こぞのゆき。




ドリーム小説
「あれー左近さんだー」

「ん?あぁ、これはこれは、のお嬢さん、こんな所で会うとはね」

大阪の街中で珍しい人に会ったと、互いに思った。
と島左近。

「お久しぶりです、元気でした?」

「一応。お嬢さんの方こそ、なんと言うか、武田があんなことになったしな」

「私はなんだかんだで、色んな人が支えてくれたから大丈夫だったよ」

「そうですか。それは良かった。ここへは何用で?」

「あれ、聞いていないの?」

「誰からですか?」

「ユキさん」

「・・・・・・あぁ、そう言えば、幸村殿こちらに来てましたな」

立ち話もなんだからと、近くの団子屋に入ることにした。
本当に、道のど真ん中で立ち止まっていたから、邪魔だったから。

「私、ユキさんと一緒に大阪に来たの。今も一緒に暮らしているよ」

「知りませんでしたな、まぁ幸村殿も何かと忙しそうで、ゆっくり話す機会も中々なかったですしね」

「ふーん。それで、左近さんは?今、誰かにお仕えしてるの?」

「お待ちどうさまでした〜」

「あ、はーい、どうも」

団子屋の看板娘の明るい声が割ってはいる。
三色団子に梅昆布茶がの前に置かれる。
左近は普通に茶を頼んだだけのようだ。

「いっただきまーす」

が団子を美味しそうに頬張る。
左近はそれを見ながら、話を続ける。

「俺を買ってくれる方がいましてね、今はその方に仕えてますよ」

「誰?」

「石田三成殿」

「みっちゃん?」

「そう、みっちゃん・・・は?みっちゃん?」

左近は茶を噴出しそうになる。
自分が仕える方のことを目の前の少女はあっけらかんと答えた。

「三成さんでしょ?みっちゃん。私がつけたあだ名。でも最近、ミッチーでもいいと思うんだけど〜」

左近さん、どっちがいい?
は団子の串を軽く振り回して言う。
そのようなものに答えようがないではないか。

「でも、そっか。左近さんはみっちゃんにお仕えしているんだね」

みっちゃんって呼ぶのを正直、止めえほしいなと思う。
ものすごく威厳とかが崩れていくから。
今、ここで三成が現れたら、自分は笑いが止まらない気がする。

は左近のそんな気持ちなどには気づくこともなく、団子を食べている。

団子を食べ終えた所で、どこに向かうのかと言う話になった。
だが二人とも単純に散歩をしていただけだった。

「今日は珍しく暇でしてね。たまにはこう、のんびり街並みを覘くのもいいかなとね」

「うん、天気いいもんね。あ、じゃあウチ来る?多分ね、みっちゃん来てるよ」

「俺が行っても良いんですかい?」

「もちろん。反対する理由はないよ」

左近がの分も払い団子屋を出た。

「ご馳走様でした、左近さん」

「いえいえ、たいしたことじゃないですからね。お嬢さんに払わす真似しませんよ」

二人並んで歩き出す。
秀吉が用意してくれた新しい真田の屋敷に向かう。
歩きながら、は今までのことを話す。
左近と知り合いだったのは、彼が一時期信玄の下にいたからだ。
信玄から軍略を学ぶ為にだ。
そして、左近が去ってから、今日まで互いに行方は知らなかった。

「あ、そうだ。左近さん」

「なんですか?」

「私になんで敬語使うの?私は普通の子だよ?」

「お嬢さんは信玄公のお気に入りだったわけだし・・・・可笑しいですかい?」

「うん」

「はっきり言いますね」

左近は軽く笑う。

「とりあえず、これからは敬語禁止!」

「やれやれ。ま、すぐにとは行きませんが、直していきますよ」

「ぜひとも、そうして下さいな」

そうしているうちに真田の屋敷に着いた。
やはりと言うか、庭先から聞こえる声に、ほらねとは指を指した。

「たっだいま〜」

殿!お帰りなさい」

元気よくが顔を出す。
幸村がの姿を見て破顔する。
庭では幸村と兼続が毎度の手合わせをし、三成は縁側に座りそれを見ていたようだ。

「どうも、お邪魔しますよ」

「左近」

の後ろからひょいと姿を見せた左近。

「えへへ、左近さんとさっき偶然会ってね、お団子までごちそうになっちゃった」

「お前たち、知り合いなのか?」

「一時期、信玄公の下にいましたので、その時に少し」

「そう言えば、何度か戦場にいたな」

兼続は当時を思い出す。

「お嬢さんには」

「左近さん」

に軽く睨まれる左近。
溜め息を吐きながら後頭部を掻く左近。

「そこも直さねばならんのですかい・・・・じゃあ、嬢ちゃんでいいですか?」

「うーん、名前で呼んでほしいけど、まぁ今はいいか」

二人のやり取りに幸村たちは顔を見合わせる。

「殿が来ていると言うんで、ついて来たんですよ」

「ユキさんは兼続さんと手合わせしていたの?」

「はい」

「ミッチーは絶対やらないもんね」

「くっ」

、お前はまた変な事を言い出す」

そして、相変わらず兼続のことはそのままだと、三成は眉間に皺を寄せる。
左近は三成から顔をそらし、笑いを堪える。

「左近」

「な、なんですか?」

に何を言われた」

「べ、別に何も言われてませんよ」

「・・・・・・」

「俺の眼を見て言ってみろ」

「嫌だな、殿。何もありませんよ、ねぇ、嬢ちゃん」

「そうだよね〜」

そして、そのまま三成の隣に座り込む

「ささ、ユキさん、兼続さん、手合わせ見せてくださいな」

「見せるもののほどでもありませんよ」

殿に負けた姿を見せたくないのだろう、幸村」

「ま、負けませんよ、私は」

少しムッとしたような顔を見せる幸村。
兼続は不適に笑んで、刀を構える。

「なら、続きと行こうではないか」

「望む所です」

幸村も槍を構える。
そして、再び二人は真剣勝負をすることになった。

「ユキさん頑張れ〜兼続さんも頑張れ〜」

「まったく・・・」

陽気なに対して、三成は面白くなさそうだ。
左近は三成の隣にとりあえず、座った。
そして、何気なく幸村を見ていたのだが、ふと気づいた。

「嬢ちゃん」

「はい?」

「・・・・昔から幸村殿は嬢ちゃんに対して敬語じゃないか、それは直さなくていいのかい?」

「・・・・・」

は自分に向けられた左近から視線をそらす。

「何の話だ?」

間にいた三成には意味がわからないので、左近に問う。
いつもならば、軽く流している所だが、幸村とは最近の自分にとって良い暇つぶしなので
何か面白いネタになるのではと、首を突っ込んだ。

左近はが言わないので答える。
先ほどの敬語禁止と言う会話、その理由。
自分とは浅い付き合いでも、は敬語を止めろと言った。
でも、もっと深く長い付き合いの幸村は変わらずには敬語だ。
これはどう言う事だろうかと。

「ほぅ。それは俺も知りたいな。単純に幸村はそれが格好いいからとか言ったら殴るぞ」

言いそうなの答えを三成は奪う。
は言われてしまったと、三成を睨む。

「兼続も似たようなものだが、幸村よりは硬くはないな」

「・・・・」

ほら、言え。

チラッと見ると三成の目がそう言っている。
は目線を幸村に向ける。
珍しく寂しそうな顔になる。

「ユキさんは誰にでも敬語を使うんだ。御館様は勿論、幸隆様にも、信之さんにも」

「まぁそれは目上の者に対してはそうだろうな」

「でも、みっちゃんや兼続さんとか・・・慶次さんとかにもそうでしょ?」

「そうだな」

「だから、可笑しなことはないよ」

はい、お終い。
は話を強引に終わらせようとするが、三成は逃がさない。

「逃げるな、。理由になっていない。
 そうだとしても、お前の性格ならば左近に言ったとおりに強引に直させるだろ」

「・・・・・・・」



「みっちゃんの意地悪」

「あぁ、俺は意地悪だ」

だから容赦はしない。
が立ち上がって逃げようとしても、きっと咄嗟に腕をつかまれて逃げ場はなくなるだろう。
はあまり言いたくないことなのだが、渋々と語る。

「誰にでも敬語なユキさんだけどね、唯一、そうじゃない子がいたんだ」

「ほぅ」

「御館様に、と言うより、ユキさんに仕えている感じだったかな。いつも二人は一緒でね」

本当の名前は知らない。
でも、そんなのは気にならず、自分とも仲良くしてくれた子。
周囲に同世代の女の子がいなかったから、唯一友だちと呼べた。

「女か」

「うん。ユキさん、その子にだけは敬語も使わなかったし、遠慮とかもなかった」

「それはそいつが幸村の部下だからじゃないのか?」

「・・・・・・でも、そうなんだもん。部下だからって言っても他の部下さんとは違うし」

なんか、痛い。
胸の辺りが、こう・・・チリチリする。

「ユキさんにとって、きっと一番なんだ、彼女は・・・・・・」

そして忘れられない存在だろう。
彼女は戦場でも幸村の役に立った人だ。
右腕と呼んでも可笑しくないくらい。

「それで、そいつはどうした?」

は首を横に振る。

「わからない。ある日どこかに行ったまま帰ってこなかったから・・・・・」

何があったとか知らせはない。
でも、あれから一度も姿を見せない。

「わからんな。だから、どうした。今からでも遅くはない、幸村にも同じように」

「やだ」

「嬢ちゃん?」

はキュッと着物を握り締める。

「無理だし・・・上手く言えないけど、なんかユキさんに無理矢理とか嫌だもん・・・・」

他はいいのか、左近はそう突っ込みたくなるが、あえて我慢する。

「だが、それだと一生変わらんぞ」

「・・・・・・無理なものは無理。あの子以上の存在になれないんだから、私・・・・」

の目からポロッと涙が零れた。

「あ」

は慌てて涙を拭う。
流石にそれを見て三成もギョッとする。

「ご、ごめん」

「・・・・・・前に、が幸村に片思いだと言ったのは、その女が幸村の好きな奴だと思ったからか?」

はこくりと頷いた。

「これは意外な展開だな」

ただ鈍いだけで、幸村の想いになど気づいていないのだろう、三成はそう思っていたのだ。

「嬢ちゃん、そうだったのか」

左近は呟く。
幸村に懐いているなとは思っていたが。
俯き加減で目元を擦る
止めたいと思う涙が中々止まらない。
鼻も軽く啜る。

殿!どうされました!?」

「ユ、ユキさん!」

の異変に気づいたのか、幸村は手合わせを止めての前に駆け寄る。
兼続も何事かとゆっくりとだが戻ってくる。
は慌てて涙を拭い立ち上がる。

「なんでもない!私、お茶淹れてくる!」

タンタンと音を立て廊下を駆けていく

殿・・・・三成殿、何があったのですか!?」

三成がを苛めたのではないと言う目を向ける幸村。
なんで俺がと、三成は無言で返す。

殿がどうしたと?」

兼続は拱手している。
三成はやれやれと独り言のように呟いた。

「苦労するな、幸村」

「は、はい?」

「気づいてもらうには、相当時間がかかりそうだな」

だが、その問題の種を撒いたのは幸村だ。
の言う女と幸村の間に何があって、どのような関係なのかを三成は知らないのだから。

の単純な勘違いと言う線もあるがな」

「あ、あの三成殿」

「精々他の男に取られんようにな」

スッと立ち上がる三成。

「帰るぞ、兼続、左近」

「三成」

「泣いておったぞ、は。慰めてやれ幸村」

それだけ言うと三成はさっさと行ってしまう。
仕方なしに兼続と左近も後を追う。

殿・・・・」

三成には言えて、自分には言ってもらえない。
それが少し寂しい幸村だった。








06/03/13
19/12/28再UP