想いを届ける日。



ドリーム小説
「あのーさん?お茶を用意してもらえるかな?」

元就が台所に顔を出した。
いつもならば、自分の室で事は済むのだが、ここ最近は台所に居っぱなしなのだ。

「あ。すみません、大殿!今すぐお持ちしますね」

だから早く室に戻ってくれと追い返された。

「・・・・・・」

あっさり過ぎる反応に少々味気なさを感じつつ元就は室に戻る。
そしてすぐさまは盆を持ってやってくるのだが。

「お茶と、おやつに羊羹です。どうぞ、大殿」

と物だけ置いてさっさと立ち去ろうとする。

「あ!さん!」

「なんですか?大殿」

「なんか・・・・忙しなくないかい?」

はそうですか?と首を傾げた。

「そうだよ。少し私と話をしよう。ね?」

自分も執筆作業に入っていたので、を放っておいた節はある。
だが、いつもならばその間でもは自分の側に居てくれるのだが、ここ最近は違う。
お茶を頼むにもこちらが出向かねばならぬ状態だ。

「すみません、大殿。今、釜戸に火をかけっぱなしなんで」

申し訳なさそうに言いつつ、は台所に戻ってしまった。

「はー・・・やれやれ」

元就は振られてしまったと頭を掻いた。

「いったい、何をしているのだろうね、さんは」

台所に居るのだから料理なのだろうが、そんなにへばりついてやることもないだろうし。
いつも食事の仕度をしてくれるが、そんなに時間のかかるようなものでもない。
でもなんとなく聞けない雰囲気がある。
聞いたところで。

「大殿には関係ないです」

などと言われてしまったならば・・・・。

「はぁ・・・・待つしかないのかなぁ」

何が何でも聞き出してやる!なんて強引なことはしたくない。
に嫌われたくないから。
だけど、何をしているのか気になるもので。
折角の執筆も筆が進まない状態だ。
こんな自分を見れば輝元あたりに「本当、大殿は殿がいなくなったら困りますね」と言われるだろう。
いや、その前にいなくなられては困るのだが。
を手放す気は元就にはサラサラない。
ないけど、が自分の元から離れて行ってしまったならば・・・・。
何より元就の前で平然とにちょっかいを出す輩が後を立たないのだ。

「はぁ・・・・ため息しかでないものだね」

体と心にあまり良くない。
今までこんな事はなかったのに。

「相手がさんだから・・・・・」

自分よりも年若い子にここまで夢中になるとは。
過去の偉人達の中にも人を好きになって国を傾かせてしまった例はある。
策略の結果でもあり、純粋に政より相手に夢中になってしまったり。
自分もそうなのだろうか?
一応当主に帰り咲いてしまったのだが、毎日最低限のことはやっている。
と言うより、疎かにしてしまえばそこはに叱られてしまう。
あれ、夢中になるだけでなくなんだか尻に敷かれているようだ。

「だが、悪い気はしない」

仕方ない。今しばらく大人しく待つことにしよう。
大人しくいい子にしていれば、いいことでも起きるかもしれないから。
・・・・なんてそう考えた自分に笑ってしまった。



***



それから3日ほど経った。
相変わらず外は寒く、何をするにも億劫な日だった。
は今日も台所かーなんて一人ぼやいていた元就。
執筆作業が完全に手が止まってしまってやる気が起きない。

「足りないなぁ・・・・」

「何がですか?」

「あ、さん!」

文机に体を伏せていた元就。
聞こえた声に体を起こす。

「大殿、休憩にしませんか?」

は微笑み盆を元就に見せた。
いつものようにお茶とお菓子を用意してくれたようだ。

「うん。そうしようか」

こちらから呼ばないとダメだった最近。
でもこうして来てくれたという事は待つ時間は終わったようだ。

「あれ?今日は抹茶なのかい?」

「はい。その方がお菓子にもあうなぁと思って」

どうぞと抹茶と菓子が乗った皿を差し出された。

「ありがとう・・・・ん?」

いつもと違う、見慣れない菓子が皿の上にある。
黄色く焼き色の器にも見えるものの中に同じく焼き色のついたものが。

「なんだい、これは?初めて見るね」

全部食べられるものなのだろうか?
元就は色んな角度からそれを見てしまう。

「スイートポテトタルト。もどきです」

「もどき?」

「いいから。食べてみてくださいよ、大殿」

に勧められて、一つ手に取る元就。
もどきと雖も菓子は菓子なので問題はないそうだ。
一口で食べると、外はサクサクとしているが、中身が餡子のようにしっとりしている。

「いや、餡子よりも噛み応えがあるかな」

初めて食べる食感だ。

「お味はどうですか?」

「うん。美味しいよ」

「良かった。自分でも味見はしたんですけど、大殿のお口に合わなかったらどうしようって」

少し不安だったとは胸を撫で下ろした。

「それ。さつまいもなんですよ」

「へぇ、そうなんだ。こう言う食べ方もあるのか」

「スイートポテトってさつまいものお菓子があるんですけど、まんま同じものは作れなくて。
材料からして揃わないし、タルト生地もそれっぽくするのに苦労しました」

の居た時代では簡単に作れる代物らしい。
だがここではそうも行かず、しばらくずっと台所で研究を重ねていたそうだ。

「でも成功したってことで、安心です」

ずっと台所に籠もっていたのはその所為か。

「でも、急にどうしたんだい?さんの手作り菓子が食べられるのは嬉しいけど」

「今日がバレンタインデーだからです」

「ば、ばれん?」

また初めて聞く言葉だ。元々とは文明文化の違い、差があるのだから仕方ない。

「はい。大切な人に自分の想いを届ける日です」

「大切な人に、自分の想いを?」

の頬に薄っすらと赤みが浮かぶ。

「はい。なので、私は大殿が大好きですよって、お菓子と一緒に私の想いを届けてみました」

「っ!さん」

真っ直ぐに向けられた視線と想いに、元就は直視できないほど顔が赤くなった。

「大殿?」

「あ、ありがとう。けど・・・なんか、恥かしくて」

恥かしさのあまり、うなじを掻く元就。
はくすくすと笑った。

「え?さん?」

「いつもは大殿の方が恥ずかしい言葉を私に言うのに」

「ひ、酷いなぁ。恥かしい言葉って、あれは私の正直な気持ちだよ?」

「私も同じです。正直な気持ちです、これは」

ちょんちょんと菓子を指差す

「大殿に喜んでもらえるよう、美味しく食べてもらえるよう愛情たっぷりこめましたからね」

「そ、そうか。あはは、うん。さんの愛情をたっぷり感じるよ」

元就は2つ目に手を伸ばし、食べた。
相手にされなくてつまらないとか、寂しいとか。
もしこのまま離れられてしまったら、なんてあれこれ悪い方向に考えてしまったが。
全て自分の為にとしてくれたことだと思うと、頬は緩む。

「うん。大人しくいい子で待っていて良かった」

その言葉にが瞠目する。

「なんですか?いい子で待つって・・・・大殿、そんなお子様じゃないでしょう?
さっきも、足りない。とかなんとか言っていましたけど・・・あれはなんですか?」

買物ならば行って来ますよ?とに言われる。

「ん?んー・・・・いや、ここ数日さんに放っておかれてつまらなくてね」

「あ・・・」

「待っているだけってのは、結構辛い。
でも!大人しく待っていればあとでいい事が起こるかもしれないと思っていたんだ」

まったく持ってその通りになった。
あの時の寂しさなど、今はもうないのだから。

「その、大殿が執筆に入られていたからいいかな?って思ったんですけど・・・・」

「あははは。途中で手につかなくなってしまったよ」

「ご、ごめんなさい」

さんが謝ることはないよ。私の集中力が足りないせいだ」

「あ。じゃあさっき言ってた足りないってのは集中力ですか?」

元就は3つ目を頬張りつつ、違うとかぶりを振る。

「じゃあなんですか?」

抹茶も飲んでお腹いっぱいだ。
皿を横にはけてから、腕を伸ばしを引き寄せた。

「あ」

「足りないのは、さんのこと」

の体を包み込む。

「え?」

さんと居る時間が減った、さんにこうして触れられないなぁ・・・てね」

それが物足りなくて。

「お、大殿っ!」

「でも、もう我慢しなくていいんだ。うん、さんが間近に居るこれで一安心だ」

今しばらくはこうして手放すものかと、意地で包み込む力を強めてしまう。

「あ、そうだ。さん」

「はい?」

元就の腕の中からは見上げてくる。

「私は同じ事をしなくていいのかな?さんに想いを届けたいのだけど」

は小さく笑う。

「もう充分届いていますよ?だから何もしなくていいんです」

「うーん。それは少し寂しいなぁ」

けど、流石に自分は菓子を作れないので諦めるしかないのだろう。

「それと・・・・なんで、お菓子を作るのかな?言葉だけでも充分伝わると思うんだけど」

「それは・・・・・お菓子業界の陰謀です」

「え?」

きっかけは少々無粋なものらしい。
だけど、嬉しくないわけじゃないから良しとする事にしよう。







10/02/13
19/12/29再UP