本の虫。




ドリーム小説
「大殿〜大殿ってば」

肘枕をし寝ている男の体を揺さぶる少女

「もう!寝たふりはだめですからね!今日こそはこの本の山を片付けてください!」

「・・・・・」

寝たふりなのか、本当に熟睡しているのかわからないが、男毛利元就は返事をしない。
はふんと鼻息荒く腰に手を当てた。

「わかりました。起きる気がないんですね。ならいいです。後で文句言っても聞きませんから」

「・・・・・・」

「この本全部捨てますからね!輝元様!大殿が起きないうちに外に運んじゃいましょう!」

庭にいる男には呼びかける。
輝元は数名の家臣と共にやってくる。

「いいのか?殿・・・・」

「いいんです。私は以前から片付けてくださいって何度も何度も何度も!お願いしているんです」

もう我慢ができないと部屋を指差す。
そこには山積みとなり地震がくればいとも簡単に崩れてしまうほどの本が置かれている。

「そのうち大殿は圧死しますよ!輝元様もそんなの嫌でしょう?死んだ振りが本当になっちゃいますから」

「う、うむ。それは困る。大殿にはそろそろ復帰して欲しいものなのだ」

勝手なことをしたら元就に叱られると弱気になっていた輝元であったが、その大殿の一大事を招かねないと
思えば、本を片付けてしまった方がいいとに同意する。

「さ。皆さんもちゃっちゃと本の山を片付けてくださいね。売ればいい金になるんじゃないですか?」

「・・・・あの、さん?」

「寧ろ、全部燃やして皆で焼き芋にしちゃいましょうか?こんがり焼けて美味しい芋が食べれますよ」

ようやく体を起こした毛利元就。
怜悧な策士と噂されるものの、実際はもさっとした見た目頼りない男だ。

「あら、大殿。起きたんですか?それとも嫌々で寝たふりを止めたんですか?」

「え、えーと・・・・なに、しているのかな?私の本・・・」

輝元や家臣達数名がせっせと部屋から本を運び出している。

「何度も言いましたよね?片付けてくださいって。今まさにそれを実行中です」

片付けると言うより処分だ。これは。

「おいおい。勘弁してくれよ。どの本も私の大事なものなんだよ?」

「本当に大事ですか?つーか、同じ本が数冊あるとかないですよね?」

が厳しい目を元就に突きつける。

「な、ないと思うけど・・・・多分・・・・あ、あぁ!でもほら。君も嫌だろう?」

「何がですが?」

「自分の大事な宝物を勝手に片づけられたりすれば」

だから止めてくれと元就は懇願する。
はニッコリと笑う。
その笑みを見てわかってくれたかと元就もつられて笑う。

「ないですね。それは」

「へ?」

「私の大事なものは大殿なんで。その大殿が本に押しつぶされて圧死されると困るんで片付けているんです」

「えと・・・・」

薄っすらと元就の顔が赤くなる。
さり気なく大事なものがと言われて照れてしまったようだ。
よりも遙かに年上なのだが、まるで子どもみたいだ。

「はいはい。解っていただけた所でさっさとやってしまいましょうね」

「あ、あ〜!本当に頼むから勘弁してくれ」

「・・・・・」

歴史家になりたかった。もう戦もしないでのんびりとここで本を読んでいたい。
ただそれだけだから、楽しみを奪わないでくれとに頼む元就。

「でも、世間じゃそうも言っていられないようですけど?」

「私はもう死んだことになっているんだ。家督も輝元に譲った。いいじゃないか」

しかもこの先の事を遺言状にしっかり書き残した。
世間的にも毛利元就は死んだことになっている。
元就との対峙に輝元たちは本を片付けるのを中断して成行きを見ている。
いくらが言っても、元就が強く自分達にダメだと言えばそれは命令だし、従わなくてはならない。
だけど、戦や政以外だとに頭が上がらないのが元就だ。
彼女が戦や政に口出しをしてきたら、それこそ毛利はどうなるのだろうか?と言うところだが。
その辺ちゃんと弁えているし、元より興味がないのだろう。
いや、それ以前に口を出せるような地位は彼女にはない。

「じゃあなんで、いっつも片付けてくれないんですか?本当に危ないんですよ?本の山積みって」

たかが本。されど本。
一冊はたいした事はなくても、それが十冊、百冊ともなれば崩れた場合惨事を招くのだ。

「それだけじゃないです。蝋燭が倒れたらあっという間に燃え広がりますよ?」

たいしたことなさそうに見えて危険がいっぱいだとは主張する。

「こ、これからはちゃんと片付ける!それでいいだろう?」

「・・・・・・」

「あ、私を疑っているなぁ。さんが私の心配をして言ってくれているんだ。ちゃんと片付けるよ」

「本当ですか?」

「あぁ本当だ。だから・・・・処分するのだけは勘弁してほしい」

両手を合わせて頼み込む元就。
輝元たちはこれが噂の怜悧な策士の真の姿かと苦笑してしまう。
いや、に対しての姿なのかもしれない。

「わかりました。ちゃんと片付けるって約束ですからね」

「あぁ約束だ」

「けど・・・・どこに片付けるんですか?本棚なんかいくつあっても足りませんよ・・・」

「元々本が置いてあった部屋があるんだ。そっちに片付けよう」

輝元たちにもそっちに置いてくれるよう頼んだ。

「どうせならわかりやすく、作者やジャンル別にしちゃいましょう。私、そう言うの好きなんです」

さんがやってくれるのかい?」

「勿論です。皆さんだけ働かせられませんから」

は襷をかけて本を数冊集めて運び出した。

「やれやれ・・・・本当さんが居ると厭きないなぁ」

元就も自分も働かねばと重い腰を上げた。




「・・・・・大殿。巻数の被っている本がいくつか出てきたんですけど・・・・」

大人数人で半日かかって部屋の本を片付けた。
元就の私室からすぐ隣の部屋に専用の書庫を設けた。
すっきりしてよかったと思ったのだが、は一部積み上げた本を元就に見せた。

「あ、あれ?可笑しいな〜なんでだろうね」

「本当に読んでいます?」

「勿論読んでいるさ!だ、誰かが貸してくれたのかな〜それとも貸している間にまた手に入れてしまったかも」

「じゃあこれは処分してもかまいませんよね?」

同じ本があるならば使わないだろう?と。

「い、いや。そうかもしれないけど・・・・勿体無いと思う」

「大殿!もしかしてあれですか?保存用とか観賞用などとわざと別にしているわけじゃないですよね?」

「な、なんだいそれは・・・」

「私のいた場所じゃよく聞く話なので・・・」

「そうなのか。いや、そんな事はないよ。たまたまだと思う」

「なら処分します。いいですね?処分と言っても、欲しいと言う方にあげる分にはいいですよね?」

その方が使い道として役立つわけで。

「うん。わかった。そうしよう」

元就所有の本と知れば、欲しいと言う家臣はいくらでもいるだろう。
これは輝元たちにお願いして次の持ち主を決めてもらおう。

「じゃあ私、お茶でも用意しますね。お疲れ様でした、大殿」

「あ、君も疲れたんじゃないかい?少し休んだ方がいい」

「私ならまだまだ大丈夫ですよ。ちょっと待っててくださいね」

は一旦部屋を出た。
すっかり広くなった私室に元就は苦笑しつつ横になった。




「大殿ーお待たせしました。あれ・・・・寝ちゃいました?」

が再び戻ってくると元就が横になって目を閉じていたので、寝てしまったのかと思った。

「いや、寝ていないよ」

パチッと目を明け、体を起こす元就。

「お団子もありますから食べてくださいね」

皿に乗せた三色団子をお茶と共に出した。

「あぁありがとう」

は元就の向かいに腰を下ろし部屋を見渡した。

「すっかり綺麗になりましたね。こんなに広い部屋だとは思いませんでしたよ、私は」

「それは酷いなぁ、そんな大差はないだろうに」

「けど、これからはちゃんと片付けてくださいね?読んだ後は元の場所に片付ける!これ子どもでもできますからね」

「んー・・・それができていなかった私はなんなのだろうね?」

元就が頭を掻くとは口元を手で隠して笑った。

「子ども以下です。大殿」

「こんなに大きな子どもがいるわけないだろう?」

「ここに居たんですよ」

「まいったなぁ」

頭を掻くのが癖なのか、困惑気味に元就は頭を掻いた。

「大殿。約束ですからね?ちゃんと本は片付けてください」

「あぁ、わかった。わかったからそう何度も言わないでほしいよ」

「それは大殿が何度でも言わないとわかってくれないからです」

薮蛇だったかと呟きながら、元就は茶で喉を潤した。

「あの、大殿?」

「ん?なんだい?」

「私のこと口煩い子とか思っていますよね・・・・」

は急に大人しくなる。
元就の為だと口にしていながらも、元就にしてみれば口煩い子に思われただろうと。

「思っていないよ」

「・・・・・」

「あれ?私はさんにあまり信用されていないのかな?」

「し、信用はしています。けど・・・・大殿に怒鳴ってばかりだし」

「それは私がちゃんと片付けないからさ・・・・さんは悪くないし、口煩い子なんて思っていないよ」

それにね。
元就はごろりと横になる。
その際頭をの膝の上に乗せて。

さんが居てくれるから毎日厭きなくていいよ。君のしてくれる話は実に興味深い。」

「・・・・・大殿・・・・」

「それに君に対して、嫌々などと思っていたら側になんか置かないよ」

今度はの顔が赤くなる番だった。
普段のらりくらりとしているのに、突然さらりとそんな台詞を吐くのだから。

さんは私の大事な人だからね。うん、宝物だ」

「本よりも?」

「んー?意地悪なことを聞くね。本は本。君は君」

はくすくすと笑う。

「輝元たちにも君は気に入られているからね。絶対あげないよ」

「人をモノみたいに言わないで下さい」

軽く元就の額を叩く
ペチっといい音がした。

「あれ?嫌かな?」

「嫌じゃないですよ?ほら、大殿にそんな事を言われて、私は口元が緩みっぱなしですから」

自然と笑顔になってしまうのだと。

「それは良かった・・・・・あーできればずっとこうしていたいものだね」

願うは安泰の老後。

「私もそうしていたいですけど・・・どうですかねぇ」

時代が元就を呼び戻そうとしているだろう。

「ま。今しばらくはゆっくりさせてもらうよ・・・・できればずっとね」





結局、と片付けると約束した本だが。
数日後には元に戻り元就の部屋に山積みとなり置かれてしまう。
それを知ってが怒鳴り込むも、織田勢が動きだしたとかで話はうやむやになり元就は戦に出てしまう。
が一人で元就の留守中に部屋を片付ける姿があったそうだ。









09/12/07
19/12/29再UP