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消えてしまいそうな内緒。
反遠呂智の狼煙を上げ、曹魏の復活を宣言した曹丕。 来るべき日に備えて自軍の強化を図ることにした。 そのために陳倉へと軍を進める。 ここには反遠呂智の名を上げている浅井長政の軍勢がいた。 浅井軍を引き入れようとするが、浅井長政は話を聞かなかった。 今まで遠呂智の下にいた者をそう簡単には信用しないらしい。 「浅井長政は信義に厚い男だそうだ」 「それでも話し合いで済めばいいと思うのに・・・」 「それが無理だから、こうして戦になるのだろうな」 は本陣から、強固な守りを布いている浅井軍を見ていた。 本陣とはいえ戦場。危険なことに変わりはないのだが、本陣には曹丕が総大将として布陣しているし。 ねねがを守ると言ってくれており、そばにいてくれる。 本隊と離れるよりはこっちのほうがよっぽど安全だった。 「だが、聞く耳を持たぬのならば力でわからせてやる」 曹丕が小さく笑う。の隣に立ち同じく浅井軍を見ていた。 「なんかそれ嫌・・・・」 力ずくなど余計に相手も身構えるのではないだろうか? それに余計な血が流れるかと思うと。 「だが、互いに睨みあっているだけでは何も始まらん」 戦のことなどわからないだから、嫌だと思ったことを口にしてしまうのだろう。 「信義に厚い男だからゆえに、真っ向からぶつかるのが一番だ」 「そうなの?」 「下手に策を用いるよりは、相手はこちらを信用するだろう」 遠呂智からすでに離れたことを伝える為にもだ。 「それってつまり・・・拳で語り合うっていうもの?」 「そういう暑苦しいのは好かぬが、そうなのだろうな」 「子桓に似合わないよね、それ」 「似合うと言われても別に嬉しくない」 はふと考えてみる。 拳で語り合うのが似合う人と言うのを。 「徐晃さんとかやれそうだよね・・・・あと・・・・案外父様も似合いそう」 「徐晃はともかく。小父上が?・・・・・」 徐晃のことは否定しないのかとは笑う。 「意外に父様って熱い人よ?絆とか大事にするもの」 曹操の為にというのがわかりやすい例のようだ。 だがそれだと、曹操の為に娘を蔑ろにしたように見えなくもない。 はそんなことはないと言う。 「だって子桓がいたから。父様が子桓を信頼しているから、私を預けていったのよ」 「・・・・・・」 本人の口ではないとはいえ、夏侯惇がそう思ってくれていることを曹丕は嬉しく感じる。 実の父に信頼されている。と言われるより数倍も。 「だが・・・・最近の私の株は落ちただろうな」 腕組み、曹丕は苦笑する。 「え?なんで?」 「小父上の知らぬ間に、お前に余計な虫が着いていたと思われているからな」 「虫って・・・・」 「私にそれを排除しておかなかったことを愚痴られた」 虫。というのは三成のことだ。 だが少々夏侯惇は思い違いをしている。 三成がを構っているというよりは、が三成の周りをうろちょろしている。 という方が正しい。 三成もといることに関してはそう悪くは思っていないのだろうが、あの男はいまいち何を考えているのかわからない。 「別に父様が心配することなんかないのに・・・ねぇ?」 ねぇ?そう訊ねられても、曹丕は同意しかねない。 幼馴染はわかっているのか、わかっていないのか・・・。 「子桓?」 「いずれは・・・・そういう日も来るのだろうな」 「そういう日って・・・・」 「お前が誰かに嫁ぐ日だ」 「・・・・・・・それはそうだけど・・・・今そんな事言われても・・・」 は俯いてしまう。 恥かしさと、嫁ぐという言葉で浮かんだ男を思い出して。 昔は曹丕のお嫁さんになれたらいいな。そんな風に思っていたが、それが叶うことはない。 曹丕には自分よりも数倍、数十倍素敵な奥方を得ている。 それに曹丕は自分をそんな目で見ない。 妹のような子。きっとそういう目で見ているだろう。 昔に比べたらそう思われてもさほど苦はない。 だって、今、は曹丕以上に想える存在がようやく出来たのだから。 (でも、くだらないって言われちゃった・・・・) 冗談なのか本気なのかわからないが、ねねの口からあの子のお嫁さんに。ということを聞いた。 でも、それをくだらないと一蹴されてしまった。 向こうはいまだにが曹丕のことを想っていると思っているのだから。 「いずれは。と私は言ったぞ」 今すぐではない。曹丕はの頭に手を置いた。 深く考えすぎるなと曹丕は言う。 「子桓・・・」 「お前が嫁ぐ日を思うと、小父上がどんな顔をなさるのか・・・・それが心配だな」 「反対されちゃうのかな?」 が選んだ相手ならば、夏侯惇は反対しないと思う。 だけど、はいどうぞ。とは素直に認めてくれない気もする。 「反対なさるようなら、仕方ない。私が説得するのを手伝ってやる」 「あはは。強い味方ができちゃった。でも、でもさ・・・・子桓はそういう日、来たらどう思う?」 「安心は出来るだろうな。ようやく肩の荷が下りたと」 「酷いなー、それ。私、そんなに子桓に迷惑かけている?」 は拗ねたように唇を尖らせる。 曹丕は小さく笑う。 「沢山迷惑かけていたぞ・・・・だが、寂しくは思うだろう。得るものはあっても失うものもある」 それはきっと二人で過ごすこういう時間だろう。 肩書きだけなら幼馴染というものがついていると曹丕。 が誰かに嫁げば、一緒にいる時間は減るし、設けたとして以前と同じようなことにはならないだろう。 「ありがとう。そう言ってもらえるだけでもよかった」 きっと以前の自分なら、その言葉に「それだけ?」と可愛げのない反応しか出なかったと思う。 今は違う。 大事な幼馴染。そう曹丕のことを思える。 自分はしっかり曹丕から卒業できたのかな?そうならばいいなと。 「でも。一人っ子の私は、子桓がお兄ちゃんみたいなものだし?これからもお兄様に甘えさせてもらおうかな〜」 「前言撤回だ。一生肩の荷は下りぬようだな」 「かもね。あははは」 戦前だというのに。和やかに談笑してしまった。 そこへ夏侯惇と夏侯淵がやってくる。 もういつでも出陣できるようだ。 話はそこで終わる。余計なことを言うと戦前に面倒なことになりそうだったから。 *** 陳倉での浅井軍との戦いは、曹魏が勝った。 浅井長政、その妻お市。そして浅井に身を置いていた孫呉の武将甘寧は死を選ぼうとしていた。 曹丕にしてみれば、これから遠呂智との戦いに向けて一層戦いは激しくなるだろうから。 死に場所を遠呂智との戦いの場にすればいい。だから曹魏に降れと命じ、浅井軍を吸収した。 改めて世間に曹丕が反遠呂智を掲げたのが広まる。 すると、それに呼応するかのように、曹丕の妻甄姫も反遠呂智を名乗り、遠呂智軍から軍を率いて抜け出した。 これ以上反乱勢力を拡大するのを防ぐ為に、遠呂智は董卓に甄姫軍の討伐を命じる。 それを知った曹丕は自ら軍を率いて甄姫の軍と合流すべく進軍した。 涼州で曹丕は甄姫の軍と合流し、そのまま董卓の軍を打ち破る。 再び曹魏には新たな味方を得たことになった。 *** 「甄姉さま!」 曹丕が自ら進軍したことで、曹魏は一時期軍を二つに分けていた。 曹丕がいない間は夏侯惇と夏侯淵に任せて、曹丕は三成らとともに進軍していた。 それが再び一つになった。 甄姫が曹丕と共に戻ってきたところをが駆け寄る。 「甄姉さま、ご無事で何よりです」 「。あなたにも心配をかけてしまったのね・・・でももう大丈夫よ」 は甄姫に抱きついた。 「・・・・」 甄姫はそのの行動に瞠目しつつ、優しく微笑み彼女の頭を撫でた。 「甄。少し休むといい。、案内してやれ」 「うん」 今、居城としている場所。曹丕が使用している室へとが甄姫を連れて行く。 「甄姉さま、ずっと子桓と離れていて寂しかったでしょ?もう離れなくてすむから良かったね」 自分も夏侯惇と再会できてよかったとは笑う。 「ここが子桓の使っている室。何か入用なら言って、すぐに持ってくるから」 戦に出る事はできないにとって、やれることはこのくらいだ。 「・・・・」 「なに?」 「どこか雰囲気が変わりましたわね・・・・」 目を細めて優しい眼差しを向けてくる甄姫。 「そうかな?そう見える?」 「えぇ。私のこと、嫌っているかと思っていたから・・・・抱きつかれた時とても驚いてしまいましたわ」 「嫌ってなんかいないよ!姉さまは、いつも・・・え・・・・姉さま、知ってたんだ・・・・」 何故嫌う?そんなことはない。そう答えようと思ったのに。 甄姫がそう思う理由を考えたら、たった一つしかない理由に自分でも気づいた。 甄姫は、ずっとが曹丕を好いていたことに気づいていたのだ。 だから、曹丕に嫁いだ甄姫のことを快く思っていないのだろうと彼女なりに感じていたらしい。 「あなたが子桓様に向ける目を見ていれば気づくと言うもの。私も同じ想いを向けているのだから」 いつもは我が君。そう曹丕の事を呼ぶのに。 「で、でも。甄姉さま。私は別に姉さまのこと嫌ってなんかないよ・・・・」 嫌いになどなれるはずもなかった。 曹丕が兄のようなものなら、甄姫は姉のような人だったから。 父子しかいない生活で、頼りになる身近な女性。曹操の奥方や娘たちもいたが、甄姫の方が身近に感じていた。 憧れもあるのだろう。こんな女性になりたいと。 「」 「甄姉さまが、嫌というなら。私、姉さまのそばにいないから、子桓のことだって今はもう幼馴染って思っているから」 だから、嫌わないで。 虫が良すぎると思われるかもしれないけど、甄姫に嫌われたくなかった。 ずっと、ずっと・・・甄姫に嫌な思いをさせていたのかもしれない。 それでも、嫌われたくなかった。 「私がを嫌うなどという事はありませんわ」 ふわりと甘い香りがした。 今度は甄姫に抱きしめられていた。 「ごめんなさい、甄姉さま」 「何を謝る必要がありまして?私の方こそ、に嫌な思いをさせてしまって・・・・」 口にしなければ済むことだったのかもしれない。 だけど、あえて口にしたことで。知らずにできていたわだかまりが解けていくかのようだった。 甄姫と別れて一人廊下を歩く。 一人になってしまうと、なんだか泣きそうになる。 「・・・・・・・・・」 「なんだ。また何か我慢しているのか、貴様は」 扇を口元で隠し、壁に背をつけて立っていた三成。 「三、成さん・・・・我慢って・・・・」 「曹丕の奥方と再会して、辛いとか感じているのか?」 あぁそうか。三成はいまだに自分が曹丕のことを好きだと思っているからそう言う事を言うのだろう。 「違います。甄姉さまとの再会が辛いなんてことないです」 「強がりではないのか?」 「三成さん!」 「では、なぜ泣きそうな面をしている」 「それは・・・・」 甄姫にずっと嫌な思いをさせていたのかもしれないと思ってだ。 それを知らない三成には違う風に感じ取られるのだろう。 三成なりに心配してくれているのかもしれない、散々話を聞いて事情は知っている。 だからと言って、このことまでは三成になんとなく言いづらい。 「まぁ俺には関係のないことだろうがな」 先に突き放したのは三成だった。 「どいつもこいつも、なんでもないとか言いながらそんな面をする。目にしたこっちは不愉快だ」 一人のことを言っているようには聞こえなかった。 三成と出会った頃に、度々口にしていたに似ているという人のことかもしれない。 ただ、今のにはそれを察するには充分ではなく、三成に突き放されたことで動揺してしまう。 「な、んで。そんなこと言うんですか・・・・」 関係ないと自分で口にしたくせに。 言っている意味がわからない。 「?三成・・・・何をしている」 曹丕がやってきた。 恐らく甄姫の様子を見に戻ってきたのだろう。この先に自分の室があるのだから。 「子桓」 不安そうに揺らいでいる幼馴染の目に曹丕は気づく。 「三成。に何をした」 そして当然その矛先は三成に向けられる。 「ふん。思っていたことを口にしただけだ。貴様には関係あるまい」 「三成・・・」 三成は二人に背を向けその場を離れる。 離れる際にまるで捨て台詞のようなことを吐いた。 「優しい幼馴染にでも慰めてもらうといいだろう」 と。 の顔は下に下へと落ちていく。 「」 曹丕がの肩に手を置く。 だけど、は首を何度も横に振った。 「子桓は甄姉さまのところに行った方がいいよ。姉さまも喜ぶから・・・」 スッと曹丕の側を離れる。 冗談では曹丕に甘えてしまえ。などと言う会話はしたものの、実際にこんなことで彼に甘えるわけにはいかない。 「」 「大丈夫。自分のことだもん、自分でしっかりしなきゃ」 三成とのことだろう。 「そうか。だが小父上の耳に入らぬようにするのだな。何をなさるかわからぬ」 「ふふっ。そうだね」 と曹丕は背を向け、互いが行くべき場所に向かって歩いていった。 09/01/15
19/12/29再UP
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