男どもの内緒。




ドリーム小説
「夷陵?そこが次の討伐地か・・・・」

遠呂智からの命令だと妲己に伝えられる曹丕と三成。

「そ。結構根強く遠呂智様に抵抗しているようだから、さっさと殺ってきて」

だが妲己も同行はするようだ。

「行ってくれるわよね?曹丕さん。相手が誰であろうと」

妲己はそこに誰がいるのか最初からわかって聞いてくる。
勿論曹丕もその辺は抜かりなく調べてあるので問題ないと答える。

「三成さんにも出陣してもらうけど、今回は孫呉からも兵を出すように言ってあるから」

「そうか。別に俺はかまわん」

「じゃあ早いうちにさっさと行きましょうか」

妲己は楽しげに笑い反転し室から出て行く。
妲己の姿が消えたことで三成が曹丕に問う。

「本当にいいのか?此度の戦・・・・」

「お前らしくないことを言う三成。何か問題があるのか?」

「・・・・いや」

「心配は無用だ。そろそろだと思っていた」

「そうか・・・・・」

曹丕は三成が思っているほど憂いた表情はしていなかった。
逆にどこか期待に満ちた目をしている。
だがなんとなく曹丕の考えていることがわかる。
彼がこれからなそうとしていることに。
曹丕は出陣の準備をすると室を出て行く。三成にも遅れるなと釘を刺して。

「俺が心配なのは別にお前じゃない・・・・・」

誰もいない室で三成はそう呟いた。
次の戦は曹魏でも名将と名高い夏侯惇と夏侯淵が率いている反乱軍相手なのだ。
曹魏の兵士たちに少なからず何か抵抗感はあるだろうと思う。
だが三成がそれ以上に思ったのは、今この城にいるのことだ。
彼女がずっと抱えている不安。
最近ではそう暗くならずに済んでいるが、流石に今回のことが耳に入れば・・・。

「ふっ・・・・俺が深く考えるほどではないな」

それに幼馴染を悲しませるような真似を曹丕がするとは思えなかった。
だが、念には念を。
三成はある人の場所へ向かった。



***



「ちょっと・・・・本当にいいの?今度の相手ってあなたにとって戦いにくいんじゃないの?」

夷陵にて、同じく遠呂智に命じられた孫呉の軍。
それを率いてきたのは尚香と稲姫だった。
二人は曹丕に反乱軍のことを言っているのだろう。
曹丕は関係ないとばかりに何も動じていない。

「そりゃあ、あなたはどうでも良くても・・・・はどうしたのよ。あの子は知っているの?」

友だちが一番懼れているのは父と曹丕がぶつかり合うことだ。

「言う必要がない」

「そんな!」

稲姫まで思わず声を荒げてしまう。

「ここで戦えば、彼女が一番傷つくのをあなたが一番知っているではありませんか!」

「遠呂智に命じられたのだ。私が断れば結局誰かがその命を受けねばならぬ」

それは尚香たちも同じだろう。
これから共に戦おうとしているのだから。

の心配より自分たちの心配をしたらどうだ?」

曹丕よりも立場が危ういのは尚香のほうだ。
尚香は痛い所を突かれ目を背ける。

「わかったわ。私たちが口出す必要はないってことよね。行きましょう、稲」

「え、ええ」

尚香はやや膨れた面で自分たちの幕舎に戻っていく。
そんな二人の後姿を見ながら曹丕は小さく溜め息を漏らした。
今回の反乱軍討伐。
必ず自分たちがやらねばならないのだ。
遠呂智と同盟を結んでからここまで、なんとか散っていた曹魏の武将や優れた者たちを
手中に治めることができてきた。
着実に力が、遠呂智に対抗する力ができあがっている。
だが、いまだに足りないものがある。
それが夏侯惇と夏侯淵だ。
父曹操を探すといい去っていった二人だが、いつ頃からか反乱軍に身を置いていた。
曹丕のやり方についていけないと彼らも思っていたのだろうか。
その辺は彼らではないので曹丕にはわかりかねないが、別にどちらでもいい。
だが好機。
二人をこちらに引き込めば、遠呂智に反旗を翻すことができる。
ただ。

(まだ妲己に気づかれてはまずいと思い・・・を置いてきてしまったが・・・)

それだけが心残りだった。
戦に関係のないを連れ出せば妲己に怪しまれる。
今回曹魏の兵はすべて出陣させた。
もうあの城に戻るつもりがないからだ。
には一応警護の兵士をつけてある。
ある程度時期が過ぎれば城を抜け出すよう命令はしてある。
上手く逃げ、合流できればいいのだが。

(申し訳ございません。小父上)

曹丕は反乱軍の本陣のほうへ目を向ける。
そこにいるだろう夏侯惇の姿を思い浮かべ。
深く、深く謝罪の念をこめた。



***



合肥で反乱軍と戦を始めたと、の耳にも入った。

(子桓・・・・なんで・・・)

幼馴染はには何も告げずに出陣してしまった。
ただ、近いうちにまた戦に出るだろうということは聞いていたが。
いつもならば待機している部隊もあるのに、今回はほぼ全軍で出陣だ。
妲己も三成もいないようで、今城に残っているのは殆どが青白い顔をしている遠呂智の兵士たちばかりだ。

(なんで、私に黙って行くのよ・・・・)

居心地の悪くなった城。
には数人の兵士が就いていてくれている。曹丕の命だそうだ。
窓際の椅子に腰掛け、はじっと外を見つめる。
相変わらずよどんだ空が広がっている。そろそろ日が暮れそうだ。

(私の為?黙っていった方がいいわけ?)

ずっと曹丕に対して問いただしている。当然返事はないわけだが。
何を問いただしているといえば、父のことだ。
現在出陣している反乱軍討伐戦。
反乱軍の主力に父夏侯惇がいるというのだ。
曹丕は出陣する際、に何も言わずに行った。
曹丕だけではない、三成も張遼も徐晃も。誰もが何も言わなかった。
隠されているのがには面白くない。
反乱軍に父がいると知ったとき、誰もがの心配をした。
その父と戦うことになった為に周りはを心配しているのだろうか?
見くびらないで欲しい。
だって当に覚悟はできていた。
この先ずっと回避し続けるわけがないと。
だから、一言だけでも言ってくれればいいのに。
それと気になるのが、城に曹魏の兵が一人残らずいなくなっていること。
自分だけ置いていかれたような感じがしてしまう。

『だが、約束しよう。この先のことはわからぬが、お前を裏切る真似はしないと』

そう言った三成の言葉が今をこの場に止めている。
父と戦うということに、三成ですら何も言わなかった。
きっと何かあるんだ。そうに違いない。

(って自分がそう思いたいだけなのかも・・・元々三成さんは子桓の監視役だし)

誰が敵で誰が味方かよくわからない。
それでも、三成を信じようとしている自分が居る。
勿論幼馴染の曹丕のこともだ。

様」

ジッと考え事をしていたに兵士が声をかける。

「は、はい」

よほど集中していたのか。兵士が側にいることを忘れていた。

「我が軍が反乱軍との戦に勝ったそうです。ご準備を」

準備?何の準備だ?戦に勝ったからその祝宴か?
別に自分がすることではないのだが・・・。

「あの、準備って?」

「城を抜け出す準備です。手薄の今が好機です」

「え?城を・・・?」

「さっ早く」

曹丕の命令だそうだ。
曹丕はこの時を持って反遠呂智を掲げることを決めたのだ。
その為に反乱軍にいる夏侯惇と夏侯淵を引き入れる為に。
だがそれだけじゃない、妲己の油断を突き、そのまま軍を妲己の居城である小田原城へと進めるのだそうだ。

「わかりました。急ぎましょう」

今ここでもたついては曹丕にとって自分が人質になるのは勘弁だ。
自身が人質として価値はあろうがなかろうが、曹丕や父に迷惑をかけたくはない。
たちは急いで城を出ようと行動を開始した。

「あら〜?どこへ行くのかしら?見張っていて正解だわ」

居ないはずの妲己が姿を見せた。
本能的に感じる。この状況はやばいと。



***



「小父上。妲己を欺く為とはいえ、申し訳ございません。を残してきてしまい・・・・」

久しぶりに会った夏侯惇。
やはりというか、曹操は行方知れずのままらしい。
だが、彼の親衛隊で夏侯惇が強く信頼している典韋が就いているので大丈夫だろうとは思っている。

「いや、いい・・・・俺がお前に無理を言ったのだ。本来ならば俺が連れて行くべきだったのだ」

家族だから離れてはいけない。
別れる時にそう言った娘の言葉が今になって夏侯惇を締め付ける。

「城を抜け出す手筈にはなっておりますが・・・・」

いまだに報告はない。
曹丕たちは夏侯惇と夏侯淵。それに蜀の軍師ホウ統を仲間に引き入れ、妲己の居城を強襲した。
妲己の方も予想済みだったそうで、迎え撃つ態勢を整えていた。
今回のことで、反乱軍の一部を、いや、もう反乱軍と呼ぶのはやめよう。
反遠呂智の連合軍で孫呉の武将黄蓋も仲間に招くことができた。
妲己は捨て台詞を吐き逃げて行ったが余裕のある顔振りが引っ掛かっている。

「遠呂智様に逆らったこと。後悔するといいわ。それと、あなたの大事な幼馴染のこともね」

曹丕が離反することはすでに遠呂智には筒抜けかもしれない。
やはり何か理由を作って最初から城から出して置けばよかった。

「今からでも間に合うんじゃねぇのか?なんとかを助けだしに行こうぜ、惇兄!」

夏侯淵にとっても可愛い娘のような存在である
このままにしておけないだろう。

「いや・・・・一人の為に無理をさせるわけには行かぬ」

夷陵から小田原へ。今回かなりの強行軍だった。

「そうだけどよぉ・・・だったら、俺に行かせてくれ!俺一人で行くならいいだろ?」

「淵」

遠呂智の兵がどこにいるかもわからない状況で名将夏侯淵といえども、数では対抗しきれないだろう。
ようやく軍の体制が整いつつある中で、別行動は避けたい。

「まったく・・・・曹丕、お前らしくないな、詰めが甘いとはな」

曹丕たちを見て辛気臭いと三成は一瞥する。
その三成も曹丕が表舞台に立つのを見に来たと小田原での戦に参戦した。
そして自分も生来見物する側でないからと曹丕と反遠呂智につくことにしたのだ。

「どいつもこいつも。大事なならば手放す真似など最初からしなければいいのだ」

「なんだと!!おめぇには惇兄がどんな気持ちで!」

夏侯淵が三成に突っかかるが、夏侯惇が止める。

に甘すぎることが裏目に出たようだな」

「・・・・・」

「だから詰めが甘いというのだ。まったく・・・・」

「父様!」

幕舎の出入り口から光が差し込んだ。
幕が上がりが駆け寄り夏侯惇に抱きついた。

・・・・お前」

「父様。ようやく会えて良かった」

また泣き出すかと思えば、涙など見せず変わりに笑顔を見せている。

・・・・すまなかったな、色々と」

思わず娘が無事であるのを確認するかのように、夏侯惇は腕に力を込めてしまう。

「ううん。父様とこうして会えただけでも私は嬉しいから・・・・淵小父さまもご無事でよかった」

は夏侯淵に顔を向ける。

「おう。俺はピンピンしてるぜ!」

「しかし、よく無事に逃げ出せたな」

妲己のあの言葉はなんだったのだろうか?と思えるくらいに。

「うん・・・・逃げ出す途中で妲己に見つかった。けど、三成さんのおかげで助けてもらえちゃった」

三成の?と全員が三成に顔を向ける。

「三成の頼みで、私がを助けたんだよ」

スッと姿を見せたねね。

「おねね殿が?」

「きっと曹丕は遠呂智から離反するだろうけど、を残していく。だからのことを守ってくださいって」

ね?と三成に同意を求めるねね。
三成は扇を開き口元を隠す。

「可愛い三成の頼みだもん。聞かないわけにはいかないよ。それにのことも私には大事な子だからね」

ねねはの頭を優しくなでる。

「おねね殿。ありがとうございます。三成にも感謝する」

珍しく曹丕から感謝の言葉が出た。

「こんなのでも、私にとっては大事な幼馴染だ」

「こんなのは余計よ、子桓」

ねねは別に礼を言われるほどではないと手を振る。

「言ったろ?私にとっても大事な子だって。だって三成のお嫁さんにしたいと思っているだからさー」

お嫁さん。
その言葉はこの場の空気を凍らせた。
はえ?と真っ赤になり、三成は何を馬鹿な事をとねねを睨む。
夏侯惇と夏侯淵はそんな話は聞いていないし、認めない。どんな関係だと三成を睨みつける。
曹丕は無関係なのだが、少し面白くないと感じている。
いつもわかっていたつもりの幼馴染がもう自分の手を離れているのだろうという寂しさなのかもしれない。

「お、おねね様・・・・・本当、黙っていてくれませんか?」

「やい。三成って言ったな・・・まさかと思うがに手ぇ出したのか?」

夏侯淵が三成に詰め寄る。
夏侯惇も同じかと思えば、夏侯惇の視線は曹丕に注がれている。

「子桓・・・」

一段と低くなった声音。

「・・・・・なんでしょうか。小父上・・・・」

「俺はお前にのことを頼むと言ったが・・・・悪い虫がつかないように見ておけと言わんかったか?」

「・・・・聞いていませんが」

「普通は見ておくべきだろうが」

「無茶を言わないでください」

は恥かしさはあるものの、この場の空気の方が気になる。
どうしようかとオロオロし始めるが、この場を押さえられるのはただ一人のみだろう。
原因を作った人だ。
原因を作ったのだが、止められるのもねねくらいだ。

「こら!いい大人がみっともないよ!それに、自分勝手に娘を置いていった父親が文句を言う筋合いはないよ!」

「な、なんだと!?」

「それに。曹丕も今回は私がいたからいいけど、に何かあったらどうするつもりだったの!?」

「あ、それは・・・」

一応それなりに準備はしていたのだが、先も三成に言われたとおり詰めが甘い結果だった。

「3人ともそこに座りなさい!お説教だよ!!」

ねねのお説教。誰も逃げられるわけがない。
夏侯惇らは3人はねねの迫力に負けてその場に座り込んでしまう。
お説教が始まる前に、ねねはに笑顔を向ける。

。疲れただろう?あっちでゆっくり休むといいよ。三成お前もついていってあげてちょうだい」

また余計なことをと三成は面倒臭く思うが、ここで自分まで説教されるのは嫌なので素直に従うことにした。

「行くぞ、

「え?あ・・・・い、いいのかな・・・・」

「かまわん。こっちまでおねね様の説教を食らう羽目になるよりはな」

後ろから突き刺さる3人の視線からも逃れたいのだ。
三成はの背を押し幕舎から出た。

「父様、おねね様に叱られちゃって大変だなぁ」

いつも人々の前では威厳で溢れている人だから。

「見なければ良かったか?」

「え?あ、平気です。遼様が似たようなことよくしているし」

意外に頭が上がらない人物はいるようだ。

「この分だと、孟徳様もおねね様には頭が上がらないかもね。この勢いで遠呂智のことも説教しちゃいそう」

くすくすと笑うに三成は溜め息を吐く。
洒落にならないと思ったからだ。

「三成さん。ありがとう、助けてくれて」

「助けたのはおねね様だ。俺ではない」

「でも。三成さんがおねね様に頼んでくれたから・・・・約束守ってくれたんですよね?」

「約束?」

ははにかむ。

「言ったじゃないですか、私を裏切る真似はしないって」

「ああ・・・そんな事約束したな・・・・」

三成はそこまで深くは考えていなかった。
でも、そう繋がることもあるのだと知る。

「ただ・・・・おねね様のお嫁さん発言には驚いたけど」

「あれは気にするな。ただの戯言だ。おねね様が好き勝手に言っているだけだ」

「・・・・・」

「元々お前は曹丕のことが好きなのだろう?今更なんだというのだ」

三成は手にしていた扇を何度も掌に軽く打ち付けている。

「気にするな」

「あ、あの、三成「殿!」

曹魏の武将たちがの元へ集まってきた。

「ご無事でなによりでした。お父上も我らと合流できましたからな」

「は、はい」

武将たちに囲まれたを、三成は一瞥しそのままその場から離れてしまった。
彼らに任せれば別にいいだろうと思ったようだ。
みんなに会えて、父とも再会できて、嬉しいことだらけのはずなのに、三成の態度にどこか寂しさを感じてしまう。

(確かに子桓のこと好きだけど・・・・もう、今は・・・・)

なんだろう、この寂しさは。








08/03/16
19/12/29再UP