隣で願う。



ドリーム小説
殿。どうしたんですか?そんな所で」

が一人しゃがみ込んでいた。
ぼーっとどこか遠くを見ているようで。
だけど、ぼーっと眺めるには少々雰囲気が異常だ。

ここは妖蛇討伐軍の本拠地となっている陣。

一応それなりに施設が整っているが、妖蛇出現により世界は荒れ果ててしまっている。
その一角に建てた陣なので、が眺めている川は澄んだ青い水ではなく赤い溶岩だ。
たまにどこからともなく隕石のように石が降ってきたりする。
ここを安住の地として住むには少々どころかかなり不便かと思われるが。
人は強いもので、どんな困難にも立ち向かうと言うのか。
多少の不便さなどものともせずにここを妖蛇討伐の本拠地にしていた。

現在、妖蛇を倒す為に小田原へと続々友軍が向かっているとの情報があった。
敵対関係だったものの、妖蛇を倒すと言う名目に、人々は今一度力を一つにしたのだ。

そんな中で、は本拠地にいるのだが。
に声をかけたのは立花宗茂だ。

「どうしたと言うか…別にどうもしないんですけど…」

のすぐ隣に立つ宗茂。

「大殿は毎日楽しそうだなーって思って」

「あぁ。楽しそうですね」

が小さく笑った。

「大殿だけですよ、今の状況楽しんでいるのって」

「まぁ…歴史家になりたかったと言う元就公にすればこの状況は喜ばずにいられないでしょうね」

宗茂から見ても納得できる事。
それは毛利元就が、世界が破滅するかもしれないと言う状況でも、悲観的にならず楽しんでしまっていることだ。
いや、悲観的にならないのはいい事だろう。
だけど、彼の場合。
有名な歴史上の人物・英傑達に出逢え、共に戦え、その戦いぶり、策をこの目で見られるのが嬉しいのだ。
まぁ…にしてみれば、元就もその有名な歴史上の人物なのだが。

「この前、ァ千代さんに叱られていましたからね。それはもうキラキラした目をしているとか」

それが少し可愛いと思えたァ千代には不覚に感じたようだが。

「仕方ないとは思うんですけどね…以前、半兵衛さん、官兵衛さんと3人で赤壁の戦いについて熱く語っていましたし」

「それで、放っておかれて殿は寂しいわけだ」

「……寂しいのかなぁ…」

元就だから仕方ないと思えて、もう諦めてしまっている節はある。

「けど、私もその分友達が沢山できたし…そんなに寂しくはないかと?」

と同じ年頃の子が多く。意気投合していると自身思っていた。
孫尚香、鮑三娘、甲斐姫、くのいち、大喬、小喬…。
年上のお姉さま方にも可愛がってもらっていると思うし…。

「だから、寂しくはないと思うのですが」

小首を傾げるに宗茂は笑った。

「寂しくないと思うとしているのではないのですか?」

「うーん…」

寂しさを感じてしまうのが嫌で、あえて考えないでいようとしているのかもしれない。

「俺は少々寂しいですね。元就公と話ができなくて」

「それは意外ですね。宗茂さんの口から出るなんて」

ァ千代に対しても素直な表現をしないのが宗茂なのに。

「そうですか?事実そうなので…だからね、殿」

「はい?」

「どうですか?あぶれた者同士。元就公の事など放っておいて仲良くしませんか?」

宗茂もしゃがみ込み、に目線を合わせる。
どうですか?とにっこり笑って。
端正な顔立ちである宗茂に近くで微笑まれると、さすがにも照れてしまう。

「元々私と宗茂さんは仲良しさんだと思いますけど」

照れながらも、そう言うのが精一杯だ。
この男、どこまで本気で言っているのか正直わからないから。

「もっと。特別な関係に。とでも言うのかな」

「う…む、宗茂さん…」

「それとも。俺以外にどなたか気になる殿方でもいるのですか?」

「え?」

「そう…例えば…趙雲殿や馬超殿。三国志の英傑達にもいい男が沢山だ」

「気になる方なんていませんよー」

まぁ正直な話。
彼らを見てかっこいいなぁと思わなかったわけではない。

「ほ、本当かい?さん」

頭上から聞こえた声。

「大殿?」

顔を上げると、を覗き込んでいる元就がいる。

「おや。元就公。何かあったんですか?」

「何かって…君がさんにちょっかい出すから私は心配で」

「人聞きの悪い。俺は元就公に放っておかれて寂しい者同士。親睦を深めているだけですよ」

にっこり笑って、しかもさらりと流す宗茂。

「別に君たちを放ってなんかいないよ。それこそ心外だね」

少し拗ねたような元就にと宗茂は二人して笑ってしまった。

「そ、それより。さっきの話は本当かい?さん」

「さっきの話、ですか?」

「そう。気になる人…ってのはいないのかって」

あぁ、もう首が疲れた。
見上げたままでの会話は面倒くさいと、は立ち上がる。
宗茂も一緒になって。
服を軽く払いつつ、は即答はしなかった。

「んー…気になる人かぁ…どうかなぁ…」

「え?さん!?」

「おやおや」

慌てる元就に宗茂は楽しそうだ。

「い、いるのかい?」

「いますよ。一人だけ」

「えー!だ、誰なんだい!?それは」

ますます慌てる元就。
宗茂にはそれが当然のようにわかったようで笑っている。

「相変わらず。殿が大事なんですね。元就公」

「あ、当たり前だろ!さん以上に大事な人なんて、私にはいないよ」

「だそうですよ。殿。意地悪しないで素直に教えて差し上げたらいかがですか?」

もそう思われて悪い気はしないだろう?と宗茂に促される。

「と言うより。普通にその人物に心当たりがないあなたが面白いですね」

「へ?」

「本当。心外ですよねー」

はわざとらしく頬を膨らませた。
だって、ずっと大事に想っている人は世界が破滅に向かおうと変わらずに、ずっと一人だと言うのに。

「え、えと…」

「私の気になる人は、大殿なのに」

「や、やぁ…それは嬉しいけど…ほ、本当の話だよね」

「大殿〜?」

少し元就を困らせて見たくて、意地悪したくて言った事だけど。
信用されていないのは、まったくもって心外だ。
何がどうなればそうなるのだろうか?
宗茂との先ほどの会話が原因か?
だけど、あれも今思うと、元就が近づいてきたのを知って、宗茂がわざとらしく口にしたとしか思えないのに。

「なんで、信用してもらえないんですか?」

じらすような、意地悪を言ったから?
だけど、元就が様々な英傑達を前にして目を輝かせていたのは事実である。
考えないようにしていたが、寂しかったのは事実だ。

「あ。ち、違うんだ!さんを信用していないとかじゃなくて…
その…ここには、本当…私じゃ敵わないようなすごい人達が沢山いるからね」

元就は宥めるように理由を話す。
少しだけ、不安を顔に出して。

さんの目を引いてしまうような事もあるだろう?」

「「………」」

は宗茂と目を合わせた。
そして二人で嘆息した。

「本当、大殿って謀神って言われるような人なんですか?」

「俺は何度か目にしたことありますけどね…そう隙を見せているだけなんじゃないですかね?」

「ふ、二人とも?」

「さて。俺は邪魔をしては悪いですから退散しましょう」

これ以上は二人の仲がこじれてしまうと思ったのだろう。
宗茂は気を利かせてくれたようだ。

「でも。元就公に飽きたなら、いつでも俺を呼んでくださいね、殿」

「宗茂!」

呵呵と笑い宗茂は立ち去った。
残されたと元就。
は再びその場にしゃがみ込んだ。

「あ、あの…さん?」

「宗茂さんに言われるまで、あまり考えないようにしていたんですよ、私」

「?」

「大殿が楽しそうにしているのを邪魔しちゃ悪いとも思ったし」

元就は後頭部を掻きながら、の隣にしゃがみ込んだ。

「私はそんなに楽しそうなのかな?」

「楽しそうですよ?世界の危機ってこんな時でも」

「はは、あはは…参ったな」

「妲己さんとも、大殿は楽しそうに話をしているし」

遠呂智の参謀だったと言う妖魔の女。
仙界との関わりもあり、謎が多い。
今も遠呂智復活を企んでいるようだが。
なんだかんだで、今も、討伐軍にいる。
彼女も中国の有名な小説に出てくる悪女と名高い人物だった。
その彼女とも会えたのは元就は嬉しいようだ。

「ふ、普通だと思うけど…」

一応元就なりに、この世界の情勢、状況を探る目的で妲己と共に行動をしていたのだが。
にしてみれば、世間の敵になってまで、なぜ一緒にいるのか意味不明だった。

「だけど、大殿には大殿の考えがあるだろうからって思いましたけど」

「………」

「私も…卑弥呼ちゃんとかと仲良くなれたし…話してみると、妲己さん可愛い所あるし…」

嫌いになれないのがの本音だ。
だが彼女の所為で苦しむ人々がいたのは事実だ。

「この世界を早くなんとかしなきゃって…って言うのはわかっているんですけどね…だけど…」

ここで小さく息を吐く
の言おうとしていたことが元就にはわかったようだ。
元就はの頭を優しく撫でた。

「優しいな、さんは」

「別に…普通です」

「うん。妖蛇を倒した後…この世界はどうなるんだろうね」

「…遠呂智が復活したら、妲己さんも卑弥呼ちゃんも…敵対しちゃうのかな…」

知り合え、友達になれたと思った人が敵になったら?
そしてすべてが終わった後、この世界は?

「尚香や鮑ちゃん達とも…お別れしちゃうのですかね?」

ここは遠呂智が作った世界。
遠呂智を倒した後、世界はこのままだった。
だけど、今、その綻びが、世界が滅びを望んでいると言われた。
その所為で妖蛇が出現したのだと。

「うん…どうなるのだろうね。流石にそれは誰にもわからないだろうね」

「大殿にも?」

「うん。私にも…だけど、それは誰もが考えている事だろうけど…」

元就は真正面を見据える。

「今までより、これからよりも、今、をどう切り抜けるかを皆は考えているだろうね」

「今か…」

「そして皆もさんと同じで、別れを考えてしまったら寂しいって思っているよ」

例え歪んで作られた世界でも、友達は友達。
嫌な思いでだけでなく、楽しい事もあった。
でも、それぞれの場所に戻る事も望んでいて…。

「その時は大殿…」

「ん?」

「私と一緒に居てくれますか?」

融合する前、は元就のそばにいた。
宗茂やァ千代、半兵衛や官兵衛もいて…。
だから、また以前のような生活に戻るのならば、また元就のそばがいい。

「それこそ、心外。愚問だよ、さん。私の方こそ、今まで通りさんが隣に居てくれると嬉しいな」

「はい。私はずっと大殿の隣にいますから」

「うん。よかった。一つ胸のつかえが取れた」

安堵する元就。
けど、すぐにそわそわしだす。

「でね。さっきの話の続きなんだけど…本当に、私以外の人とは…」

「どうですかねー。孫堅様とか、氏康様とか…大殿とは違う路線の渋いオジサマで素敵ですよねー」

「え、えー!?」

「…本当、大殿はしょうがないなぁ…」

気になる人は今も、これからも元就だけだと言うのに。
なんでも見通してしまうような、にはわからない難しい事をいっぱい知っている人なのに。
なんでだろう?
しょうがないなぁ…と放っておけない気持ちになるのは。

まぁ、それだけではないが…
だから。

「大殿のそばに居たいって思うんですけどね」

あぁ、不思議だ。
さっきまであった寂しさがどこかに消えてしまったようだ。
それは、やっぱり。
そばに元就がいるからだろう。







12/01/09
19/12/29再UP