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草青む。
「私だけ・・・生き延びてしまいました・・・・」 長篠の戦いで最強騎馬軍団と恐れられた武田軍は 織田軍の用意した三千丁もの鉄砲によって壊滅させられた。 真田幸村はある寺にいた。 「私だけって言わないでよ・・・・」 「・・・・すみません」 一人の少女を前にして幸村は頭を下げた。 だが、その表情からは本気で謝っているようには見えなかった。 「私は、寧ろユキさんが生き延びてくれて嬉しいんだよ、そんな顔しないでよ」 「殿・・・・」 何を言えばいいのか互いにわからず押し黙ってしまう。 そこへスッと障子が開いた。 「幸村殿、お疲れでしょう?まずはお身体を休めてくださいな」 「あ!い、いえ私は」 一人の尼僧が入ってきた。 彼女は武田信玄の側室だった女性だ。 信玄没後に仏門に入った。 はその彼女の元で暮らしていた。 以前は真田家の屋敷で幸村と一緒にいたが、状況が悪いとわかるとを彼女に預けたのだ。 「お疲れでしょう?何もないところですが遠慮なさらず」 「は、はあ・・・・」 「殿、話はその後でもできるでしょう?まずは幸村殿を休ませてあげなければ」 「・・・・はい」 はスッと立ち上がり部屋を出て行った。 幸村はその小さな背中に向かって何も言えなかった。 *** 結局武田は滅んだ。 勝頼は自害してしまった。 世が織田の手に渡るかと思われた時に、家臣の謀反によって織田信長は散った。 それから天下を狙っていくつもの戦が各地で行われたが、幸村はどれにも参戦せずに大人しく暮らしていた。 「今日は天気も良いな・・・」 父がいる信濃にも帰らず、今もこの寺にいる。 何度か父や兄が会いに着たが、他愛のない話をするだけでここを離れようとはしなかった。 「なんか、その姿見慣れちゃったなぁ」 竹箒を持って庭掃除をする姿。 得物であった槍ではなく竹箒を握っている。 は境内の手すりに頬杖をつきながら幸村を見ていた。 「殿」 「庭掃除ご苦労様、ユキさん」 「いえ」 「ね、段々豊臣の世になっているよ。ユキさん仕官する気ないの?」 上からそう声をかけられても幸村は苦笑するしかなかった。 「ないです・・・・何もかも失ってしまったから・・・」 「何もかもって?」 「色々ですよ、あなたにはわからないでしょう」 「わからないよ。失くしたならば取り返せばいいと私は思うよ?」 キュッと竹箒を握る。 「取り返す・・・・」 「毎日一緒にいられるのは私としては嬉しいけど。でも今のユキさんは嫌い」 「殿!」 はそう言い放ち走り去っていく。 最近一緒にいても前ほど楽しくはない。 ちくりちくりとに責められているようで。 だったら上田の城にでも戻ればいいのだが、彼女を残すのが嫌で。 彼女を可愛がった信玄はもういない。祖父も当の昔に亡くなってしまった。 それだけではない、信繁も信廉も馬場も高坂も原も全て亡くなってしまった・・・ 自惚れかもしれないが、自分がここを去ったらはどうするだろうか? そんな時に父からの使いが来た。 豊臣によってほぼ天下は治められていた。 だが、最後まで抵抗している北条に対して戦を起こすとのこと。 それに幸村も参戦しろと言うことだった。 迷う。 今更何をと。 「行けばいいのに」 座っている幸村の前に影ができる。 が仁王立ちして幸村を見下ろしている。 「殿!私は・・・・」 「だったらなんで毎日槍振るってるの?戦に出る気がないなら、あんなの捨てればいいのに」 朝晩、毎日鍛錬は続けていた。 幸村はの顔を見れない。 「私は、何も戦が好きだと言うわけじゃないの!ユキさんに行ってほしくないよ、危険だもん。 いつもそれを見送るだけだもん、私は・・・・それで帰ってこなかった人多いし・・・・ でも、今のユキさんは嫌い。逃げているみたいで」 「逃げる?私が・・・・」 「ユキさんのこと助けてくれた人に悪いよ、そんなの」 織田側についていた一人の武将。 なのに、突然自分を助けてただの野武士になった。 あの時、彼はなんて言っていた? 「失ったとか言うけど、私はそうは思わない」 彼女は強いな・・・ ぼんやりそう思った。 「ユキさんの中にまだ残っているよ。御館様や勝頼様の思いや願い、ここにさ」 はしゃがみ幸村に笑いかけて彼の胸に手を当てる。 「これから出会う人たちとそれを形にするのもありだよ、あり」 「殿・・・」 「私、また待っているから・・・ここで。 一緒にいられるのは嬉しいけど、ユキさんにはやっぱまっすぐ前を見ていてほしいな」 「・・・・・」 じわりと心に沁みる何か。 温かく感じる。 「うん、私はそんなユキさんが好き」 幸村はの肩を引き寄せ抱きしめる。 「殿・・・」 「あはは、さっきから私の名前ばっか呼んでるね」 「あ、その・・・上手く言葉が出てこなくて・・・・・正直まだ迷っています。色々なことに」 「そう」 「でも、次の戦には私も出ます。そこで何があるかはわかりませんが・・・・私なりにやってみます」 「うん。その調子」 は幸村の背中にしっかりと腕を回す。 「ユキさん」 「はい」 「無理しないでね。また帰ってきてね」 「はい、必ず・・・・あなたの元へ戻ります」 だから、少しの間お別れだ。 幸村はもう一度を強く抱きしめた。 数でモノを言わせた戦と言われるが、そこで幸村は友と呼べるひとたちと出会った。 長篠で自分を助けてくれた前田慶次もいたし。 北条も降参し世は豊臣のものとなった。 その帰り道。 「大阪、ですか?」 「秀吉様の本拠地はそこだ。お前も当然来るだろ?」 「幸村がそばにおれば、秀吉様も喜ぶ。どうだ、幸村」 このまま、少し長い旅になるが大阪へ行こうと友が言う。 「・・・・・」 「どうした?」 「あ、あの・・・・・・行くのは構いませんが、少しよりたい場所があるので後から行きます」 彼らは海路で大阪入りする予定だ。 だが、幸村もそうすると甲斐に行けなくなる。 「なんだ、女でも待たせているのか?」 「え、お、女と言うか」 カーッと頬が赤く染まる幸村。 それを見て、一人がニヤっと笑った。 「なんだ、図星か。面白い、俺も行こう」 「三成?」 「え、行くとは三成殿」 「どんな女か興味がある。この堅物が惚れるような女だからな」 「み、三成殿!私は別に殿には」 「ほうと言うのか。お前はどうする?兼続」 「そうだな、急ぎ大阪に戻ることもないようだし、私も行こう」 「か、兼続殿まで」 兼続と呼ばれた青年も大きく頷いた。 「気になってはいたんだ、慶次の話では久しぶりに再会して目が変わっていたと言うからな。 きっと、その殿のおかげかも知れんと思ってな」 「では、決まりだな。幸村案内しろ」 「あ、あの、でも秀吉様の護衛とか・・・・お二人は忙しいでしょうし」 「問題ないだろう、秀吉様には他の者がついているし・・・・なんだ?俺らが行ってはまずいのか?」 「い、いえ!そのようなことは。殿も喜ばれると思いますし」 なんだかんだと二人のペースに巻き込まれる。 単純に幸村をからかっているように見えなくもないが。 幸村は後頭部を掻き苦笑しながらも、気持ちはすでに甲斐に向いていた。 もうすぐ、あなたの元へ参ります。 約束どおり帰ります。 友と呼べる人たちと共に・・・・ 無双2仕様で。
06/03/06
19/12/28再UP
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