氷室の桜。




ドリーム小説
真田邸は一段と賑やかになった。

「あははは。コユキちゃん偉い、偉い」

「ワン!」

舌を出して、尻尾を千切れんばかりに振る子犬。

「じゃあもう一度ね。お手」

ひょいとの出した手に前足を乗せる。

「おかわり」

今度は逆の前足をの手に乗せる。

「偉い偉い〜」

わしわしと頭を撫でる
ご褒美として、もらった菓子を子犬は喜んで食べている。

「・・・・・・」

そんな様子を少し複雑な表情で見ていたのが幸村。
幸村は最近のが子犬にばかりかまけているのが少々面白くない様子。
別に仲が悪くなったわけではない。
単純に子犬中心の生活になっているのだ。

子犬を飼いだしたことでが寂しい思いをしなくなるだろうとは思ったので
幸村としては喜ばしいことなのだが。
ただ。

「なんだ、随分騒がしいな」

表までの笑い声が聞こえたと、やってきたのは三成と兼続だった。

「三成殿、兼続殿」

「あ、いらっしゃい」

が庭にいるだろうと言うのがわかったので、玄関によらず直接庭へと入ってきた二人。
いつものことなので、別にそれに文句などはない。
やってきた二人は、幸村と以外の存在にも気づく。

「ああ。これが慶次の言っていた犬か」

「なんだ?」

兼続はすでに情報を得ていたようだ。
いつの間にかの腕に抱かれている子犬に二人の目線は行く。

「兼続さん、慶次さんに聞いたんだ」

「ああ。河原で犬を拾ったと聞いた」

「わざわざご苦労なことだ」

三成は子犬にはたいして興味を持たず、縁側に座り込んでいた幸村の隣に腰を下ろす。

「どうした、幸村。随分浮かない顔をしているな」

「い、いえ!そのようなことは」

少し慌てる幸村に三成はわかったような顔で笑う。

「大方犬にを取られて面白くないのだろう」

「み、三成殿!」

「なんだ、図星か」

「ち、ちが。違います」

幸村は慌てるが、二人のやり取りはの耳には届いていないようだ。
兼続に子犬を見せて楽しんでいる。

「そうは見えんな」

「三成殿・・・勘弁してください。ただでさえ・・・・・」

ブツブツ呟く幸村に三成は眉を顰める。

「だから、コユキと言うのか。全く慶次もしょうがない奴だな」

兼続の声が届く。

「でも可愛いでしょ?コユキちゃん。一応、それに反応はしてくれるのでこのまま定着させようかなって」

「その方がいいだろ。幸村も困るだろうし」

「ワン!」

「お前じゃない、お前はコユキだろ」

兼続は子犬の頭を軽く叩く。
子犬は首を傾げる。

「くっ」

それを見て兼続は笑いを堪えている。

「兼続さん?」

「いや、すまん。慶次から聞いて・・・本当に似ているなと、思って」

「あ〜兼続さんも思います?似てますよね」

くすくすとも笑い出す。
それを見て幸村は頭を抱えだした。
意味がわからないのは三成で、少し苛つき始める。

「なんだ、一体」

「この子の名前」

「名前がなんだ」

「この子の名前慶次さんが「お、幸村元気か〜」

暢気にの言葉を遮りひょいと子犬をから抱き上げる。
慶次がやってきた。

「慶次」

「慶次さん。その子の名前幸村じゃないです〜コユキです」

「あ〜?だって幸村って教え込んじまったのに?」

「け、慶次殿!」

「おう。そっちの幸村も元気か?」

あなたのおかげで元気じゃないです・・・・
幸村は情けない顔をしてしまっている。

「つまり、その犬の名前が幸村ってことか?」

三成は呆れた顔をする。
幸村の態度が可笑しい理由にも頷ける。

「くだらんことをする」

「しょうがないよなあ〜こいつが幸村に似ているんだからよ」

「・・・・・・そう言われても私は反応のしようがありません・・・・」

がっくり肩を落とす幸村。

「お前も犬に負けてどうする」

「み、三成殿」

シュンと項垂れる幸村。
誰もが思う、似ているなぁと。

「あ。お茶淹れてきますね!」

来てくれたのに、何も出さないのは失礼だと。
は中へ戻った。
子犬は慶次とじゃれている。
兼続も項垂れる幸村の隣に腰を下ろす。
三成と兼続。
互いに苦笑しかでない。

「慶次には悪気がないから困るな」

「・・・・・・・」

「鬱陶しいぞ、幸村」

「す、すみません」

「そんなに嫌なら捨てろ」

「で、できません。殿はコユキが来てから楽しそうですし」

「人が良すぎるな、お前は」

「そこが幸村の良い所でもあるだろ?」

「別に良いが。犬じゃを幸せにできんぞ。それはお前じゃなきゃできないことではないか?」

「三成?」

三成は二人の視線から逃げるようにそっぽを向いた。

「三成殿。ありがとうございます」

「ふん」

三成の言葉に幸村はやんわりと笑う。

「お待ちどうさまです」

が盆を持って戻ってきた。
一人一人に手渡し、いまだ子犬とじゃれている慶次の分は縁側に置いておく。

「あと、これも食べてね」

更に盛った豆大福。

「ありがとうございます、殿」

幸村は早速と豆大福を一つ取り食べる。

「いつも甘いものしか出さないな、お前は」

三成は嫌そうな顔をしてる。横にいる幸村は幸せそうと言った感じだが。
はそう?と惚けるが、和菓子を甘い菓子を幸村が好むから常備しているのだろう。
幸村もなぜ、そう言うところに気づかないのだろうかと三成は呆れてしまう。

「みっちゃん、甘いもの本当嫌いだね。今度お漬物でも出そうか?」

「茶だけでいい」

「兼続さんは甘いもの平気でしたよね?」

兼続も豆大福には手を出している。

「ああ。私は幸村ほど食べないがな」

三成は横目で豆大福を食べ続けている幸村を見て

「案外、これだけでもお前は良いようだな・・・・」

先ほどまでしょげていた幸村はどこにいったのやら?





その日の夕食後。
湯浴みも終えて縁側に出ていた幸村。
のんびり腰掛け星を見ているようだった。

「ユキさん?どうしたの?」

殿。コユキは一緒じゃないのですか?」

「部屋で大人しくしてるよ・・・って私そんなにいつも一緒にいるかな?」

「そう見えますよ」

幸村はくすりと笑った。

「少々妬けてしまいますね、コユキに・・・・」

「や、やだな。そんなコユキちゃんだよ」

薄っすら頬を染める
幸村も同じに赤くなっている。
自分で言って自分の発言に驚いている。

「そ、そろそろ中へ入られたほうがいいですよ、殿。涼しいですから風邪でもひいたら大変です」

すくっと立ち上がり部屋の中に幸村は引っ込んでしまった。
は首を傾げながらもとりあえず、自分も部屋へと戻った。
障子を閉めた奥で幸村は胸を押さえる。

「わ、私は何を言ってしまったのだ・・・・こ、コユキに妬くなど・・・お、大人気ない」

恥ずかしさでいっぱいになってしまう幸村。
だが、更に奥の部屋からそんな様子を見ていた三成たち。

「何をぐだぐだしているのだ、幸村は」

「あれでは、中々進まないな」

「素直に言えば、終わっただろうにねぇ」

などと友人たちが好き勝手に言っているのだった。




そして、やはりと言うか。
翌日も、コユキとじゃれるを見て溜め息を吐いている幸村だった。






06/05/24
19/12/28再UP