黒と白。




ドリーム小説

群雄割拠の戦国時代。
は中国の雄毛利元就のもとに身を寄せていた。
色々あって行き場のないを手厚く保護してくれたのが元就だ。
元就とはかなりの年の差がありつつも、その人柄に惚れたと言っても可笑しくない。
今は元就の身の回りの世話が仕事のような感じで暮らしている。

その元就の下には色んな人物が訪れ、も交流を広げていた。

が、最近登用された阿国と言う女性。
彼女の出現には少しだけ面白くなかった。

「?」

ある日、が元就の自室に茶を出しに行こうとしていたのだが。
元就の声が自室から聞こえた。
誰かと話をしているようだ。

「でもね、そんな二人が同じ時代に生まれ合わせていたら、倒し倒される宿敵の関係になるんじゃないかな、とも思う」

誰と話をしているのだろうか?
邪魔をしたらまずいかな?と思いつつ、茶を出すのが目的だからいいかと障子に手をかけた。

「でもね、一方で、こんな二人が、志を合わせて、百万一心、世を治めれば、きっと理想的な天下が訪れると思うんだ」

「その孤独な人て、元就様のことどすか?」

かけた手が止まった。
共に居る人の声に、微かに口角が引きつった

(阿国さんだ…)

少しだけ苦手だ。彼女は。
出雲大社の巫女らしいのだが、なぜ巫女が戦場で戦っているのだろうか不思議だ。
それにいい男には目がないらしい。
いい男はどこぞへ連れ去るらしいとの噂もある。
元就はなぜ、そんな人を登用したのだろうか?それも不思議だ。
単純に役立つ、戦力になると言うのならばが口出す必要はない。
今も別に口出すことはないから、阿国に話しかけられれば普通に答える。
けど、その阿国は毛利家からの登用にどんな意味を込めて受けたのだろうか?
やはり、元就が気に入ったからだろうか?
そうなら、自分じゃ彼女に太刀打ちできない。
しなやかな女性。
おっとりした口調、動き、そして美貌。
どれをとっても阿国の方が自分より勝っているから。

元就の笑い声が聞こえた。

「違うよ、私はそんなにすごい人間じゃない。友もこの時代にいたしね。
まぁ、厳島で倒し倒される関係にはなってしまったけど…。
弘中隆包。百万一心も彼からもらった言葉さ。有能でね。
彼なら、厳島の戦いに向けて私が弄した索なんかお見通しだったんじゃないかな」

なんとなく室に入るタイミングを失った。
元就と阿国の会話は自分が普段元就としているような内容じゃない。
そもそも、戦の話など元就からされたこともない。

「彼は、主君・陶晴賢を見捨てて生き延びることも、友である私を倒し、
生き残る事もできた。でも、どちらも選ばず、純白なまま、忠義に殉じた。
そして、謀略三昧で、手が真っ黒に汚れている私が生き残ってしまった」

少しだけ元就の声音から切なさを感じた。
けど、中に居る二人の様子がわからないのだが…。

「うちは、この手大好きどすぅ」

何?
の目が点になる。
会話からすると、元就の手を阿国がとっているような気がするのだが。

「世の中にはええも悪いもおへん。どっちゃもどっちゃ、向こ先の見えん中で
精一杯、守りたい人たちを守ってきた手や。一生懸命やった分、汚れてしもて、
往んでもうた人の分、重いモン持たなああかんようになって、すくうてもすくうても
手の中から何もかもが落ちてしもて。
しんどなってしんどなってどうしょうものうなったら、うちがいつでも出雲の根の国
まで連れていんだげます。せーらい、きばりやすぅ〜」

「そうかい?」

元就の笑い声がまた聞こえた。
なんか面白くなかった。
面白くなかったから、障子を開けて部屋に乱入してやろうかと思ったが。
そんな事をできるような性格じゃないのだは。
だから入ることを止めて、引き返した。

淹れた茶も無駄になったなと廊下を歩いていると。

殿」

「あ。隆景さま」

元就の三男の小早川隆景だ。
にしてみると元就よりも年の近い青年。

「父上に用があったのだが…父上は不在なのかい?」

盆を持って手もつけられていない茶菓子を持つを見て隆景は思ったらしい。

「…いますよ。大殿…」

阿国が中に居るのが面白くないから引き返してきました。
なんて言うのも嫌だから、少しだけ目を伏せてしまった。

「ん?どうかしたのかい?」

ポンポンと軽くの頭に触れる隆景
爽やかな人。という印象の隆景。
次兄の吉川元春が毛利の軍事面を任されているのに対し、隆景は水軍の情報力を使って政務と外交面を担当し、父と長兄を助けている。
そう言う部分では、元就に似ているかと思うのだが。

「隆景さまから見て、私って子供ですか?」

「あ。そうじゃないが、父上に可愛がられているのを見て、つい…妹のように見えてしまうことはあるが…殿は、私に義母上と呼んでもらいたいのかい?」

「ち、違いますよ!別にそんな風に呼んでもらいたくないです!!」

自分より年上の者に母親呼ばわりされるのは正直ごめんだ。
この時代じゃよくある話だろうが、にはあまり馴染みがないので嫌だ。
いや、の居た時代でも、有り得る話ではあるが…。

「機嫌が悪いようだなぁ…父上と何かあったとみた」

「………」

隆景にしてみれば、の機嫌を左右するのは元就ぐらいだとすぐにわかるのだろう。

「そうですよ…何かあったと言うか、私が大人げないだけなんですから」

ツンと顔を背けるに隆景は笑う。

「あらぁ。ちゃん。元就様がちゃんを待ってはりますよ」

元就の自室から出てきた阿国。

「阿国さん…」

見えなかったが、聞こえていた元就とのやり取りを思い出し、は小さく唇を尖らせる。
そして、持っていた盆を阿国に突き出した。

「私。隆景さまに用があるんで、あとは阿国さんにお任せします」

「あらぁ」

殿?」

「行きましょう。隆景さま」

勢いで盆を受け取ってしまう阿国を置いては隆景の腕を引きその場を離れた。





「本当に父上と何かあったのかい?殿」

の機嫌を治そうと思ったのか、隆景は自分の用事は後にし、に付き合ってくれている。
今は屋敷から少し離れた場所にある川にやってきた。
たまに元就がここで釣りをしている場所だ。

「何かと言うか…私が大人げないだけです…大殿から見れば、子供ですけど…」

何せ、息子よりも年下なのだから自分は。

「その子供に父上は説教されるのだが…」

部屋を片付けてください!とに日々怒られている元就を思い隆景は苦笑する。

「私って…大殿にとってなんなんでしょうね」

「そりゃあ、私が義母上と呼んでも可笑しくないと思える存在で」

要は元就の妻の位置でも可笑しくないと。
けど、が毛利の家系図に乗るような事柄は結んではいない。
元就が隠居した身だと言っているからかもしれない。

「父上は殿を大事にしているではないか」

してくれているとは思う。
けど。

「普段しているのは…女中さんのような事で…あ、それが嫌とかじゃないですけど…」

はその場にしゃがみ、水面に映る自分を見つめる。
隆景はのそばで立っている。

「なんか…大殿は私にはあまり話してくれないなぁと思って…」

「話さない?何を?」

「…戦の事はそうですけど…その…大殿が抱えているものとか…大殿、さっき阿国さんに言っていたんです。謀略三昧で自分の手は黒く汚れているって…」

それは隆景も知っている話のようで。小さくあぁと頷く声が聞こえた。
国人の一人に過ぎなかったが、権謀術数を駆使して一代で中国10か国の主となるほど勢力を拡大させたのが元就だ。
正直明るく綺麗なやり方とは言えない事を数々してきたのは事実。
それでも元就は「より妥当である」やり方を選んできた。
自分が悪だとわかっているが、ぎりぎりでより妥当な手段を選ぶだけなのだと。

「そう言うの…私には見せてくれないから…」

「見なくてもいいのではないかな?」

「知らなくてもいいことですか?」

「のような…」

「けど、私以外の人には見せるじゃないですか…私の方が付き合い長くても、大殿は話してくれないし、けど、阿国さんにはそう言うの…話すのに…」

そんな黒い手でも阿国は好きだと言い切るほどで。
自分だって、元就がどんなことをしていようが、それを聞いて軽蔑するような、嫌がる節を見せるつもりなどない。
元就が言う黒い手も、元就だからこそ、好きだと思えるのに。

殿…」

「まぁ…私が単に、阿国さんに嫉妬しているだけなんですけどね…私だって、大殿の手…す、好きですもん」

だから、先に言われてしまったのが面白くなくて。

「結局私は…あの屋敷での大殿しか知らなくて、自分の世界が小さく見えるって言うか…」

「じゃあ広く見たいのかな?」

箱庭のような場所での生活。
悪くないだろうが、自分はただの飾り物のように感じる。

「父上は計略謀略の才をお持ちだ。なんて言われているが、実際、身近な子の気持ちまでは図ることができないとは…」

「隆景さま?」

「じゃあ、仕方ない。殿の面倒は私が見よう」

「はい?」

ぽかんと隆景を見上げてしまう
けど。

「ダメ、絶対ダメだ。隆景!さんになんてことを言うんだい、お前は」

どこからともなく姿を見せた元就。
どういうわけか、手に盆を持っている。
阿国から受け取ったようだが、が隆景と一緒にどこかに行ったと聞かされでもしたのだろう。
心配でそのまま外に出たようだ。
元就はその盆を隆景に手渡す。

「お、大殿?」

「ダメだよ、さん。隆景の言葉なんかに惑わされちゃ。それ以前に、君だって私に何も言わないじゃないか」

「は?」

元就は少し怒った風にの前に立つ。
言われたは意味もなくムッとし、元就の前に立ち上がった。

「私は別に」

「私に話さず、隆景に話しているじゃないか」

「だ、だって。それは…大殿が、私には話してくれないからで」

なぜ、自分が逆に文句を言われなきゃならないのだろうか?
無性に腹が立つ。

「なんで私が悪いんですか!?大殿は阿国さんには色々話す癖に!
私が誰に何を言おうがいいじゃないですか!
私だって、大殿がどう思っていようが、大殿の事、す、す、す…」

勢いで言えればいいのに。
ここに隆景がいるだけで、本人に対し好意の言葉を向けられない。
ただ、隆景はの気持ちなど知った上で話を聞いているのだが。
知られていても、言葉にするのは難しい、恥ずかしいのだ。

さん」

「もう!大殿の馬鹿!阿国さんと一緒に出雲でもどこでも行けばいいじゃないですか!」

言えないから、逆ギレしてしまった。

「どこでも?」

「二人で楽しそうに言ってたじゃないですか、根の国とか!」

元就は困惑気味で後頭部を掻いた。

「うーん…あまりすぐに行きたい場所じゃないんだけどなぁ」

「?」

「そこに行ったら、さんに二度と会えなくなるわけだし…」

は意味がわからず、思わず隆景に助けを求めてしまう。
隆景は苦笑しつつも教えてくれた。

「根の国と言うのは、まぁ日本神話にでてくるものなんだが…一般的には黄泉の国と同じ扱いなんだ。黄泉の国は殿も知っていると思うのだが…」

所謂それは死者の国。
根の国は様々な諸説があるが、出雲にその入り口があると言われている。
が元就に言ったのは、要は、

「…………」

そんな風に心根で思っているはずもなく。
出てしまった言葉には恥じ、同時に自分が嫌な子だと思い知らされて。

「あ、あぁ!さん、何も泣かなくても!」

泣くのは筋違いとわかっていても、ボロボロ涙が零れてきて元就をさらに困らせた。

「あぁ。ついに父上が殿を泣かせてしまった」

「い、今のは私の所為かい!?」

「もとを糺せば父上が悪いのかと。殿がおりながら、他の女性と親しくしていたとなれば…」

「誤解だよ!普通に話をしていただけであって」

の涙を止めようと必死の元就。
計略謀略。ここで使って何とか場を治めればいいのに。
いつもなら簡単にできるはずの事を、を前にすると不思議と何もできないでいる。
あぁ、珍しいものを見ているなぁと隆景は小さく笑ってしまう。

「私が殿を義母上と呼ぶより、殿が義父上とお呼びする方が早いかもしれませんね」

「た、隆景!何を言い出すんだい!?」

「父上が思っている以上に、周りが殿を大事にしていると言う事ですよ」

「そ、そんな事は私だって知っている。だから、お前達でも油断ができないんだ。
でも、さんはダメ。絶対に誰にも渡さないよ。そこはお前達が言う計略謀略を限りなく使って阻止してみせるさ」

実の息子より彼女が大事か。
隆景は呆れるよりも笑いが勝るだけで。

殿。ほら、そう泣かずとも。父上はそなたをとても大事になさっているではないか」

「隆景さま…」

「どうしても殿が父上に我慢ならなくなったら、私や兄上の所にくればいいと思う」

「だから、お前はどうして…」

普段は毛利家の為に尽くしてくれるのに、の事となると邪魔をしてくる。
一番の敵はどうやら身近にいるらしい。

「では私は先に屋敷に戻りますゆえ。父上はちゃんと殿と仲直りしてください」

元就が持ってきてしまった盆を隆景は手にし、屋敷の方へ戻って行った。





さん」

静かになった川べり。
元就がの頭を何度も撫でる。

「お、大殿…ご、ごめんなさい…」

「いや、いいよ。私も悪いわけだし」

あんな言葉が言いたいわけじゃなかったのに。
それでも怒らずにいてくれる元就。
寧ろ自分が元就を困らせてしまって。
は元就に抱き着く。
ギュッと、背中に腕を回して。

「お…」

「嘘」

「?」

「嘘ですからね…大殿。根の国なんかに行っちゃダメですからね…」

いつかは往く場所だろう。
けど、今すぐなどと言うのは勘弁だ。

「そうだね。しばらくは往かないよ。阿国さんにも断っておくから」

元就が小さく笑う。

「私、私だって大殿が、どんなことをしていたって、大殿は国の、みんなの為にしている事だから、そんな大殿を嫌うわけじゃないじゃないですか…私の方が阿国さんより大殿の手、大好きです」

子供じみたことを言っているなぁと我ながら思う。
阿国さんより。
なんて…。
けど、そう言わずにいられなくて。

さん…もしかして…妬いてくれたのかな?」

それに答えるのか?
恥ずかしいし、なんか認めるのが嫌だ。
子供みたいで。
けど、元就の声音がどこか弾んでいる。

「嬉しいなぁ。いつも私が隆景たちに妬くから。さんがちゃんと私を想ってくれていると思うと、本当嬉しいよ」

そんな事を言われつつ、急に体が浮いた。

「お、大殿!?」

元就に抱きかかえられている。

「私はね、さん。確かに戦の話などさんにあまりしてこなかったよ。
私の嫌な部分を君に見せたくないと思ってね。無意識に避けていたのだろうね。
だけど、さんならちゃんと私と向き合ってくれるってわかったよ」

「大殿より、こ、子供ですけど…いいですか?」

「ダメなんて言っていないし、あまりそう言うの気にした事ないなぁ。元々普段から私は君に叱られるようなことをしているわけだし」

は元就の首にかじりつく。

「大殿がやろうとしている事、ちゃんと私一緒に見ますから。
大殿の愚痴でも疲れとかも、なんでも私、引き受けますから。大殿一人で抱え込むのだけはやめてくださいね」

さんは優しいな。隆包みたいに純白なんだろうね。
戦から帰ってくると、さんが出迎えてくれて安堵する私がいる。さんがそばにいてくれるから、私は頑張れるんだ。きっと」

自分はそんなすごい存在ではないと思う。
すぐに不機嫌になるし、嫉妬して嫌な言葉を吐くし、どうしようもない子供だ。
けど、元就がそう言ってくれるならいいんだ。

「私が黒くても、さんが純白ならちょうどいいね、きっと」

「なんか、恥ずかしいです。純白なんて、そんな存在じゃないです〜」

結局恥ずかしさが勝った。
余計に元就の顔が見られない。

「でも。大殿と一緒ですから、ずっと…」

「うん。ずっと、一緒にいてくれると嬉しいよ」

あんなにモヤモヤしていた気持ちがどこかに行ってしまった。
ふわっと温かいもので包まれていく。
やっぱり自分は子供だ。
子供だけど、元就の前だから仕方ないと思う事にした。









3のエンパ。阿国さんとの会話イベから。
まだ隆景様はモブ時代ですw
11/10/23
19/12/29再UP