お約束?




ドリーム小説
「ぬあっ!・・・・・」

「ん〜?どうかしたのかい?さん」

菓子皿を手にしたは思わずそれをポタリと落としてしまう。
陶器ではなく木の器だったから割れずに済んだが。

「大殿!」

が日を背にして仁王立ちして、寝ている男毛利元就を睨みつけても彼が動じる気配はない。

「あーほらほら、ちゃんと拾わないと」

「あ、そ、そうですけど」

は菓子皿を拾い、更には一緒に落ちた菓子を急ぎ拾う。

「それでどうかしたのかい?そんな形相で」

「って!見ていないじゃないですか!!横になったままで!」

しっかり枕を使って横になっていた。しかもに背を向けている。
それでもがどんな顔をしているのかとか、何があったのかを熟知しているようだ。

「んーそうだねー」

「大殿!私との約束破りましたね・・・・」

「約束?」

「本。読んだ後は片付けてくださいって言いましたよね?」

以前ほどではないが、本がこれまた山積みにされている。
ちょっと目を離した隙にどうしたらこうも簡単に山積みになってしまうのだろうか?

「あー・・・それはだね。ちょっとあっちを調べたら、こっちの本が必要になって、で、また他の本が・・・」

「ちゃんと体を起こして、私の顔を見て言ってくださいませんか?」

「・・・・・・」

一向に体を起こす気配のない元就。

「大殿!」

さんの怖い顔を見たくないんだよね・・・」

「誰が私にそんな顔をさせているんですか?私、まだまだ若いのに大殿の所為で皺ができそうです」

眉間に深い皺ができそうだとぼやいてみせる。

「それはいけないなぁ。さんは笑顔の方がいいよ。その方が私も嬉しい」

「うっ・・・・だから、誰の所為で・・・・」

まったく起きる気のない元就。
言われて嬉しい言葉ではあるが、この場を逃げ切る為の策のような気もする。

「大殿。本当にちゃんとこっちを向いてください」

「・・・・・」

「年下の子に叱られるのが嫌なのはわかりますけど」

「あーそうじゃないよ・・・・ちょっとね・・・・」

「?」

いつもならばそれなりに動きを見せるものの、今日は外と遮断してしまいたいような雰囲気を背中から出している。
もしかして体調が悪いのだろうか?
は心配になり元就にそっと近づく。

「大殿?具合でも悪いんですか?」

「あー余計な心配をかけたかな・・・すまないね」

「だって、全然顔を見せてくれないし・・・・」

「・・・・・どうにもこうにもきな臭いんだ・・・・」

「え?」

するとそこへ駆けつける輝元が。

「大殿!」

「・・・・私は死んだはずだぞ?」

「将軍家が、我ら毛利家を頼ってこられました」

「毛利家は分をわきまえ、天下にか関わらぬように"遺言≠オておいたはずだが?」

元就は気だるそうに体を起こす。
は何やら大変な話になってきたと思い、元就の後ろに下がった。

「ですが、将軍追放などという信長の暴挙を許すわけには・・・何か問題でも?」

「信長公は果断即決の人だ。すぐわかるさ」

「大殿!」

「ほら」

また一人別の家臣がやってくる。
彼からは尾張の織田信長が、羽柴秀吉率いる大軍を毛利討伐の為に動かしたという報せが。
小国だった尾張が信長によって着実に勢力を強め広げているが。
本格的にこの中国にもその手が伸びてきたようだ。
さらには別の家臣がやってきて九州の立花家が毛利打倒の軍を興したと言う事までも

「挟み撃ちだと!?」

両方から戦を仕掛けられてはこちらの被害は甚大だ。
どうすれば良いのか輝元たちは元就に考えを求めた。
だが一向に元就はやる気を見せない。

「・・・・私は歴史家になりたかったんだ。もう一生分は働いたと思うんだが・・・?」

「「「元就様!」」」

三人揃って元就に懇願する。
結局の所、死んだ振りをし引退した元就に頼らざる得ないのだろう。
元就は立ち上がり天井から吊りかけてあった地図を、無造作に置かれていた矢を使って考えを示す。

「織田家は後背に上杉・雑賀衆と強敵を抱えている。立花を使ってきたのは毛利とまともに戦う余裕がない現われさ。
羽柴の動きはほぼ陽動と見ていい。近畿の豪族を扇動すれば進行は完全に抑えられる。
さしあたっては、ニ正面作戦の愚を避け全力で立花を叩くべきだろうね」

「「「なるほど」」」

「はぁ・・・・安穏なる余生・・・・よみがえることにしますか・・・」

一歩、また一歩と気だるそうに縁側に出た元就。
毛利元就が表舞台に再び姿を見せることとなった。

「そう言うことだから、さん」

顔だけ振り返る元就。

「はい」

「片付けの話は戦が終わってからという事で・・・・」

「大殿が帰還されるまでには私が片付けておきます。なので、無事にお戻りくださいね」

「うん」

ずっと寝転び起きる気配がなかったのは、これから起こりそうな事を予想していたのだろう。
それは嬉しいような悲しいようなにはなんとも言えない気持ちだけが残った。



***



「はぁ・・・・毎度毎度、大殿は〜」

出陣してしまった元就達。
あえて死んだ振りをしたままで総大将を輝元にして出陣していった。
残されたは誰がいるわけでもないのに、愚痴を零しながら元就の本を片付けていた。

「あー竹簡まであるー前より酷いよー」

この場に元就が居たら、申し訳なさそうに頭を掻くに違いない。

「そう言えば・・・私がここでお世話になり始めた頃にはもう・・・大殿は隠居生活していたっけ」

だから戦場での姿、顔を知らない。
怜悧な謀士などと言われて恐れられているらしい。
その話をすれば元就は困った顔をし。

「単に噂が先行しているだけだよ・・・・」

なんて言っていた。

「まぁあまり見たいとは思わないけどね」

自分はちょっと頼りなさげな姿の元就の方が好きだ。
元就の方が年上なのに。
が叱りつけたりして。

「早く戻ってきてくださいよ、大殿。留守番は寂しいですから」

その前に、この部屋を片付けよう。

「片付ける・・・・ん?まさか、大殿・・・・」

が暇にならないようにと部屋にここまで本を山積みにしたのか?
そんな考えが過った。
前回も元就や輝元、数人の家臣達と共に片付けて半日かかった。
今は一人で片付けている。
相当時間のかかる事だと思う。
元就が帰ってくるまで忙しいといえば忙しい。

「・・・・・なわけないか。そんな面倒な事させないで欲しいよ」

しかも叱られるとわかっていてだ。

「案外、大殿は叱られるのが好きなのかな・・・・・いけない、いけない。変なこと考えちゃった」

はかぶりを振った。



***



それからしばらくして元就は無事に帰還した。
立花を滅ぼすことなく、寧ろ当主たちを引き連れての帰還だった。
すぐさまは元就と会うことなく、数日を過ごした。
今後の話し合いを毛利の家臣としていたからだ。
別室では立花家の当主ともう一人が迎えられているようだが。
話も終わったようなので、元就の所へ行く。
お客人と呼べる人のようなので、二人の分の茶も用意して。

「大殿?お客様にお茶をお持ちしましたけど・・・・」

「あっあぁ!さん、い、今入っちゃダメだよ」

「大殿?」

とはいえ、すでに襖が開けっ放しでは中を覗いてしまう。

「なっ!・・・・・・」

「あぁ!危ない」

ポロリと盆から手を離しそうになった
盆を元就が受け取る。

「お、大殿!こ、これは!!」

が悲鳴にも近い叫びを上げる。
室内にいた二人が何事かと眉を顰める。
特に女性の方が。

「なんだ、貴様。我々に文句でもあるのか?」

「ァ千代・・・そうじゃないだろう。すみません、驚かせてしまったのでしょうか?」

女性は立花家当主立花ァ千代。
物静かに見える穏やかな青年はァ千代の義兄らしい立花宗茂。

「あー・・・いや、多分違うと思うよ」

「大殿!なんですか!この部屋は!!お客様をお迎えするのにもっといい部屋があるでしょう!!」

元就に詰め寄る

「それに!まだこんなに本があって!私が大殿の書庫を片付けるのに何日かかったと思っているんですか!!」

「あ、あぁ〜久しぶりにさんから叱られてしまったなぁ」

「隠していたんですね・・・・まだこんなに・・・・」

「か、隠してなんかいないさ。単に・・・ここにあったのを忘れていただけで」

「普通忘れませんから!」

「あ、あぁお茶。お茶を用意してくれるかな?ァ千代と宗茂に用意してくれたのだろう?」

「あ」

お客様の存在を忘れていたと、は慌てて元就から盆を奪い取った。

「申し訳ございません。見苦しい姿を見せてしまって・・・・」

「いや、いいですよ。中々見れないものが見れて面白いですよ」

毛利元就が自分より年下の少女に頭を下げている姿と言う意味だろう。
それが見苦しい姿とは思うのだが。

「それより、元就公。そちらの方は?」

から茶を受け取りつつ宗茂から聞かれる。
その際、宗茂の方から改めてに二人の事を聞かされた。

「聞いた事もないな。女中に叱られる当主など・・・いや、一応元当主なのか?」

ァ千代が意味ありげに笑う。
きっと毛利家内では真っ向から否定するだろう、元ではなく現当主だと。
元就にその気はなくても、輝元辺りが返還してきそうだ。
だがァ千代の問いには元就がやんわりと否定する。

「いや、さんは女中じゃないよ。私の大事な人だからね」

元就はにも確認するようににっこりと笑顔を向けて言った。
にしてみれば嬉しいものの人前でそう言われる事になれていないからただただ恥かしいだけだ。

「だからね、宗茂にはあげないよ・・・・あ、君にはァ千代がいるから大丈夫か」

「な!何を言っておるのだ!貴様!!」

宗茂が答える前にァ千代が遮った。

「まぁまぁ。とにかく・・・・ァ千代共々よろしくお願いします。殿」

「は、はい。こちらこそ」

宗茂に頭を下げられも慌てて頭を下げた。



***



後で聞いた話だが、あの部屋に立花の二人を案内したのは、単に暇つぶしになるだろうと思ったかららしい。
元就にしてみれば本がいくらでもあれば夢中になって時間つぶしになるのだが。
宗茂はともかく、ァ千代の方にはたいした暇つぶしにもならなかったようだ。
「冗長だ」とはっきり言われてしまったと。
今はちゃんとした客室で休んでもらっている。
は元就の私室にいたが、先日と同じ様に元就に膝枕をしていた。

「もう〜言ってくださればいいのに・・・・私お二人の前で大殿に怒鳴ったんですよ?」

恥かしいとは元就に不満を漏らす。

「だからまだ入らない方がいいと言ったんだけどね・・・・」

元就には恐らくに叱られるだろうとわかっていたようだ。

「だからって、あの山積みはなしですよ、なし」

「そうかなぁ?二人の趣向がわからないから好きに選んでもらった方がいいかと思って」

「本で喜ぶのは大殿だけです」

明日は一番にあの部屋を片付けようとは決めた。

さんは本が嫌いかい?」

「嫌いじゃないですよ。好きです」

「けど、君が読む姿を見かけたことないよ?」

「それは・・・・・達筆すぎて読めないんです・・・・・」

が読む本は印字されたものだ。
けど、ここらの本はきちっとしたものでなく一文字一文字が崩れているので余計に読めない。

「よし。今度私が教えてあげよう」

「えー」

「なんだ、その反応は・・・・嫌なのかい?」

思わず体を浮かせての顔を見上げる元就。

「嫌ってわけじゃないですけど・・・・いいんですか?私が本に夢中になっても」

「え?」

「大殿のことより本に夢中になりますよ?」

元就は再び頭をの膝の上に乗せた。

「それは困るね。私としてはさんにかまってもらえないと寂しいからなぁ」

「でしょ?だから今のままでいいです。それでもどうしても読みたいものがあった時は・・・」

「あった時は?」

「大殿と一緒に読むからいいです」

「ん。そうしようか」

久しぶりな二人だけの時間。
他愛のない話だけど、それがいいのかもしれない。
表舞台に戻ったことでまた元就は忙しくなり、戦に出る機会も多いかもしれない。
それでも、少しでもこうした時間が過ごせるならばいいと思って。

「大殿。お帰りなさい」

「うん。ただいま」







09/12/07
19/12/29再UP