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現在、伊達政宗様には一男一女のお子様がいる。 長男兵五郎殿は側室飯坂の局(猫御前)を母に持ち。 長女五郎八殿は正室様を母に持つ。 この先、様との間に男子が産まれれば、政宗様の跡を継がれるのはその子になるだろう。 正室と側室との間に揉め事が起こるかと、一部心配があったようですが。 過去に揉める出来事があったお二人。 今ではそれを乗り越えて互いに伊達家を・・・・。 いえ、猫様が様を立てるようになり、伊達家は安泰そのものでございます。 周りが心配するような事は、あまりない。 そういう事でございます。 えぇ、あまりですよ。あまり・・・・。 え?そのあまりがなにかですって? えー・・・・そのー・・・。 政宗様と様は少しばかり変わっておられる夫婦でございますからねぇ。 わたくしどもはもう慣れているのですが、知らぬ方はお二人の仲が悪いと勘違いなされるかもしれませんね。 所謂・・・。 伊達家名物。 と言ってもよろしいんじゃないですかね? 【流石にトイレまではついてこないで。】 長い長い遠征。 政宗が戦からようやく戻った。 怪我も病気もなく戻ってきた姿に誰もが安堵した。 「父上。お帰りなさいませ」 久しぶりに見る子どもの姿に政宗は口元を緩める。 「あぁ。帰ったぞ・・・毎日勉強を頑張ったみたいだな。綱元からそう聞いた」 偉いぞと兵五郎の頭をわしわしと撫でる政宗。 滅多にそんなことをされないので、兵五郎は目を丸くするも喜びからか笑顔になる。 「早く私も父上のお役に立てるようになりたいです!」 「そうか」 猫御前との婚儀については色々あったものの、兵五郎にはそのようなことは関係ない。 こうして父として慕ってくれるのがとても嬉しい。 猫にもすまないことをしたと言う気持ちもあるが。 彼女も今では母としての顔の方が強い。 そして、正室の事も受け入れてくれている。 政宗にとっては、彼女もまた大事な家族であるのに変わりない。 「母上たちはどうした?姿が見えねぇが・・・」 普通ならばいの一番に顔を見せてくれるだろう奥方たちが、少しもその姿を見せてくれない。 「あー・・・母上たちは・・・」 兵五郎が乾いた笑みを浮かべる。 「兵五郎?」 「えと・・・・いろはが・・・・」 「いろはに何かあったのか?」 言うべきか、言わざるべきか。 兵五郎は言葉を濁す。 政宗にはそれが何か悪い事のような気がしてしょうがない。 自分が幼少時に病で片目を失うことがあっただけに。 「政宗」 そこへがやってきた。 政宗の帰還に、その姿にふわりと笑みを零す。 「おかえり」 「あぁ・・・・」 「どうかしたの?」 曇る表情を見せる政宗には首を傾げる。 「。猫といろははどうした?」 は顔を見せたが二人の姿はない。 は兵五郎と顔を見合わせ苦笑している。 やはりいろはに何かあったのだろうか? 「えーとねぇ・・・政宗・・・ショック受けるかも・・・」 「ショック?」 やはり病にでもかかったのか?しかもかなり重い・・・。 「それがねぇ・・・・政宗に会いたくないんですって、いろはが」 「なに?」 「長い間不在だったでしょう?だからいろはが政宗こと知らないオジサンに見えたらしいわよ」 「なっ!」 伊達家に仕える者の大半が強面のリーゼントではあるが、中身は気安い者達だ。 そんな彼らを普段から目にしていれば、いろはもそう怖いと思うことなく。 暇があれば彼らと遊ぶほどだ。 だが、政宗はどうだ。 ちょくちょく激情する姿を見せるので、父親=怖い人。に映っているらしい。 戦で不在だった長期間の間に、怖いオジサンという記憶になっているらしい。 「あの、義母上・・・・父上が・・・」 「あーやっぱりショックよね」 「ち、父上!そ、そのいろははまだ幼いですし、父上とお過ごしになられる時間も少ないですから・・・」 同じく幼子から慰めの言葉を貰うのはいかがなものだろう。 「し、知らないオジサン・・・俺が?」 「私と猫様で政宗のとこ行こうと思ったんだけど、いろはがぐずっちゃって」 仕方なく猫御前がいろはの面倒を見てくれて、に先に政宗の下へと言ってくれたそうだ。 流石に正室が赴かないのはまずいだろうと。 「まぁしょうがないよね。政宗忙しいし」 「も、もしかしたら照れているのかもしれませぬ」 子どもに無理させているなぁとは感じ、兵五郎の肩にポンと手を置いた。 「兵ちゃん。いろはの様子見てきてくれる?」 「は、はい」 父の様子を気にしながらも、兵五郎はパタパタと足音をさせて室から出て行く。 残された政宗と。 政宗は胡坐を掻き、いつも通りに見えるも、若干重心が前に来ている。 あぁ落ち込んでいるなぁと見てわかる。 政宗のそばに腰を下ろす。 「・・・・」 政宗はごろりと身体を倒し、頭をの膝の上に乗せる。 「小さい子。特に女の子だとさ、政宗の怒鳴り声が怖いって思うんじゃないのかしらね?」 「俺は毎日怒鳴っちゃいねぇぞ」 「一度の怒鳴り声が大きいとか?」 それだけで萎縮しちゃうものよね。とは淡々と口にする。 だが恐らくいろはが見た怒鳴る政宗と言うのは、大概との口喧嘩のようなものだ。 周りがなれてしまっているし、さほど深刻に感じていないのだが。 幼子にすると、両親の口喧嘩は不安の材料になるだろう。 「どうすりゃいいんだ・・・」 「出来るだけ一緒に居てあげるのがいいんじゃないの?」 「その前に逃げられているんだが・・・」 「私も猫様も兵ちゃんも一緒にいるし、小十郎さんも成実さんも呼べば問題ないって」 見た目で言えば、小十郎の方が怖そうに見えるものだが、いろはは小十郎を恐れたことはない。 「いろはからよって来るのを待つと時間かかるよ?」 「・・・・」 は苦笑しながら政宗の頭を何度も撫でた。 大きな子どもがここにいると。 *** 夕餉の時間。久々に家族揃ってのものなのだが。 いろははの陰に隠れてしまっている。 なんでもない振りをしている政宗であるが、可愛い愛娘のその態度に内心酷くへこんでいる。 政宗は一緒に居たいと思うのだが、いろはの態度に何もできずに、結局早々に室から出て行ってしまった。 自分専用の書斎に行ったと思われる。 「いろは」 流石にこのままではいけないとは感じ、箸を置いていろはと向かい合う。 政宗が恐れられている理由の半分は自分にもあるわけだし。 「?」 「いろはは父上が嫌いなの?父上、戦から戻ってきたのにいろはが笑ってくれないから落ち込んでいるわよ」 いつもより強めの母の言葉。いろはは小さく唸る。 「だって、ちちうえはははうえのことおこっています」 やはり自分の所為か。は頭を痛める。 大概の人たちは自分達のやり取りを「いつもの事」で済ましている。 深刻な展開まで発展することはないしと高をくっていた。 「別に。父上と仲が悪いわけじゃないのよ?あれもそうね・・・コミュニケーションよ。スキンシップ」 「?」 「お互いちゃんと自分の思っていることをぶつけているのよ」 そこにくすくすと小さな笑いがまざる。 「そうですよ。五郎八姫。父上様と母上様は大層な意地っ張りですからね」 黙って成行きを見守っていた猫がそう言った。 「猫様〜」 はバツが悪そうだ。 今度は兵五郎がいろはのそばに座った。 「そうだぞ。父上はいろはのことが大好きなんだ。いろはが着ている着物もつけている簪も。 どれも父上がいろはに似合うだろうと思って用意してくださったものなんだぞ」 今着ている桃色の生地の白い花柄の着物。 これはいろはのお気に入りだ。 「・・・・・ちちうえ・・・ごめんなさい」 いろははスクッと立ち上がり室から飛び出した。 「あとは政宗次第ですよね。猫様」 「そうですね。でもそう難しいことではないでしょう」 元々娘に嫌われたと思ってへこんでいるだけなのだから。 書斎でふて腐れながら寝転んでいた政宗。 やるべき事は色々あるのだが、それも手に付かない。 「なんかいい方法はねぇもんか・・・・」 一緒に居ればいい。はそう言うが、居るだけで怯えられては何もなるまい。 トントンと小さな音が政宗の耳に届く。 「?」 「ちちうえ・・・」 蚊の鳴くような小さな声音。 恐る恐ると言うような感じで戸が開く。 その隙間からいろはが覗き込んでいる。 「いろは・・・」 「ちちうえ・・・・ごめんなさい・・・・いろはがわるい子でした」 スッと戸が閉められる。 「おい。いろは」 身体を起こす政宗。 再び恐る恐る戸が開く。 「いろははちちうえのこと、だいすきです」 誰かに言わされているのか?そう思うも人の気配はいろはのみだ。 「いろは。来てみな」 書斎に入って来いと政宗は手招きする。 一度覚悟を決めると行動力が勝るものなのか、いろはは書斎に入ってくる。 そのまま政宗の膝の上に乗った。 (あ・・・・すげぇ嬉しいんだが・・・・) 逸る気持ちを抑え、文机の引き出しから書物を出した。 ページを捲ると、押し花が姿を見せる。 「ほら。いろはにやるよ。プレゼントだ」 「いろはに?」 「戻ってくる途中で見つけた花だ。名前なんて知らねぇがいろはに見せてやりたくてな」 いろはの事を父上は大好きなんだぞ。 兄がその言葉が沸いてくる。 父はいろはの事をいつも見ていてくれているのだと。 「ありがとうございます。ちちうえ」 いろはは押し花を自分の手拭にそっと挟んだ。 失くさないようにと大事に懐にしまう。 これで安心だと政宗に笑いかけた。 「・・・・」 「ちちうえ?」 「その笑った顔。そっくりだな」 「ははうえと?」 親子なのだから当然だが、見ることができて政宗は嬉しかった。 彼女の笑顔を見るにも随分と時間がかかったのだから。 「ちちうえ。なにかお話してください。ながいあいだどこにいかれていたのですか?」 「ん?聞きてぇか?なら聞かせてやる。長い長い話になるぜ」 今までずっと離れていた分、沢山沢山聞かせてやろうと。 「極端すぎますよね、あれは」 猫とお茶を飲んでいる。 ほんの数日前まで父親を怖がる娘だったのに、今ではどこに行くにも政宗にぴったりくっついている。 流石に仕事中の邪魔はしないようにしているが。 それが済むと離れていた分の反動が大きいらしい。 「お寂しいのではありませんか?様は」 「寂しくないですよー。楽できていいじゃないですかー」 果たして本当だろうか?猫はくすくすと笑う。 「寂しかったのはきっといろはの方なんですよ」 「まぁ」 あともう一人、大きな子どもも。だろう。 「!」 「なに?」 いろはを連れてやってくる政宗。 にいろはを押し付ける。 「少しでいいからいろはを押さえておけ」 「何よ、その言い方・・・・」 「少しでいいんだ。いろはの奴・・・厠まで着いてくる・・・・」 流石にそれは勘弁して欲しいと政宗は思うようだ。 「贅沢言っているんじゃないわよ」 散々避けられてへこんでいたのに。 「いいから。少しだけだ」 政宗は踵を返し行ってしまう。 「ちちうえー!」 いろはも行く!と騒ぐいろは。 と猫は互いに顔を見合わせて声を出して笑った。 筆頭合縁奇縁から。
09/06/02
19/12/27再UP
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