|
内緒話が・・・。
いつも目にするのは、想いが届かないという諦め顔。 何度こちらが、そんな事はない、言うだけ言ってみろと背を押したかわからない。 最初は単純ないい暇つぶしだと思っていた。 だけども、気づけば互いが互いを想っているのにそれに気づかないという有様。 見ているこちらは奇跡としか言いようがない。 『だって、ユキさんの好きな人って・・・』 お前だ、お前。 何度もそう言ってしまいそうになる。 『き、きっと・・・・三成殿や慶次殿のような方を好いているのではと・・・』 その根拠がわからん。 いつもお前の側にいて、お前の為に頑張っているではないか。 本当に奇跡だ。 だがそのような奇跡に何の価値もない。 そうしているうちに、世界は揺れた。 書物で読んだことのある英雄たちの居る世界と、自分達の世界が混ざり合った。 遠呂智とかいうわけのわからん奴に、世界を混沌と恐怖に陥れられてしまった。 いつも一緒にいた二人。 この世界でどうしているだろうか? 『内緒だからね、三成さん』 そんな世界でもまた似たような出来事に遭遇した。 だがこいつの方が、性質が悪い・・・いや、分が悪いのだろう。 何せ想いを向けた相手にはすでに奥方がいて。 単に大事な幼馴染という目でしか、見ていないのだから。 自分は案外放っておけない性格だったのか、こいつが俺の友人どもの姿と重なったのかわからないが。 なんだかんだで、相手をしてやっていた。 最初は辛そうにしていても、自然と笑うようになって。 こいつはこいつなりに必死なのだろうと。 にも関わらず、幼馴染の奥方が合流した直後、泣きそうな面を見た。 あぁ、また我慢しているのか。 その姿はあいつと重なる。 物分りのいい姿を見せて、でも内心酷く落ち込んで。 見ているこっちは苛々する。 不愉快だ。 「まぁ俺には関係のないことだろうがな」 「どいつもこいつも、なんでもないとか言いながらそんな面をする。目にしたこっちは不愉快だ」 いい関係でいたいと願う気持ちはわからなくもない。 だけど、本当にそれでいいのか? 奴ならお前からのその想いを無下にしないのではないか? 別に妻なんてのは何人いてもいい身分なのだろう? ずっとそばにいたいと思うなら、どんな手段だろうが使って見せればいいものを・・・。 「優しい幼馴染にでも慰めてもらうといいだろう」 情けない。 醜い。 実に馬鹿げている。 本当・・・・。 馬鹿は俺だ。 雨が降ってきた。 雨は段々酷くなる。 しばらくはこの城に止まることになりそうだった。 その間各地の情報収集を中心に行っていた。 反遠呂智勢力は今や大きく分けて4つ。 曹丕が率いる曹魏軍。 遠呂智の人質となっている劉備を救う為立ち上がった蜀の趙雲率いる軍。 曹魏と同じく遠呂智軍から脱した孫策率いる孫呉・徳川の連合軍。 恐らく一番大きな勢力だと思われる織田信長の軍だ。 各地で自分たちと同じ様に、反遠呂智を掲げる者たちを加えて大きくなっている。 そしてそれぞれが確実に遠呂智を倒そうと力をつけてきている。 曹丕も時期が来たと感じているようだ。 「次に侵攻予定が遠呂智領の要衝、山崎か」 曹丕らが今後為に話し合っていた。 「ここからは一層厳しい戦いとなりましょう・・・なにせ山崎には・・・」 諸葛亮と司馬懿が軍を率いているらしいとの情報だ。 互いの実力を知っている軍師が手を結ぶとなると、本当に厄介だ。 「困難なものになろうが、進まねばなるまい」 各地、趙雲や孫策、信長も同じことを思っているだろう。 こちらは一気に進むだけだが、遠呂智は最低でも主力の軍を4つに分けねばならない。 手を取り合って、足並みそろえて進軍。 というわけにか行かないが、どこも同じことを考えているだろうから利用しない手はない。 「だがこの雨には参りますな・・・・」 少数での移動ならまだしも、大軍を率いての移動は困難だ。 万が一遠呂智軍に待ち伏せされでもしたらあっという間に、軍の統率が乱れるだろう。 「軍を休めるにはいい機会だと思っておけばいいだろうよ」 曹丕の行動に興味を持ったとかで、蜀軍には戻らず、曹丕のもとにいるホウ統がのんびりとそんな事を言った。 「酷い降りだが、そう長くはない。一時のものさ」 やり残してあることがあるならば、今の内にやっちまいなぁ。 とホウ統はのらりくらりとしながら室を出て行った。 曹丕が軍議の終了を告げると、一人、また一人と室を出て行く。 室に残ったのは曹丕と三成だった。 「お前が軍議で一言も話さないとは珍しいな」 曹丕の言うとおり三成は終始黙ったままだった。 「別に・・・・口にする内容がなければ、黙っていても可笑しくあるまい」 「そうか?」 だが曹丕は静かに笑う。 その光景に三成は瞠目する。 この男が笑うなどと。 いや、笑うことはあるだろうが、それを自分に見せるのが驚きなのだ。 彼が心を許すのはほんの一握りの人間。 三成に許しているのかは知らぬが・・・。 「先ほどホウ統も言っていただろう?やり残したことがあるなら、今の内に片付けろと」 「別に俺にはそのような事はない」 「・・・・・そうか?そうは見えぬな。人の幼馴染を泣かせるような真似をしてよく言う」 小父上に知られば、お前は斬られる可能性大だ。 「泣いた?・・・・がか?」 「さぁ?だが・・・・あいつの性格を考えればわかる。一人で我慢する奴だからな」 自分でなんとかすると口にはしていた。 三成の様子を見ると、まだそれは果たされていないようだ。 「曹丕。お前にとって、はどんな存在なのだ?」 「存在?・・・・幼馴染。妹のような奴だ」 「それだけか?それ以上にはならぬのか?」 この言い方では、勘のいい奴にならば何を意味するのかわかる。 恐らく曹丕にはすでにわかっていることだろう。 「それ以上と、三成は言うが・・・。私にとって、はとても大事な奴だ。それ以上などない」 すでに今が最上。そういう事か。 だがの欲している大事とは違うだろう?そう三成は言いたかったが。 それは三成が口にしてはいけないことだ。 「も言った。自分は兄のような存在だと」 が?そんな事を? はで、もう? では、そうか・・・。あいつはすでに吹っ切ったのか。 なんだ、余計な事をしてしまったのか。 三成は先日の行動を心の中で詫びる。 好き勝手に口にしてしまった。 友の想う姿がと重なったから。 だけど、友は友。はだ。 もう三成が余計な真似、心配をする必要はないのだ。 安堵する。肩の荷が下りたような気がする。 その安堵した表情はしっかりと出ていたのだろう、曹丕が見ていた。 「遠呂智を倒せば、この世界はどうなるのだ・・・・」 話が急に変わった。 遠呂智だと? 「急にどうした」 「思っただけだ。遠呂智を倒したあと、融合した二つの世界はどうなるのだろうかとな」 「それは・・・・」 聴かれた所で三成にもわからない。 この世界を作った張本人がいなくなれば、融合させた力は消えてもとの世界に戻るか。 はたまた行き場を亡くした力は暴走してこの世界を消滅させてしまうか。 あくまで遠呂智が消えるだけで、この世界は新たなものとしてこのまま残るか。 色々予想はできよう。 だが、これという答えはない。 きっと誰にもわからないことだ。 「それがどうしたのだ。そんなことは遠呂智を倒してみないとわからないだろう」 「そうだな・・・・ただ・・・・いや、なんでもない」 曹丕にしてははっきりしない物言い。 なんだと三成は眉を顰める。 だが曹丕はそれ以上は口にしなかった。 (なんとなく思ったのだ。この世界が元の世界に戻ったならば、はどうするのかと・・・) 正しい生まれは違うようだが、自分達の世界よりも、三成たちの世界の方がは近い。 夏侯惇にも、曹丕にもは言った。 『私は夏侯惇の娘。夏侯。ずっと変わらないよ』 と。 これからも夏侯惇の娘であり、曹丕の幼馴染。 本人がそういうのだ。聴かされた方は嬉しい。 特に夏侯惇はそうだろう。 男手一つで育ててきた娘。血縁関係はなくとも、夏侯惇にとっては大事な娘だ。 その娘が嫁ぐだけならまだしも、別世界に行ってしまうとなれば、もう二度と会えなくなるのだから。 (ただ・・・が行きたいと言えば、小父上は反対などせぬだろうな) *** 「子桓。三成さん知らない?」 軍議を行っていた室から出てきた曹丕をが呼び止めた。 「三成なら」 そこの室だと教えてやる。 どうやら、は自分から動き出したようだ。 「ありがとう」 「ヘマをするなよ」 一瞬目をパチクリさせる。 だがすぐさま笑顔を向けて頷いた。 曹丕はそのままに背を向けて離れていく。 不思議なものだ。 ずっと、ずっと。曹丕に伝えられない想いがあったのに。 それが苦しいとさえ思うこともあったはずなのに。 今はその苦しさは消えうせている。 そして前よりも曹丕のことを大事な幼馴染と思える。 「そう思えるのは・・・・」 この向こう側にいる人のおかげだ。 そして自分はその人のことを・・・。 は胸に手をあて一呼吸する。 こんなに緊張したのはいつ以来だろうか? 「三成さん。いますか?・・・開けますよ?」 そっと襖を開ける、恐る恐る顔を覗かせた。 「?」 良かった、三成はいた。後ろ手で襖を閉めて中へと進む。 「あの・・・・私、三成さんにお話したいことがあって」 先日のことを言いたいのだ。 それと、もう出会った頃とは違う自分のことを。 三成の前に立ち、腹の辺りで両手を絡める。 呼吸を整え、いざ話そうとしたとき、三成の方が口を開いた。 「先日はすまなかった」 「え?」 「勘違いをして、お前にきつい事を言った・・・・言ったところで言葉は消せないだろうが・・・・許して欲しい」 三成なりに気にしてくれていたのか。 ただバツが悪いのか三成はそういった後、から目線をそらしている。 「そんな・・・。だって、あれは三成さん、私のことを思って言ってくれたんじゃないですか?」 我慢はよくないと何度も言われた。 突き放された言い方をされた時は、流石に落ち込みもした。 その原因の半分はいまだに曹丕のことを引きずっていると思われたからだ。 「あれは・・・・俺が勝手に・・・」 勝手に友の姿との姿を重ねて腹を立てた一方的なものだ。 「本当・・・すまない」 「い、いいんです!あの、だって、あれは、そう思われても仕方ないというか」 慌てふためくを見て三成は小さく笑う。 「あの・・・だから・・・」 笑った三成を見て、恥かしく思うも、はその笑みに見惚れる。 「どうしているのだろうな、あいつらは・・・・」 「あいつらって?」 「幸村たちのことだ。互いが互いを想っているくせに、馬鹿みたいにそれに気づかない」 前に少しだけ話したことがあっただろう?と三成に言われ記憶を辿る。 確かにそのような話をしたことがあったが、それが幸村だとは聞いていない。 「じれったい人の話ですよね?・・・それが幸村さん?」 「・・・・・そうか、名前までは出していなかったか・・・・」 本人のいないところで余計なことを口にしたと、三成は口元を手で隠す。 三成が心配することもないだろう、は別に幸村にそれを話そうとは思わないから。 「お前の心配はなくなったからな・・・ふと幸村たちはどうしているのか気になった」 「幸村さんたちですか・・・え?私の心配?」 「お前はもう、曹丕のことを吹っ切ったのだろう?あいつを兄だと思えるとそう話したそうではないか」 曹丕がそう言っていた。 曹丕は三成に何を話しているのだと恥かしくなるも、それは本当の話だ。 だからもうを心配することはないと言うのか? 「はい。子桓のことは兄代わりの大事な幼馴染です。そう思えるようになったのは・・・・三成さんのお蔭ですから」 「俺の?・・・俺は何もしていない」 「してくれましたよ、沢山」 そばに居て、話を聞いてくれただけでも、にとってはありがたいことだった。 「三成さんがそばに居てくれたから・・・・」 ありがとう。は心の底から三成に感謝をする。 「この前のあれは、甄姉さまに嫌な思いさせちゃったんだって・・・・そう思ったら泣きたくなって」 甄姫は知っていた。 ずっとが曹丕のことを想っていたのを。 そんな自分を嫌っていたのだろうと思わせていたことが、苦しく感じた。 甄姫はに対していつも優しく、姉のように接してくれていたから。 「それを俺が勘違いしたのだな・・・すまぬ」 「もういいですよ」 曹丕のことは、もう過去の思い出になっている。 今は、気づけば三成のことをばかり。 「三成さん」 「なんだ?」 「・・・・・・・あの、す、好きです。三成さんが!」 懇願するかのような眼差しと想いを突然向けられた三成。 今なんと? 「・・・お前・・・」 頬だけでなく、顔中を、耳まで真っ赤に染めて。 「と、突然ごめんなさい!だけど、なんか黙っていられなくて」 曹丕に想いを告げられなかったのは、ずっと隠していたから。 また三成へ向けるこの想いを隠したままにしていると、同じことを繰り返してしまいそうで。 「人へ想いを告げると言うのは、中々・・・すごい力を使うのだな」 「は?」 「幸村へいつもけしかけてみたものの、あいつが怖気づくのもわかる」 戦場では誰にも引けを取らない男が、たった二文字の言葉を告げるのに躊躇してしまっている。 「今のお前は、触れると壊れてしまいそうな感じがする・・・だが」 三成は手を伸ばす。 の頬に触れる。 「俺のことを好いているなどと言うとは・・・・物好きだな」 「そんなことないです」 物好きだと思う。だけど、そうだ。は曹丕にずっと惚れていた。 あーゆー奴に惚れていた女だ。 「物好きだ、お前は」 そう何度も連呼しないで欲しい。 そんなに自分は可笑しなことを言っているのだろうか? ねねも言っていたではないか。 口は悪いけど、根はいい子なんだよ、と。 遠くにいる友を思う優しさを持ち合わせている人だ。 そんな人に惹かれていくのも自然なことだろうに。 「だが、悪い気はしない。そんな物好きを俺も好きだ」 09/01/28
19/12/29再UP
|