内緒の約束。




ドリーム小説
三成がから聞かされた話は幼い頃から一緒にいた曹丕のことで。
幼馴染で、曹丕はのことを妹のように接していた。
実際、曹丕には血の繋がった妹がいたのだが、彼女たちよりも曹丕はによくしてくれたらしい。
一緒にいれば兄妹のようだな。といわれ思われることも多々あった。
だが実際には曹丕を兄とは見ていなかった。
はっきりとそれを口にできぬまま、曹丕は美しい奥方を迎えてしまった。

曹丕は結婚後も変わらずを大事にしてくれる。
三成など、表舞台での曹丕しかしらない人が見たら驚くだろう。
そして現在、父夏侯惇がを置いて去ってしまった為に
夏侯惇から頼まれていたこともあり、曹丕がを保護している。

いつまで経っても、いや、これからもずっと妹として見られるならば。
自分も何もいえないのならば、せめて曹丕に甘えるのはやめよう。
そう思っていた。

・・・そうだ。

「三成さん。誰にも内緒よ?」

「そんな話他の奴らが聞いても困るだろう。別に最初から言うつもりなどない」

元々人の噂話など興味もない。
は少し気分が晴れたのか話す前よりはいい表情をしていた。
単に心細かったのかもしれない。





これがきっかけなのか、以降は三成を見ると話しかけるようになっていた。





「暇そうだな。曹丕がいなくてつまらんか?」

欄干で頬杖をついていたに三成が声をかけた。
はニコッと笑う。

「別に。つまらないなんてことないですよ。だって三成さんが声をかけてくれたし」

一人でいると妲己にちょっかいを出されることもあるが、三成と一緒だとそうでもない。
三成の方が妲己よりも頭も口も回る。

「そうか。だが残念だな。俺はこれから出陣せねばならん」

「え・・・三成さんも?」

ふっと揺らぐの双眸。

「ああ。妲己に命じられた。曹丕の援軍だそうだ」

「それじゃあ、やっぱりつまらないかも」

は微苦笑する。

「そんなに懐かれるとは思わなかったな」

「そうですか?私人見知りしないんで」

三成は腕を組みを上から見下ろす。
普通ならば嫌な感じを受けるのだが別に値踏みをされているようではないのでそう気にならない。
が、少々恥かしい。

「三成さん?」

「まあそうだろうな。と思ってな」

くくっと声を漏らし笑う三成。
今度はそれをが凝視してしまう。
その視線に気づき、なんだと眉を歪めた。

「三成さんも一緒だなって思って」

「・・・・一応聴くが、誰とだ?」

「子桓。子桓も人前じゃあまり表情を崩さないから。
昔からね、子桓が気を許すのって私とか、父様の前でくらいかな・・・・孟徳様の前でも表情崩さないから」

三成には聴く前からわかっていた答え。

「でも、今は甄姉さまがいるから・・・ね」

は寂しそうに笑う。
三成は小さく息を吐き持っていた扇での額を軽く叩いた。

「!?」

パチンといい音がしたが、は何事かと叩かれた額に触れ目を丸くしている。

「気を許す人間がいるだけマシではないのか?暗くなる必要はない、鬱陶しい」

「・・・・鬱陶しいは余計です」

「そうか?実際鬱陶しいと思ったのでな」

フッと笑みを浮かべて三成は歩き出した。
は慌てて三成を追いかけた。





「あなた最近三成さんと仲がいいわねえ」

「!?」

背後から妲己に声をかけられ驚きのあまり肩をビクつかせてしまった。
恐る恐る振り返ると妲己が面白そうなネタを見つけたといわんばかりに笑っている。

「あ、あの・・・」

「曹丕さんから乗り換えたのかしら?」

「の、乗り換えるとか以前の問題で」

妲己はくるりとの周りを歩く。
一歩、二歩進んでの顔をのぞきこんだ。

「あまり仲良くなっちゃうと後がキツイかもしれないわよ?」

「え」

ニヤッと笑う妲己。

「だって、三成さんは曹丕さんの監視役でもあるし」

「だから、子桓と一緒に?」

思わず聞き返してしまった。
妲己の言う事など気にするなと三成には言われていたが、つい・・・。

「そうよ。遠呂智様に対しても偉そうな態度をとる曹丕さんだから。一応見張っておかないと〜」

「でも、私は軍のことはよくわからないですし・・・」

「三成さんに裏切られたら嫌でしょ?一応親切で言っているのよ、私は」

優しいのよ、私は。などという妲己の顔がいまいち信用できない。
でも妲己はどちらでもいいのだろう。
彼女がどこまで本当のことを言っているのか、すべて本当なのか、またはその逆で全て嘘なのか。
がどう判断するのかを楽しんでいるようだったから。

ただ、言えるのは一つだけ。
もし三成が曹丕を、曹丕が三成を裏切ることになった場合。
自分は曹丕を選ぶのだろうなと思った。

仲良くなりはしたが、いざという時、曹丕から離れることはできないと感じたから。





「あの人が言っていたけど、子桓に監視をつけたって」

何度目かの反乱軍討伐。
曹丕は一応その任はこなしているようだ。
帰還した曹丕にはそう訊ねてみた。

「・・・三成のことか?そうらしいな。私に監視をつけるより向こうにつけた方がいいと思うがな」

最初から三成と行動させる意味を曹丕はわかっていたらしい。

「そうなんだ・・・・」

「それがどうかしたか?」

「ううん。別に」

ただ表情が暗い幼馴染を見て曹丕は溜め息をついた。

「言いたいことがあるならはっきり言え。別にかまわん」

「え・・・言いたいことっていうか。えと・・・これから先どうなるのかなって」

曹丕は小さく笑っての鼻を軽くつまんだ。

「お前が気にする必要はない。大丈夫だ」

「痛いよ、子桓」

「あの女に何を言われたのかは知らぬが、あまり気にするな」

手を離す曹丕。

「うん」

甘えるのをやめよう。そう思っていても結局こうして曹丕に甘えている。
情けない自分に自嘲してしまう。

?」

「ううん。ただね、父様は今どこにいるのかなって・・・・」

「さあな。反乱軍の中にはいないようだが」

曹丕が命じられて討伐に向かった反乱軍の中には今の所元魏将はいない。
夏侯惇の噂も入ってこない。
もちろん父曹操のことも。
死んだといわれているが、その亡骸を直接見たわけではない。
どことなく曹丕自身もあの父がそう簡単にくたばるわけがないと思っている。
でも、今はあえて父を亡くしたことにしておいた方が何かと都合がいい。

「早く、会いたいな・・・・父様に」

「そうか」





「俺の顔に何かついているのか?」

妲己からの「監視役」のことを聴いて以来初めて三成と会った。
監視役。というのが頭から離れずに気づいたら三成を凝視していたらしい。

「え、えと目」

「目と鼻と口。などとわかりきったことは言うなよ」

言おうと思っていたことを先に言われては返答につまる。

「どうせ、また妲己になにか言われたのだろう。わかりやすいな、お前は」

「そ、そんなこと」

「あるだろ」

回廊の欄干に背を預けて話す。
三成とはそんな感じが多い。
ばったり出会って、暇なら話を。そんな光景。

「本当に趣味の悪い女だな、あれは」

自分も性格がいいわけではないが、周囲にあんな人はいなかったと思ってしまう。
いや、妲己が人であるかは微妙だ。

(そんな名前の女狐がいたな・・・・)

扇をパチンと掌に打つ。

「くだらないことは考えるだけ無駄だ」

「く、くだらないかどうかはわからないじゃないですか・・・・私には悩みにしてしまうことですし」

「ほう。悩みか」

言おうかどうか少しだけ考えるが、三成の顔が「言え」と物語っている。
それに案外話してしまった方がスッキリするかもしれない。
思い切っては妲己に言われた「監視役」のことを三成に話した。
最後まで黙って聴いていた三成は、溜め息を漏らした。

「三成さん?」

「やはりくだらないな」

きっぱり切り捨てる。

「裏切るとか監視とか言ってはいるが、心底遠呂智に忠誠を誓っている奴ら等ほぼいないだろう。
稀にそういう奴がいるようだが、俺も曹丕も違うな・・・・・」

「でも。もし、子桓が遠呂智軍から離反したら・・・三成さんは」

「ああ、妲己に命じられれば追撃にでるかもしれんな。だがわからん」

三成自身が遠呂智に忠誠を誓ったわけでもない。
三成が遠呂智軍にいるのは特に理由はない。三成が慕ったあの人のいう「笑って暮らせる世」の為というのが
三成が成したいと思っていることだ。
先日反乱軍の城を攻めた際に、その人と再会したが、飽く迄も遠呂智軍石田三成を貫き通した。
だが遠呂智がその世の中を創れるはずはないとわかっている。

そう、機会だ。
遠呂智に噛み付くための機会を伺っているだけなのだ。

「お前がそこまで俺の心配をしてくれるとはな」

「え、あ!・・・・そ、それは」

「幼馴染が聴けば妬いてしまうのではないか?」

「別に子桓は・・・・」

の頬は少しだけ赤く染まり、三成は小さく笑う。
自分でも可笑しなことを口にしたものだと三成も思うが、さらに驚く言葉を吐いてしまった。

「だが、約束しよう。この先のことはわからぬが、お前を裏切る真似はしないと」

「・・・・私と?」

「ああ。色々話も聴いてしまった手前もあるしな」

「あ、あれは〜・・・・三成さんが聴いてくれるっていうから」

恥かしい。
でも一緒にいるのは悪くない。
自分の好きな人は別の人なのに、三成にそんな話をしてしまうことに。

「じゃあ三成さん、指きりしよう」

「指きり?」

は小指を三成の前に出す。
三成だって指きりの意味は知っている。だがやったことなどない。
子ども時代にもそんなことをやった記憶はない。

「知らないの?指きり」

「知っているが・・・だが、お前が知っていることが驚きだな」

は少しだけ目を伏せるがすぐに笑った。

「忘れなかったからかな」

「?」

なんのことだと三成は問うがは答えない。
それよりも三成も小指を出してとは急かす。
仕方なく三成は小指を出す。渋々と。
こんな所他の奴らに見られたくないが。
小指と小指を絡めては歌いだす。

「ゆーびきりげんまん。嘘ついたら針千本のーーます。指きった!」

楽しそうに歌い上げたが、指は切れなかった。

「・・・・三成さん、指・・・」

「初めてだぞ、俺が指きりするなど」

三成は誰にも見られたくないと思っていてもその小指を離す事はしなかった。

「そうなんだ。私はよくやったよ。お母さんとか、父様とも子桓とも」

小さい頃の話だだ。
だが曹丕もやった指きりというのがなんとなく想像がつかない。
どんな顔をしてあの男がやったのだろうか?
三成には幼い頃も仏頂面だったのだろうと想像してしまうくらいだ。

「でも、久しぶりかな。指きり」

えへへと笑う

「小指と小指は大事なものが繋がっているらしいな」

自分も聴いた話だ。

「そうなの?」

「人と人が結ぶ大事なものだ」

「へえ。じゃあ私と三成さんも何かで繋がったんだ」

「・・・・さあ。それはどうだかな」

三成はクッと小さく笑った。
子どもじみたことだが、悪くない。そう思った。









07/06/29
19/12/28再UP