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周りの内緒?
「父様。どうかした?」 馬車ではなく、夏侯惇が騎乗する馬に一緒に乗っている。 久々に親子一緒なのが嬉しいようだ。背中に大きな存在父がいるのが特に。 今は新たな拠点となる場所へと移動している最中だった。 「いや。なぜだ?」 「だって父様、すごく難しい顔しているから」 「あ、いや別に・・・・」 実はお前のことを考えていたのだとは口にできなかった。 を曹丕に預けたまではよかったが、知らぬうちに悪い虫がついていた。 そう思ったのだ。 しかもそのことに関して、相手の母親のような存在である女性から説教された。 正座して説教されるなど、生まれて初めてではないだろうか? 情けない気もするが、その女性ねねに反論などできるはずもなかった。 (まあ・・・・三成とやらももその気はないと思うのだが) 父として少し心配というか、この娘も嫁ぐのだなと思うと少々寂しいのだ。 まして自分は妻となる女性がいたわけでもないのだから。 邸で一人老後を過ごすのだろうかと・・・。 夏侯惇自身は今からでも遅くないと周囲ならば思うだろうが。 「父様?」 様子が可笑しいと感じたのだろう、怪訝な目で伺う。 夏侯惇は苦笑しながらの頭を撫でる。 「知らぬうちに大きくなっているのだなと思ってな」 「少しは成長したように見える?」 「それはどうだかな」 「酷いなぁ、父様」 そうは言いながらも不機嫌になることなく、父に寄りかかる。 「こら。重いぞ」 こちらも文句は言いながらもどけとは言わない。 なんだかんだいって、離れ離れになっていた時間を取り戻そうとしているようだった。 *** 「叱って差し上げようと思ったのですがね、当初は」 遠呂智軍との遭遇もなく進み、目的地の一つである小さな城に着いた。 三成たちがいた時代の城のようだ。 一息ついた夏侯惇に張遼が話しかけてきた。 「叱るとは俺の事か?」 「ええ。殿を探しに出たのに、反乱軍に身を置いておられたので」 張遼はニッコリ笑う。 彼のその笑みはろくなものではないと昔からわかっている。 「可愛い一人娘を置いて何しているのやらと。殿ともそのような話をしましたのでね」 「言うな。あれを連れて行かなかったことを今更後悔しておるわ」 苦虫を潰したような顔つきの夏侯惇。 「そうですか?」 「子桓やお前がいるからと安心しておったのだがな」 案外役に立たなかったのだなと軽い皮肉を張遼に込める。 だが言われた本人はなんのその。 「おやおや。責任転嫁なさるとは。ご自分で巻いた種なのですから仕方ないでしょう」 大体張遼は別に夏侯惇から娘を頼む、悪い虫がつかないように見張ってくれ。などと言われてはいないのだ。 ただ自主的に。張遼にとっても可愛い娘のようなを見守るという形はとっていたが。 「お寂しいのでしょう?殿が離れてしまうことに」 「・・・・いずれそういう日は来る。遅いか早いかの違いだ」 面白くなさそうに顔が歪む夏侯惇。 そんな夏侯惇に張遼は苦笑しつつ。 「逆に私は良かったと思っていますよ。殿は変わられた」 「?」 「いい傾向です」 ニコリと笑う張遼。 見た感じ、に変化はないと夏侯惇は思ったのだが。 (おやおや。親とはいえ、さすがに娘の恋心には気づきませんか) どうやら単純に三成がの周りをうろちょろしている。そう夏侯惇には見えるのだろう。 曹丕に対するの行動は妹のようなものだと。 だがそれでいいと張遼は思う。 曹丕が気づいているのかいないかはわからない。 彼にはすでに見初めた奥方がいる。 だったらは別の誰かを見つけた方がいいのだ。 側室ということも可能ではあるが、きっとはそれを良しと思わない。 「張遼・・・・なに、貴様だけわかったような顔をしているのだ」 「内緒ですよ。内緒」 「お前な・・・」 自分には意味がわからず、なのに張遼にはわかっている。 それが夏侯惇には面白くない。 曹丕と同じくを見守ってくれていた分には感謝しているのだが。 「あぁ、そういえば。私は偵察を命じられておりましたので、失礼いたします」 張遼は夏侯惇に礼をする。 「おい。待て張遼!話はまだ終わっとらんぞ!!」 夏侯惇は後を追うも張遼はひらりひらりと夏侯惇をかわして行ってしまうのだった。 偵察に出たのは張遼の部隊だけではなかった。三成も様子を探りたいと共に出ていた。 各地で今、反遠呂智を掲げる勢力が拡大しているらしい。 蜀の武将趙雲、孫呉は孫策を筆頭に。そして魔王と称される織田信長も。 元の所属など関係なく、それぞれがそれぞれの元に身を寄せ反遠呂智の狼煙を上げた。 だがいまだに遠呂智の力は強大である。 これをいかに削ぐのかがこれからの課題であろう。 そして偵察に出た時に、新たにその力となる者と遭遇した。 *** 「子桓。聞いたよ。また仲間になってくれた人がいるって」 偵察に出た張遼たちとともにやってきた人が居る。 そうは聞いた。 「あぁ。報告は俺も受けた。今三成といるらしい」 三成さんかぁ・・・・。 少し前、ねねの爆弾発言により、は少々焦ったものの。 三成はこれといった変化もなく、ただ呆れていただけだった。 「どうかしたか?」 「ううん。ね。どんな人?強い人だといいね」 曹丕はしばし考える。 そして小さく喉の奥で笑った。 「ある意味、強い奴かもしれん」 「?」 「あの呂布を手懐けておった奴だからな」 呂布。最強の武人と謳われる男だ。 も話だけは知っているが、その姿は流石に見た事はない。 そんな武人を手懐けるとは一体どんな武人なのだろうか? 呂布以上なのだろうか?怖くないだろうか? 「興味があるなら会ってこい。きっと驚くぞ」 「う、うん」 会いに行っても大丈夫だろうか?そう不安になりながらも曹丕は答える。 「三成がいる。大丈夫だ。お前が気にやむ事はない・・・・」 むしろ・・・その後、言葉を続けようとしたがなんだか癪に障るのでやめた。 「子桓?」 「なんでもない」 曹丕は仕事があるからとを残していく。 幼馴染にとって三成は特別な存在になっているのが、少し面白くないだけだ。 子離れするとはこういうことなのだろうか?などと考えてしまった自分に苦笑した。 「怖くない人だといいけどなぁ・・・・」 は曹丕に教えられた場所に向かう。 「あ。三成さんいた・・・・あ・・・・」 三成と共にいたのはとても綺麗な女性だった。 曹丕の妻甄姫と対面した時にもその美しさに驚いたものだが、三成と共に居る女性は甄姫にも劣らない美女だ。 「・・・・・綺麗な人・・・・」 三成のそばにねねが居た時。その時に感じた面白くなさ。 それがじんわりとこみ上げてくる。 それがなんなのか、にはもうわかっている。 もう自覚しているのだ。 曹丕に対しての幼い恋心は消えて、今新たに芽生えているものに。 でも三成はの想う人がいまだに曹丕だと思っているのだから。 「・・・・・・」 声をかけようと思っても、声が出ない。 そばに行こうと思っても、足が動かない。 「殿」 「ひぃ!!」 背後から音もなく姿を現し、声をかけられは悲鳴をあげてしまう。 「りょ、遼様!驚かさないでください!!」 振り返ってその声の主には抗議する。 張遼はくつくつと笑っている。 「悲鳴をあげるほどのものですか?別に私はイタズラをしたわけでもありませんよ」 「?」 さらには悲鳴の所為で三成にも気づかれたようだ。 「み、三成さん」 「あぁ。ちょうどいいですな、貂蝉殿をご紹介します」 張遼がの肩に手を置き、そのまま押し出すように歩き出した。 「りょ、遼様?」 遠目から見ても綺麗な人だと思ったが、近くに来ると一掃惚れ惚れしてしまいそうになる。 「貂蝉殿。こちらは夏侯惇殿のご息女殿です」 「は、はじめまして!と申します」 張遼に紹介されは貂蝉に向かって頭を下げる。 「はじめまして、殿。これからよろしくお願いいたします」 凛とした響く声。見惚れてしまいそうになる微笑み。 「いい話し相手ができたのではないか?」 三成が貂蝉に言う。 貂蝉はそうですね、と頷く。 年は貂蝉の方が少し年上といったところだろうか。 「夏侯惇殿もおられるのですか?」 貂蝉の問いかけにではなく張遼が先に答える。 「えぇ。ではちょうどいい。私が皆にあなたを紹介します」 貂蝉はやんわり笑む。それはいいと。 「ではお二人とも失礼します」 張遼は突然来たかと思えば、貂蝉とともに颯爽と去っていった。 残されたのはと三成。 三成は少々唖然とした様子であったがすぐに切り替える。 「綺麗な人だね。貂蝉様って」 「あぁ。絶世の美女と謳われているのだろう?」 「でも。子桓の奥様、甄姉さまもとても美人だよ」 そう思うと自分の周りは美人が多いなと感じる。隣にいる三成だって端正な顔立ちをしている。 自分はそんな類ではないので苦笑しかでない。 「あ。でも・・・・貂蝉様が戦うような感じには見えないけど・・・子桓にからかわれたのかな?」 は曹丕から聞かされた話を三成にする。 三成はからかわれたわけではないと言う。にはそうは思えないのだが。 「あの呂布を手懐けているのは本当だな。それに自身も中々の手だれだ」 三成たち偵察隊が貂蝉と合流した時、彼女は果敢に戦っていた。 「そこらの男より強いのではないか?追っ手をどつき回していたからな」 興味があるなら彼女の得物を見せてもらうといい。 「ふーん」 「仲間にしてくれと言ってきたのも、呂布が遠呂智に加担しているのが気に入らないかららしい」 「え?」 貂蝉が仲間に加わる経緯を三成は話した。 呂布が遠呂智から解放され、目を覚ますには奴を倒すしかない。 そう貂蝉は思い、遠呂智軍から逃げてきたそうだ。 そこまでするという事は、貂蝉は呂布のことを想っているのだろう。 「貂蝉様って呂布様のこと?」 「そうらしいな。呂布にも俺の女をどうする・・・とか言われたしな」 知らなかったのか?と三成に言われる。 「遼様が元々は呂布様に仕えていたのは知っていたけど、ほかはあまり・・・」 でも、そうか。はなんだか急に嬉しくなる。貂蝉には呂布という想う人がいたのかと。 ただ同時に最近の自分は酷く勘違いばかりするなと反省すべき点もある。 「どうした?急に機嫌が良くなったようだが・・・」 「ううん。ただ貂蝉様とも仲良くなれそうだなって思って」 「そうか」 本当に自分は現金だと笑いたくなった。 *** 「子桓」 「なんですか、小父上」 夏侯惇が自分に何を言いたいのかわかっている。 わかっているが、自分から口にすることではないだろう。 ただ、今はこれからの行軍について真剣に話し合いを始めたばかりではなかったか? 「その、なんだ・・・・」 「・・・・・」 夏侯惇もはっきりしないのは性格的に嫌なので、時間を書けることを放棄した。 「あの、石田三成と言う男だが・・・・」 (ああ、やっぱり) 娘に近づく虫だと酷い言われ方をしていたことを曹丕は思い出す。 三成の性格見た目から考えると虫ではなく、キツネだろう。 そんなことを言っても仕方ないので黙っている。 「三成がどうかしましたか?」 父親として、娘のこれからを心配しているのだろう。 「その・・・・どんな男だ?」 「どんなと言われましても・・・・」 悪い男ではない。とは言い切れない気がする。 なんとなく口は禍の元。というのを実行しているのが石田三成という男だと曹丕は思った。 ただ、ねねが言うには「誤解されちゃうけど、本当はすごくいい子なんだよ」と三成のことをいう。 ねねから見れば可愛い息子同然なのだろう。 「私よりも、おねね殿に聞いた方が早いと思いますが」 「い、いや・・・それはどうかと・・・・」 夏侯惇にしては珍しく動揺している。 それもそうだろう、初対面でいきなり説教をしてきたのだねねは。 大の大人が、正座させられるとは思わなかった。 「・・・・・」 曹丕は小さく息を漏らした。 戦場では歴戦の猛将、曹操の右腕として恐れられている男にとって、それほどにもねねは避けたい相手か。 曹丕も同じく説教組だったのだが、実はそんなに嫌ではなかった。 誰かに叱られるという行為が今までなかったから、ちょっぴり新鮮だった。 いや、叱られたいわけではないが昔から周囲の大人たちは腫れ物を触るような感じで接してきたから。 ただ、全ての大人がそうではない。 こうして目の前にいる夏侯惇にはやっぱり叱られるようなことはされたくないし。 口だけでなら、曹魏にも最強といえる武人がいる。 (そういえば、おねね殿と張遼が最近楽しげだな・・・) あの二人が組めばもう怖いものなしだろう。 遠呂智だって裸足で逃げてしまうんじゃないかという気にさせる。 「別に、小父上が心配なさるような関係ではありませんよ」 「子桓?」 少なくとも今は。 「あいつにとって、一番なのは小父上に変わりはありませんから」 「そ、そうか?」 少しだけ笑みが戻る夏侯惇。夏侯惇にこんな顔をさせるのはだけだ。 「父様ー子桓」 そのがやってきた。 遠呂智の城にいた頃よりいい顔になっている。やはり父が側にいるのが一番安心できるのだろう。 「今、暇?貂蝉様とお菓子を作ったの、一緒に食べない?」 「ほぅ。貂蝉とか・・・」 先日曹魏の軍に加わった舞姫。 元々は呂布のそばにいたのだが、遠呂智が呂布に加担するのが嫌で、彼の目を覚まさせようと遠呂智軍から逃げ出したのだ。 偶然偵察に出ていた三成が彼女を保護し、以来行動を共にしている。 年齢も近い所為か、二人は最近一緒にいることが多いようだ。 「あ。でも、忙しいみたい・・・」 机案に広げられた地図などを見て言った。 「父様たちが無理なら・・・三成さん・・・食べてくれるかな・・・」 父たちが忙しいならば他の者をと思ったのだろう。 だがその名前は今出す必要はないだろうにと曹丕は眉を顰めた。 案の定、向いに座っている夏侯惇が渋い顔をし始めた。 「暇だ。その菓子食おうではないか」 「本当?忙しいんじゃないの?父様」 「忙しくはない。そうだな、子桓」 「・・・・・・・はあ・・・まあ・・・・」 確かに忙しいってほどではないが、これからの先の進路に関する大事な話だったのだが。 夏侯惇は席を立つ。 「子桓。お前も来い」 「・・・・では、お言葉に甘えて・・・・」 父と幼馴染が食べてくれるというのだろう、はとても嬉しそうに笑った。 「俺の目が黒いうちは、絶対にやらんぞ」 と夏侯惇の背中が語っているなぁと曹丕はなんとなく思った。 (これから大変だな、三成・・・いや、三成の相手をするお前がな・・・・) それでも、もし三成がを泣かすような真似をしたら、きっと自分も承知しないだろうと。 知らずにそんなことを考えてしまう曹丕だった。 08/12/20
19/12/29再UP
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