私の内緒。




ドリーム小説
「おやおや。可愛い顔が台無しですぞ」

「遼様・・・」

「私とのお茶はつまりませぬかな?」

「そんなことないです!遼様こそお忙しいのに私の相手をしてくださって・・・」

ブンブンと首を何度も横に振るに張遼は目を細めて笑う。
小さかった子どもがしっかりと成長してきたのを見てきた張遼には、彼女が我が子、妹のように思えてしまう。
実際、曹魏では彼女を娘のように可愛がっている強面の武将たちが多かった。

「そんな顔をされると、私の方が困ってしまいます。さあ、冷めないうちに飲んでくだされ」

「はい。いただきます」

は張遼の元に居た。
いつもならば曹丕や三成などと一緒に居ることが多いのだが。
曹丕は忙しいようで相手にはしてもらえず、は張遼や徐晃など見知った武将たちを探して来てしまったのだ。
三成とは・・・。

「そんなに三成殿が気になるのでしたら、直接お聞きになればいいでしょうに」

「な!何を言っているのですか、遼様は!」

「ご一緒にいる御婦人が気になるのでしょう?」

「・・・・べ、別に・・・・」

先日の忍軍団討伐で三成は一人の女性と共に帰還した。
三成に何かと世話を焼いている様子の女性の出現に、はなんだか面白くなかった。
いつもならば三成と話そうと思っても、彼女が側にいるかと思うと中々近づく気にならなかった。

「気にもなりませんし、知りません。私は」

つーんとそっぽを向く
つい昔からのことで、張遼はをからかってしまう。
本気で泣かすような真似はしないのだが。
なんとなくその頃を思い出してしまう。

「その割には浮かない顔をしておいででしたぞ」

「・・・・・と、父様の心配をしていただけです」

「おやおや」

心配はしているのは本当だろうが、今のは少々とってつけたような言い訳だ。

「遼様」

「はい。そういうことにしておきましょう」

張遼は笑った。
それがは見通されているようで面白くなかった。



***



ふと回廊を見渡すも、見慣れた少女の姿がない。

「・・・・・」

今日だけではなく、ここ数日。
いや、先日討伐に出た辺りからずっとだ。

「・・・・ふん」

別に構わぬと三成は歩き出す。

「三成」

そんな三成に曹丕が呼び止めた。

「なんだ」

「そろそろまた出陣せねばならぬことが起きそうだ」

だがその顔には笑みが浮かんでいる。

「随分と楽しそうだな」

「まあな・・・・恐らくその時はお前にも同行してもらうことになるだろう」

その理由を曹丕は誰の口にも漏らしたことはない。
ないのだが、三成にはすでに気づかれているとは思っている。
その時、三成がどう行動をとるかは彼の自由だ。
曹丕がこれからなそうとすることは三成には関係ないことだ。

一つだけ、この先を思うと気になることはあるのだが。
あえてその事について自分が口出す必要はないだろう。

「曹丕・・・一つ」

「三成!」

「お、おねね様・・・」

曹丕に何か切り出そうとしていた三成。
そこにねねが割って入る。

「なんだい。人の顔を見て驚く事はないじゃないか」

可愛らしく腰に手を当てて三成を睨むねね。
昔からこの人に逆らえた試しはない。

「いえ。別に・・・・」

「お前でも頭の上がらない人物はいるようだな」

曹丕が珍しいものを見たと口許に笑みを浮かべている。
三成的には嫌な奴に知られたと内心舌打ちを打ってしまう。

「あら。三成のお友だち?幸村たちと離れ離れになって寂しい想いをしているこの子のことよろしく頼むよ」

ポンと曹丕の肩を叩くねねに三成だけでなく、曹丕も面食らう。
自分が三成の友だと?
友かどうかはわからぬが、とりあえず曹丕はねねに名を告げる。
お互い初対面であったことに今更気づいたのだ。
ねねにとって三成は子どもと同じだと言っている。
隣で三成が拗ねた顔をしているのが笑えてしまう。

「おねね様。何か用ですか」

あからさまに不機嫌だと顔を歪めている三成。
余計なことを言うなとねねに視線を送るがねねは少しも悪びれている様子はない。
本人的に変なこと、悪いことを言ったつもりはないのだから。

「幸村・・・・真田幸村のことか」

確か一度だけ戦で顔を合わせた事がある武士だったと曹丕は記憶している。
彼は蜀の名称趙雲と共に行動していた。

「あら。幸村のこと知っているのかい?」

「見かけた程度だが・・・」

何を普通に会話しているのだと三成は苛々してくる。

「兼続も慶次もどこで何をしているのかねぇ」

「前田慶次のことならば、奴も遠呂智の下にいるが・・・」

歌舞伎者と言われ、遠呂智のどこを気に入ったのか、自分達と違って好んでこちら側にいる人間だ。
ねねはそれを知り、眉を顰める。

「まったく。しょうがない子だねぇ・・・慶次らしいけど」

今度会ったら叱ってやらないと。なんて言うねね。
曹丕から見て珍しい人種だと感じてしまう。

「そういや、三成の側に左近がいないようだけど・・・左近はどこにいるんだい?」

三成ではなく、曹丕に問いかけるねね。
三成よりも曹丕の方が答えてくれるだろうと思ったのだろう。

「島左近とやらは知らぬな・・・・いや、孫策と合流したという話だが」

「本当皆バラバラになっちゃったんだねぇ・・・・まあ左近は三成の世話から解放されたと思えばいいだろうけど」

「おねね様。なんですか、それは・・・」

「あははは」

「曹丕。貴様もべらべらおねね様に話すな」

「そのようなつもりはないのだがな」

くくっと咽喉の奥で笑う曹丕。

「三成。私に何か訊ねたいことでもあったのではないか?」

先ほど話しかけたこともある。
だが三成はバツが悪いような珍しく歯切れが悪い。
恐らくねねの前では言いたくないのだろう。

「別にない」

「そうか」

「では、おねね殿は三成に用があるようなので、私は失礼する」

「あら。悪いわね。少しだけ三成を借りるよ」

有無を言わさずねねは三成を連れて行こうと腕を引っ張っていく。

「おねね様、そんなに急がずとも逃げませんから」

「はいはい」

「わかっていないでしょう・・・まったく・・・・」

ブツブツ文句を言いながらも、ねねには頭が上がらない三成を曹丕は見送る。

「・・・・ああ。あれでは面白くないと拗ねるだろうな」

幼馴染が最近三成の周りをうろちょろしない理由を見て。
三成自身が幼馴染をどう思っているかは知らぬが。



「子桓ー」

噂をすればなんとやら。
張遼を引き連れての幼馴染の登場。

「なんだ」

「見かけたから声をかけただけ」

「そうか・・・・今日は張遼がお守り役か」

いつものお守り役は先ほど連行されてしまったことだし。
お守り役と言われた張遼は否定することもなく「そのようで」と答える。

「ちょ!酷い遼様!子桓も何よー!!元々遼様は子桓のお守り役でしょうが」

「な、何を言うか馬鹿者が」

「どちらにしても私はお守り役のようで」

張遼に言われてしまうと二人とも反論ができない。
曹丕は軽く咳払いし、真面目な顔で張遼に体を向ける。

「張遼。近いうちにまた戦になる」

「・・・・そうですか」

「ああ。反乱軍の討伐だ」

その言葉には小さく言葉を漏らし、張遼の顔つきが険しいものに変わる。

「徐晃達にもそのように伝えよ。詳しいことはまだ先になるがな」

「御意」

曹丕に頭を下げる張遼。
反乱軍に仲間がいる可能性は高い。
仲間同士で刃を交えるのは張遼ですらあまり好ましいとは思っていない。
だが、今は曹丕に仕える身。
その意思に背く理由はない。

「子桓・・・反乱軍と・・・・って」

キュッと曹丕の袖を掴む
もしやその反乱軍には父がいるかもしれないと感じた。

「反乱軍は反乱軍だ。我らに背くならば討伐せねばならぬ」

そう言われてしまうとには何も言えない。
止めてとは言えないし、そうできる権限も力もない。
スッと手を離す。ただ悔しそうに唇を噛締めている。

「・・・・・」

「大丈夫だ」

ポンとの頭に手を乗せる曹丕。

「お前が心配するような事は何もない」

「・・・・うん」

頭ではわかってはいるものの、やはり胸中は複雑だった。



***



回廊の角を曲がった所で、ばったり三成と遭遇した

「あ」

「・・・・お前か」

「ど、どうも」

少しばかり三成に対し身構えてしまう
かと言っていつものように軽く会話ができる気持ちもなかった。

「・・・では、また」

そそくさと三成の横を通り過ぎようとする。

「待て。何だその態度は」

三成がの襟首を掴んだ。

「ちょ、ちょっと酷い三成さん!!」

年頃の女性に対してすることではないだろうに。
なんだか小動物扱いされているようだ。

「なら逃げるな。人の顔を見てなんだ」

「な、なんでもないですー」

ジタバタともがくが三成には面白くない。

、貴様「こら三成!!」

三成は肩をビクつかせる。

「あんたは女の子になんてことしてるの!お説教だよ!」

「お、おねね様・・・これには理由が・・・」

ねねが両手を腰にあてて三成を睨んでいる。

「み、三成さん?・・・あ」

姿を見せたあの女性には動揺してしまうも、彼女はが想像していたのとは違う雰囲気の女性だった。

「理由よりもまず、その手を離しなさい!」

「は、はい」

ビシっと三成を叱り、その三成も大人しくなることには驚く。
三成は掴んでいた手を離す。
解放されたは逃げもせずにその光景を目の当たりにしてしまう。

「まったくしょうがない子だね!そんな風に育てた覚えはないよ」

「世話になった覚えはありますが、育ててもらった覚えはありません」

「口答えしないの!」

ポカンと口が開いたままの
ねねはの方に顔を向けた。

「ごめんね。三成が乱暴しちゃって。あとで私がちゃんとお説教しておくから許してやってちょうだい」

にっこり微笑まれてしまう。
なんだかねねの態度はまるで。

「お母さんみたい・・・・」

「だ、誰が母親だ!おねね様は俺の母ではない!」

「もう。なんだいその態度は。私にとって三成は可愛い子だよ」

「おねね様!」

三成が何を言ってもねねは受け流している。
すごい人がいるものだと感心してしまう。

「えっと・・・・だったら・・・・どんな関係なんですか?」

一番知りたかったのはそこだ。
だが面と向かって訊ねる勇気がなかった。でも今ならできる。

「母親みたいなものさね。三成はあー言っているけど、昔から世話してやったんだから」

「おねね様・・・あまり余計な事をこいつに言わないで欲しいのですが・・・」

「こいつってのはなんだい。ちゃんと名前で呼んであげないと駄目だろ?ねえ」

「あ、い、いえ。あの」

「あなた、名前は?」

「あの・・・と言います」

「そうね。三成と仲良くしてやっておくれね。素直じゃない所があるけど根はいい子だから」

「おねね様!」

珍しい。三成が慌てる姿など。
いつもどこか冷めたような目を周囲に向けているのに。
だけど。それだけじゃないのはにもわかっている。

「はい。知っています。三成さんはとても優しい方ですから」

。お前までなんだ」

「あら。良かったじゃないか、三成。幸村たち以外にもちゃんとお友だちができて」

バシバシ三成の背中を叩くねね。

「曹丕って言うお友だちもできたようだし」

「子桓と友だち・・・へえ」

「おねね様。本気で黙っててもらえませんか・・・・」

「もう怖い顔したって駄目だよ。ちゃんと素直に喜ばないと」

ぷるぷる三成の拳が震えている。
何を言ってもねねに勝てない様子で、その怒りをどこにぶつければいいのだろうと必死で考えているに違いない。
ですら三成の我慢の限界も近いなと肌で感じてしまう。

「あーおねね様ここにいただかー」

「許チョさん」

まったく予想しなかった人物がねねを呼んだ。

「ん?どうしたんだい・・・あ。そうだったね。じゃあ私は行くから」

「おめぇらも後で来るといいだ。おねね様が美味い飯を食わせてくれるっていうからな〜」

ねねはそう言う理由だと言って許チョと共に去っていった。
残されたと三成だが。

「・・・あの・・・三成さん?」

「・・・・・・・」

「えーと・・・・おかえりなさい、三成さん」

急になんだと三成はに顔を向けた。

「その。ちゃんと言ってなかったから・・・三成さんも帰ってきたのに」

先日の忍者軍団討伐のことだろう。
確かにあれからと顔を合わすのは久しぶりだ。

「さっきと態度が違うな」

「あーあれはその・・・・ちょっと安心したから」

「?」

「内緒」

ふふっとは笑う。
そう。ねねが、が思っていたような人ではなかったから。
三成とどんな関係だろうと変に勘ぐっていたのだが、まったく心配する様子もない。
それがわかって急に安心した。嬉しくなったのだ。
確かに張遼の言うとおり、最初から三成に聞いておけば済んだ話だろう。

「今度は三成さんのお話聞かせてください」

「俺の話?俺にはお前にするような話など・・・・」

「ありますよ。三成さんの友だちだっていう幸村さんのこととか」

いつも聴いてもらっていたから。
たまにはいいじゃないかとは三成にお願いする。

「面白い話ではないと思うがな」

いいだろうと三成は歩き出した。
いつもみたいにお茶をしながらと言うのだろう。
は嬉しそうにその隣に並ぶ。

「それで、どんな人なんですか?幸村さんって」

「少しお前に似ているな」

「わ、私?」

「ああ。自分の想いをずっと隠し続け秘めているところだな」

もう一人そういうことをしている子がいるが。
彼女のことはに言わなくてもいいだろう。

「な、なんですか、それ。っていうか・・・・私、今はそんなには・・・・」

「なんだ?」

「な、なんでもないです!それで、話の続き聞かせてください」

少し頬を赤く染めるも、は先を促す。
自分でもようやくわかってきた。
今は曹丕を大事な幼馴染だと思えていることに。

それはきっと三成のおかげなんだ。

「それともおねね様に聞いたほうが早いかな」

「止めろ。余計なことをあの人に聞くな。ああ、幸村のことだったな、聞かせてやる」

三成は少し歩く足を速める。

「あ。待ってくださいよー」

「ああ。すまない」

三成は歩幅を元に戻し、再び二人は並んで歩き出す。
久しぶりに楽しいお茶の時間を過ごせそうだ。








08/02/09
19/12/29再UP