ドリーム小説
は兄から2枚のチケットを貰った。
好きなジャンルのものならばそれは手放しで喜んだものだが。
生憎そんなに興味を引くものではなかった。

「俺に?」

だからそれに興味があるだろうなって人、志波に渡してみた。

「うん。お兄ちゃんが元々行くはずだったんだけど、行けなくなってさ。
志波は野球部だし、野球好きに使ってもらえた方がいいから」

遠慮しないで貰ってと。は志波に渡した。
そう、プロ野球の観戦チケットだ。

「遠慮なく貰う。サンキュ」

珍しく喜んだ表情を見せた志波に驚きつつもは頷いた。

「じゃあ、楽しんできてね」

「あ、

立ち去ろうとしたを志波が呼び止める。

「なに?」

「・・・・その。チケット2枚ある・・・・」

うち1枚を志波はに差し出す。

「一緒に行かないか?礼もしたい」

私はいい。そう志波に断るつもりだった。
礼なんかされるほどでもないし、自分も兄から貰っただけのもの。
何より、野球にさほど興味があるわけでもない。
けど、志波が誘ってくれたことが嬉しかったから・・・。

「私でいいの?野球に詳しい人とかの方がいいと思うけど・・・・」

おずおずと手を伸ばしていた。

「礼もしたいって言ったろ?」

を誘っているんだ。そう志波に言われてもう一枚のチケットをは取った。





【何か引っ掛かると思ったら君の指が服にちょん。】





試合はデーゲームと言う昼間行われるものだった。
夏休み明けてちょうどリーグ優勝争いに各チーム差が出てきた頃で。
たちが観に行った試合はその上位チームのものだった。
三塁側の内野席。
にはこれがいい席なのかそうでないのかわからない。
応援するには外野席の方が盛り上がりそうなものだが。
志波が大声出して応援する姿と言うのも想像できない。
二人して席に座って試合を観戦することになりそうだ。

「俺としてはゆっくり観られるから、その方がいい」

と志波が言ってくれた。
立ったままの応援だとどうしても、背の高い志波では後ろの邪魔になりそうだと心配があったから。

「志波は贔屓のチームとかあるの?」

「一応。今攻撃中のチームが」

「ふーん」

今日の試合結果でリーグ順位がひっくり返るとかスポーツニュースで見たのを思い出す。
観戦する側だと面白い試合を見られそうだ。

「なんか不思議な感覚だなー」

「?」

「ほら。私はあまり野球に詳しくないけど、試合中継を見ていると大抵、ピッチャーの背中越しに試合を見るでしょ?
だから、横からの目先ってなんか不思議だなって。当然だけど、球場って広いなーとも思う」

「そんな事考えた事もなかった」

「お子様な感覚だけどね」

少し恥かしいかな?と思いながら。
でもそこがらしいと志波に笑われた。



試合が進むと、元々多くない志波の口数が一段と減った。
家で見ているときにも思ったが、贔屓のチームが負けそうであったり、だらしない試合展開だったりすると。
途端不機嫌になる人はいるものだと。
にとって身近なところで兄だ。

「何やってんだよー、そこは振るべきだろ!」

とか。

「内角で攻めないから打たれるんだよ!」

とか。
ちょっと口も悪くなったりする。
隣にいる志波を見ると。

(怒ってるのかな・・・・)

文句は言わないもののジッと睨みつけるように見ていた。
その雰囲気がなんだか怖い。
話しかけるのも躊躇われる。

(私に野球の知識があれば良かったのだろうけど、ルール自体わからないからなぁ)

試合に出ている選手ですら、名前はそこそこ聞いた事はあっても顔までは知らない。

(佐伯や針谷だったら、一緒に盛り上がっているんじゃないかなぁ)

自分じゃなく、男友達でも誘った方が志波の為になったかもしれない。

(ちょっとつまんないかも・・・)

同じつまらないでも、好きなものに夢中で返事を疎かにされてしまうと。
「あぁもう本当にそれが好きなんだー。でも、ちょっと拗ねちゃうぞ」みたいな可愛らしい台詞の一つでも
言う事ができればいいのだが、今の志波には不機嫌さが加わっている。
余計な事でも言うものなら睨まれてしまいそうで。
自宅を出る前は、ちょっとデートなんじゃないのか?と密かに興奮したものだが。
試合が始まればそんな雰囲気は形もない。
元々付き合ってもいないのだ、それは当然だろう。

(中継でたまに客席が映って、カップルで来ている人たちとか見るけど・・・あれはお互い野球が好きだからなんだろうな)

共通の好きなものだから一緒に観ていて苦にならない。
今の自分は少々苦痛だ。
まだ観戦よりも、一緒に遊べるものならば良かったかもしれない。
だが、元々この試合のチケットは兄から譲られたものだから。
それと比べるのも可笑しな話である。
元々自分と志波とではデートするような仲じゃないわけだし。

(せめて試合に勝ってくれるといいんだけどね・・・)

そうすれば志波の機嫌もよくなるだろう。




***



の願い空しく志波の贔屓のチームは負けてしまった。
九回の裏、逆転のチャンスであったが、相手チームの抑えのピッチャーに手も足も出ず。
逆転になるランナー残塁のまま試合終了となった。

「・・・・・」

球場から出る人々の流れに乗ったままと志波も歩いていた。
志波はの少し前を歩いている。
無言だ。

(最悪・・・・この後どうすればいいのよ・・・・)

野球にそれだけ真剣なのだろうと思うのだが、後の事を考えると怖い。
これはこのまま「また明日」と爽やかに分かれた方が後腐れがないような気がする。

「あ」

そんな考え事をしていたから、志波と少し距離ができた。
は小走りで追いかける。

「し・・・」

志波。といつものように呼びかけたいが、なんだかそう呼べなくて。
でもこのままだともっと距離が出てしまう。
そう思ったら咄嗟に手が伸びた。

「・・・・・・?」

志波の服を軽く掴んだ。
掴むと言うより、摘むが正しいような。

「ご、ごめん。その・・・・離れ、て・・・・」

不快に思われたかもしれない。
ただ呼べば済む事だったのに。
けど、呼べずにいたし、志波と隣で試合を見ていても距離を感じたから。
正直、自分はあまり楽しくなかった。
だから。手を伸ばし、引き止めたかったのかもしれない。

「悪かった」

「え?」

「はぐれると大変だ」

志波は掴んでいたの手を取る。

「こうすればはぐれない」

「え。あ」

しっかりとの右手を握ってくれた。
足早だった先ほどとは違って、歩調をにあわせてくれる志波。
はぐれる心配などなくなっても、の手をしっかり握ってくれる。
もその手を離したくなくて、少し力を強めてしまう。

「志波の手。大きい」

「そうか?の手よりは大きいとは思う」

当たり前の話だなと我ながら思いつつも、そんなことしか言葉に出ない。
手を繋ぐなんて、子どもの頃なら平気でしていたことでもある程度成長すると恥かしさも沸く。
まして男の子相手だと。
志波はそう言うのを嫌がりそうだと思ったが。

「その・・・・恥かしくない?平気?」

「別に・・・・・。が離せと言っても離す気はないから」

「わ、私は・・・・・嫌じゃないし」

「ならいい。好きな奴に嫌われてねぇってわかってよかった」

さらりと言われた。
好きな奴と。

「そ、それ」

志波の顔を見上げてしまう。

「試合に夢中になりすぎて悪かった。のこと放っておいて・・・・最低だ、俺」

途中から不機嫌になったのは、その所為でもあるらしい。
半分自己嫌悪に陥っていたようだ。

「顔に出ていたのかな?だったらゴメン。私、野球よくわからないから」

志波が最低などという事はない。
思えば自分にも非はある。
隣でつまらなそうな顔をしていたのだろう。

「だから、気にしなくていいよ」

「気にする」

なぜ?と問い返そうと思う前に志波が強く手を握り返してきたから。

「また・・・・を誘えるか、誘って返事がもらえるか不安だから・・・・」

今回の事で呆れられでもしたら、二度と誘わないでと言われたら。
それは志波だけでなく、も同じだ。

「今度は、一緒に楽しめるものがいいね」

それを言うだけでも酷く緊張した。
ここで終わりではなく、また志波と一緒にと願ったから。

「だから、また誘ってもらえると嬉しいな。私も誘うから」

「・・・・あぁ、そうする」

まださっきの言葉の意味をちゃんと聞いていない。
けど、これだけで胸がいっぱいだ。

「何か食って行くか。腹減った」

「うん。あ、そうだ。野球のルールを教えてよ。野球も楽しみたいなって思ったから」

「あぁいいぞ」

きっと志波の好きなものを、自分も好きになればもっと楽しめると思ったから。
少しどころか、距離が大分縮んだかな?








ときメモGS2の志波君でした。
09/09/06
19/12/27再UP