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今、ここにいるから。
「だが、悪い気はしない。そんな物好きを俺も好きだ」 「あ」 三成に腰を引かれる。 すっと三成の腕の中に納まる。 「三成さん・・・」 「俺も、お前が好きだ」 優しい声音に、優しく抱いてくれる腕。 三成に包まれ、ひどく安心できる。とても温かい・・・。 父とは違う男の腕。 父は力強く、娘を何者からも守るように・・・時には全てを受け入れてくれる懐の大きさを感じる。 けど三成はそれとは違う。 どこかで、壊れ物でも扱うのように、丁寧に、優しく包んでくれる。 「・・・・っ・・・」 「なんだ?泣いているのか?」 安心した瞬間、ぷちっと緊張の糸が切れた。 安心したのに、涙が零れた。 は三成に泣き顔を見られまいと顔を三成の胸に埋める。 「う、嬉しいからです」 「そうか・・・」 「自分の気持ちが・・・想いを受け止められるって・・・・こんなに嬉しいんだって思って・・・」 ずっと一方通行の想いだったから。 曹丕がに向けてくれる想いは家族的なもの。 一人の女性として向けるものではなかった。 今はそれでもいい。 にとって、曹丕は兄のようなものだから。 そう思えるようになったのは三成と出会ったから。 遠呂智なんてわけのわからない存在が、二つの世界を融合させたから。 可笑しな話だ。 一度は父と離れ離れに、親しき人たちとも別れる原因になった存在ではあるが。 敵国だった尚香や、もう一つの世界にいた稲姫。彼女らと知り合い仲良くなれた。 いや、国も世界も関係なく、色んな人と出会えて、三成と出会えたことに感謝してしまう。 皮肉な話だが。 もし、遠呂智が二つの世界を融合させなかったら、自分は未消化の想いを抱えたまま。 甄姫にはいらぬ誤解を持たせたままくすぶっていたかもしれない。 そして、知らぬ誰かに嫁いでいたかもしれない。 「嬉し泣きと言われても、泣かれるのは好かん・・・・お前は馬鹿みたいに笑っていればいいのだ」 だから笑え。 ぶっきら棒な物言いだが、三成らしいって思える。 「馬鹿みたい。は、余計です」 「そうか」 三成が喉の奥で笑う。 「あいつらに・・・・お前を会わせてやりたい・・・・」 「幸村さんですか?」 は顔をあげ、三成を見る。 三成が目を細め、柔らかく口角を緩める。 「あぁ。俺の大事な友にだ・・・きっとお前ならあいつらとも上手く行く」 は三成の背中に腕を回す。 「私も。私も早く会いたいです。三成さんにそんな顔をさせる方々と」 少し妬けてしまう。 そう笑いながら。 *** 二大軍師が守るといわれる山崎に軍を進めた、曹丕たち。 陣を構え、先ずは天王山の奪取する為に進軍する。 諸葛孔明、司馬懿。中々に手強い相手ではあるが、途中から死んだとされていた曹操が一軍を率いて参戦した。 士気は上がり、その勢いのまま遠呂智軍を撤退させることができた。 どうも、孔明が本気ではなかったようにも思えたが、その辺は勝ったのだから文句はない。 調べにより、いまだ劉備だけは遠呂智の人質となっているそうだから。 曹操と対面した時、「子桓が世話になったようだな」などと礼を言われた三成。 別に世話をした覚えもないし、自分の為に動いた結果だっただけだ。 曹丕は曹操に指揮権を返上しようとしたが、この戦は曹丕のものだといい、曹操は手は貸すが、基本曹丕に従うそうだ。 「あれが、覇道か。大変だな、貴様も」 祝宴となった場で、曹操は多くの部下に囲まれている。 誰もが曹操の復帰を喜んでいたからだ。 「別に・・・・そうは思わん。私は私の覇道を行くまでだ」 「ふん」 古くから仕える曹魏の武将たちはそうであっても、この戦いから曹丕に手を貸してきた者たちには。 曹丕がタダの冷徹な支配者ではないと感じていた。 だから、ここまで着いて来た。 曹丕自身が、この戦いで成長したのかもしれない。 「それよりも、三成」 「なんだ?」 「上手く纏まったようではないか。お前の方こそ、どでかい壁を乗り越えねばなるまい?」 「・・・・・」 どでかい壁。 の父夏侯惇だ。 一番に曹操へ駆け寄るかと思われた夏侯惇は、常に苦虫を潰したような面構えで。 誰も近づけさせない雰囲気を醸し出している。 今も、一人でちびちびと酒を注いで飲んでいる。 「それこそ、乗り越えなくてはならぬものなのか?」 別に自分はどうもしない。三成は夏侯惇の不機嫌な様子など気にも留めていなかった。 「小父上の方が乗り越えねばならぬか」 ずっと大事に大事に育ててきた娘。 その娘があっさり他所の男にとられてしまったのだから。 「だが、しばらくは私が小父上に愚痴られ続けそうだな」 「それは災難だな。頑張ってくれ」 「・・・・・お前の言葉を借りるとするならば具体的に何を頑張れば≠「いのだ?」 よくねねにそんな風に言っていた三成。曹丕は言い返す。 言い返すものの、三成はただ楽しげに笑うだけだった。 「あぁ。父が捕まったようだな・・・仕方がない」 夏侯惇の不機嫌な原因を知らない曹操が、夏侯惇にちょっかいを出し始めた。 尻拭いみたいな真似を自分がするのは癪だが、と曹丕はそちらへ向かった。 「元譲。すまなかったな、心配をかけて」 曹操がもっとも信頼している従兄弟であり腹心である夏侯惇。 きっと煩いくらいの説教が返ってくるだろうと思ったのだが、違った。 酒を酌み交わせばこれまでのことを許してくれるだろうと思い。 「ああ?貴様の心配などしておらんわ!」 静かに酒を飲んでいると思ったのだが。 「そ、そうなのか?それはそれで寂しいのう・・・・」 すごい目で睨まれた。 ただでさえ隻眼で人より怖い顔をしているのに、そんな顔で凄まれたら曹操だって目をそらしたくなる。 「だ、だが。そうだな・・・あー・・・子桓も成長したな。わしは嬉しいぞ。な、元譲もそう思わんか?」 「ああ、そうだな。あいつはよくやっていた。お前の後継者として立派だぞ。だがな!」 タンと勢いよく杯を卓子に叩き置いた。 「う、うん?」 「俺の大事な娘に余計な虫がついてしまったではないか!虫じゃない、狐だな!あー?」 思わず曹操はのけぞってしまう。 「元譲・・・酔っておるな。お前が酒に負けるとはなあ・・・」 「ああ?酔ってはおらぬわ!」 確かに口調ははっきりとしているし、体がふらついているわけでもない。意識もしっかりしている。 「これというのも貴様が死んだふりなんかするからだ!」 「わ、わしの所為か?いや、ちょっと待て。落ち着け元譲。何がなんだかわからぬのだが」 怒りの矛先を向けられてはいるものの、曹操にはよくわからない。 ただ彼の愛娘に狐がついたとか言っていたが? 「あー・・・そうだったな。口にするのも嫌だが話してやる」 曹丕の後姿を見てふと思い出す。 先日曹丕が三成に言ったことだ。 『遠呂智を倒せたあと、融合した二つの世界はどうなるのだろうかとな』 なんとなく思っただけだ。 曹丕にしては珍しい濁したものいいで。 でも、今ならわかる。 きっと、自分とのことを心配しているのだろう。 (遠呂智によって融合した二つの世界・・・。遠呂智を倒したなら・・・) 世界は元に戻るのか。 そのままなのか。 違う結果が生まれるのか。 この先を思うならば、世界は元に戻るのが一番いい。 だが、そうなった場合。 自分とに待っているのは別れだけだ。 『自分の気持ちが・・・想いを受け止められるって・・・・こんなに嬉しいんだって思って・・・』 別れたら。その想いを向ける人がいなくなったら、お前はどうする? 自分はどうなるのだろうか? 生きていけない。とまでは言わないが、きっと物足りなさを感じるだろう。 元に戻っただけのはずなのに。 そこに、隣にがいないだけで・・・。 彼らが居た時代は、自分達の時代より遙かに昔。 遠い、遠い存在。 そんな距離で離れてしまうのか・・・・。 (父親よりも、そっちの方が大きな、乗り越えねばならぬ壁だな・・・) 三成は目線を落とす。 そんなことを、今考えても仕方ないだろう。 と別れたいとは思わない。 別れたくないからと言って、遠呂智をこのままにしようなどとは思わない。 三成が最初に遠呂智の元に居たのは、自分の主が願った世界。 「皆が笑って暮らせる世」を成し遂げたいと思ったから。 その為に遠呂智を倒せる力を探そうと・・・。 「三成さん。どうかしました?」 「・・・・いや、少々賑やかな場に酔っただけだ」 「あはは。三成さん、率先して騒ぐような感じじゃないものね」 壁際へと移動する二人。 喜びで騒いでいる面々を眺める。 「ふむ・・・・わかりやすい御仁だな・・・・」 「え?なに?」 「いや」 を連れて移動しただけで、夏侯惇の表情が著しく変わった。 冷静沈着、曹操の頼れる右腕。そう評されていたが、案外娘が関わると変わるものだなと。 「張遼!徐晃!貴様らも同罪だ!貴様らがついていながらなんだ!」 「なんですか、いきなり・・・・」 先ほどまで「お前が悪い!」と曹丕が夏侯惇に責められた。 理由はどうあれ、尊敬する人に説教をされるのは内心穏やかではいられなかった。 「せ、拙者たち何かしたでござろうか?」 怒りの矛先が二人に向いたので曹丕は内心安堵する。 向けられた二人は意味がわからないのだが。 「近い将来、お前らならばと思っていたのだがな・・・・これも全部孟徳が死んだふりなどしていたからだ」 「またわしの所為か?別にお主に探しに来いとは言ってはおらんぞ」 初めて夏侯惇が押し黙った。曹操を探しに出たのは夏侯惇の勝手だったわけだし。 「ああそうだ。孟徳が悪いわけではないな。元々出会うはずもなかったのに出会ってしまったのは遠呂智の所為だ」 少し気落ちしたかのようにポツリ呟く夏侯惇。 「・・・これもそれも全て遠呂智の所為だ。そうだ、遠呂智が悪い・・・・遠呂智なんぞ、この俺がたたっ斬ってやるわ!」 最後の夏侯惇の叫びに似たものがその場に響いた。 諸将、兵士たちはよくわからぬが、遠呂智を倒す宣言した夏侯惇の声に歓声をあげた。 どこからともなく夏侯惇を称える声へと変わっていく。 「よくわからぬでござるが、その意気でござるよ、夏侯惇殿!」 徐晃がグッと拳を握る。 「とんだ、すっとこどっこいですな、夏侯惇殿は・・・」 張遼は呆れた。 「父様ったらなんか楽しそう」 「そのようだな」 急に父を中心として歓声があがったので驚いた。 「孟徳様が戻られて喜んでいるのね。良かった・・・・最近の父様なんか機嫌悪いようだったし」 扇を広げ口許を隠す三成。その奥でくすりと笑っている。 「ほう。それは災難だったな。お父上も何か思うところがあるのだろう」 少し離れていたのに、夏侯惇の耳には確かに届いた。だから思わず。 「貴様になんぞ、父などと呼ばれたくもないわー!!」 ビシッと三成に向けて指差した。 「本当に楽しそうだな。お父上は・・・・・ふっ」 三成が楽しそうな目をしたのを見て、珍しく曹丕は目をそらしたくなった。 (あやつ・・・・相当性格が悪いな・・・・) 夏侯惇を手の上で遊んでいる。 張遼辺りと手を組めば最強だろうにと。 「」 「なんですか?」 自分を見つめる三成の目が優しい。 なんだか妙に照れ臭い。 「もうすぐだ。もうすぐ決着が着く」 「・・・・・そうですね。遠呂智との戦いですよね」 宴の前に入った報告で、孫呉も着実に遠呂智軍を追い詰めているとのことだ。 織田信長が率いる軍も、趙雲たちの率いる軍も。 すべては織田信長の策により動かされていたようだが。 まぁいい。襲撃された当初とは違う。 今なら遠呂智に勝てると、力をつけていると思えるから。 示し合わせているわけではないが、全ての軍が総力挙げて遠呂智を倒そうと。 彼の居城を目指している。 「覚悟はしておいた方がいい」 「覚悟?なんの覚悟ですか?」 「・・・・・・その後のことをだ」 「え?」 三成は視線を真正面へと向ける。 打倒遠呂智を掲げる兵士たち。 もうすぐ。 もうすぐ決着が着く。 「遠呂智を倒した後、この世界がどうなるのかわからん・・・・」 「あ・・・・」 「俺とお前も・・・?」 急に腕に重みが。が自分の腕を絡めて寄り添ってきた。 「そんな覚悟。できませんよ・・・・」 「・・・・」 「それよりも、私は。三成さんが、父様が、子桓が・・・・遠呂智との戦いで傷つかなければいいなって」 そっちの方が心配だ。 「先のことはわからないです。けど・・・・その分、三成さんと一緒に居られる時間を大事にしたいです」 「そうだな・・・俺もそうだ」 どこかで焦っていたのかもしれない。 自分だけじゃない、誰もがきっと抱えているものだと思う。 だからって、弱気になってはならぬのだ。 「ここは騒がしい。少し出るか」 「はい」 夏侯惇には悪いが、しばらく二人きりにしてもらいたい。 も言ったように。 一緒に居られる時間をできるだけ大事にしたいから。 09/03/04
19/12/29再UP
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