雪濁り。




ドリーム小説
「ユキさん、どうだった!?」

屋敷へ帰ってくるなり、は幸村に向かってそう言った。
幸村には何がどうなのかわかっているので、律儀にそれに答える。

「はい、三成殿にお願いしまして、まとまった休みがもらえました」

「本当?じゃあ、行けるね」

「はい」

は子どもみたいに喜ぶ。
幸村はそれを見て目を細めを見つめた。
久しぶりに見れた、の喜ぶ顔が。
それが幸村には単純に嬉しかった。

だけど。

中々上手く行かないもので。
の機嫌は一転して不機嫌になってしまうことになる。

「申し訳ない、殿」

「・・・・・」

幸村がに必死に頭を下げている。
は口を噤んでいる。

「急に秀吉様に命じられて、海賊退治に行かねばならなくなりました」

「・・・・・」

「休みはなしと・・・その、帰ってきてからと言うことで」

「ダメ、そんなの!」

殿、ですが」

「だったら、私一人で行きます」

「それはなりません!一人でなんて危険です」

「だって、ユキさんは行けないんでしょ?だったら私ぐらいはその日に行くの」

「行かないとは申していません。せめて私が戻ってからと」

「嫌ったら、嫌!」

殿!」

このようなやり取りが、ここから数十分も続いた。
互いに一歩も引かず。
は行く。
幸村は反対する。

一体何のことだと思うだろう。

「騒がしいな、どうした、いったい」

「三成殿、左近殿」

三成が左近を連れてやってきた。
兼続は一緒ではないようだ。

「お二人がいらしたこと気づかずにいて申し訳ない」

幸村は身体を二人の方に向けた。
は三成をジッと睨みつけている。

「なんだ、

「みっちゃんが悪い」

「あ?」

殿!」

「ユキさんじゃなくて、他の人に頼めばいいのに。なんでこの時期にするかな」

、意味がわからん」

「みっちゃんの意地悪」

は三成に向かって舌を出す。
そして、そのまま三人を残して行ってしまうのだった。

残された幸村たち。
三成は意味もわからず、一方的に言われたことに顔を引きつらせている。

「幸村殿。嬢ちゃんと何があったんですか?殿が悪いとか言ってましたけど」

「あ、その・・・・」

幸村は後頭部を掻きながら力なく笑う。



***



「もう〜ユキさんの馬鹿〜ううん、悪いのは秀吉様とみっちゃんね」

こんな台詞、一般の人が聞いたら何事かと思うだろう。
太閤殿下に向かって平然と文句を言っているのだから。

「ユキさんが行けないなら、一人でも行くもん」

絶対行ってやる!
は拳を空に向かって突きつける。
仁王立ちして。
その様子を背後から見ていた者がいて、豪快に笑った。

「え?」

「悪い、悪い。街中でなにやってんのかと思ってね」

「あ、慶次さん。それに兼続さんも」

上杉家に仕えている兼続。
その兼続と同じように上杉に仕えている、と言うより、兼続の人柄に惚れたとかで一緒にいる前田慶次。
は笑われたことで恥ずかしく思いながらも、慶次だからしょうがないと割り切る。

「こんにちは。お二人とも何しているんですか?」

「何をしていると言うわけではないが」

「嬢ちゃんこそ、どうした?何か怒っているようだったけど」

「・・・・」

「ん?どうした、殿」

「聞いてくれます!」

「あ、あぁ」

は兼続にずずっと近寄る。
兼続はの勢いに一歩引いてしまう。

「ユキさんが、今度の休みダメになったって言うんです」

「あぁ、秀吉様から命じられた海賊討伐だな」

「それです!でも、前々からみっちゃんに言って休みをお願いして受理されたんですよ」

「なんで、嬢ちゃんがそれに怒るんだ?幸村は引き受けたんだろ?」

「だって!その連休を使って甲斐に戻るって約束があったんです!私と一緒に!」

「ほぅ」

幸村と珍しく衝突してしまった
理由はそう言う訳だった。
ただ、いつものならば、そのような理由は素直に聞いて大人しくしているのでは?
兼続たちはそう思った。
だから、そう問うとはシュンと項垂れてしまう。

「本当は、私だってわかっているけど・・・・この時期だけは、どうしても行きたいから」

幸村と一緒に。

「この時期?」

「もうすぐ、御館様のご命日なの」

「・・・・・」

天下を取るために上洛していた途中で亡くなった武田信玄。
甲斐にて静かに眠っているそうだ。
幸村とは毎年命日に墓参りをしていた。
今は大阪に住み、幸村も秀吉に仕えているために忙しくはなっているが
その日の為に前もって休みを申請していたのだ。
三成に一応それは伝わり休みがもらえたはずだったのだ。

「わかっているけど、この時期だけはどうしても・・・・・」

はキュッと唇を軽く噛む。
そしてパッと顔をあげる。

「ユキさんが行けないなら、私一人ででも行こうと思って」

「それは幸村でなくとも心配をするだろう」

「・・・・・私の我がままだってわかっています・・・でも・・・・」

「嬢ちゃんはどうしても行きたいと」

は頷く。

「じゃあ、こうしようか」

慶次は一つ提案した。



***



「別に俺が悪いわけじゃないだろう、それは」

幸村から詳細を聞かされた三成は、座っていた縁側にて面白くなさそうな顔をする。
そのすぐそばで行儀良く正座をしていた幸村は頭を掻いた。

「秀吉様がお前に命じたわけだからな」

「それで、結局幸村殿はどうなさるおつもりで?嬢ちゃんは絶対に甲斐に行くと言っているのでしょう?」

左近は出してもらった茶を啜り幸村に問う。

「私は、自分に与えられた任はやりとげるつもりです。ですから殿には私が戻るまで待っていてもらえたらと」

はそれが嫌なのだろ。一人で行くと言うぐらいだ」

「そ、そうなのですが・・・・」

「なんなら俺がと一緒に行ってやろう。俺は今暇なのだ」

三成の言葉に左近と幸村は同時に声を出すが、反応は違った。

「殿・・・・」

「だ、駄目です!」

左近は何を馬鹿なことをと言う反応。
幸村は力強く反対。
三成は幸村に向かって笑みを浮かべる。

「なぜ、駄目なのだ?俺自身が構わないと言っているだろう」

三成は幸村が言うだろう答えを遮り先に言う。
幸村の性格だ。
きっと『三成殿もお忙しいですから』などと言うに違いない。
そう思った。

「そ、それは・・・・えと・・・・」

「俺は暇なんだ、今」

「あー、その・・・・」

「はっきり言わんと俺はと行くぞ」

幸村の顔が段々赤くなる。
はっきり言いたくても言えない。
恥ずかしさとかで。

ぐぐぐと拳を膝の上で握り締めている。

「行った所で、何日かかるだろうな」

「陸路でなら、長くなりそうですね」

のことだ。色々な街で寄り道しそうだな」

左近と二人で好き勝手に話を進める三成。

「殿、殿と二人で行くんですか?」

「当然だ。供をつけるほどの旅でもないだろう。元々幸村はそのつもりだったんだろ?」

チラリと幸村に目線を向ける三成。
幸村は声には出していないが静かに唸っている。
悩みまくっているようだ。

「・・・・」

「幸村。はっきり言わんと本当に二人で行くぞ」

「駄目です、三成殿が行く必要はありませんから!」

パッと顔をあげ三成に食いつく。

「なぜだ?」

「も、目的は御館様の墓参りです。三成殿は御館様と接点はないですし・・・」

「確かに会ったことはないが、一人の軍略家としてなら尊敬すべき点はあるから偲んでもいいと思うが?」

グッと返答につまる幸村。
三成ははっきり幸村に言わせたいようだ。
彼の本心を。
幸村はまっすぐな性格で、思ったことに突き進むが、のこととなるとはっきり言えずに心にしまいこんでしまう。

(だから勘違いをされると言うのだ)

これから先を考えれば、黙ったままは損をする。
そんな気がする。

「俺は幸村の本音が聞きたい。
 何故、俺が共に行っては駄目なんだ?幸村はどうして日をずらしてまで行きたいと思うのだ」

「それは」

三成は腕を組みどっしりと構えている。
そんな三成を幸村は上目で機嫌を伺うかのような感じで見る。
左近から見たら、三成に叱られている幸村と言う風に見える。
今、誰かが通りかかって目撃したならば、そう思うに違いない。

「私が一緒に殿と行きたいからで・・・」

さらにもう一度三成を上目で見て。

「三成殿が・・・・・・殿のす・・・・好きな方だったら・・・・困るなぁとか」

旅先で何か起こるとか?
三成も左近も軽く噴出してしまう。
それはの気持ちを知っているからできるわけだが。
笑われてしまった幸村はただただ顔を赤くしているだけだ。

「お、お前は。前々から聞こうと思っていたが、の好きな男と言うのを誰だと思っているんだ」

「・・・・三成殿かなと・・・・・殿は三成殿とはすぐに打ち解けましたし」

三成は幸村から顔を背ける。
可笑しくてしょうがない。

「あ、あの三成殿?」

「すまん。そう思うならば幸村としては点数を稼いでおきたいようだな」

少し苛めすぎたかなとも思うから。
ここは手助けしてあげよう。

「俺が秀吉様に頼んで海賊討伐から幸村を外させよう」

「そ、それは駄目です。与えられた任はちゃんと」

「幸村殿、行きたいのか行きたくないのかわからないですよ、それは」

「あ、その。行きたいですが、仕事を犠牲にしてしまうのは」

「真面目だな。幸村は」

それが彼の良い所の一つだ。

「別に幸村でなくともできる任だ。さっき言っただろう、俺は暇なんだ」

変わりに三成が行くと言い出した。





「別にかまわんぞ〜ねねにまで頼まれてしまってはな。海賊討伐は慶次に頼むことにしたし」

「は・・・前田慶次にですか?」

秀吉に幸村の任を自分に変えてくれと頼んだ三成。
保険のつもりでねねにも頼んでみた。
だが、もう一方でも同じように思っていた者がいたようだ。

「慶次が暇でしょうがないから幸村と交代させろと言ってきた」

「そうですか」

「ま、今回だけだ。幸村には戻ってきたらまた働いてもらうさ」

秀吉は怒りもせずに承諾してくれた。
それを聞いたは喜んだ。
幸村は三成や慶次に何度も何度も頭を下げて礼を言った。

そして、二人で甲斐へと里帰りしたのだった。



「ユキさん。来年は来れるかな?」

信玄の墓前で手を合わせていたがふいに口を開いた。

「・・・・正直、わかりません。ですが、できれば来年も殿と一緒に来たいです」

「私も。ユキさんと来年も、再来年も一緒に御館様に会いに来たいよ」

殿・・・」

いつまでそうなれるかはわからない。
には好きな人がいるから。
でも、来年も一緒に甲斐に帰ることができたらいいな。








06/03/24
19/12/28再UP