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最初は何、たそがれているのかな?って思った。 それを見る目が切なそうで、寂しそうで、泣きそうな顔で。 元々何を考えているのかわからないような奴だったから。 そんな顔をするのにとても驚き。 同時に私までなんか泣きそうになった。 「志波」 「・・・・あぁか」 「野球部頑張ってるねー。知ってた?ウチの学校結構強いらしいよ」 「・・・・みたいだな」 志波が見ていたのは野球部の練習。 フェンスに手をかけジッと見ている。 「野球部の練習、見てたんだ?」 「・・・いや。もう帰る」 「は?なんで?」 思わず聞き返してしまった。 「…なんだ?」 かなり真剣に見ていたから。なんとなくそこから動く気配も感じられなかったし。 「えーと・・・もういいかな?と思って」 「・・・・・・いい。・・・見てると、思い出すから」 「なにを?」 「・・・・・ガキの頃から、ずっとやってたんだ・・・・・野球」 それは初耳だ。元々運動神経はいいなと思っていたけど。 野球部から目線を外さない志波に、私までつられて釘付けになってしまう。 「そっか。あ・・・・・辞めたって風に聞こえるけど?」 「・・・・・・中学最後の試合で、オレは・・・。オレは、取り返しのつかないことを・・・・!」 志波はフェンスを強く掴む。ガシャンと音が響き、私は肩をびくりと揺らしてしまった。 何か聞いてはマズイ事を聞いたのだろうか? 「・・・・・行く」 「志波!?」 志波は私に背を向ける。野球を思い切り拒絶しているような態度で。 「悪い。さっきの話、忘れてくれ。じゃあな」 「ちょっ!志波!」 呼び止めても志波は止まらなかった。 【甘えは寂しさの特効薬。】 私と志波ってなんだろうな?と考えることはあまりなかった。 無口で何を考えているのかわからない奴だけど、一緒に居るのは嫌じゃない。 むしろ、居心地はいいよなって思う。 志波の纏っている空気っていうのかな? 単純に考えれば友だちではあるね。 休みの日に予定が合えば一緒に遊びに行くし、志波も誘ってくれる。 誘う相手が他にいないのかい?なんて聞けば、志波にも言い返される。 「誘ってくれる相手は他にいないのか?」 って。残念ながらいませんよー。 あ、まぁ、たまに針谷たちとも遊ぶけど。 針谷とは中学からの付き合いだし、もっとも針谷はバンド活動で忙しいからね。 あいつからの呼び出しはその手伝いが多いし。 あまりに長時間拘束されると、バイト代でも請求しようかと思うけど、まぁ一生懸命だから頑張って手伝ってしまう自分も居る。 あの日、野球部を見ていた時のことはあれきりで、話題にならなかった。 なんとなく志波も話しづらいような態度だったし、私もそれ以上は踏み込んではいけないのかな?と思って。 友だちならもっと踏み込んでしまえよ!と言う強気な態度な自分も居るけど。 踏み込むというより、志波にとって踏み荒らされてしまうような状況にはしたくなかった。 勇気がないのかな? 「お前には関係ない」 の一言を言われるのが怖いのだと思う。 ただの友だちではそれ以上は踏み込んではいけないのかな? 志波にとって、話せるのはお互いを理解した彼女とかになるのかね? ・・・・あ。 なんかちょっとだけ寂しいって思った。 土曜日の午後。たまたま通りかかったグランド。 「あ・・・・うちの野球部だ。あー試合やっているんだ」 積極的に他校との練習試合を組んでいるのを知っている。 よく試合結果報告なんてのも見るし。 野球部なんかは本気で甲子園を目指しているようだ。 あ、そんな言い方は野球部にも他の部にも失礼かな? 私は帰宅部なので、部活とは無縁な毎日だけど。 頑張っている友だちを見ると、なんか「おぉ!」と応援したくなるものだ。 「あれ・・・あそこにいるの・・・・・志波!」 いつかと同じように志波が野球部を見ていた。 野球部と言うか、試合? 「・・・」 「試合見ていたんだ。野球部の応援?」 「・・・まあな・・・」 どうしたのだろうか?志波の機嫌が悪い。 「汚ねぇぞ、ピッチャー!」 うちの野球部員から野次が飛んだ。 「ウチが勝ち越したとたん、デッドボール連発しやがって!引っ込め!」 「志波・・・これって・・・」 志波の機嫌が悪いのは相手ピッチャーの行動によるもののようだ。 「・・・さっきから危険球ばかりだ・・・あの野郎、全然変わってない・・・」 志波の目が本気で怒っている。 スポーツマンでなくても、あのピッチャーのする事は許せない。 と言っても、見ているだけの私たちではきっと野次を飛ばす事しかできないのだろう。 「えっ?ちょっと・・・志波!?」 志波は何も言わずにベンチに行ってしまった。 ウチの野球部の顧問の先生に何か話している。 野球を以前はやっていたと言う志波。 何かあって辞めてしまったようだが、今から何をしようと言うのだろう? びっくりした。 志波が先生と何か話していたかと思うと、しばらくしてユニフォームを着てバッターボックスに立っていたから。 唖然、呆然? なんで?志波が?って、びっくりした。 しかも相手ピッチャーと知り合いのようで、会話をかわしていたけど。 その会話もあまり和やかと感じさせない物騒な内容だった。 本当、審判も相手の監督さんも指導しろよって思うなぁ。 交代で出場した志波だったけど、その後見事にそのピッチャーからホームランを打った。 野球を辞めた。なんて思えないほど華麗で。 あまり野球を知らない私でも「おぉ!」ってうなってしまった。 ただちょっと通りかかっただけなのに、気付けば私は試合終了までずっとそこで見ていた。 「」 試合後、野球部はミーティングもしていたようで解散となったのは夕方だった。 帰っても良かったのだけど、なんとなく志波がどうしたのかな?と思って終わるのを待っていた。 「志波!大丈夫だった?途中からの試合出場なんて」 志波は顧問の先生になんと言ったのかは知らないが、オレは野球部員だ。ってピッチャーに言っていた。 「ああ・・・・待たせて悪かったな」 「なんてことないよ。勝手に待ってただけだし・・・顧問の先生はなんだって?」 あの機嫌の悪さはとっくに消え失せているようだ。 いつもの志波に戻っている。 「・・・・オレにやる気があるなら、歓迎してくれるってさ」 「へぇ、よかったじゃん!」 「・・・おまえがいてくれたおかげで踏ん切りついた。サンキュ」 トクンと心臓が跳ねたような気がした。 「えっ。私は何も・・・」 していないよ。ただ突っ立って見ていただけだ。 「いや・・・おまえがいなきゃ、オレはあそこに突っ立ったまま・・・。中学んときのまま、立ち止まってたと思う」 「志波・・・」 「だから・・・ありがとう。」 お礼を言われる意味がわからない。 本当に私は何もしていないから。けど、突っぱねるのは可笑しいし。 志波の気持ちを無下にしたくないから。 「うん。これから大変だろうけど、頑張れ!」 そう言って、思いっきり笑顔を見せた。 恥かしい気持ちはある。お礼を言われたことや、私のおかげ。なんて・・・なんか特別っぽい言葉が。 耳まで真っ赤になっていそうだなって、なんか照れる。 けど、夕日のおかげで少しはそれが隠れてくれていると思いたい。 志波が野球部に入部した為に、前より会う時間は減った。 ほぼ毎日練習だもんね。 しかも途中入部。甘えは許されないんじゃないかな? 野球はチームプレイのスポーツだし、部員たちと打ち解けたりしないと大変だろうしね。 元々クラスも違うから志波と出会う前の時間に戻ったような気がした。 今もきっと練習しているんだろうな。 ちょっとだけ見に行こうかな?でも・・・なんとなく邪魔をしては行けないような気にもなる。 「オーッス、!ヒマそうな面してんなー」 針谷に強く背中を叩かれた。 「痛いって・・・ヒマそうな面ってのがどんなか知りたいものだっての」 「見たまんまだ。今のの面がそうだ」 くつくつと笑う針谷。 「よーし。ヒマで仕方ないというお前に、オレ様のお供をさせてやろう」 「はぁ?お供だ?」 針谷が私の肩に腕を回す。 「そうだ。お供だ。光栄に思え」 顔と顔が近いっちゅーの。だけど、これが針谷とのいつもの事なんだよね。 「いつもの衣装選びっすか?仕方ないなぁ、私のセンスでいいものを選んでやるか」 「オレよりもいいセンスってのは初耳だな〜?」 「針谷よりはいいと思う」 「なにをー」 ぐしゃぐしゃと私の髪を掻く針谷。 「ちょっ!髪が乱れる!やめれー!」 針谷は離れて偉そうに拱手をする。 私は乱れた髪を手で整え、軽く針谷を睨みつけるも、それも一瞬だ。 結局いつものやり取り。 互いに笑うだけ。 「元気でたか?」 「え?」 「最近のはヒマそうじゃなくて、寂しそうだと思ったからな」 コイツは本当目ざといなぁ。 長い付き合いだからわかってくれるんだ。 確かに志波と会う事がなくなって、野球復帰は嬉しかったが、会わないことに寂しさがあったようだ。 「へへ。サンキュ針谷」 「いいってことよ。ま、衣装選びには付き合わせるけどな」 「お供しますよー針谷様ー」 今日は針谷に付き合って楽しもうっと。 もうすぐ期末テストだという時、志波から電話があった。 「悪い・・・・急に頼んで」 「いいって。私で役に立つのかわからないけどさ」 テスト勉強をしたいからと呼び出されたのだ。 野球部に入ってからほとんど勉強をしていなかったらしい。 「ま。今までもあまり勉強なんてしなかったけどな・・・」 「いいじゃん。やる気になっただけ偉いって」 「褒められているのか?それは」 「褒めているんだよー」 くっと笑う志波。 本当、久しぶりだなぁ。志波と一緒の時間って。 テストは嫌だけど、そう言う時間を設けてくれたことにはちょっと感謝してしまう。 テスト勉強をする場所は志波の部屋。 男の子の部屋だなーと思うけど、部屋でもトレーニングをやっているみたい。 ダンベルとか置いてあるし。 ・・・少し緊張しちゃうなぁ・・・。 「どうした?」 「な、なんでもない」 「緊張しているとか?」 「え?き、緊張は・・・・す、少し」 「ハハッ。お前らしくない。別になんもしやしないって」 そ、そういうわけじゃないんだけど。 まぁ、私が一方的に感じただけだしね。志波は真面目にテスト勉強をしようとしているのだから。 それからすぐに教科書ノートを開いて勉強を開始する。 基本私は人に教えるのは得意じゃないんだけど。 志波の為になるようにと頑張ってみる。 「それで、ここのyが・・・・・聞いてる?志波?」 目線がどうもノートに向いていない志波。 「・・・・あ。悪い」 聞いていなかったのか・・・・。 私の右斜めにいる志波。いつもは向かい合うか、隣にいるかだからなんか新鮮ではあるが。 「教え方悪かったかな?他の子に頼んだ方が良かったかもね」 「違う。そうじゃない」 志波は髪を掻く。 「集中、できていなくて・・・・」 「勉強だとそうなっちゃうか。わかるよー私も。つい漫画に手を伸ばしたり、掃除なんか始めちゃったりさ」 「・・・・・・」 「志波?」 反応が鈍い。どうしたのかと思って志波の顔をのぞきこんだ。 「っ!?」 サッと逃げられたような気がする。 「わ、悪い。・・・・」 「え、あ、いや・・・別に・・・・・」 「悪い」 そう何度も謝れる意味がわからん。 「悪い」 「あのねぇ。別に謝られるようなことはされていないよ?」 「悪い」 おいおいおい。人の話聞いていたか? 「約束破る」 「は?」 約束ってなんだっけ?と考える間もなく、私の体は強く引っ張られた。 「え?」 気付けば志波の腕の中。 「え?えーーー!?」 「悪い。我慢できねぇ」 が、我慢って?約束破るって・・・さっき言ってた「なんもしやしない」って奴? なんで? 「野球部に入部したしことは後悔していない。寧ろまた野球をやれて嬉しいんだ。 けど・・・・その分お前と会う事がなくて・・・・たまにその姿を見れば針谷と楽しそうで・・・」 背中が軋むくらい志波の腕の力が強くなる。 どうしよう?どうしよう? 嬉しいって気持ちが湧いてくる現金な自分。 志波も寂しがってくれたんだと思うと・・・・ね。 私は、志波が私と一緒に居る時間を楽しんでくれているのかな?と言うのがわかっただけでも嬉しい。 私だけの一方通行じゃなかったんだ・・・って。 「し・・・・志波も寂しいって、思ってくれた?」 「・・・オレもって・・・・・・・・・」 「わ、私は野球やってる志波を応援したいって思ってるよ。けど、少しさ、寂しくて・・・・」 すごく恥かしい。 きっと顔中真っ赤だよ、私!耳も、なんかもう・・・・身体中の水分が蒸発しちゃうよってくらいに熱いし。 「・・・顔上げろ」 「あ、あとで・・・」 嬉しいのだけど、恥かしくて。思いっきり志波の胸に顔を埋めてしまっている。 志波も緊張・・・しているみたい。 触れているところが少し熱いし、心臓かな。トクントクンって聞こえる。 「なんで?」 「は、恥かしいから・・・・・」 「なら大丈夫だ」 志波も同じだからって言うのかな? 志波の照れている顔とか、少しは見て見たいって思うけど・・・。 あ、少し余裕が戻ってきた感じが。 少しだけ顔を上げてみれば・・・。 「もっと恥かしい事するから」 「は?」 もっと恥かしい事?聞いて逃げようと志波から離れようとしたけど。 志波の方が力は強くて、逃がしてくれなくて。 「し、志波っ」 志波とキスをしていた。 いや、あーうん。 確かに恥かしい事・・・・なのかな? 自分で考えるのは、確かに、ちょっと・・・。 何度目かわからないキスのあと。 もうテスト勉強どころじゃないよなーとなんとなく思った。 「志波くんや・・・そろそろ解放して欲しいのですが・・・・」 「断る」 「なんでよ」 「しっかり充電しとかねぇと・・・・試験終わればまた部活で忙しくなる」 その分しっかり触れておきたい。 そう言われてしまって、もう本当に、ほんとーに。頭がパンクしそうになった。 志波ってこういう奴だったっけ? でも・・・・。 「それじゃあ、私も充電しとかないとダメかな」 「そうしとけ」 「でも、そんなに長いこと効果は得られないと思うぞ?」 「その時はまた充電するからいい」 お互いに。 「」 「ん?」 「好きだ」 今さらっぽい気もするけど、やっぱり言われて嬉しくないわけじゃない。 「うん。私も志波が好き」 寂しくなったら、また甘えてください。 私もいっぱい志波に甘えるから。 またまた志波君でした。
09/06/27
19/12/27再UP
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