若緑。



ドリーム小説
「どうしよう・・・」

朝も早くからはがっくりと肩を落としていた。

「絶対、このままじゃマズイよね・・・・」

色々やって進歩のないここ数ヶ月。
このままでは幸村が!と不安に駆られる。

「・・・・恥を忍んで、ここは頼むしかないよね」

はグッと拳を握り締めた。




「私に頼み事?珍しいな、殿が」

「兼続さんならばって思ったのです」

直後、は直江兼続の元を訪れた。
朝も早い時間だったが、兼続はすでにキチンと身なりを整えておりを出迎えてくれた。

「で、なにを私に頼もうと言うのかな?」

朝から爽やかですね、と言いたくなるような眩しい笑顔を向けてくる兼続。
彼にしてもが頼ってくれると言うのが嬉しいのだろう。
彼女は友幸村の大事な子。
最近では三成の玩具。
知略でならばその三成や家臣左近の方が頼りになるし
武、力仕事ならば当然幸村や慶次の方が頼れる。
はそうは思っていないだろうが、中途半端な能力な自分と感じてしまう。

あくまで自分が思っただけで周囲はそのようなことは思っていないのだが・・・・

「あのですね・・・・・その前に・・・・」

「ん?」

「あそこで何か企んでいそうな人をどっかに追いやってください」

「企んでいそうな人?・・・・・三成か」

兼続は苦笑してしまう。
はできるだけ他の人には聞かれたくないようだ。

「三成。珍しく早起きだな」

昨晩久しぶりに三成と飲んだ。
彼はそのまま兼続の屋敷に泊まりこんだ。
兼続は早起きには問題ないのだが、三成は低血圧なのか不機嫌で中々起きるようなことがない。
それが今、すっきりした顔で起きているではないか。
まだ夜着なのだが。

「何やら面白そうだと思ってな」

「・・・・みっちゃん性格悪い」

一番見られたくない人に気づかれたとは顔を顰める。
いや、本来一番見られたく、気づかれたくない人は幸村なのだが。

「お前が朝早くから大声で駆け込んで来たからな、寝ていられなくなった」

「お、大声なんか出してないです!」

「どうでもいいから早く言え。俺も聞いてやろう」

「絶対嫌!みっちゃんに聞かれたくない!」

「ほぉ俺に聞かれたくないと?益々聞きたくなるな、兼続は良くて俺はダメと言うのはな」

目を細め不敵な笑みを浮かべる三成。

「三成。誰だって聞かれたくないことはあるだろう。殿を困らせるな」

「兼続はの味方か?ふん、面白くないな」

「あのな・・・・」

「では俺はこれから幸村の所に行こう。幸村にこの事を教えてやろう」

「ゆ、ユキさんに!だ、ダメ!ユキさんに言っちゃダメ!」

幸村と言われては極端に慌てる。
それが余計に三成を増長させる。

「幸村に知られたくないこととはな。兼続には言えて幸村と俺には言えんとはな」

「み、みっちゃん本当に性格悪いよー」

「何も邪魔をしようとは言っていない。が素直に言えば済むだけだ」

「だ、だからあまり人に知られたくないのに・・・・」

三成を恨めしそうに見上げる
兼続は三成を諌めるが、彼は怯むことなく笑んでいる。
今ここで三成を逃がせば、きっと幸村にあることないこと吹き込むに違いない。
は仕方なく三成にも聞かせることにした。

「あのですね、兼続さん。兼続さんにお願いしたいことがありまして」

「うん」

「私にお料理教えてください!」

「・・・・・・は?」

「くっ」

目が点になる兼続、なにを言い出すのだと噴出す三成。
は真剣な顔で兼続に懇願する。

「あ、あのな。殿。何故私が料理など・・・・すまないが、私は殿が思っているようなことはできないのだが」

「えー兼続さんって綺麗にお魚とか捌けそうですよ!割烹着とか似合いますよ!」

「いや、本当にできないのだが・・・・」

何故、自分が・・・・
仮にも武家の子。
男子厨房に入るべからず。で育ってきた。
刀は握るが包丁など握ったこともない。
それ以前に何故自分がそこまでできると一方的に思われたのだか?

。急に何を言い出す?誰かに教わろうなどと」

「・・・・私、すっごい下手なの・・・・・ほら、今、私とユキさんしかいないでしょ?あのお屋敷」

「そうだな。使用人など置いていないな」

二人だし、自分たちでできることは自分たちでと言う性格なのだろう、幸村もも。
屋敷は与えてもらったものの世話をする者などはいらないと断った。
一時期寺に住み込んでいたときも洗濯や掃除などはも幸村も自分でやった。
ただ。

「食事だけは私もユキさんもやったことがなくてね・・・・」

いつも食事だけは厨房の係りの尼さんが仕度してくれた。

「それでもなんとか、今日まで作っていたけど、どうしても不味いものしかできないの〜
 そんなのユキさんに毎日食べさせるのってよくないでしょ?自分でやるって言い出しのはいいけど」

身体を壊したら大変だ。

「幸村は何か言っているのか?」

「ユキさんの性格考えればわかるでしょ?あの人普通に美味しいですよ、って言うんだもん」

本当にそう感じているのか、を傷つけてはならないと我慢して言っているのか。
これが三成ならば食べる以前に膳を下げさせるだろう。
食べても「不味い」と斬って捨てるだろう。

「幸村らしいと言うか、まぁ・・・」

「女としてどうなんだ、それは」

「わ、私だって何もできないわけじゃないの!ただ、ここって・・・炊飯器ないし、ガスもレンジもないもん」

「すいはんき?」

「釜で米なんか炊いたことないもん!」

「「・・・・・」」

二人はの出自など知らない。
多少考え方行動が違うなとは思っていたが。
彼女が言うには彼女が暮らした場所とはここは大分違うのだろう。

「だから、教えてくださいって頼んでいるの」

「・・・・・頼む相手が悪かったな、

「う、うむ。私は残念ながら役にはたてないから」

「そんなぁ・・・このままじゃユキさん倒れちゃうよ〜」

「お前、どんな物幸村に食わせているんだ・・・・」

幸村の食生活が心配になる二人だったが、三成が一つ提案をした。

「兼続よりも頼れる人を俺は知っているぞ」

「え、誰!?まさか左近さん?」

「・・・・左近ができるかどうかは知らんが、ねね様に頼めばいいだろう。あの人は昔からやっている」

「あ〜そっかぁねね様がいた」

は沈みかけていた気持ちを浮上させる。
そして三成の腕を掴む。

「みっちゃん、大阪城行こう!ねね様に頼んでみないと、早く行くよ!」

「ま、待て。俺はまだ飯も着替えもすませていないのだ」

「このままでいいよー」

「いいわけあるか!」




***




「あの、兼続殿・・・・」

「どうした、幸村」

城の一角で幸村が兼続に話しかけてきた。
幸村は俯き加減で何か悩みがあるように見える。

「その・・・・最近殿の様子が可笑しいのですがどうしたら良いのでしょうか」

「・・・・・(何故皆、私に尋ねる)・・・・そうなのか?」

「手に怪我をされているようで。どうかしたのかと訊ねてもなんでもないと私には話してくださらないのです」

「そうか・・・」

と言うものの、兼続は理由と原因を知っている。
あれからはほぼ毎日と言って良いほどねねに料理を教わりに行っている。
だが、慣れない包丁で数回指を切ってしまったり、火傷を負ったりしているようだ。
どんな教わり方をしているのかと兼続は不思議に思ったのだが。

一応幸村には内緒だとが言うので兼続が教えてやるわけにはいかないだろう。

「そんなに気にすることでもないのだろう、お前の考えすぎだ」

「ですが・・・」

「なんだ、何か気になるのか?」

「三成殿は知っているようなので・・・・」

シュンと肩を落とす幸村。
兼続は幸村には聞こえないように舌打ちをする。
大方面白がってをからかっているのだろう、三成は。
ただでさえ、には好いている男がいると知って落ち込んでいる幸村なのに。
しかもそれが三成ではないかと疑っているようだし。

「そうだ、幸村。前から聞いてみたいと思ったのだが食事はどうしているのだ?」

「食事ですか?殿が作ってくださいます」

シュンと萎れていた顔が優しくなる。
に作ってもらえるのが嬉しいのだろう。
この顔を見る限りでは、の味と言うのは気にするほどでもないと兼続には思えるのだが。

「ほぅ、殿がか。味はどうなのだ?」

「とても美味しいです」

「・・・・・」

絶対素で言っているぞ、この男は。

「では毎日の食事が楽しいだろ?」

「はい、とても。仕事の関係で一緒に食べれない日などもありますが、殿と一緒はとても楽しいです」

「幸村・・・」

嬉しそうな顔。
嫌味もなく言われるとこちらが恥ずかしく思うのだが、それが幸村の素直な気持ちなのだろう。
味も確かに大事だが、幸村にはと一緒だと言う方が大事なのだろう。
まぁそれはにしてみれば素直に喜んで良いところか悩むだろうが。

「もし殿が何か隠し事をしているとしても、焦らない方がいいだろ」

「兼続殿?」

「時間が経てば解決することもある。あまり気にするな。お前がそんなだと殿も心配になるだろう」

「そ、そうでしょうか?」

「あぁそうだ。大丈夫だ」

「はい」




そしてそれから数日後の朝。

「おはようございます、殿」

「おはよう、ユキさん!」

御膳棚がすでに幸村の席の前に置かれている。
幸村は座り、も向かいに座った。
手を合わせてから幸村は食べはじめる。
は箸もつけずにジッと幸村が食べているのを見ている。
その視線に気づく幸村。

「ど、どうかしましたか?殿・・・」

「ん?ん〜なんでもないよ」

も食べ始める。
でもチラチラと幸村を見ている。

「あ、あのね、ユキさん」

「はい」

「・・・・・・ご飯どう?」

「ご飯ですか?美味しいですよ」

「本当?」

「はい」

「味噌汁は?しょっぱすぎない?」

「はい、美味しいですよ」

「魚、ちゃんと焼けてる?塩効いてる?」

「はい」

「本当?」

「はい・・・・どうかしましたか?」

は首を横に振る。
でもその顔は嬉しそうだが幸村には意味がわからない。

「私、もっともっと頑張るからね」

「?」

今思えば、甲斐にいた頃、料理をちゃんと覚えておけば良かったと思った。
あそこは幸村にとって、いや二人にとって故郷でもある。
その故郷の味ってのを幸村に味わってもらいたいと思うようになった。
きっとねねに料理を教わってからだろう、そう考えるようになったのは。
甲斐に行くまでかなり時間がかかる。
一人では簡単に行ける場所ではない。
だから、いつでも思いだせるようにと・・・・

大事な人たちはもういない場所だけど、嫌な思い出だけでなく、良い思い出も残っているのだから。

殿、聞いても良いですか?」

「ん?何?」

「その・・・・手の怪我は、本当にどうされたのですか?あなたは私には何も言ってくださらないので・・・・」

「え・・・・・だって、恥ずかしいもん」

「恥ずかしい?」

「・・・・・・」

隠して来たことだけど、幸村にこれ以上隠し通せないようだ。
幸村がの手を見ると物悲しい表情をするから。

「あのね、私、今ね。ねね様に料理教わってるの」

「ねね様に?」

「うん。でも失敗ばかりでこうなっちゃうんだけど、それでも減った方なんだ」

それを幸村に見られるのが恥ずかしかった。

「なぜ、私に黙って」

「だって、恰好悪いでしょ?大した傷でもないよ」

「ッ・・・心配したのですよ、私は」

「ご、ごめんなさい!でも本当になんでもないよ?ユキさんに私が作ったもの美味しいって言ってもらえるから」

「・・・・前からそう思っていますが・・・・」

「本当?ユキさん味音痴なんじゃないの?」

「ほ、本当ですよ!殿の作ったものとても美味しいです!」

頬を赤くしながら力説する幸村に少しばかりは疑いの眼差しを向けるが、幸村は嘘をつけない人だし
これはこれでいいのかな?と思うことにした。
もっともっとねねに学んで力をつけようとは改めて誓う。

「でも、みっちゃんは不味いって言ったけどね。この前味見してもらった時に」

「三成殿の方が味音痴なのです、それは」

少し拗ねたように言い放つ幸村。
後日、それを聞いた三成は嫌味をたっぷりこめて言った。

「俺は本当のことしか言わんぞ?それに、あの味で美味いだなんて思えるのは幸村だけだ」

幸村限定の調味料でも入っているのだろう、きっと。








06/05/06
19/12/28再UP