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花てまり空に舞う。
幸村との仲もこれといって進展のないまま進んだ夏。 変わったことといえば定期的に政宗から贈られてくる品々に苦笑することだった。 「私の性格わかっているよね、政宗君は」 どーんと入口に置かれた箱。 中には塩、味噌、にんじんやらごぼうなどの野菜が詰め込まれていた。 「。今宵はこれらで作った味噌汁が食べたい」 品々を見て言ったのは幸村ではなく三成。 「はいはい。殿様の為に精進こめて作らせていただきます」 は中身を取り出し分け始める。 「塩と味噌は私が運びましょう」 「ありがと、ユキさん」 幸村はが返事をする前にそれらを抱える。 そして台所へと向かった。 味噌汁が食べたいなどと言いながらも手伝おうとはしない三成。 のんびりが淹れてくれた茶を啜りながら扇で煽っている。 「政宗は殿を物で釣ろうと言うのか?まったく・・・・」 その隣でスイカを頬張りながら兼続が言う。 「私の性格をわかっているのですよ、政宗君は」 苦笑しながら兼続の機嫌を伺う。 「先ほどもそう申していたな、殿は。それはいったい」 「着物や装飾品だと私が送り返すことをわかっているのですよ」 「食べ物は送り返すわけにはいかぬものな」 「いらなければ捨てろ・・・・と言われてもそんなことできませんしね」 「食費が浮いていいだろう。良かったではないか」 三成はしれっと言う。 これが慶次なり左近ならば兼続もそうだなと同意する所だが、贈り主が政宗となると面白くないらしい。 「ふん。我らで沢山食してやる」 の為にと贈ったものを代わって自分が食い尽くしたのを政宗が知ったらどんな顔をするのだろうと 小意地をあえて張ってみせる兼続。 だがきっとこれらの野菜たちが以外の者の腹に納まることなど政宗も承知しているだろうとは思っている。 届けられた量が一人二人分ではないのだから。 (政宗君の方が一枚上手かも・・・・) そのようなことを口にしたら兼続の機嫌が悪くなるのであえて口にはしないが。 はふぅと額の汗を軽く拭った。 「今日も暑いなぁ。もうじき夏も終わるってのに」 夏は嫌いではないが今年は少し暑すぎた。 だが賑やかさの度合いが違う。 今までは甲斐の山々の中ですごした夏。 蝉の声がどこにいても聞こえる賑やかさだが、今年の大阪での夏は違う。 蝉ではなく人の声が沢山する。 今も昔も代わらず祭りなどで賑やかなのだ。 「御館様。今年は今年で楽しい夏ですよ」 大空に向かって思わずは呟いた。 *** 「殿ですか?あなたに文をお持ちしました」 ある日のことだった。 門の前で暑さを少しでも和らげようと水をまいていた。 そこに身なりのいい男性が姿を現した。 「はあ。文ですか?・・・・誰だろう」 文を届けるような相手と思い浮かぶのは政宗だが、その場合今の時代で言う郵便配達の者が手渡しに来るだろう。 だが目の前にいる男はどう見てもお武家様だ。 誰の使いで来たのだろうか? 正直見慣れない。三成や兼続の身の回りにいる人たちはそこそこ知っている。 「あの、誰からか聞いてもよろしいですか?」 「中をごらんになればわかります。では私はこれで」 「あ、ちょっと!」 男はが文を受け取ったのを見届けて立ち去ってしまった。 は困ってしまうが仕方なく文を読んでみる。 「・・・・ありゃ。この人からだとは・・・」 差出人を見ては小さく笑った。 *** 夕方になり幸村が帰宅するとの姿はなかった。 「殿?」 「なんだいないのか?」 つまらんと幸村の後ろで仁王立ちしたのは政宗だ。 「せっかく驚かせようと思うて来たのに」 野菜を送ったその直後に本人も奥州を出て大阪にやってきたとのことだ。 「あ。多分買い物にでも行っているのだと思いますが・・・・」 幸村は政宗を中へと招き入れる。 がいないのでは仕方ないと自分が茶を淹れはじめた。 「幸村ー」 「なんですか?」 自分の邸のように寛いでいる政宗に幸村は湯飲みを差し出す。 政宗は湯飲みと交換で料紙を見せた。 「の奴でかけおった」 「ああ・・・・そのようで」 料紙にはの字で「お祭りに行ってきます。良かったらあとで来てね」と書かれていた。 「祭りがあるのか?は誰と行った?一人ではあるまい」 質問攻めの政宗に幸村は苦笑する。 「さあ。今朝はそのようなことを言ってはおりませんでしたので・・・三成殿か慶次殿辺りがお誘いしたのかもしれませんね」 その答えに政宗はムッとする。 「お前は馬鹿か」 「はい?」 「は自分以外の男と祭りなんぞに行ってしまってなんとも思わないのか?」 「三成殿たちでしたら特にこれと行って・・・返って安心ですよ」 「馬鹿めが!それは保護者の考えだ! 一人の男としてだ!わしは面白くないぞ、が他の男と祭りで仲良くしているかと思うと」 梅雨時期に「殿を慕っています。あなたとの婚姻に反対です」などと真顔で言った男とは思えない。 こんな男が自分の好敵手。いや負けている相手かと思うと腹立たしく感じる。 「行くぞ、幸村」 政宗は幸村が淹れた茶にはほとんど手もつけずに立ち上がる。 「どこへですか?」 「決まっておろう。その祭りだ。行って相手の男との間を邪魔してやる」 まだその相手が男とは決まったわけではない。 にだって女性の知り合いはいるのだ。 ねねとかまつとか。殆どが某の奥方様だが。 やれやれと幸村も重い腰を上げた。でも見知らぬ男が相手ならば政宗と同じ気持ちなのでしょうがない。 *** 「うーん。ユキさんと一緒でも良かったかも」 大勢の方がいいし。 おそらく待ち合わせの相手も幸村が一緒でも文句は言わないはずだ。 「今年の夏も楽しかったなぁ。皆で蛍を観に行ったり納涼したり」 のんびり幸村と縁側で星を眺めたりもした。 これといって進展はないが、そういう時間は嫌いではない。 「」 呼ばれて声のする方へ振り返った。待ち人の姿を見て思わず噴出した。 「なんで笑うんじゃ?酷いな」 「すみません。秀吉様。だって、その格好」 「似合わんか?」 「いえ、はまりすぎてお似合いです」 「だろ?」 ニシシと子どもみたいな笑みを浮かべた待ち人は天下を治めた太閤秀吉だった。 どういうわけかは知らぬが今日行われる花火大会に一緒に行こうと文をよこしてきたのだ。 まあいいかと思い珍しい相手からだと思いは待ち合わせ場所に行ったのだ。 そして来た秀吉の格好はいつもとは違い町人のような格好だった。 髪も町人風に結いなおしてある。 「わしは元々農民の出だからな。こういう格好にはなれている」 農民と町人はちょっと違う気がするけどとは思いながらも秀吉の隣を並んで歩き出す。 「でも私で良かったのですか?ねね様や淀君様じゃなくて」 ねねを一番で側室の淀を二番目に愛しているなんて言っている秀吉。 他にも側室は多いようだが、彼女らを差し置いて今日自分が一緒でよかったのかと思ってしまう。 「ねねは知っているから大丈夫だ。まあ気にするな。に色々案内してもらいたくてな」 「はあ」 「他の者に頼むと仰々しくなるじゃろ?」 「それはしょうがないじゃないですかあ。太閤殿下なんですから」 固いことはなしだと秀吉は気にすることもなくのんびりとしたものだ。 それから二人は屋台で食べ物を買ったり遊んでいた。 「いいものだな。こういう雰囲気は」 「?」 道行く人を見ながら秀吉は満足げに言う。 「わしは天下をとった。皆が笑って暮らせる世を作る。ダチとそう約束したんじゃ」 「約束果たしたのですね」 「まあそうなるな。は今笑って暮らしているか?」 「私。ですか?」 自分に話を振られると思わず目をパチクリとさせる。 泣いてはいないと思う。それなりに毎日楽しい。 だけど。 いなくなってしまった人たちのことを思うと少し寂しい。 本当はその人たちといつまでも笑って暮らせるものだと思っていたから。 「私は「お前さーん。ー」 川辺のある場所をねねが陣取り大きく手を振っている。 いつの間にか花火大会の場所の川辺付近まで来たようだ。 「ねね〜」 「場所はバッチリ取っておいたよ。お前さん」 周りは普通に町人たちが同じようにゴザなどを敷いて場所を取っている。 何故に太閤殿下の奥方様までもこんなことをしているのだろうか。 誰もそれに気づかないので素晴らしい。 「ほおら。食べ物もあるよ、ここでゆっくり花火を見ようじゃないの」 ニコニコと笑顔を向けるねね。 警護の兵士なんかほとんどいない。町人たちと同化しているすごい。 「おお。こりゃいい場所だな、ねね」 「でしょ?もう楽しみにしていたんだから。お前さんはどうだった?楽しめたかい?」 「そうだな。中々面白いものを沢山見れたし。少しは安心した」 ゴザの上にどっかり腰を下ろした秀吉。 ねねはお茶を取り出し秀吉に渡す。 「ほら。も座る。多分三成たちも来ると思うよ」 この夫婦。どうやら黙って出てきたらしい。 三成が青すじを浮かべている姿が想像できる。 でもも言われて座り込んだ。 それから少しも経たないうちに三成、兼続、左近。更には幸村と政宗も姿を見せた。 「ほーら。来たね。さあ座った座った。大の男たちがそんなところに突っ立っているんじゃないよ」 ねねに言われて男たちは顔をあわせていうとおりにする。 「」 「あれ、政宗君」 いち早くの隣に腰を下ろした政宗。 何故ここに彼が?と思うがは笑顔で迎える。 「驚かそうと思って内緒できたのだ」 「皆そういうの好きだね」 秀吉といい政宗といい。 「野菜とかいつも送ってもらちゃってありがとうね」 「気にするな。喜んでもらえて何よりだ」 満足げの政宗に兼続が面白くなさそうに舌打ちする。 「幸村。出遅れてどうする。ほら、行け」 「え?はあ」 どんと背中を押される幸村。 だが特にこれといってなにをするわけでもなく腰を下ろしただけだ。 本当自分でも思う。 政宗に宣言したのにも関わらず何もしていない。 毎回贈り物を贈ってくる政宗に危機感を抱かないわけではないが なんとなく焦ってもしょうがないという気になる。 「ユキさん。はい」 幸村の前にねねお手製のおにぎりが。 が幸村に差し出しそれを受け取る。 「いただきます」 パクリとおにぎりを食べる幸村。 も一口頬張っている。 「美味しいよね、ねね様が作ったおにぎり。形も綺麗だし」 「殿だってお上手だと思いますが?」 「ユキさんはいつも褒めすぎ。あまり上手く握れてないよ?」 「そうですか?」 そんなことないのにと幸村思う。 が作ってくれるものはなんでも美味いと思う。 「殿が作ってくださるものはどれも美味しいですし、見た目も気にならないですけど」 「そうかなあ」 「そうですよ。ねね様がお作りになったものも確かに美味しいですが殿が作った物のほうが私は好きですよ」 ニッコリ笑う幸村。 「・・・・・・褒めすぎ、ユキさん。でもありがと。明日」 「はい?」 「明日ユキさんの好きなもの作ってあげる。なにがいい?」 「殿が作ったものならなんでも」 「それが一番困るなぁ」 困るけどそう思ってくれるのは嬉しい。 幸村はああ言うが、二人で暮らし始めた頃は上手くできずに困ったものだったのだ。 幸村の味覚は可笑しいのではないかと思ったくらいに。 でも今ではそこそこできる。 三成たちも食べにきてくれるくらいだし。 くすくすとが笑うがその時、腹にずしんと音が響いた。同時に空が明るくなった。 「あ。始まった」 わーっと周囲からも歓声があがる。 どんどんどんと音を上げなら花火が綺麗に上がっていく。 言葉のまんま。火の花だと綺麗なそれらに魅入ってしまう。 「綺麗だね」 「そうですね」 もう夏も終わる。 今年最後の花火になるだろう。 来年もこうして皆で見られると良いのだが。 帰り道。 政宗が幸村の邸に泊まると言い出したがそうはさせぬと兼続が無理矢理引っ張って帰って行った。 別にいいのにとは苦笑する。 あんなに賑やかだった通りも今では静まり返っている。 「皆で笑って暮らせる世か」 「殿?」 そっとは手を伸ばし幸村の指に触れる。 「えへへ。なんかちょっと怖くなっちゃった」 「では怖くならないように」 幸村はの手を取る。 「これで帰り道も安心ですよ」 「うん」 花火はもうないけど、月が二人の行く先を照らしてくれる。 「さっき秀吉様に聞かれたことちゃんと答えておけば良かった」 「?」 「秀吉様は皆が笑って暮らせる世を作ろうって思ったんだって。それで今、私は笑っているか?って聞かれたの」 「そうですか・・・・・」 自分たちは大事な人たちと別れた。 あの頃は笑っていても心の底から笑えてはいなかった気がする。 「御館様たちのそばで、ずっと一緒に笑っていられるのだろうなって思っていたけど。 実際はそうじゃなくて。悲しいこと沢山あった。でも・・・・・・今は」 はキュッと幸村の手を強く握る。 「私は一人じゃないし、新しい人たちと出会えたし。笑って暮らせているよね」 「私もあなたと同じですよ」 「うん。でも一番なのは。ユキさんが一緒にいてくれるからかな」 「殿・・・・・」 「さ。早く帰ろう。コユキが待っているから」 は幸村の手を引いて駆け出す。 「あ。殿!・・・・・まあ、いいか」 軽く頬を指で掻きながら幸村はと握った手をしっかりと握り返した。 06/08/28
19/12/28再UP
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