鐘冴えゆ




ドリーム小説
今年も色んなことがありました。
来年はどんな年になるのだろうか?





「んー・・・・こんな感じでいいのかな?」

台所でじっと何かと睨めっこしている

「・・・・どちらかといえば・・・関東風かな?でもここじゃ関係なさそうだけど」

田作り、数の子、黒豆、栗きんとん。
かまぼこ、伊達巻、昆布巻き、紅白なます、海老の焼き物、牛蒡、蓮根、里芋。
それらをつめてある重箱。

「あとは、お雑煮の準備もしてあるし、お屠蘇もあるし、こんなものなか?」

そう。は御節の準備をしていたのだ。
正月には台所で火を使わないという昔からの習慣の為に御節料理は用意されるという。
女性を休ませるという意味もあるらしいが、火の神を怒らせないというのが昔からの理由らしい。
でも結局、女性が年末に忙しなく用意をするのだからどうなのだろうか?
それに今日は大晦日。
掃除だけでなく、年越しそばの準備もしなくてはならなかった。

殿。もうこちらは終わりましたよ」

「ユキさん。ご苦労様。私も終わったよ」

幸村は主に邸の掃除をしていた。
普通ならば使用人なり下郎なりがやるべきもの、そういう立場である幸村なのだが
この真田邸にはと二人で暮らしている。いや、と犬。二人と一匹で。
だから何をやるにも幸村とがしなくてはならない。

「あ。すごいですね」

三段重の重箱に盛られた御節を目にして幸村が漏らす。

「見た目だけじゃなくて味付けだって自信あるんだよー!ねね様とまつ様にしっかり習ったんだから」

「期待していますから」

小さく笑う幸村。
早く食べたいと思える。

「でも流石に五段は無理。お雑煮だってあるし、ユキさんと二人ならばこれぐらいでちょうどいいかなって思ったし」

「そうですね。十分すぎるくらいですよ」

「あ、そうだ。ユキさん、味見して」

そういっては別の皿に持ってあった栗きんとんを箸ですくい幸村の口許に持ってくる。

「え、あ」

「行儀悪いかもしれないけど、誰も見ていないから大丈夫だよ」

くすっと笑う
あーんと口を開けろと言っているのだ。
恥かしいが確かに誰も見ていないからいいだろうと幸村は口をあけ食べた。

「どう?私、御節なんて初めて作ったから。今までは人任せか、買っていたから」

数回口をもごもごさせるがそれを飲み込み幸村は笑った。

「美味しいですよ。初めてと言われるのが信じられないくらいです。早く他のも食べたいですよ」

「食べてもらいたいけど、これは明日のだからダメ。なくなったら困るから」

「あはは。残念です」



***



夕餉は年越しそばにした。
一番てっとり早いし。
ここにはテレビなどないから、大晦日の定番というのはあまり感じられない。
でも幸村と二人でのんびりできて嬉しい。
室内も火鉢のおかけで温かく、コユキがそばで寝転がっている。

「あのさ、ユキさん。ずっと気になっていたんだけど・・・・」

「はい。なんでしょうか?」

「ユキさんも・・・帰らなくていいの?上田にいる昌幸様のところに」

幸村の両親はいまだ健在だ。上田で領主をしている。
兄信之は本多忠勝の娘稲を娶り別の城の領主をしている。
ユキさんも。と言うのは、いつもならば一緒にいる三成や兼続たちが故郷、家族の下へ帰り不在なのだ。
数日中には秀吉に新年の挨拶をしなくてはならないのでそんなに長くはないようだが。
だが、幸村は帰らなかった。
を一人にしてはおけないからというのだろうか。

殿・・・・」

「私に遠慮しなくていいんだよ?ユキさんだって昌幸様たちに会いたいでしょ?」

幸村はゆっくり首を横に振った。

「遠慮などしていません。それに、父上の方がこちらへ来られるそうですから」

「でも。お母さんとか・・・・」

「いいんですよ、私がそうしたいと思ったのですから。殿とあなたと過ごす年越しの方がいいなと」

照れ臭かったが、幸村ははっきり言ってみた。

「も、もし・・・殿さえ良ければ・・・来年は一緒に上田に行きましょう」

そうすれば一人を残すこともない。
母にだってを会わせることができる。

「・・・・いいの?」

「勿論です。皆殿に会われれば喜びます」

それもいいかなと思える。

「うん・・・来年は連れて行ってね」

「はい」

幸村は破顔する。

「ユキさん・・・」

そんなに喜ばれるとは思わずもなんだか気恥ずかしくなる。
だが幸村はふと顔をあげた。

「今年も色んなことがありましたね」

「・・・・うん」

三成や兼続と出会い、甲斐から大阪へ移り住み。
二人だけの生活。
幸村に似た子犬を拾った。
赤子の世話もした。
政宗とも出会い、求婚されて少々困った。
皆で花火を観た。
は流行り病で危うく命を落としかけた。

出来事だけでも様々。

その中でも、互いに気づいていないが、互いを想う気持ちは大きく膨れていた。

(中々言えないけどね・・・)

(三成殿たちには呆れられてしまうけど・・・・中々・・・・)

好きだと言えずにいる。
言えばどうなるだろうと言う不安だけが広がる。

「「・・・・・・」」

それぞれ今までのことを思い返し黙ってしまう。

「はあう」

「「・・・・?」」

「ぶしゅん!」

寝そべっていたコユキがふいに欠伸をした。
かと思うとくしゃみをした。
ぶるっと体を震わせるが何事もなかったかのようにまた目を閉じてしまう。

「ふふふっ。コユキは、もう〜」

「犬もくしゃみをするものなのですね」

「するよ。欠伸もしたでしょ?それに寝ぼけることもあるよ?」

「そうなのですか?へえ・・・・そういえば、コユキも大きくなりましたね」

は寝ているコユキの背中を優しく撫でた。
が触れた事で耳がピクリと動くが、心地良いのだろうか、コユキは寝ている。

「そうだね。大きくなったね。コユキじゃ可笑しいかな?ユキにしようか?」

「それは勘弁してください」

「あはは。慶次さんが悪いんだよ。最初に幸村って名前付けちゃうんだもん。しかもコユキは早くに反応したし」

でも実はコユキというのは字にすれば小幸村ではなく、小雪なのだ。
いちいちそう口にするのが面倒だし、いいかなとどちらでもいいかなと。

「そういえば、あの時、他の名前を決めていたと言っていましたが?」

「うん!小太郎ってつけようと思ったの!小太郎って可愛いでしょ?」

幸村は頷けず微苦笑するだけだ。

「ユキさん?」

「あ、いえ・・・・ははは。コユキで良かったなと・・・・」

慶次も小太郎と言った時微妙な顔つきをしていた。
幸村の脳裏にはとても可愛いとは思えない風魔の忍の顔が浮かんでいた。

「そうなの?小太郎よりコユキで良かったなんて。もう名前も定着しちゃっているからいいけど」

慶次も風魔の忍のことはには説明しなかったようだ。
まあが彼と遭遇することはないだろうから黙っておいていいだろう。

ボーンボーンと鐘の音が聞こえた。

「あ、除夜の鐘だ。もうそんな時間なんだ・・・・」

「みたいですね」

雪が降る静かな夜に聞こえる鐘の音。

「108鳴るんだよね?除夜の鐘って」

「はい。人には108の煩悩がありそれを払う為と言われていますね。でも色々な説があるようで私も詳しくは知らないのですが」

「ユキさんには108も煩悩があるって見えないね」

「108はどうかはわかりませんが、私だって完璧ではありませんから煩悩くらいありますよ」

「へえ。どんな?」

は面白そうだと幸村の顔を窺う。
幸村はずずっと茶を啜りその視線から逃れる。

「色々です」

「ユキさんのケチー」

「そのようなことを知っても面白くもないですよ」

「まあね」

は笑う。
幸村も笑った。
しばらく二人で鐘の音を黙って聞き入る。
普段はあまり聞こえない音が響くようにここまで届く。
なんだか本当に煩悩が祓われているかもしれないような気になる。

再びシーンと辺りを静寂が包んだ。

「108、鳴ったんだ・・・・ってことは」

「ええ。年が明けたということですね」

は改めて幸村のほうへ体を向けて畏まる。
それは幸村も同じだった。

「「あけましておめでとうございます」」

ほぼ同時に頭を下げて。

「今年も沢山ユキさんに迷惑をかけちゃうかもしれないけど、よろしくね」

「いえ。迷惑なことなど今まで一度もありませんでした。私の方こそ殿に全て任せきりになるでしょうが」

幸村はもう一度深々と頭を下げた。

「今年もよろしくお願いします」

「二人で頑張ろうね、ユキさん」

「はい」

日が昇ったら秀吉とねねに新年の挨拶に行こうということになった。
だが、まだ眠くない。

殿。近くの神社にでも行きますか?」

幸村が立ち上がる。

「うん。初詣行こう」

温かい格好をして、初詣に行こう。
今年も幸村と共にいられることを願ってしまうのだろう。



***



秀吉とねねへの新年の挨拶への帰り。
いつも以上に賑わう街並みを歩いていた幸村と
城では色んな人に会い挨拶ばかりで少々疲れてしまった。
幸村の父昌幸と兄信之も着ており、後日邸の方へ来なさいと幸村は言われていた。

「どこに行ってもいっぱいの人だね」

「そうですね。しかも皆、楽しそうです」

「戦がないんだって実感しているのかも」

「秀吉様が作った笑って暮らせる世ですからね・・・・・」

本当に一番それを見たかったのは信玄公のもとでだ。
だが幸村は小さく首を振った。

「ユキさん?」

「い、いえ。なんでもないです」

今の世も悪くない。
こうしてと一緒にいられることを思えば。

「帰ったらお昼ですね。雑煮にでもしますか?」

「うん。あ、お雑煮・・・私流で良かったの?ほら、住む地方によって雑煮って様々でしょ?」

すましか、味噌か。味噌にしても赤か白か、合わせか。
はたまた小豆汁か。
具材に餅も違う。
切り餅か丸餅。それも焼くか煮るか

「どのようなものでも私はかまいません。殿の作られるものはなんでも美味しいですから」

「嬉しいことを言ってくれるけど、ユキさんの好物ってものあるでしょ?」

「では、私の好物は殿が作られたものということで」

「なに、それー」

は笑う。

「じゃあ嫌いなものは?」

「え。んー・・・・・特にないです」

「まあ、作り手としては嫌いなものがないってのはいいことだよね」

「ならばいいではありませんか。早く帰りましょう。殿の雑煮が楽しみです」

上機嫌な幸村は早く帰ろうとを急かす。
こんな幸村は珍しい。
三成たちがいないから。に寂しい思いをさせまいとやってくれているからなのだろうか。
でもそんな幸村を見るのは悪くない。
だからも幸村の手を取り小走りだか駆け出す。

「あ!殿。そんなに急ぐと雪で転びます!」

「ユキさんが急かしているんでしょ!それに転んでユキさんがいるから大丈夫だよ」

早く帰って温かい雑煮でも食べてのんびりすごそう。
きっとそのうち、友がやってくるだろうから。








07/07/14
19/12/28再UP