拈華微笑



ドリーム小説
「馬鹿か貴様は・・・・」

怒ったような、呆れているような、そんな二つの表情が入り混じった三成がいる。

「馬鹿って言われても・・・」

としてはなぜそう言われたのかがわからない。

「馬鹿は馬鹿だろう」

「えー」

突然の馬鹿発言に、は不満を上げる。

「いや、この場合。貴様らは馬鹿か。ということだな」

秀吉の天下に戻り執務量は増えたり減ったりの毎日の三成。
いつものように三成の着替えを手伝った後に、三成からの馬鹿発言だ。

「貴様らって・・・複数形って誰と誰?」

「お前と幸村だ」

「えー」

二人一緒に馬鹿にされる覚えはないのだが?
わからないという顔のに三成は溜め息が出る。
深く深く溜め息をつき、どっかりその場へ腰を下ろす。

「三成さん、お茶飲みます?」

「あぁ。貰おうか・・・・」

テキパキとお茶を用意するを横目に、文机に片肘をつく三成。

(呆れてものも言えんわ・・・・)

いつもと変わりのないの態度に。
そう、いつもと変わりのないのが三成には腹がたったのだ。





【23】





先日、は幸村に告白をし、それが幸村に届いたと聞いた。
長いことずっと互いに色々あっただけに、良かったなと単純に思える。
甲斐で生活していた頃の二人の様子などは三成は知らない。
ただ左近を交えて話している姿に、あぁなんとなくこんな感じなのだろうなと想像してしまう。
そこに信玄公がいるのが普段だったのかもしれない。

良かったなぁと思ったと同時に、これでとの生活も終わりだろうと思っていた。
がいつまでも自分のそばにいる理由がない。
早々に幸村の邸宅にでも移るだろうと。
だが、過ぎても過ぎてもコレと言ってそんな話がでないのだ。
だからに聞いてみた。
幸村とあれからどうなのだ?・・・と。
すると帰ってきた答えが。

「ん?別にコレと言って何も変わりはないよ?」

だったから、三成は呆れてものが言えないのだ。

(幸村の奴も、何をのんびりしているのだ。に何か不満でもあるのか?)

気分は花嫁の父だ。
うちの娘に何の不満があるのだ?
ないのならば、さっさと貰ってくれ!・・・とな。

思えばとも不思議な付き合いだ。
秀吉が連れて来た後天的な考えの持ち主で、少々苛つくこともあった。
だが元々が根が良い子で人との付き合いは自分と違って好きな方なのだろう。
自然と秀吉たちと打ち解けていった。
三成も気づけばの相手をしていることが多かったし。
誰からも可愛がられている子が、実は心に深い傷を負っていた。
それを知っている人物に出会うと逃げ出してしまうくらいに。
だが今はそれすらも乗り越えた。
そしてずっと想っていた相手に想いが通じたのだ、何を躊躇する必要があると言うのだ。

「三成さん。さっきの話・・・・」

「話?・・・・それがどうした」

「意味がわかんないから、教えてよ」

「さて、どうするか。教えた所で何が変わるものでもあるまい。まして幸村とお前とではな」

小馬鹿にされたような気がする。
は唇を尖らせる。
あぁ、そのうち。こんなやり取りも間近ですることもなくなるのだろう。
寂しいといえば、寂しいのかもしれない。
とは違い、人付き合いの苦手な三成だから、には結構心を許していただけに。
今は父親的な。兄的な気持ちで心を開いているが、いつか自分にも現れるだろうか?
心から愛するような、心開ける存在に・・・。

ただ、馬鹿だなと思ったことに関し、ではなく。幸村に話すことにはなった。

「は、はぁ・・・・」

三成の前で恐縮し正座している幸村。
これでは確かに娘の交際を反対している父のように見えなくもない。
ちなみにここは三成の邸宅ではなく、秀吉の城の一室。
三成が仕事で使用している室だ。
三成の下へ顔を出した幸村に、つい強めの口調でそこに座れと命じ、と同じように馬鹿かと言い出して。

「ば、馬鹿と言われましても・・・・・」

「俺はてっきり、お前がを引き取る、そばに置くと思ったのだが?」

「あ、あぁーその・・・・焦る必要はないと・・・思いまして」

三成は眉間に皺を寄せた。

「逆じゃないのか?今までが今までだから・・・その、なんだ・・・・そばに置いた方が安心ではないのか?」

秀吉の天下が続くと思われたときに、突然の逝去。
豊臣の天下から乗っ取ろうとした不忠者の出現。
まさに半年の間に起きた出来事だ。
策として秀吉が健在していたわけだが、実際どうなるのかはわからない。
このまま豊臣の天下が続くとは、いまだに言い切れない気はするのだ。
勿論、三成としてはそうなるように努力は怠らないつもりだ。

「色々ありすぎたからでしょうか・・・そう焦らずゆっくりと進められたらいいなと思いまして」

は許してくれたが、幸村がを傷つけたことには変わりはない。
だから、幸村なりに大事にしたいのだ。

「そうしているうちに、が別の男に盗られでもしたらどうする」

「そ、それは・・・・・殿が・・・・その方を選ばれたのならば、っ!?」

三成は手にしていた扇で幸村の額を軽く叩いた。

「あれがそう簡単に別の男に乗り換えると思うのか?それはあいつに失礼だぞ」

「す、すみません」

幸村は頭を軽く掻く。
とは言うものの、それでも自信がないのだろう幸村は。
幸村らしいと言えば、そうなのだが。

「まぁいい。周囲がとやかく言うことでもないだろうしな」

殿が心配なのですよね?三成殿は」

「心配などしておらん」

ツンと顔を背ける三成に幸村は柔らかく笑った。



***



「やはり、のいい人は幸村殿であったか」

「ガラちゃん・・・それは・・・・」

苦笑交じりの
あまり会う事のできない友達、ガラシャに会う事ができた。
孫市をのもとへ送り出してくれたのはガラシャだったから。
その時のお礼を改めて言いたかったのだ。
あとは行方をくらましていた孫市への愚痴を少々。

「良いのではないか?幸村殿はとても素晴らしいお方だ。が好きになるのもわかる」

「そう張り上げて言われると恥かしいものがあるんですけど?」

そして改めて、二人と出会う前のこと、甲斐でのことを話したのだ。

「あの時、二人に出会えて良かった。人を嫌いになりかけていたけど、でもどうしても嫌いになれなくて。
ひとりで居たくても、ひとりになりたくなくて・・・・でも、黙っててごめんね」

が謝ることはない。わらわもには内緒にしていたことがあったから・・・・お互い様じゃ」

ニコリと笑いかけてくれるガラシャ。

「できれば・・・・また孫とと3人で旅をしてみたいと思うが・・・」

「そうだね・・・・無理かなぁ。孫ちゃんはひとりで気楽にどっか行っちゃったみたいだけど」

「ずるいのだ。孫は」

「今度帰ってきたときに、うんと文句を言ってやろうね」

お互い所在は明らかになっている。
孫市が隠れ暮らす必要もないのだ。
気さくに会いに来てくれるだろうと思って・・・。



細川家の屋敷を出たあと、が向かったのは利家のいる前田家の屋敷だった。

「なんか忙しいそうだな、

「忙しくはないですよ?楽しいことではありますけど」

ようやく落ち着いてきたことで、色んな人たちに会いに行っているのだ。
そうかと利家は笑う。

「利家様にも沢山お世話になりました」

「よせよー。俺はなんもしちゃいねぇし、なんかのその言い方だとどっか行っちまうみたいじゃないか」

「あ。そうか・・・・あはは、別にどこにも行きませんよ、私は」

「なら、いいんだけどよ」

利家はに向かって何かを放り投げた。
が受け取ったそれは蜜柑だ。

「甘くて美味いぞぉ。少しだけだが持って帰んな」

は素直に礼を言う。

「なんかいつも思います。利家様には餌付けされているみたいで」

「そうか?だけど、餌付けも失敗だろ?は幸村に夢中なんだから」

「と、利家様!」

「はははははっ。今度は幸村と一緒に遊びに来い。また美味いもの用意しておくからさ」

幸村だけではない、三成や他の皆も連れて行きたいところだ。



ある場所へ向かう途中で阿国と会った。

「あら、ちゃん。今日はひとりなん?幸村様はご一緒じゃないの?」

「なんか・・・・皆さん私が一人だと可笑しいんですか?」

常に「幸村は?」と聞かれてしまう。
その度にどう反応をすればいいのか一瞬戸惑う。
反応も何も、いないならいないで済むことだと後で気付かされる。
阿国はコロコロと笑う。

「そういうわけやないんやけど」

「もう〜あ、先日の阿国さんの舞、とても綺麗でしたよ」

幸村に告白した日だ。
泣いてしまった顔ではあったが、時間を置いて改めて幸村と観に行った。
勝手な想像ではあるが、阿国の舞が見事で、なんとなく二人の仲を祝福してくれているように感じてしまった。

「あらぁ。ありがと。観てくれたん?」

「阿国さんの周りはいっぱい人が居たから声をかけられなかったけど」

「そんな遠慮なんかせんで、声かけてくれたらええのに」

「次はそうしますね」

阿国にこの後の予定を聴くと、しばらくは見世物小屋で舞を披露することになり、その打ち合わせに行くそうだ。
も行く所があるからと、阿国とそこで別れた。



「あ。嬢ちゃん!ちょうど良かった」

左近が呼び止めた。
左近は懐から料紙を取り出しに渡す。

「別に邸で渡しても良かったんだが、早い方がいいと思ってね」

「ありがとうございます、左近さん」

「だが、どうしたんだい?急に・・・・そこへ行きたがるなんて・・・・」

料紙にはある場所への住所のようなものが書かれている。
京からはかなり距離のある場所だ。
左近ならば知っているだろうと思って頼んでみたのだ。

「一度・・・・ちゃんと行きたいなって思って・・・・今までずっと考えないでいたし、怖がっていたから」

そこへ行くことを。
だが、今なら行ける。
周囲の目が気にならないと言えば嘘になるが、ひとりじゃないから。

「まぁ。嬢ちゃんが不安になるほどでもないさ。のん気なものだよ」

心配しなさんなと左近は、その大きな手での肩をポンと軽く叩いた。

「ありがとう、左近さん。まだ行くのは先の話だろうけどね」

「そうだなぁ。行くなら今時期か、冬を越した方がいいか」

「桜の咲く時期とかいいですよね〜」

「ははは。その頃に行ってのんびり花見をするのもいいんじゃないのかい?」

あくまで予定であり、実際はどうなるのかはわからないのだが。

「じゃあ。俺はここで。殿の使いで行く場所があるんだ。また後でな」

「はーい。お気をつけて」

左近と別れても歩き出した。



***



はとある神社へ来ていた。
薄情な話、以前一度来たきりで以降まったく訪れることのなかった場所だ。
だが、情勢が情勢だっただけに仕方あるまい。
は賽銭箱に小銭を放り投げる。
手を合わせる。

(ありがとうございました。ご利益があったのかなって思います)

そう。が来たのは以前訪れた縁結び神社だ。
阿国に下のお茶屋がお勧めだと言われたものの、ついでに縁結び神社に行くと良いとまで言われて。
幸村とお茶屋までは行ったが、神社にはひとりで足を運んだ。
そこで願ったこと。

「幸村さんと一緒に居られますように」

別に恋愛成就を願ったわけではない。
今までのことがあったから、焦る気持ちはないし、一緒に居られるだけで充分だと思ったのだ。
それでも、幸村には想いが通じたわけだし。
ここでのご利益があったのかな?と思ったのだ。
それで改めて御礼を言いに来た。

「おや。お嬢さんは」

縁結びの占いの石を教えてくれた、神社の宮司だ。
どうやらのことは覚えていたようだ。

「こんにちは」

神社へ来て、今日はどうしたのですか?って聞くのは可笑しな話かなと思いながらも。
宮司は笑顔でに尋ねた。
は軽く照れ笑いをする。
その態度でなんとなく察したのだろう、宮司は微笑む。

「と、とりあえず。ありがとうございました」

宮司のお蔭ではないのだろうが、思わず頭を下げてしまう

「いやいや。私は何も」

良かったですね。ただ一言宮司は言ってくれた。
はまだ照れがあるものの、笑って頷くだった。

殿!」

「幸村さん」

幸村がやってきた。
あぁあの時の青年かと宮司は頷く。
そして邪魔をしては悪いと思ったのか、宮司は会釈したのち立ち去った。

「どうして、ここにいるってわかったんですか?」

「行く先々で殿が向かった方角を教えられて・・・辿っていくと、ここだろうかと」

途中途中で見知った人たちに会い、はあっちの方へ向かったよ。
などと言われた。
元々に会いに行こうと思っていただけに、ちょっとした冒険のような気がして楽しかったそうだ。

「前にも来た神社ですよね」

「そう。ちょっとお礼をしに」

「お礼?」

は内緒にしようか迷うも、すぐさまあっさり打ち明けた。

「ここ縁結び神社なんですって。前に来た時、恥かしくてひとりで行ったんですよ」

「え、縁結び・・・・そ、それは」

「ご利益があったみたいなんで」

幸村の顔が瞬時に赤くなるのがわかる。
が願ったのは自分とのことだろうから。

「そ、それは良かった、ですね」

「はい。良かったです」

占いの石も目を開けたとき、石ではなく幸村が居たことには驚いたものだ。
神社を後にし二人は何か食べようかと店を探す。
歩きながら、今日ここへ来るまでの話を幸村に聞かせた。

「それで、左近さんに調べてというか教えてもらって。地図まで用意してくれたんですよ」

「そうでしたか・・・・・私も、一度も訪ねていませんから・・・・」

「春がいいかな?桜の咲く頃とか」

「えぇ。いいのではないでしょうか・・・・綺麗に咲いているでしょうし」

「のんびり花見でもしておいでって左近さんが」

「左近殿らしい」

が行こうと計画している場所。
もちろん幸村と一緒にだ。
そこは甲斐。信玄公の墓参りに行こうと言うのだ。
甲斐から逃げ出して以来一度も戻った事のない場所。
孫市たちや、三成たちと出会わなければ一生行こうとも思わなかったかもしれない。
一時は嫌な思いで包まれはしたが、信玄と過ごした時間はにとって良き思い出となっている。
幸村とも和解し、それ以上に想いが通じた。
だから、今。
信玄に会いに行こうと決めたのだ。
幸村と・・・・。

「喜んでくれるといいな。御館様」

「喜んでくれると思いますよ、きっと」

「幸村さんも一緒だからだろうね」

「そうでしょうか?」

「そうですよー」

ふと以前信玄と話したことが思い出される。

「・・・・御館様。前に私に、幸村さんにひよくのような存在がいればいいなって・・・」

幸村と。二人一緒でちょうどいいと言うような物言いだった。
二人が「ひよく」のような存在になればと。

「比翼・・・・」

幸村の顔が赤くなる。
幸村は比翼が何かを知っているようだ。
はなんなのかを問う。

「比翼とは想像上の鳥です。雌雄が常に一体になって飛ぶと言われ・・・仲睦まじいという」

「あ。そういう意味なんだ」

なんだか互いに気恥ずかしい。
信玄が自分たちをそう見ていたとは思わなかった。
なんとなく会話していたことをは今更ながらに恥かしく思う。
だけど。

「御館様の・・・・願った通りになれますかね?私たち」

「なれます。きっと」

きっと、なれている。とも思いたい。

「じゃあ。今度、御館様にそういう姿見せてあげられますね」

「はい」

向こうから語りかけられることはないのだが。
それでも、喜んでくれる。
きっとそんな姿を二人は思い浮かべてしまうだろう。






終わり

09/04/24
19/12/28再UP