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夢か現か。
色んな歴史をこの目で見た…。 「盛りふけゆく八重桜、盛りふけゆく八重桜」 辺りには見事な桜が咲き誇っており、どこを見ても桜ばかり。 そして風が吹けば吹雪のように花弁が舞う。 見事だとほれぼれした様子でそれを眺めている自分。 「散ればぞ誘う。誘えばぞ散る」 前を歩く巫女。番傘を差して祝詞のような言葉を述べている。 ここに居るのは巫女と自分だけではなく、見知った顔がちらほらと…。 竹中半兵衛、真田幸村、石田三成、浅井長政…。 生まれも育ちも年もまったく違う自分たちが巫女と共にいる。 それは彼女に共に往こうと誘われたから。 『うちやったら、歴史がどないなるか、見せてあげますのに〜』 木津川口の戦いは織田信長とのものだった。 その戦の中、場に不似合の巫女がやってきて、自分と往こうと言ってきた。 最初は断ったが、改めてお願いされた時、彼女のその言葉にあっさり落ちて以降彼女と行動を共にした。 そして大きな戦を、歴史が変わろうとしたところをこの目で見た。 賤ヶ岳、関ケ原、そして大阪… 長い長い旅だった。 節目節目をこの目で見たから。 その戦の中、巫女が出会った者達と自分はどこかに往こうとしている…。 「乱世も幕どすなあ…」 巫女は振り向いて笑う。 そして歩く先に大きな鳥居が立っている。 その鳥居から神々しさを感じる。 あの先が旅の最終地点らしい。 「ほな、行きますえ?」 一段と風が強く吹き、巫女の姿が桜吹雪と消えていく。 一体何が起こったと思うも、まぁいい。 もう終わりだから、乱世にも疲れた。 歴史も沢山見たから何も思い残すことはない。 だから、鳥居に向かって先を進もうとした。 けど…。 『大殿!』 「え?」 『大殿のバカ!バカバカバカ!』 声が聞こえた。 『大殿は私を残して行っちゃうんだ!最後まで勝手な事ばかりして…本当大殿はバカなんだから!』 聞き覚えのある声。 「…、さん…?」 自分より小柄、細い腕でいつも忙しなく動いている姿を見ていた。 そんな子にいつも叱られてばかりで。 でも悪い気がまったくしなくて。 叱られているのに、思わず口元が緩んで、また叱られて…。 それの繰り返し。 我がままを言えば、最初は反対されても最後には… 『もう大殿はしょうがないですね』 と苦笑交じりで言うんだ。 「あ…」 聞こえた声、その先に光が差し込んでいる。 膝を抱えて泣いている彼女がいる。 行かなきゃ。 行って慰めなくては。 どこに? あれ? 『すまない、殿…俺達が共に居ながら…』 『宗茂さん…ァ千代さん…』 彼女のそばに一組の男女。 『あの歴史馬鹿は本当にどうしようもないな!まあいい。あんな薄情な奴の事はさっさと忘れろ』 随分酷い言われようだ。 だが、彼女を置いて行ったのは事実で…。 「私は…そんな事を…あの時、何一つさんの事を考えなかったのか?」 胸が痛くなった。 彼女が泣いている姿を見て、彼女を泣かせる原因が自分だったのを知って。 『殿が良ければ、俺達の所に来ませんか?』 『あぁ、それがいい。ここに居てもお前には辛いだろう?』 『いいんですか?』 『誘ったのは俺達の方ですよ。大丈夫、俺達はあなたを泣かせないから…』 そうか。 彼女は宗茂たちと行ってしまうのか。 そこで長い人生を共に送るのか。 だけど、関ケ原で二人に会っても、二人は何も言ってくれなかった。 会話など何もなくて…。 彼女の話も何もでなくて…。 「さん…私は」 宗茂たちと共に居る彼女がこちらに気付いた。 ただ一言。 『バカ』 と叱られた。 「待って、さん!」 彼女を呼び止めてどうしようと言うのだろうか? 言い訳をする? 詫びる? 長い事ほったらかしにしてしまったことを。 けど、彼女達の所にたどり着けない。 足が思うように動かない。 まるで錘でもつけているかのようで。 「私は!」 行かないで欲しい。 勝手な願いだとわかっていても。 こんな自分を見捨てないでほしい。 勝手に家を出たのは自分だけど。 なんで、こんなにも大事に想う人を置いて自分は往ってしまったのだろうか? 酷く後悔する。 「私は、最低だ」 わかっていても、彼女には追いつけない。 だって彼女はあの時からもう、自分ではなく、別の者との人生を送ったのだろうから。 今更の話なんだ。 だけど………。 「君に会いたいんだ、私は」 願えるのならば、もう一度だけでも、彼女に会いたい。 「あ…」 残念ながらその願いは叶わないようだ。 巫女の誘いで鳥居がすぐそばにあった。 もうここを潜れば完全に彼女とはお別れだろう。 「さん…」 最後まで叱られっぱなしだ。 なんて馬鹿なんだろう自分は…。 「大殿?」 「…輝元か?」 悪寒とは違う、何かが背中をぞくっとさせた。 ハタと気づけば、そこには見知った顔が並んでいる。 「どうしました?寝ぼけているんですか?」 くつくつと笑っているのは立花宗茂。 「いい身分だな、、真昼間から昼寝とは」 呆れ顔なのは立花ァ千代。 「変な夢でも見たんでしょう?だからこんな場所で寝ないで下さいと言ったのに…」 ぺちっと額を叩かれた。 「さん!」 思わずその手を握ってしまう。 「え?大殿?」 困惑気味なのは。 毛利元就が今一番に想う相手。 「どうかしました?大殿」 ふわりとしたの微笑みに元就は今更ながら安心してしまった。 改めて周囲を窺うとここは自分の屋敷だった。 その縁側で自分は寝ていた。 奥の室内ではいつの間にか来ていた宗茂たちがいた。 「あぁさんだ」 「大殿〜?わっ!」 その手を引いて、を己の腕の中に閉じ込める。 「本当、相変わらずですね、あなたは」 宗茂は笑いが収まらないようだ。 「もう!大殿なんですか、一体!?」 は人前で恥ずかしいとばかりに元就から逃げようとする。 それでも元就は放すまいと腕の力を緩めることはなかった。 「仕方ないんだ。さんを泣かせたと思ったから」 「はあ?私泣いてなんかいませんよ?」 「うん。夢を見ただけのようだから。それでも今さんの顔を見たら安心したんだ」 「どんな夢を見たんですか?興味ありますね、あなたがそんなに慌てるほどの夢なんて」 宗茂やァ千代からは早く話せと言う視線を送られる。 本当は口にしたくもない話だったが、正夢になっても困るので元就は話すことにした。 その前にを解放し、新たにお茶でも淹れてもらわねば…。 元就は見た夢をそのまま話すことはしなかった。 掻い摘めるところはそうして。 でないと、自分が夢とはいえ見たこの先の歴史を語る羽目になる。 聴き終えた面々の反応と言うと。 「それは正夢かもしれませんね」 宗茂が実に楽しそうに言った。 「なんでそう思うんだい?君は」 「全てが同じとは思いませんが、きっとこの先元就公ではなく、私が殿を迎え入れるってことなんですよ」 「馬鹿か、お前は」 ァ千代は小さく息を吐く。 「それに関しては私もァ千代と同じだね。そんな事あるわけないだろうに」 それこそなんとしても阻止したい状況だ。 「けど…もしかしたら、って事ありますよね?」 は意外にもその夢に関して宗茂と同じ感想だったらしい。 それには元就は面食らう。 「えぇ!?さん、私を捨てて宗茂なんかに嫁ぐのかい?」 「あの、俺なんか。って言わないでくれますか?」 「あぁすまない。けど、宗茂にさんをあげる気はないからね、私は」 「そんなの、お前達どちらに嫁いでも可哀そうなのはだろうが」 ァ千代は元就も宗茂も変わらないと言い切った。 話が進まなくなるので、に理由を聞いてみる。 「だって、大殿は夢の中でその巫女さんに歴史が見られますよーって言って誘いに乗ったんでしょう?大殿だったらあっさり巫女さんに着いて行くんじゃないかな?って」 「そんなあ…いくらなんでも、さんよりも歴史を優先するなんてことしないよ」 「本当ですか?」 くすくすと笑う。 「あぁ、本当だ。だから、さんも宗茂なんかに誘われてもほいほい着いて行かないように」 「だから、俺なんかって言わないでくれますか?」 信頼できる間柄でも、が絡めば元就は宗茂相手でも厳しいようだ。 夕餉を食べ終えて、宗茂とァ千代も用意した客室に戻って行った。 元就は自室で本を読み、そのそばではが寝床の支度をしていた。 「多分なんだけどね…」 「はい?」 布団を敷き終えたは反転して元就の方に顔を向けた。 「この先の歴史を、いくらなんでも夢で鮮明に見るはずがないんだ。 まるで最初から知っていたかのようでね。なんでだろう?って思ったら…」 その意味がにはわかったようだ。 小さく笑った。 「私がお話したんですよね?関ケ原の戦い、大阪の陣について」 「あぁ。どこかで聞いた話ではあったなと思ったんだ」 「でも、この先起こるだろう出来事、戦だとは思いますけど…その時は」 どうしますか?とは不安げに訊ねた。 だけど、そんな事の答えは元就は最初から決まっている。 「その時はその時。と言うか、その時も私が当主ってのはマズいだろう?」 「ですか?」 「あぁ。いい加減私は解放されたいんだけどね…」 相変わらず家臣は自分を表舞台に引っ張り出す。 「それだけ大殿は頼りにされているんですよ」 「いつまでも頼りにされては困るよ。私だっていつかは…」 言いそうになった言葉を飲み込んだ。 いつかは、自分も死んでしまう。 これは変えようのない事。 だけど、彼女の前で言いたくなくて。 「大殿?」 「私だって、楽しみたいことは沢山あるんだ。例えばさんと一緒に居たいとかね」 「居るじゃないですか、今」 「そうだけど…ほら、一緒に花見をしたり、月見をしたり、紅葉狩りをしたり…とかね。 色々、さんと過ごしたい時間があるんだよ。これからもずっとね」 「それは悪くありませんね」 「そうか。じゃあ手始めに、明日!」 「はい。明日。宗茂さん達も誘ってどこかに行きましょうね。お弁当、はりきって作りますから!」 「あ…あぁ、うんそうだね」 元就は後頭部を掻く。 そこは二人で。と言いたいが、まぁ客人を放っておくわけにはいくまい。 それでも、彼女と一緒ならばまぁいいだろうと元就は思うことにした。 後日。元就の夢に出てきた巫女が戦場に現れるが、正夢になったかどうか??? 3Zの阿国さんEDからです。
11/02/20
19/12/29再UP
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