咲かせよう、花。




ドリーム小説
【7】



「待ってください、殿!」

幸村のことを嫌いといって、彼が触れようとした手を払った
と同時に走り出して逃げ出そうとするので幸村は慌てての腕を掴んだ。

逃がしてなるものかと。

わけもなく避けられて、思ってもいないことを言われて更に嫌いとまで言われた。
の目には幸村に対する不信感でいっぱいで幸村は胸が痛くてしょうがない。

「はなして!」

は腕を何度も振り払おうとするが幸村は暴れるを落ち着かせようとする。

殿、話を聞いてください」

「聞きたくない!」

殿!」

廊下で声をあげて騒いでいる二人に周囲が気づき始めた。
なんだ?なんだと見に来る。
庭先にいた若者たちは最初から見ていたわけではないが、段々と大声になるので嫌でも耳に入ってきた。
なんか見てはいけない、聞いてはいけない気がするとそそくさとその場から立ち去った。

人が集まってきた事に幸村も気づいた。

殿、落ち着いてください」

「じゃあ、はなして!」

「それはできません、離せばあなたは逃げるでしょう」

「・・・」

殿」

「はなしてよ・・・・お願いだから」

が顔を伏せたと同時に涙が零れ廊下に落ちた。

殿」

何で泣く?
自分が泣かせるような事をしたのか?
こっちの方が聞きたいことが沢山で意味がわからないのに。

無性に腹が立ってくる。
言ってくれなきゃわからないじゃないか。

「幸村!殿!」

騒ぎを聞かされたのであろう幸隆が姿を現す。
面倒な事になりそうだと、幸村は少し顔を濁らせる。
とりあえず、一々聞かれても答えることがまだないので幸村はを少々乱暴だがすぐそばの彼女の私室に押し込めた。

「!?」

幸村も中に入り障子を勢いよく閉める。

「ゆ、幸村?」

目の前でぴしゃりと閉められてしまって幸隆や集まったものは驚くが、閉じた障子が開いたと思ったら幸村が顔を出す。
そして真剣な表情で幸隆に言った。

「私は殿に話があるので邪魔しないでください」

「あ、あぁ」

「それと」

「な、なんだ?」

「覗き、盗み聞きはしないでください!」

「お、おぉわかった、わかったから・・・・ほら、お前たち散った、散った!」

幸隆は野次馬を解散させ、自分もその場から離れる。
幸村は辺りに人がいないのを確認し再び障子を閉める。

振り返れば泣いているがいる。

「何故、私の事を信じてもらえないのですか?」

「・・・」

「急に避けだしたのですか?」

「・・・」

答えないに幸村は溜め息をつく。

「最初から嫌われているなら、別にそれは・・・それで構わないです」

出会ったころは自分に対してぎこちなかったから。
必要以上の会話なんかしなかったし、くのいちからは散々からかわれていたわけだし。

「でも、私は本当にあなたを守りたいと思っていました。
 あなたのことを・・・異質だなんて思ったことなど一度もないですよ」

「・・・」

「そう思う・・・理由がわからないです」

幸村はギュッと拳を握り締めて吐き捨てるかのように言った。
これでもは答えないかと思ったのだが、ようやくは口を開いた。

「・・・・・だって、幸村様・・・・・って言った」

「え?なんと?」

「幸村様、私と結婚できないって言ったじゃないですか」

「・・・・・あ!あの話、聞いて」

幸村は口元を手で押さえる。
顔中火照ったように熱くなる。
あの話を聞いていたのかと幸村は恥ずかしくなるのだが、それではが自分を嫌う理由がわからない。
は幸村の考えている事には気づかず言葉を続ける。

「私に優しくしてくれたのも、あの時助けてくれたのも仕方なくなんでしょう?
 幸村様から見れば私なんて自分の知らない世界からきた気味の悪い奴だとか思って」

「だから、思っていません!」

「け、結婚だって、もっと素敵な女性がお相手の方がいいだろうし、どっかの武家の娘の方がいいとか」

止まらない涙には少し乱暴に拭う。

「私、自分が馬鹿みたいで・・・・優しくされたら自惚れちゃうじゃないですか!」

は口元を振るわせる。
そして今だ止まらない涙を幸村に見せたくなくて顔を手で覆った。

「気づかなきゃ、知らないままでいれば良かった・・・」

幸村は優しいから、素性の知れない自分でも普通に接してくれたのだ。
が泣いたままなのと、言ってくれた理由のこと考えて後頭部を掻いた。

「あの・・・・殿はおじい様と私の話をどこまで聞いていたのですか?」

「ど、どこまでって・・・・幸村様が、『お断りします』って言って幸隆様が怒り出して・・」

盗み聞きしていたのは悪いとは思ったが、聴こえてしまったのだし。

「やっぱり・・・・」

幸村は“そこまで”しかは聞いていなかったのだとようやく自分で納得できた。

殿がそこまで言って、泣いてくれることを、私の方が自惚れても、期待してもいいですか?」

は顔を上げた。

「・・・は、は?」

だって、そうじゃないか。
は自分が結婚話を断ったのを聞いて、様子が可笑しくなったのだとすれば、避けたり泣いたりするならば
幸村は意味がわからないようできょとんとしているを優しく抱きしめる。

「ゆき、むら・・さま?」

「私は最初からあなたに惹かれていたのですよ」

の耳に優しく囁く。

「だから今は嬉しいです。殿も私と同じ気持ちなのかなって」

意味もなく避けられ、拒否されてしまって心が痛みはしたが、今は違う。



「あなたが好きです。とてもいとおしく思います」



幸村はにこっと笑んで、の濡れた顔を指の腹で拭った。

「幸村様・・・」

「本当はあなたにもっと相応しいと思えるような人間になってからと思っていたのですが」

結婚を断った意味は『今はまだ』ってことなのだろうか?
はなんだか急に自分が恥ずかしくなった。
しかも幸村は最初から自分のことをと言ってくれた。

最初からのことを酷く嫌がりもせず、どちらかと言えば好意を持って接してくれたと言う事だ。

 



実はこういう事だった・・・
幸隆に呼ばれて幸隆の私室に行くととの結婚話を持ち出された。

「け、結婚!」

「うむ、どうだ?幸村」

「あ、あのおじい様」

「お前と殿ならば似合いだと思うが、どうだ?」

「御館様も殿ならばと薦めてくれた。御館様がまとめてくださるとも仰ってな」

「・・・・」

「相手が殿ならばお前も異存はなかろう。わしから殿に話すが良いか?」

確かにのことは嫌いではないし、周りがそう言ってくれるのはありがたい。
けど、できることならばと思うことがあるから

「お断りします、おじい様」

と口にした。
そしたら、幸隆は断るはずがないだろうと思っていたらしく珍しく激昂した。

「何が不満だ、言ってみぃ!」

「不満ではなく」

が話を聞いたのはここまでだ。
あの後、幸村はちゃんと理由を話したのだ。

「御館様やおじい様がそう仰って下さるのはとても嬉しくありがたく思います。
 ですが、できるならばそれは私自身の口から殿に伝えたいと思います。
 今すぐにはいきませんが、一人の人間として殿に相応しい者になれた時に・・・」

幸村は幸隆の目をまっすぐに見てはっきりと言った。
他人の手は借りずに自分ですると。

「・・・・」

「わ、我が侭なのは承知していますし、御館様のご好意を無にするというのは許されない事とはわかっております」

「お前ができると言うならやってみぃ。わしは見届けさせてもらおう」

にぃっと幸隆は笑った。
幸村は自分の言った言葉に急に恥ずかしくなり顔中真っ赤にさせる。

「でもな、相応しい者ってのはいつになればなれるのだ?幸村・・・」

「え、えっと・・・それは」

「御館様には一応お前の言葉を伝えるが、殿をいつまでも待たせるのものぅ〜
 殿が他の奴を選ぶかもしれんし・・・」

「お、おじい様」

まぁ、確かにが全然相手にしてくれてないのなら言っても無意味なのだが。

「はははっ、気長に待つとしようかの」

「は、はぁ」


とまぁ、そんなわけだ。
だからが話を聞いていたとも知らずに、幸村に幸隆はあの晩の夕食をのんびりと過ごしたのだ。


とりあえず、今はまだにはこの話は言わないつもりだ。


「幸村様・・・私」

「はい?」

は幸村の腕の中から彼を見つめる。

「わ、私なんかでいいんですか?幸村様ならばもっと素敵な方が・・・・」

殿がいいです。殿こそ」

「?」

「私の想いを受け止めてくださるのですか?」

「・・・・・」

は少し考える。
と言うより、自分を見る幸村の顔がとても緊張しているようで
こんな表情の幸村を見るのは初めてだと思い少し嬉しかった。

殿・・・」

「はい」

は自分の腕を幸村の背に回した。

「私も幸村様が好きです」

殿・・・ありがとう」

幸村はもう一度を抱きしめるのだった。




花が、咲いた。

きれいな花が。

最初はとても小さく震えていた花が。

今では自分のそばで大きくきれいに咲いています。






終わり

04/12/13
19/12/28再UP