人が、周囲がうらやむ仲なのですからね」

「それだけじゃないよ。ちゃんならもっと若くていい男がいても可笑しくないよねー」

意地悪く言う半兵衛。
それには宗茂も異論はないらしく、頷いている。

「参ったなぁ…」

元就は後頭部を掻く。

「それはそれはさぞかし衝撃的な出会いだったんじゃないですか?」

「色々山あり谷ありみたいな?」

どこの女子だろうか?
二人は聞かせろと言わんばかりに迫ってくる。

「元就公の溺愛っぷりを見ると、あなたの一目惚れから始まったのでは?」

「実はちゃんには想う人がいたけど、元就公はそれから奪ったみたいなー」

「好き勝手言ってくれるなぁ、君たちは」

「だったら、教えてくださいよ」

「秘密にすることでもないのならば」

あぁ、厄介だ。
二人してをネタにしてからかってくる時ほど厄介なものはない。
今はその二人を止めてくれそうなァ千代も官兵衛もいない。

「ないよ、特に」

「「はい?」」

「だから、君たちが想像するようなことは何もないよ。期待に副えなくて悪いけど」

これで諦めてくれれば簡単だが。

「嘘だぁ。絶対嘘だね」

「俺も信じられませんね」

「そう言われてもなぁ…本当に何もないよ。単純にさんが私の身の回りの世話をしてくれたところから始まっただけだから」

数回元就は後頭部を掻いた。

「本当かなぁ?」

半兵衛はまだ疑っているようだ。
だが、事実。二人が望むような物語のような展開などない。
ただ、少しだけ違うとすれば。






「い、命なんか狙っていません!…だって、私、ここがどこなのかもわからないのに…」

少しだけ、自分たちとは身なりが違う少女が怯えていた。
元就の屋敷に突然姿を見せた少女。

「怪しい奴め!そのような戯言誰が信じようと言うのだ!ここを毛利元就公の邸宅だと知ってのことだろう」

「戯言って…本当に、私、知らないし…」

家臣の恫喝に少女は泣きだした。

「こらこら。泣かしてどうするんだい、本人は知らないって言うんだからいいんじゃないか?」

元就が呆れつつ家臣を諌める。
だけど、家臣の方は。

「元就様!最初から刺客などと言う輩がおりますか!」

「いないね。けど、その子は違うよ」

見ればわかる。
泣きと怯えの態度が演技とはとても思えないし、少女からは殺伐とした気など出ていない。
元就が治める地の民と変わらない雰囲気だ。

「いいよ、もう。それで命を取られたら私が間抜けだっただけだよ」

「大殿!!」

「世間じゃ死んだ事になっているんだ。ここで騒げば世間に漏れてしまうよ」

「では、娘はこのまま牢に」

「人の話を聞いていたのかい?罪人のような事をさせるんじゃないよ」

家臣として普通の行動であり、主君を思うが為のことだろう。
だけど、その為に無関係のような少女を罪人に仕立ててはだめだろう。

「しかし、元就様」

「諄い。ならば彼女は私が吟味する。それでいいだろう」

元当主である息子の方に行けと、家臣を追い出す。
そして、鼻を啜り泣きやもうとしている少女の前に元就は膝を折った。

「すまないね、怖い思いをさせて。あ、私は毛利元就と言うんだ。君は?」

名乗った元就を見て、少女はきょとんとしている。

「毛利、元就?」

「あぁ。あ、世間じゃ死んだことになっているけどね。安穏な老後の為に隠居しているだけなんだ」

「………」

「ん?どうかしたかな?」

少女はかぶりを振った。

「えと…と言います…」

さんか。まぁ、あまり深くは追及しないけど。君はどこから来たんだい?」

聞いていることは家臣と一緒だが、元就はできるだけ穏やかに柔らかく少女に問うた。
は少しずつだが話してくれた。
ただ、それは元就には信じがたい話だった。

「……未来か…」

「し、信じてもらえないと思いますけど…た、ただ…あなたの存在が、その」

「君にとって私は過去の人物だったのか」

こくりと頷く
元就の反応が気になるのだろう、微かに震えている。
そうだ。
可笑しなことを言えば、即斬られるような時代だ。
乱世とは無縁の時代で彼女は暮らしていたらしい。

「それじゃあ、これからどうしようか?住むところとか頼れる人はいないのだろう?」

「は、はい…」

「うん。じゃあ、しばらくはここに住むといい。この屋敷には私が住んでいるだけで、後は世話をしてくれるものがたまに来るくらいさ」

「え、あの…」

「何。心配はいらないよ。私はただの隠居した身だからね」

「で、でも。もし、さっきの人が言うように、私はあなたの命を狙っているような奴だったら…」

「君…さんはそんな事をするような人に見えないよ」

「…そんな…」

「あとね。これが一番重要」

元就はにっこり笑い、の鼻をちょんと人差し指で触れた。

さんは嘘を吐くような目をしていないよ」

「え…」

「だから大丈夫さ」

まだほとんど互いを知らないのに、元就はを簡単に受け入れた。
自身も驚くほどで。
だけど、直感で元就にはわかったのだ。
が無粋な輩ではない。
むしろ、元就の方が彼女に対し後ろめたい謀略を数々行って人間だ。
最初はを警戒していた家臣たちも、その後は彼女を受け入れた。
の人柄を知ったからだろう。






「…まぁ…後々面倒なことが多かったけどね…」

との出会いを思い出していた元就は呟いた。

「え?なんですか?」

がひょっこり顔を出す。

「いや。なんでもないよ」

お茶のおかわりをは持ってきてくれたようだ。

「ねーちゃん。元就公との出会いってどんなだった?」

「はい?急になんですか?」

「ふと気になったんですよ、だから、元就公に尋ねてみたのですが、教えてくれなくて…
特に何もないって言うんですけど、本当ですか?二人だけの秘密とか言いません?」

宗茂と半兵衛はまだ諦めていないようだ。
元就がダメならに聞けばいいと。

「秘密ってわけじゃないですけど…」

は元就の顔を見る。
元就は少々困惑しつつも、何も言わないでいた。

「大殿の言う通り。特にこれと言ってないですよ?」

「えー嘘ぉ。本当に?」

「特別な出会いってわけでもないと思いますよ?」

ただ、の出自は普通ではない。
そこからの説明となると少々面倒臭いだろう。
それを省けば特に変わったことはない。
はこの先の事を知っている。
それを他人が知る必要はないのだ。
今は自分が知っているだけで十分。
がいるからなのかわからないが、彼女が言うには今の歴史の流れは少々変わっているらしい。

「じゃあ、質問を変えるよ。ちゃんの元就公に対する第一印象は?」

「え?初対面で、ですよね?」

「うん」

それは元就も少し気になったので、耳をの声が聞こえる方に向けてしまう。

「…お人好し…かな?」

「お人好し?へー」

「見た目じゃないんですね、性格か」

「そ、それは…喜んでいいのかな?」

元就は困ったように笑う。
は慌てて、お盆で顔を隠す。

「だ、だって。本当…大殿はすぐに私の言う事を信用したから…普通なら怪しんでもいい所なのに…」

「そんな事はないよ。さんが悪人だなんて最初から私は思わなかったからね」

二人だけしかわからない事だが、それだけで多少は半兵衛と宗茂にも二人の出会いが少しはわかったようだ。
だから、触りだけ二人には話した。
簡単に行き場のなかったを元就が保護をしたと。
は自身を疑わなかった元就をお人好しだと感じたのだと。

「でもさー結局の所。お人好しはちゃんの方でしょ?」

「え?私ですか?」

「そうだよー。なんだかんだでずーっと元就公の世話をしちゃっているんだから。
実際、腹黒いのはこの人でしょ?ちゃんは厄介なのに捕まっちゃったね」

「え…半兵衛さん」

「笑顔で人を騙すような人ですからね、元就公は」

死んだふりをしてまで世間を騙していた。などと言い始める二人。

「おいおい。好き勝手に言わないでくれよ、二人とも。私は別にさんを騙すような真似はしていないよ」

「お二人とも。大殿をあまり苛めないでくださいね」

はくすくすと笑いながら注いだ茶を3人に出した。

「苛めたくなるよー。元就公はちゃんを独り占めしているんだから」

「あのねぇ、半兵衛」

「半兵衛さん。そこまで言うなら、今度町に遊びに行きましょうか?」

「ちょ!さん!!」

「うん。約束だよ、ちゃん」

「それはずるい。俺もぜひお相手してほしいな、殿」

ちゃっかりの手を取る宗茂。

「かまいませんよ、私は」

「では、今すぐにでもどうですか?」

「こらこらこら!君達は本当に…出入り禁止にするよ?」

元就は宗茂の手を叩き、から離す。

「だから、元就公は独り占めしているって言われるんだよ」

「それはしょうがないだろう。君らみたいのがいるから」

「ま。出入り禁止されては困りますからね。我慢しますよ」

どこまでが本当なのかわからない二人だ。



***



「あーあー…なんで、こぞって皆はさんにちょっかいを出すかなぁ」

「単に大殿の反応を楽しんでいるだけだと思いますよ?私は」

二人が去った室内で、元就は肘枕をして横になっていた。
面白くないと拗ね気味で。
そのそばでが座っている。

「そうだとわかっていても…つい反応してしまうんだ、私は」

「もう…」

「二人が言っていたよ。さんにはもっと若くていい男がいたんじゃないかって。
流石に年齢差までは私にもどうにもできないなぁ…」

「大殿といると、年齢差なんて気になりませんし。私…これでも最初から大殿の事好きでしたよ?」

「え?本当かい?」

「宗茂さん達が言う。謀略の神とかなんとかってのはわかりませんけど、今私の前にいる姿の大殿も、本物の大殿ですし。お人好しだなって最初は思ったけど。
お人好しって言うより…優しい人だなって。そんな所に惹かれていったんですよ、私は」

「そ、それは…」

珍しく自分が照れた。
がそんな風に想っていたなど知らなくて。
余裕がある部分を見せたくても、内心、驚きと喜びが大きくて。

「はー参った」

元就は起き上がり、後頭部を掻く。

「だから、私はさんに甘えてしまうんだ」

娘と呼べるような年齢の娘に甘えるのもどうかと思うが、仕方ない、こればかりは。

「いいですよ、うんと甘えてくれても」

は笑う。

「その分、私も大殿にうんと甘えますから」

出会い方なんて、別に普通だと思った。
特別何かあったわけじゃないが、普通でないならば。
それはきっと彼女とは本来ならば出会う運命ではなかったことだろう。
来世と言うのがあるのならば、そこで彼女と出会う事はあったかもしれない。
でも、出会ったのは今。
元就にしてみれば、きっとそれが最上であり、出会うべくして出会ったのかもしれない。







12/03/25
19/12/29再UP