寂しいのはこっちもなんだけど。




ドリーム小説
最近、特に思う。

俺。なんで忍なんだろうなって。

「いやいや、それを言っちゃオシマイなんだけど・・・」

「佐助?」

日当たりの良い茶屋の縁台。
佐助は上司幸村とともにその縁台に腰掛けていた。
ふと漏らした佐助の言葉に幸村は顔を向けた。

「あ。別にただの独り言なんで」

忍であることに不満があるわけではない。
上司を裏切り一旗上げようなんてことは、少しも思っていない。
この人の下で働けることは嫌じゃないのだ。
少々熱血で天然なお方ではあるが。
あぁ、あとできれば給料はもうちょい上げてほしいってのが本音だ。

「独り言とはどうした?何か悩みでもあるのか?」

本日5本目となるクシ団子を頬張る幸村。
見ているこっちが胸焼けしそうになる食欲だ。

「別に悩みなんてないっすよ。旦那の考えすぎ」

「そうか?お前はあまり自分の事は口にしないからな。何かあるならちゃんと言え」

佐助個人の意見を言わないと言うわけではない。
ただ自分の感情を出さないと幸村は言いたいのだろう。
無表情だとかそういうのではなくて。
軽口で「えーそんなの嫌っすよー」とか不満っぽくもらすも、それを心底感じているわけでもない。

「別に、そういうわけでもないんですけどねぇ」

「佐助は割り切りすぎているからな」

「は?」

「まぁいいかで終わらせる。ってことだ」

物分りがいいとも言えるが、諦めが早いとも言える。

「ですけど。旦那。俺がそんな任務嫌ですよー。なんて我が侭言って通るわけないじゃないっすか」

駄々をこねる忍なんて聞いたこともない。
もしそんな事をすればこっちは簡単にクビだ。
すぐにでも別の者が自分の座を奪うだろうに。

「誰も任務の事を言っているのではない。もっと個人的なことだ」

「個人的なことねぇ」

思い当たる節なんかない。
佐助は頭の後ろに手を組んだ。

「佐助は日頃から、それがしのことを天然だとか、鈍いなどと言うが。佐助もかなりのものだと思うぞ」

その発言に佐助はひっくり返りそうになる。

「な、なに言ってんの、旦那!?俺が?鈍いって?しかも旦那に指摘されちゃうなんて!!」

「それがしのこと、バカにしておらぬか?」

ムッと唇を尖らせる幸村。

「幸村くーん!佐助さーん!」

一人の少女が手を振りながら駆けてくる。

。どうしたのだ?そんなに急いで」

「あんまり急ぐと転んじゃうよ?」

佐助に言われて少女は頬を赤らめる。

「そんなにドジじゃないですよー。でも、本当二人はいつもここに居るんだから」

捜すのに楽ではあるが、なんとなく他に行く場所はないのだろうか?と思える。
は軽く深呼吸をする。

「えっとね。お館様が佐助さんを呼んで来て欲しいって」

そんなに急ぎでもないため、に言付けを頼んだらしい。

「旦那じゃなくて俺?また何か偵察任務かねぇ」

人使いの荒い人だと佐助はぼやく。
それだけ信玄も佐助の能力を高く買い信頼しているのだろう。

「ちょっと行ってきますんで」

佐助は縁台から立った。
それから間もなく姿を消した。

「・・・・・・」

佐助の消えてしまった場所をポツンとは見ていた。

「そんな所に突っ立ってないで座ればどうだ?なんなら団子でも饅頭でも奢ってやる」

はニ三度目をパチクリさせて、ややあってから頷いて幸村の隣に腰を下ろした。
折角の幸村の奢りだからと、団子と饅頭以外に餡蜜も注文した。





信玄に呼ばれた佐助。
その内容はやはりと言うか、とある場所への偵察任務。
いつもの事だし、佐助にしてみればそう難しい事もないのですぐに済むだろうと思った。
だけど、今回はいつも以上に偵察場所が複数となっていた。

(あらまぁ。こりゃあ中々帰ってこれないかもね)

すでに準備万端の佐助は後の事を、他の忍に任せて出立した。
その向かう途中で、さっきの茶屋が目に入る。
幸村とが甘味を食べて楽しげに話している姿だ。
一言「行ってきますんで」と言えばよかったのだが、なんとなく癪で。
立ち止まらずにそのまま行ってしまった。

なんとなくため息が出る。
こういう時に思ってしまうのかもしれない。
なんで忍をやっているのだろうかと。





佐助が偵察任務に出て十日ほど経った。

「どこまで行ったんだろうね、佐助さん」

「そうだな。お館様が色々命じたようだ」

「佐助さんがいないとつまらないね・・・・幸村君のツッコミ役がいないから」

別に漫才などやっているわけではないのだが。
だが幸村がそんな事を知る事もなく、淡々と違う反応を返してきた。

は単純に佐助がいないから寂しいだけだろう?」

「え・・・あー・・・・うん」

こくりと頷く
今日も今日とて茶屋で甘味を食べている二人。
佐助がいないといくらでも食べ続ける幸村を止めるのは大変だ。
店側にしてみると幸村一人のおかげで儲かっているだろうが。

「だが、なぜその素直さを佐助本人の前で出さぬのだ?」

「っ!ゆ、ゆき、幸村君!!」

「今更の事ではないか。しかも今佐助はおらぬしな」

「そ、そうだけど〜はっきり言われると恥かしいよ〜」

行儀が悪いと思うが、足をバタバタさせてしまう。

「見ているこっちが恥かしいぞ」

「どこがよっ!」

幸村とは年の近い兄妹、姉弟とも見て取れる。
気兼ねする事のない悪友とも言えそうな気がする。
だからか、二人の会話からわかるようにが佐助に憧れている話も平然とできるのだ。

「でも佐助さん大人だからなー。私みたいなのより、大人の美人とかタイプっぽよね」

「そうか?・・・・佐助はが思っているほど大人じゃないぞ」

「うわっ幸村君に言われるなんて佐助さん可哀相〜」

哀れむかのようなの表情。
小バカにしてしまったような自分の態度に、態度を硬化させるかと思ったが。
意外にも幸村は冷静だった。
いや、冷静と言うより呆れているのが正しいかもしれない。
パクリと饅頭を頬張る。

「幸村君?」

幸村はの顔を見て、ふぅとため息を吐いた。

「もう!なんのよー!」

は幸村の身体を掴んで揺する。

(気付かぬは当人たちばかりで呆れているだけだ)

揺すられても幸村は平然とそんな事を考えながら饅頭を頬張り続けた。

「あーあー・・・・佐助さん、早く帰ってこないかなぁ」

教えてくれない幸村に厭きたのか、諦めたのか。
はパッと手を離し、足をブラブラさせる。

「まったくだな」

任務だから仕方ないのだが、やっぱりいつも見る顔がないと寂しいものだ。
他愛のない、忍らしくない彼の言動が心地良いと思っているのかもしれない。

「幸村君も佐助さんいなくて寂しいんだ?」

「佐助の淹れる茶が美味いからな」

「やだなぁ。佐助さんだから幸村君のオカンって言われるんだよー」

笑い出す

「ぬ?そうなのか?佐助がそれがしの母上など・・・・考えただけでも怖いぞ」

真面目な顔をして、想像でもしたのだろうか。
それからお互い顔を見合わせて噴出してしまった。

「?」

「どうかした?幸村君」

ふと揺れた梢に幸村は気付いた。

「あぁ。佐助が帰ってきたようだ」

「本当!?なんでわかったの!!?」

「内緒だ」

ただすぐに顔を見せずに去ってしまったことを思うと、幸村は笑わずにはいられなかった。





自分でも大人気ないかなと佐助は思った。
ようやく終えた偵察任務。
疲れたこともあるが、幸村との楽しそうな光景が佐助に苛立ちを与えたのだ。

(あー・・・・俺様カッコ悪ーい)

信玄への報告をし、自室へと戻った佐助。
ごろりと畳に身体を伏せて寝転んだ。
はともかく幸村には気配を察知されたと言ってもいいだろう。
出立前に言われたこと。

「佐助は日頃から、それがしのことを天然だとか、鈍いなどと言うが。佐助もかなりのものだと思うぞ」

あれがかなり尾を引いている。
旦那にはお見通しですか?
こんな俺のこと呆れているんでしょうね。
自己嫌悪ばかりが浮かんではため息と共に出て行く。

「佐助さん!お帰り!!」

「え?」

勢いよく開かれた障子に佐助は顔を上げる。
開けたは寝転んでいた佐助にあ、と声を漏らした。

「ごめんね。佐助さん帰ってきたばかりだもんね、疲れているよね」

邪魔をしてしまったとが戻ろうとする。

「いや、平気、平気!」

慌ててを引き止める。
さっきまでの腐っていた気持ちが、が来てくれただけでスッと和らいだ。
佐助は身体を起こす。
は佐助のそばにちょこんと座った。

「幸村君が、佐助さんが帰ってきたって言うから。すごーい、本当に佐助さん帰ってきた」

「そ、そう。旦那がそう言ったんだ・・・」

あーやっぱりばれていたようだ。
だがその幸村は一緒ではなく一人だ。

「佐助さんいなくて寂しかったよ」

「そんな事ないでしょ、別に俺がいなくても・・・」

君は旦那と仲良くやっていただろうし・・・。
そう零しそうになったが飲み込んだ。
はそんな佐助には気づかず、かぶりを振る。

「ううん。佐助さんいなくて寂しかったよ。幸村君も言ってたし」

なんか物足りないんだとは笑いかける。
その笑みが卑屈な心を消してくれる。

(俺も・・・少し素直にならないとダメか)

佐助は軽く髪を掻く。

「あー・・・えーと、ちゃん」

「はい?」

「俺も。俺も寂しかったよ。俺が居ない所で旦那と二人で仲良くやってんだもん」

の顔をのぞき込むように佐助が見ている。

「な、仲良くって・・・・ふ、普通です。普通。だ、だって、あの」

「俺とも仲良くしてくれると嬉しいんだけど?」

「する。っていうか、今までだって佐助さんと仲良かったじゃないですか」

の頬がぼっと真っ赤に染まる。
仲良くして欲しいだなんて、面と向かって言われるとは思わなかった。

「そうなんだけどねー。俺が言う仲良くは、もっと個人的に深くってことかな」

深く・・・。
頬だけでなく、は耳まで赤くなる。

「お仕事頑張っている最中に、ちゃんは旦那と楽しんでいるんだなーって思うとなんか面白くなくてさ」

あぐらを掻きながら、落ち着きのない様子で身体を揺らしている佐助。
あぁ幸村の言う意味がわかった。

「佐助はが思っているほど大人じゃないぞ」

今の佐助の言葉とか仕草を見て。
それに「俺も寂しかった」と佐助が珍しく口にしたではないか。
茶化すこともなくだ。

「私は、佐助さんって・・・大人の女性が好みなのかな?って思ってた」

「あれ?俺そんな事一言も言っていないよ?だって俺が好きなのはちゃんだもん」

照れもせずにさらっと佐助は言った。
だがすぐさま、あまりにもさらっと言い過ぎたと佐助は反省する。

「俺の好きな人はちゃんです。俺と付き合ってください」

真剣でいて、優しい佐助の眼差し。
は一瞬呼吸をするのを忘れてしまいそうになる。

「どうかな?ちゃん」

見惚れていましたなんて言うのは恥かしい。
けど、そんなの答えは決まっている。

「はい。私でよければ」

ははっきり口にした。

「私も。佐助さんのこと好きです」

「そっか。嬉しいねそれは。もう寂しくなくなるな」

と破顔する佐助に自分も嬉しさを隠せないだった。








09/05/30
19/12/27再UP