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その真っ直ぐな瞳が好きだと思った。 何にでも一生懸命な姿も。 好きだと思ったから、何かと自分を見てほしい。 私を好きになってほしいと思った。 思ったら、行動するしかないじゃないか。 だから、私は毎日頑張るのです。 けど…私の想い人は割と鈍かったりします。 「幸村君!この後暇?暇なら…」 「これからお館様が稽古をつけてくださるというのだ」 「あ…そうなんだ。怪我しないように気を付けてね」 「あぁ!」 嬉しそうな顔をし、幸村は駆けていく。 その後姿に手を振りつつも、は小さくため息を吐いた。 「…やっぱり、お館様には敵わないんだよね…」 遊びに行こうと誘っても、大体が信玄公との稽古という妙な技の掛け合いで断られる。 しかも満面の笑みで。 本当に嬉しいのだろう。 「あ。幸村君が好きそうなお菓子だ」 一人出かけた先で、美味しそうな饅頭が売っていた。 買って帰ったら幸村は喜ぶかな?と思って。 だから。 「おじさん。お饅頭10…20個ください!」 と少々奮発して買ってみた。 店主から饅頭を受け取り気分よく歩く。 けど、財布の中身を思うと少々へこむ。 20個も買う必要はなかったような?10個で十分だったような? いや、幸村にはこれでも足りないくらいなんだ。 「って言うか…私のお小遣い…甘味で消える…」 女の子ならばもっと他にも入用があるだろうに。 毎月の小遣いを信玄公からいただいている。 その大半が幸村への貢物へと消えているのだ。 「…貢ぐ…って…なんか情けないなぁ…」 それでも。 「いいのか!!それがしが貰っても」 「うん。幸村君に食べてほしいなと思ったから」 「嬉しいぞ、!すまないな。ありがとう!」 笑顔で言われてしまうと。 「うん。美味いな!」 美味しそうに食べてくれている顔を見ると。 「まぁ…いっか」 と貢ぐ事に関して悪い気分にはならなかった。 「いや…それってどうなの?俺から見ると、ちゃんは都合がいいだけの子じゃないか」 「…うえぇ…そう思っても、思わないようにしていたのに〜佐助さんの意地悪〜」 佐助とそんな話をしていた。 佐助にはの想いなどとっくに知られていたので何ら問題はない。 たまに話をして、佐助にあれこれ言われる事で次に向けて頑張ろうと思ったりしているからだ。 「そりゃあ、あの旦那だからね。恋愛なんぞ破廉恥だ!とか叫ぶような人だし。今も大将の力になりたくて一生懸命なんだろうけどさ」 「うん。お館様には私、敵わないの」 縁側で二人並んでお茶を啜る。 「でもさ。幸村君の笑顔を見て嬉しいなぁとか思うわけで」 「笑顔じゃ腹は膨れないよ」 「心は満たされるよ」 「一時でしょ」 「やっぱり、佐助さんは意地悪だよー」 は唇を尖らせる。 「誰かがはっきり言ってやらないとダメだと思うからだよ」 「うん。それはありがたいです」 けど、毎回その本心に心が痛むのだ。 「なんで、私の想いは伝わらないのかなぁ…」 ため息を吐きながらは空を見上げた。 「黙っていて伝わるような人じゃないよ。旦那の場合、特にさ」 はっきり告白しちゃいな。 佐助が言うも、自信がない。 今の幸村には何を伝えても無意味なような気がして。 それどころか、 「それがし、今はそのような浮ついた物に興味はないでござる」 ときっぱり振られてしまいそうだ。 「振られちゃった方が、ちゃんの為だと思うけどね、俺様は」 「えー…そんなに見込みないの?私…」 遊びに誘っても断られ、ただ好物を貢ぐだけ。 何をやっても振り向いてもらえない。 普通ならば諦めてもおかしくないのだ。 「……幸村君って…女の子が嫌いってわけじゃないよね?流行りの…」 「ないない。それは考えすぎだって、ちゃん。大将に関するあれは尊敬と憧れだからさ」 「だよね…」 そうだったら諦める決心が着くのにと一瞬だけ思った。 「頑張っても…好きな人に振り向いてもらえないのって…やっぱり辛いなぁ…」 この恋は最初から叶わぬダメなものだったのだろうか? そう思うと寂しいし、切ない。 そんな顔をしていたのか、佐助がの頭を優しく撫でてくれた。 数日後。 相変わらず幸村対して連敗続きの。 これでも諦めない、くじけないのは、たまに佐助が弱音を聞いてくれるからだ。 あとは、自分の性格かもしれない。 「幸村君はどこにいるのかな…あ、幸村、君…」 幸村の後姿を見つけ、声をかけようとしたが途中で辞めた。 幸村は一人ではなかった。 信玄公の娘、梅姫と一緒にいた。 しかも二人で楽しげに笑っている。 「…………」 最近梅姫に嫁入りの話が舞い込んでいると聞いた。 どこかの大名家だか、信玄公の配下の者とか。 誰かはわからない。 けど、信玄の娘である彼女にはそれなりの家が用意されているだろう。 「う、梅姫様!か、からかわないでくだされ!!」 「幸村殿のお顔が真っ赤よ?」 「そ、それは梅姫様がそれがしをからかうからで」 「あ。父上」 「お館様!?」 「…嘘よ。本当、幸村殿は父上が好きね。犬みたいに尻尾を振って」 楽しげに笑う梅姫。 幸村は照れくさそうに頭を掻いている。 そんな光景を見たは、姿を二人から見えないように隠してしまった。 そこへ、同じように二人の姿を見たのだろう、武田家の家臣二人が通りかかった。 「やはり、幸村殿の下へ嫁がれるのだろうなぁ」 「お館様も、幸村殿にならばと太鼓判を押すだろうし」 その会話はの耳に届いた。 二人はに気にせず話を続けている。 「先の戦でも、幸村殿が一番の手柄だったからな」 「それを思えば納得できる話か。幸村殿にも悪い話ではないからな」 本当なんですか?それは。 そう二人に尋ねる勇気はになかった。 二人はそのまま去っていく。 たまたま噂話をしていただけに過ぎない。 けど、その内容はには衝撃的過ぎた。 幸村と梅姫の婚姻。 武田にとって、誰にとっても何も問題はないものだから。 「振られちゃった方が、ちゃんの為だと思うけどね、俺様は」 つい最近、佐助にそう言われた事を思い出した。 佐助は梅姫との話を知っていたのだろうか。 だから、こうなる前にと彼なりに言ってくれたのだろうか? だったら、そんな優しさはいらない。 むしろ、いつもの佐助ならばはっきりと理由を言ってくれるじゃないか。 それとも佐助は告白して振られた方がいい。 そうすればすっきり終わる。とでも言いたかったのだろうか? 本人に聞いてみないとそれはわからない。 「けど…告白する前に終わっちゃったなぁ…」 考えれば考えるほど、胸が痛くて。 何もできなかった自分に悔しくて。 何一つ振り向いてもらえなかった事に悲しくて。 「もう…どうしていいのかわからないよ」 でも、幸村に嫌な子として自分を見せたくないから、きっと幸村に対して笑顔で「おめでとう」って言うのだろうな。 「あれ?旦那、どうしたの?何か探し物?」 キョロキョロしている幸村に佐助が声をかけた。 「佐助…うむ…最近…の姿を見ないと思って」 「ちゃん?」 そういえば、ここ最近が幸村を追いかけている姿を見なくなった。 先日話を聞いたとき、随分落ち込んでいたが、すぐに復活するだろうと佐助は思っていた。 「うーん…作戦変更でもしたのかな」 「なんだ?佐助」 「いえ。こっちの話ですよ」 追いかけすぎても印象に残らないのならば、いっそ、しばらく身を引いてみようというのだろうか? 押してダメなら引いてみろ。 そんな感じで。 そうならば、今割とその効果は表れているではないか。 よかったねぇと佐助は内心満足してしまう。 だが、実際は違った。 「あれ?ちゃん?何してんのさ」 「佐助さん。えへへ〜似合います?」 躑躅ヶ崎の館、その廊下をが歩いていた。 彼女がいることにこれと言って不思議はない。 ただ。その恰好に佐助は眉を潜めた。 小袖に打掛をひきかけていた。 「里美様の所で花嫁修業中です」 「は?」 里美は信玄公の側室だ。 子のいない里美にとって、は娘のような存在のようで可愛がっている。 「花嫁修業って…旦那と?」 「違います」 は顔を背ける。 「いつ、どこにでも嫁げるように行儀作法とかを里美様に習っているんです」 「えと…なんで、急に?」 「……だって、もう…」 の目線が下に下がる。 佐助はそれで、が幸村から身を引いたのだと知った。 押してダメなら引いてみろ。 ちょっとの間だけの事でなく、もう完全にという意味だった。 「なんで諦めちゃうのさ。ちゃん、あんなに頑張っていたのに」 「頑張っていても、無理だとわかったからじゃないですか…どうにもならないもの」 「けどさ!俺は、なんか嫌だな…そう簡単に諦めちゃうのって」 は唇を噛んだ。 「それ…佐助さんがいう?佐助さんは振られた方がいいって言ったくせに」 「それはさ、何か行動を起こした上での話であって」 「してもしなくても、振られたようなものだから同じじゃないですか」 の目から涙が零れた。 「だ、だって…もう…無理、だもん…」 は顔を両手で覆い隠ししゃがみこんでしまう。 佐助はに駆け寄る。 「ごめん。ちゃん。俺、そういう意味で言ったんじゃなくてさ」 「!?どうした!!?」 幸村が呆けたように突っ立っている。 「旦那…」 「な、な…泣いておるのか?」 は慌てて涙を拭い、なんでもないとそのまま立ち去ろうとする。 「待て!なんでもないわけないだろう!」 「幸村君には関係ない!」 「だ、だが…あ…」 追いかけた幸村の足がの打掛を踏んだ。 踏まれた事によりに、当然だがは転んでしまう。 「っ〜……」 「す!すまぬ!!!い、痛むのか!?痛むのだろう!!?」 「お腹痛いし、腕も痛いし…顔も痛いし、最悪なんですけど…」 勢いよく転んだだけに。 痛くて、痛くて涙が出る。 幸村と顔を合わせないようにしていたから余計に。 幸村はに手を貸し体を起こさせる。 「すまぬ。本当に…だが、お主が泣いていたとなると…気になるではないか」 「気にしなくていいよ」 「…そんな寂しい事を言うな。最近お主が顔を見せぬから、つまらないと思っていたのに…」 久々に会って冷たい態度を取られると、流石の幸村でも気落ちしてしまうようだ。 「べ、別に…そんな事ないでしょ。幸村君にはお館様とか、梅姫ちゃんとかいるし…」 「それとこれは違うと…」 「もうすぐ幸村君は梅姫ちゃんと結婚するって話だし、私だって、お館様に頼んでいい嫁ぎ先を探してもらっているんだから、だから」 「けっけけけ結婚!!?だ、誰が!」 幸村が顔を真っ赤にして叫んだ。 「幸村君と梅姫ちゃん」 「し、し、知らぬぞ!それがし、そのような話聞いておらぬ!!」 口をパクパクさせて慌てる幸村。 「だって、もう皆の噂だよ。お館様から太鼓判押されているって」 「し、知らぬ!さ、佐助ぇ!真か!!?」 幸村は振り返って佐助を問い詰める。 「いやー俺もその話は初耳っす。大体、梅姫様は北条家に嫁ぐって決まっていたと思うんですけどね」 「「へ?」」 も目が点になる。 「三国同盟の強化って事で、梅姫様は北条家に嫁がれて、武田には今川のお姫さんが来るって話なんですけどね」 「よかった…」 「………」 幸村は安堵し、は蒼白している。 「だ、だって…周りがそんな話をしていたのを聞いたんだけど、私…梅姫ちゃんと幸村君も仲良さげで楽しそうだったし…」 「だからーちゃんの勘違いって奴?ま。花嫁修業が無駄になる事はないだろうけどさ」 「花嫁修業?」 「な!なんでもない!!」 は目いっぱいかぶりを振った。 「そうか?」 結婚話がただの噂だと知ると、幸村は割とあっさりした態度だった。 はで、信玄公に嫁ぎ先を探してくれなどと頼んでしまったので、どうしようか困惑してしまう。 自分の勘違いだからなかったことにしてください。とは到底言えない。 「お館様!!よければそれがしに稽古をつけてくださいませ!!」 幸村は歩いていた信玄公の姿を見て駆け出した。 そんなものだよ、結局。 「……はぁ…これはこれで…いいのかな…」 あぁ、そうだ。 やっぱり、もっと自分を見てくれそうな誰かに嫁いだ方が無難だ。 嫁いでから関係を良好なものにすればいいわけだから。 大体、この時代の結婚とはそんなものだろうと。 「ちゃん。大変だねー」 「本当ですよ…でも、いいんです。諦めた事には変わりないので」 だから、しばらく花嫁修業は続行だ。 「!」 駆け出していったと思われた幸村が戻ってきた。 「今、思った。なんでそれがしと梅姫様が婚姻を結ぶと、が花嫁修業をしなくてはならないのだ?」 「う…」 「なんでか、教えてあげたら?ちゃん」 佐助がニヤニヤ笑っている。 「そ、そんなの…幸村君には関係ない」 は顔を背ける。 「か、関係ないとは言うな。寂しいではないか。これでもの事を心配しているのに」 「………」 「ちゃん。覚悟決めて言っちゃないよ」 ポンとの背を叩く佐助。 「そ、それは…わ、私が」 これで振られるかと思うと怖い。 けど、そうでもしないと終わらなくて、先に進めないのならば告白してしまうべきなのだ。 だから、は決心する。 「幸村君の事、好きだから」 言えた。 心臓はバクバク言っている。こんなに緊張したのは久しぶりだ。 「そうか。それがしもは好きだぞ」 「………軽い」 言い方が。だから、余計かと思ったが。 「ちなみに、お館様と私、どっちが好き?」 「お館様」 即答された。 「あ。いかん。お館様を待たせてしまっては!」 幸村は道場の方に駆けていった。 「……っとに!!幸村君のバーカ!」 自分の好きと幸村の好きの度合い、意味が違うではないか。 「でも、まぁ…まだ諦めなくていいんじゃない?」 佐助が励ますように言った。 「だから、性質が悪いんですよ!!きっぱり振られた方が楽なのに!!」 「恋愛で楽はできないのだろうね」 しかも幸村が相手だから。 佐助は笑い、は盛大にため息を吐いた。 【道は迷わせるためにあるのだ。】 たまには追いかける側に。
13/07/21
19/12/27再UP
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