内緒の噂話。



ドリーム小説
「どういう風の吹き回しだ?」

「何がだ?」

曹丕と三成。
長い長い回廊を珍しく肩を並べて歩いていた。

「妲己に言ったことだ。お前まで疑いの目を向けられるかも知れぬというのに」

「ああ。あれか。別に深い意味はない」

「ほう」

先ほどまで曹丕は妲己に問いただされていた。
それは曹魏と同じように遠呂智に従っていた孫呉のことだ。
孫呉と言ってもごく一部なのだが、君主孫堅の長子孫策が離反したのだ。
孫呉は曹魏と違って忠誠を誓うと膝を折ったわけではなく、孫堅などを人質とし、命を保証するために遠呂智に従っていた。
遠呂智からの命令を一つ忠実のこなすごとに人質を解放していった。
解放といえども、結局は遠呂智の手下として軍に組み込まれているのだが。
それでも孫策は遠呂智の下で黙っているつもりがなかったようで。
何より、自分のやっていることに我慢がならなかったらしい。
彼の義兄弟であり、親友でもある周瑜らと共に、孫堅救出を企てた。
だが、そう簡単には救出は敵わず失敗。
孫策は一転追われる身となった。
その孫策を追う役目を彼の弟である孫権に命じかつ、曹丕にも出撃を命じたのだ。
曹丕は追うことはしたが、孫権とは違い本気ではなく、孫策を捕縛すると連れ帰るどころか逃がしてしまった。
そこを妲己に見られていたのだが、三成が機転を利かし「あれは曹丕の偽者。呉の軍師周瑜の策」だと言ったのだ。
曹丕が何を思っているのかを誰も知らない。
ほとんどの者が曹魏は遠呂智と組んでいると思われている。
だから曹操の部下だった者たちが簡単に離反していったのだ。
そんな中での三成の言動。
妲己は一先ず信用はしたようだが、三成も目をつけられる可能性は高いだろう。

「俺のことより自分の心配でもしたらいいだろう」

フッと笑う三成。

「だが、お前に何かあると馬鹿みたいにオロオロする奴がいるからな」

「・・・・だから助けたというのか?」

「さあな」

馬鹿みたいにオロオロする奴。
確かにこの話を聞けば必要以上に心配はするだろう。
話すつもりなどないが。
もう一つ。最近知った出来事。
それを話そうか少々曹丕には考える時間が欲しかった。



***



「それじゃあ、いつか胃に穴があくわよ?お肌にも悪いわよ」

「そ、そこまでは・・・・」

「考えすぎなのは良くないです。私たちはまだ戦場で発奮できますけど」

「そうよねぇ。むしゃくしゃしたら、ガー!・・・ってしちゃうわね」

獣が襲ってくるかのように両手をあげたのは孫呉の姫君孫尚香。
少々固い口調なのは徳川軍の稲姫。
各地での反乱軍との小競り合いが続く中で知り合えた人。
二人とも仕えている人が遠呂智に従っているために嫌々でもここにいる。
だがと違ってほぼ各地を転々としており、知り合えたのはつい最近だ。
曹丕が一人の娘を匿っている。と噂があり気にはしていたようで、が滞在している城に来ることができると
二人はを訊ねてきてくれた。
も遠呂智の人質だと思ったのだろう。
その割りに閉じ込められた様子もないので変だとは思ったが、から話を聞き納得はしていた。
多少は自由がありそうだが、それでも人質という意味では当てはまっているように尚香には思えた。
しかもネチネチ妲己に何か言われているらしいのを知っての先ほどの会話だ。

「楽しみなんてないでしょ?いっつも城の中じゃ」

「そうでもないよ」

「そうですか?混迷しているとはいえ、外はやはりいいものですし」

「うーん。外に出たいなとは確かに思うけど、一人じゃ無理かな。子桓が誰かに頼まないと出れそうにないし」

三國が争っていたころよりも物騒で危険がいっぱいだ。

「今度私達と一緒に出てみない?ほら、私達なら悪い奴がいてもボッコボコにできるし」

そんじょそこらの男には負ける気がないと、尚香は胸を張る。
それは稲姫も同じようだ。

「そうだね。二人が暇な時にでも」

「あ!今から行かない?・・・・ってこの時間じゃ無理ね」

「少々遅すぎるかも・・・・また今度にしましょう、尚香。それににも都合があるでしょうし」

勝手に連れ出してしまうのは問題ありと稲姫は判断したのだろう。

「そうね。あー楽しみ」

尚香は思いきり伸びをする。
彼女は最近になって兄が離反したために立場的に孫呉が悪くなり、気が滅入る思いだった。
それでも、稲姫やという同じ年頃の女の子と普通の会話ができると言うのが何よりの救いでもあり
明るくなれることでもあった。
それは稲姫も同じかもしれない。



「なんか不思議だけど、嬉しかった」

から話を聞き終えて、曹丕の眉間に皺がよった。

「なに、子桓」

「お前・・・・弓腰姫と親しくなるのはかまわんが・・・」

は目線を外す。

「敵国・・・だとか言いたいの?」

孫呉と曹魏はいずれまた戦うかもしれぬというのに。
だが、曹丕の反応は違った。

「違う。活発を通り越してお転婆にでもなりしたら、俺が小父上に合わす顔がない」

「はあ?」

「しばらく見ぬ間にがさつになった。などと小父上に言われぬようにな」

曹丕の物言いに、は肩を落とすも、すぐに反論する。

「もう!失礼だよ、子桓!」

「そう思っただけだ」

「尚香はそんな風じゃないもん。彼女の前でそんな事言ったらダメだからね!」

「善処する」

「もうー」

だが、の顔を見て安堵はする。
まだあの話は耳に入っていないようだ。
それと尚香や稲姫のおかげだろう、笑っていられる幼馴染がそこにいるのだから。

「だからね。今度二人が暇な時に、一緒にお出かけしてもいい?」

「別に構わぬが、見ても何も面白いものはないと思うぞ」

許昌の都のような華やかな場所は今は存在しない。
昼間でも薄暗い太陽の光が見えない場合もある。

「二人と一緒にってのがいいのよ」

「そうか。なら気をつけていくのだな」

「うん」

幼馴染というより、これでは保護者だなと曹丕は小さく笑った。



***



また別の日。
尚香たちはしばらくここに滞在できるようで、二人と過ごす時間が増えていた。
今日は三人でのんびりお茶をしていた。
そんな時に女の子同士ということもあり、でるのは良くある話だ。

「え?」

は好きな人っていないの?」

「しょ、尚香?なに、いきなり」

一瞬で真っ赤になるに、尚香はいいネタを振ったと意地悪い笑みを浮かべた。

「わ、私は・・・あー・・・・い、稲は?稲は好きな人っていないの?」

変わりに稲姫に話を振る。

「そういえば、稲からはそんな話も聞いたことないわねぇ〜どう?」

「わ、私は別に今はそのようなことを考える時では」

優等生な返事にそれでは面白くないと尚香は言う。

「おも、面白くないと言われても・・・・そういう尚香はどうなのよ」

言いだしっぺに話を振る。
尚香はなれた感じでいないと言う。ならば自分達にも聞くなと言いたいが話は終わらない。

「じゃあなんでそんなこと聞くのよ」

「それがさ。の周りって結構男の人大勢いるし、あの中に本命がいるのかなー?って」

「お、大勢って。別にあの人たちは」

本命といわれて馬鹿みたいに反応してしまう
確かにいるといえばいる。
だが知られてはならない。冷静になれと心を落ち着けさせる。

「皆、孟徳様に仕える人で、父様のお友だちでもあるし・・・・」

「まあそうなんだけど〜・・・・ほら、張遼殿とか徐晃殿とかどうなの?」

「遼様も徐晃様もお優しいけど、小さい頃からお世話になっているし・・・・」

「あ。遼様だって〜そこだけ呼び方違うじゃない」

「え、だって。張姓の方他にもいるし・・・・さっきも言ったけど子供のころから良くしてもらったから」

「それだけ?それだけ?」

「尚香楽しそうね・・・」

稲姫は呆れてしまう。
だが下手に突っ込むと自分が餌食になりそうで怖いので稲姫は黙っている。

「大勢の男の人っていうなら。尚香も稲も同じじゃない」

「まあねぇ。でも私は好きな人いないし」

「尚香ずるいわよ、それ・・・・」

「あら。じゃあ稲は?」

ウッと返答に詰まるも稲も同じだと答える。

「だいたいね、私の場合、父様や兄様たちを見て育っているから。基準が高いのよね〜」

孫堅・孫策・孫権。
それに孫策と義兄弟の周瑜。彼は美周郎と謳われる御仁だ。

「わ、私もそうかも・・・・」

興味なさそうな話題でも稲がそこに乗ってきた。

「父上のような殿方じゃないとという思いはあるかも・・・」

「稲の父様って確か本多忠勝殿で、すごく強い人なんでしょ?」

「ええ」

今は一緒にいないが、稲の父もどこかで戦っているようだ。
ただし、反乱軍のような存在で。
当初稲姫は主君徳川家康と共にいたが、家康も孫策と共に離反してしまった。
自分も従うことはできたのだが、尚香と共にいることを望み今一緒にいるのだ。

「私も父様みたいな人だったらいいかなぁ・・・・」

もぼそっと呟いてみる。
その呟きに尚香と稲姫は顔を見合わせる。

の父様って・・・確か曹操の片腕って言われた夏侯惇殿よね?」

「うん。尚香たちから見たら怖い人かもしれないけど、私にとっては素敵な父様よ」

「それはも同じでしょうが」

何より、孫呉にしてみれば怖いのは夏侯惇より張遼だろう。
孫呉の民の間で張遼の名を出せば泣く子も黙るとさえ言われるのだ。

「父様、今どうしているのかな・・・」

もうどのくらい会っていないだろうか?
理由はどうであれ置いていかれたのはとても寂しいことだ。
だが置いていかれたからこそ、こうやって二人と出会う事になったのも皮肉なことだ。

、知らないの?」

「なにを?」

尚香はもう一度稲姫と顔をあわせる。

「尚香?稲?」

言いづらそうにしている尚香。
はっきりモノを言う彼女にしては珍しい。
ややあって、尚香が口を開いた。

「・・・・・夏侯惇殿・・・・反乱軍にいるようよ・・・・」

「え」

の目が大きく見開き揺らいだ。

「父様が・・・・反乱軍に?・・・・・・」

こんな世の中だ。
こういう言い方はおかしいだろうが、理由が父と仲間を人質に捕られさえいなければ尚香も反遠呂智を掲げていただろう。
夏侯惇が反乱軍にいても尚香自身はさほど驚きはしないが。
娘であるにしてみれば衝撃的なのだろう。
しかも、夏侯惇と一緒に去った夏侯淵もそばにいるのだという。

・・・あの」

知らなかったということは、言っては良くないことだったのだろう。
二人は後悔の念にかられる。
卓子の下で、膝の上に置いた手をはギュッと握るも笑顔で返した。

「しょうがないよね・・・・・こんな世の中だし・・・・」

、ごめんね!私」

「いいよ。尚香のせいじゃないよ。父様も何か考えがあってのことだろうし」

どちらが良いのだろうか?
遠呂智の人質になっている孫堅と反遠呂智の夏侯惇。
だが、が決めてしまえば曹丕の元を離れて父親の元へ向かう事はできる。
今の尚香は父の顔すら見ることができないのだ。
だが、の最初の反応を見る限りでは、夏侯惇が反乱軍にいることを想像していなかったらしい。
上手く言葉がかけれない二人。
どうしようかと迷う。
でなんでもない振りをしている。
そう「振り」だと尚香たちから見てすぐわかる。

「孫呉の姫君。を借りてもよろしいか?」

そこに割って入る男の声。
三人ともその声の主の方へ顔を向ける。

「石田、三成殿・・・」

稲姫がいち早く反応した。

「久しいな、稲姫。お変わりなくお過ごしか?」

「は、はい。三成殿もお変わりなく・・・」

元々同じ場所にいた二人。互いの事は知っている。

「三成殿、を借りるとは?」

「少し用がありまして・・・・曹丕がを探しています・・・・姫君たちとの時間を邪魔してしまい申し訳ない」

尚香は別にいいのよ。と両手を振る。

「では少々お借りします」

に行くぞと促す。

「ええ。。またお茶しましょう」

「う、うん。ごめんね、二人とも」

三成は背を向けてさっさと歩き出す。それをが慌てて追いかけた。

「・・・・びっくりした・・・・」

「ええ。に悪いことしちゃったわね・・・」

「うん」

尚香は視線を落とすも、すぐさま往来の明るさを取り戻す。

「でも。大穴出現?」

先ほどの好きな人の話を持ち出す尚香。大穴とは三成のことを言っているのだろう。

「尚香・・・・もう・・・」

「ね、ね。石田三成殿ってどんな人?稲は知り合いのようだし聴かせてよ」

そして次にと会った時に問いただす気満々なのだろうなと稲姫は容易に予想でき溜め息が漏れた。



三成に連れて行かれ、向かった場所には曹丕の姿などなかった。

「三成さん?子桓が探しているって・・・・」

「ああ。あれは嘘だ」

「嘘?なんで?」

あっさり嘘といいは面食らう。

「父親が反乱軍にいると知って、お前の反応があまりにも馬鹿馬鹿しいと思ったからな」

何も言えなかった。
三成はたまたま通りかかり三人の会話が耳に入った。
夏侯惇が反乱軍にいることなど、三成も情報としてすでに持っていた。
だが曹丕が何もに黙っているようなので、自分が口出す必要はないと思っていた。
いや、曹丕だけじゃない。そこそこ曹魏の武将たちは知っていたようだが。
に甘いのか誰もに告げようとしなかった。

「保護者面した者たちばかりで笑いがでるな」

甘やかしすぎだと三成は呆れてはいたが。

「だが、もっと呆れたのはお前の態度だな。どこかの阿呆を思い出した」

「・・・・?」

は意味がわからないと首を傾げる。

「別にそんなことはどうでもいい。だがなぜなんでもない顔をする」

「なぜって言われても・・・・」

「別に泣いてもいいのだぞ?姫君たちにもわかるくらい動揺していたのがすぐにわかった」

かえって二人に心配させてしまった。

「泣くなんて・・・」

泣いた所で何も変わらないだろうに。

「お前はなんでも我慢しすぎる。益々あの阿呆にそっくりで嫌気がさす」

「な、なんで。三成さんそんなこというの・・・・別に誰にも迷惑をかけているわけじゃないし」

いつも以上にキツイ言葉が飛んできて少々気落ちしてくる。

「俺は前にも言った。こんな場所では気分を晴らしておかねばやっていけないと。
お前にとってあの二人はそういうのではいい相手ではないか。愚痴でも泣き言でもなんでも言って何が悪い」

友だちだから我慢される事のほうが辛いかもしれない。
格好悪い所を見せてもいいじゃないか。
三成はそう言いたいのかもしれない。

「二人に言いづらいのであれば、今からでも遅くない。曹丕にそれをぶつけてみろ」

の目は揺らぐ。

「子桓に・・・・」

「あれも馬鹿みたいにお前に隠しておくから悪いのだ」

「子桓・・・父様のこと知って?」

「姫君たちが知っているくらいだ当然だろう。俺も知ってはいたがな・・・怒るか?」

別にそれでもいい。それをちゃんと受け止める気は三成にはある。
だがは首を横に振る。

「また、お前は・・・・」

「違う。子桓、私のことを思って黙っていてくれたんでしょ?だったらいいよ。それに三成さんも」

知っていたのに、黙っていた。

「人が良すぎると損をするぞ」

「こんなの損に入らないよ」

それに尚香たちの口ぶりでは、父と曹丕が戦っている感じがしなかった。

「この先、戦うかもしれんぞ」

「・・・かも、しれないね。でも私にはどうにもできないよ・・・・」

確かになんも力を持たない彼女では何もできないだろう。

「でも・・・・・父様・・・・・・」

の目から涙が零れる。

「ご無事でよかった」

先のことはわからないが。どこで何をしているのか知ることがなかったので。
何をしているのか聞けただけでもは嬉しかった。

「お前は本当に人が良すぎる」

ぐいっとの肩を引き寄せ、自分の胸に押し付けた。

「前にも言った。暇な時は話を聴いてやる・・・・お前を裏切る真似もせんと・・・・」

は嬉しさと共に、確かに不安や愚痴もあった。
これから父と曹丕が戦うことにでもなったらという事。
曹操を探すといい去ってしまった父が反乱軍に身を置いていると言うこと。
なぜ、いまだに迎えに来てくれないのだろうか?
反乱軍にいれば多少は先のことが予想つくのに。
父は遠呂智を倒そうとしている所にいるのだ。娘をその遠呂智の膝元に置いておくなんて。

「うぅ・・・・父様・・・・・い、一緒に連れて行って欲しかったのに・・・・父様の馬鹿・・・・」

・・・・好きなだけ泣け。そして、やっぱり曹丕にこのことをぶつけろ。その方がすっきりする」

そして尚香たちにも

「三成さん・・・・・ありがとう」

「別に、俺は・・・・・」

少し吐き捨てるように言う三成だったが、にはその声に不思議と安心できた。
三成といると曹丕とは違う安心感がある。
三成がいてくれたから、こんな場所でもやっていけるのかもしれない。

「・・・・あとで、子桓に文句言いに行くね」

「そうしろ」

文句と言うより父親のことを教えてくれなかったことを「ずるい」と言ってやるのだ。

「だから、三成さん。着いて来てくれると嬉しいんですけど・・・・」

「・・・・・ああ。一緒にいってやる」

なぜ、俺が?と三成は思ったが。
に問い詰められた曹丕の姿を見るのも面白いと思い了承した。








07/11/26
19/12/28再UP