内緒のお伽話。




ドリーム小説
それは三成が最近になって気づいたことだった。



「ん?なに三成さん」



「だから、なに?」

名前を何度も呼ばれてはキョトンと首を傾げる。
三成は口許に軽く手を添えて何か考えている。

「三成さん?」

今日も今日とて三成と回廊で立ち話をしていた
先日、曹丕に夏侯惇の所在について追求したところ、珍しくうろたえる曹丕を見ることができた。
あれは中々面白かったと三成は笑ったものだ。
曹丕にしてみれば、余計なことを言ったなと三成を睨んでいたが。
でも、が夏侯惇のことを聞いたのは孫呉の姫君からなのだから、別に三成の所為ではない。



「だーかーらーなんですか、三成さん」

思わず三成の袖をぐいっと引っ張ってしまう

「ああ、すまぬ」

それに気づき三成は考えるのをやめた。
考えるより聞いたほうが早いと思って。

「お前の名」

「私の名前?」

「ああ。と言ったな」

あまり名前を連呼されるのも恥かしいものがある。

「ええ、そうよ。それがどうかした?」

「どうかというか・・・・珍しいと思ってな」

「珍しい?」

そうだろうかとは思う。

「三國の世にしては使う名前ではないと思ってな。どちらかと言えば我々に近い名だ」

「・・・ああ。そういうことかぁ」

は納得する。
長いことそこに居たから自分ではそう思わなかった。

「夏侯惇殿が名づけたのだろう?」

は首を横に振る。
違うと。元々持っていた名だと三成に告げる。

「別に隠す必要もないし、教えてあげる。私父様とは血の繋がりがないの」

養子なのだとは答える。

「・・・・・だが前に母親のことを」

そうだ。と指切りをした時に言っていた。
幼い時に父や母と、曹丕とよくやったと。

「父様、一応一人身よ。父様を慕う女性はいくらでもいたようだけど」

「・・・・」

養子なのは何も三成のいた世界でも珍しい話ではない。

「そうか・・・・・どこからっていうのがよくわからなかったけど・・・・」

今度はが一人で考え込んでしまった。

「なんだ?」

「あ、うん。こっちの話・・・・」

眉根を寄せて苦笑する
は欄干に背を預け相変わらず薄暗い空へと目をやった。

「三成さんが信じるかわからないけど・・・・私、三成さんの言う三國の世で生まれたわけじゃないの。
幼い時に、父様に拾われたんだけど、その時身につけていた物がその世界にはないものばかりだったって。
口にする意味も父様たちにはわからないことばかりだし、私も少しだけど元居た場所のこと覚えていたし」

悲しい過去と思えるものだが、は淡々と話している。

「指切りをしたお母さんってのは、顔も覚えていない私の本当のお母さんのこと」

「覚えていない?」

「うん。別れてから大分経つし・・・薄情かもしれないけど・・・・」

軽く頬を指で掻く

「これでも悩んだんだ。私のことを探しているかもしれないって、でもどうすることもできなかったし。
何より、私にはもう夏侯元譲っていう素敵な父様がいたから。父様に拾われて育てられて良かったって。
父様のそばを離れるのも嫌だったから・・・気にするのやめたの。私は夏侯元譲の娘、って」

そう口にするは笑っていた。
苦笑などではなく、本当に夏侯惇の娘であることを誇りに思うような顔で。

「子桓にも心配かけちゃって・・・その事で喧嘩もしたっけ」

ああ思い出してきたとは笑った。

「でも、そっかあ。私ってきっと三成さんたちの世界の人間だったのかもね。
ん、でも・・・・私の両親の姿って三成さんたちとはちょっと違ったように思うけど・・・・」

「そう言われても俺には答えようがないのだが」

「それもそうだ・・・・あはは。でも三成さん、こんな話しても驚かないんだね」

三成は扇を開き口許をそれで隠す。

「驚くもなにも、こうして三國の世と戦国の世が融合しているからな」

さほどの話では驚きはしないようだ。
もそうだねと思わず笑ってしまう。

「でも、三成さん。名前だけで不思議だと思ったんだ」

「いや、それだけじゃないな」

「?」

「お前と夏侯惇殿は似ていないと思ったからな」

「そう・・・・かな?んー・・・・まあ血の繋がりはないからしょうがないけど」

ふとは気づく。
三成は父の顔を知っていたのかと。

「ああ。一度きりだが遠目から」

「遠目からじゃわからないと思うけど。それに遠目からじゃ父様のカッコ良さがわからないし」

「別に俺は夏侯惇殿のカッコ良さなどに興味はないのだが・・・」

「あ。ひどーい」

は悪戯をした子どものように小さく笑う。

「三成さんも美人さんだけど、父様すごく素敵なんだから〜」

「あのなぁ・・・」

「あの子桓ですら父様に懐いているんだよ?昔からよくうちに来ていたし」

「曹丕が?」

思わず聞き返してしまった。
くだらない人の親自慢などされてもと酷い事を思いつつも、あの曹丕が懐くなどとは。
これにも三成は驚いた。

「そうだよ。子桓って結構周りの大人のこと煙たがっていた様子があってね。
父親の孟徳様のこともちょっと苦手な様子だったの。でも不思議と父様には懐いて
よくうちに来て、私のことを相手もしてくれていたけど、父様の読む書物に興味持ったりしてね」

懐かしいなぁとはしみじみしてしまう。
あの頃はずっと父と曹丕との時間がずっと続くと思っていたのに。

「お前・・・」

パチンと扇で額を軽く叩かれた。

「痛っ。もう三成さんなに?」

「表情が暗い。前を向け。鬱陶しい」

はっきりと斬り捨てられてしまうも、三成らしいとも感じてしまう。
これが三成なりの優しさなのだろうなと。

「うん。ちょっと昔のこと考えていたら懐かしくなって」

「あまり昔のことを話されても困るな」

「えー・・・まあ面白くないと思うけど・・・・子桓のこととか話せるのって三成さんだけだから」

「面白くないというより、曹丕の子ども時代が想像つかぬだけだ。あれが人に懐く姿など」

ふんと鼻を鳴らしてふんぞりかえっている姿しか浮かばず。

「三成さんも子桓と似たような所あると思うけど?」

「一緒にするな」

「そうかなぁ」

こんなやり取りは特に似ていると思うし、自分的には楽しい。
そういえば、最近は尚香や稲たちと一緒にいたり、三成と話すことも多いから。
あまり曹丕と一緒に居ることがない。
会わないとか会えないとかそういうわけじゃないが。
曹丕自体が忙しいこともあろう。
でも一緒に居なくても寂しさは薄れている。
少しずつそれに慣れてきているような気がする。

「いつもありがとう。三成さん」

「な、なんだ突然、気色悪い」

三成は顔を背けながら扇で隠す。

「ありがとうって思ったからです」

三成は扇を閉じる。
そしてそのままの頬に軽く手を触れた。

「以前ほど悩まなくなったな。できればずっとそういう顔をしていろ」

「え」

なんだか恥かしい。三成の指先がひんやりしていて少しだけ気持ちいい。

「そういう顔って・・・・」

「間抜け面だ」

「あ」

手を離し、三成はくつくつと笑いながら歩き出した。
は三成の袖を引っ張りながら続く。

「やっぱり子桓とそう言う所似てます。三成さんってー」

「あまり他の男と比べられても面白くはないのだが」

「似たもの同士なんでしょうがないですよ」

「あーはいはい」

思わず投げやりな返事しか出てこない。

「でもね、三成さん」

さらに少しだけ強く袖を引っ張られる。

「私、父様の娘で良かったと思っているの。今、大変なことになっているけど・・・・こうして三成さんとも出会えたし」

「・・・・・・」

「いつも三成さんに迷惑をかけているけど」

三成は軽く溜め息を吐く。

「別に迷惑などと思った覚えはない。何度も言わせるな、阿呆」

ほらやっぱり似ている。
思わずそう口に出しそうになるが、それは言わないほうがいいだろう。

「ただ、俺はお前の名が少し気になっただけだ。それだけだ。理由もわかったからもういい」

三成は歩みを止めない。
ただはそれに着いて行くだけだ。

は夏侯惇殿の娘なのだろう?」

「うん」

「俺はどちらかと言えば、お前のような娘で夏侯惇殿がさぞかし苦労したのだろうなと思っただけだ」

「父様に苦労なんか・・・・かけていないと思うけど・・・」

子どもの頃を思うとそうとも言えないだろう。

「ねぇ、三成さん。三成さんのご両親はどんな人?」

「さあな。のように面白話を聞かせられるような方ではないな」

しれっと答えつつも、育ての親に近い夫婦が一瞬浮かぶがすぐに隅に追いやった。

「まだ時間はあるのか?」

「うん。私は暇人だから、みんなに比べて」

「なら茶に付き合え。少し咽喉が渇いた」

「はーい。お付き合いします」

引っ張っていた袖から手を離し、は三成の隣に並び歩いた。



***



「最近三成と一緒で楽しそうだな」

「え?そう・・・かも」

曹丕と夕餉を一緒にしていた。
そんな中で突然聞かれて首を傾げるも、そうだと答えてみる。

「なんか、三成さんって子桓に似ている」

「・・・・・どこがだ」

曹丕も三成と同じような反応だ。
眉間に深い皺を刻ませて、不愉快だと顔が物語っている。

「似てるけど・・・・まあそれを三成さんに言ったら、子桓と同じ反応だったよ」

「・・・まったく」

「あ、そうだ。私ね、三成さんたちに近いみたいよ?」

「は?」

「生まれがね。そっちみたい・・・・だからって何かが変わるわけじゃないけど」

「そうか・・・・」

はこれ美味しいよ。と食べたものを褒めている。

「二つの世界が融合して、遠呂智ってわからない人種のもとにいるけど、食事は普通だよね」

「まあそうだな」

「食事が普通で良かったー・・・・じゃないと何の楽しみもないもの」

原材料がわけのわからないものでないから言えるのだろう。
作ってくれているのは普通の人だし。

「変わらないよ、子桓」

「何がだ?」

「私の父様は夏侯元譲。私はその娘。前にもそんな話したよね?」

「・・・・・・別に私は何も言っていない。だが、まあそうだな」

ここ最近の幼馴染は少々強くなったようだ。









07/12/15
19/12/29再UP