きっと、それが知りたくて。




ドリーム小説
「凌統君」

「何?」

「凌統君」

「だから、何?」

「凌統君」

「あのね。なんだって返事しているでしょうが。何?」

凌統の顔を見て、何度もその名を連呼する
嫌がらせか、悪戯なのかこれは。
凌統は溜め息を吐いてしまう。

「凌統君」

「まだ言うか・・・・」

口角をひくつかせ、こめかみもピクピクと動く凌統。
明らかに怒っていると傍目から見ればわかる。
あと数秒で怒鳴りちらすだろうと予測がつく。
けど、凌統の名を連呼するばかりのの方が溜め息を吐いた為に、怒りが消えて脱力感に襲われる。

「あのねぇ・・・・さっきからなんなわけ?人の名前を連呼してさー」

新手の呪いか何かか?

「凌統君」

「はぁ〜まったくもう〜」

その場にしゃがみこんで頭を乱暴に掻く凌統。

サン。人のこと馬鹿にしているわけ?」

膝の上で頬杖をつく格好になる凌統。
長身の凌統だから、こうしてを見上げると言うのは珍しい。

「それとも俺の名前しか呼べないような魔法にかかちゃった?」

それは不便だねぇ。と半ば茶化した言葉しか出てこない。

「ん?なに?」

も同じように凌統の前にしゃがみこんだ。

「「・・・・・・」」

じーっとから向けられる視線。
照れ臭さもあるが、何よりも意味不明で困惑の方が勝る。

「私ね」

お。名前以外を口にした。
でも、どことなく表情がいつもの明るい顔ではなく、心ここにあらず。
そんな風にぼんやりしている。

「思ったの」

「何を?」

「凌統君のことを知らないんだなーって」

「はぁ?」

いきなり何を言うのだ。
言われた凌統の方が目が点になる。

「俺のことを知らないって・・・・」

「趣味とか特技とか」

「あーそう言う意味ね」

ちょっと主語が抜けていますよ、サンと内心で突っ込みをいれてしまう凌統。
そこは「俺の何が」知らないのかを言ってくれないとわからないよと。
一瞬、凌統君のことを知らない。などと言われて寂しい風が吹いたものだ。
こうして会話をしているのに、あなたのことなど知らないのよ。なんて話があるのだろうかと。
面識とか認識の問題ではなく、凌統個人に関することを知らないと言えばいいものを。

「けど、そんなことないと思うけど?」

自分のことをべらべら話すほうではないが、比較的とは仲良くしているわけだし。
壁を作るような事もしていないと思うのだが。

「うーん・・・・知らないんだよねぇ・・・・」

いや、そこで悩まないでくれるかな。
俺ってそんなに人と距離を置いているのか?と凌統は乾いた苦笑しかでない。

「一応。一つ挙げるとすればね」

「あぁ」

「凌統君は甘寧には素直じゃないって事は知っているんだ」

それはのみに限らず他の誰もが知っていることだ。
しかも、それと趣味特技などを同等にされるのはなんか嫌だ。

「逆に聞くけどさ」

なんでこんな話をしているのだろうかと言う情けなさも感じるが。
あっそ。なんて言ってここから立ち去るのは正直できそうになかった。
が急にそんな事を言い出したのかが気になるわけだし。

「俺のことを知らないって言うけど。他の奴らのことは知っているわけ?」

「他の人?例えば?」

「甘寧の事とか」

あ。自分でその名を口にして失敗したと思った。
甘寧のことをが当然のように何もかも知っていたらと思うとへこむ。

「あいつの好物って知ってるわけ?」

「お酒。辛いものとか好きだって言ってた」

「へ・・・」

あっさり口にした。

「じゃ、じゃあ・・・・幼平殿とかは・・・」

「周泰さんは甘いものが好きなの。うんと甘いのを食べてもケロッとしているし」

「へ、へぇ・・・・」

自分の気持ちが地面にめり込んだような気がした。

「呂蒙さんはー。酸っぱいものが苦手みたいだし」

「・・・・・」

「陸遜はー。人間観察とかするのが好きなんだって」

なんだろう。
すごく面白くない。
凌統はの言う仲間たちの好みなどを見事に聞き流している。
凌統も知らないわけではない、情報ではあるが、の口から聞かされるのが面白くない。
そして、自分のことだけを知らないと言われたのが悔しくてしょうがない。

「凌統君?」

ツーンとそっぽを向いてしまっている凌統。

「凌統君ってば」

「・・・・・・」

「えと・・・ごめん」

失礼なことをしているのだなと、今頃になって気づく。
あなたの事を知らないから。
そう言われて嬉しい、楽しい人間などいないだろう。
必ずどこかで嫌な思いをさせてしまっている。
だけど、理由が。
これには理由があるのだ、ちゃんと。

「あのね。もうすぐバレンタインなんだよ」

「バレンタインって・・・・確かが広めたもので」

は頷く。
もともとはこの世界の住人ではなかった子。
その辺の理由は置いといて。
こんなイベントがあるんだよーと楽しげに尚香や大喬たちに教えた所。
見事にそのイベントが宮城内に広まった。
女性が好きな男性にチョコレートと言う菓子をそえて愛の告白をする日だとか。
ただ、それだけの意味ではなく。
いつもお世話になっている人、例えば家族や上司、仲の良い友だちにも義理チョコと称して贈ることも可能だという
昨今では女性たちが自分用に用意するマイチョコ。女の子の友だち同士で贈る友チョコなどにも発展しているそうだ。
おかげで、本命なんかいないわ。などと言っている尚香は、マイチョコ、友チョコを楽しんでしまっている。
チョコレートという菓子はこの国には存在しないので、代わりに自分たちで手作り菓子を用意するようになっていた。

ただ。貰える側の男性陣には憂鬱な一日ともなってしまうのだ。

「今年はどうしようかなーって色々考えたんだよね」

「別に普通に菓子を振りまけばいいんじゃないのかい?」

話は聞いてくれているものの、凌統の機嫌の悪さは直っているようには見えない。
どことなく、言葉の節々に刺々しさを感じる。

「私、そんなに振りまいていないもん」

「そうだっけ?そうは見えなかったけどなー」

君主たる孫堅に兄代わりみたいな孫策、孫権、周瑜。
を可愛がる、面倒を見てくれる黄蓋、呂蒙、太史慈。
年代が近い為か一緒に行動をすることが多い周泰、甘寧、陸遜に凌統。
それぞれに手作り菓子とやらを贈っていたよなーと凌統は口にする。
いわば、のそれは全員に対してお世話になっているからという義理というもの。

「律儀だよねー。エライ、エライ」

「心が籠もっていなーい。凌統君可愛くない」

「俺が可愛くてどうするの。嫌味だよ、これは」

ツーンとまたもそっぽを向かれる。

「凌統くーん。機嫌直してよー」

「は?別に機嫌なんか悪くないけど」

そうは見えないではないか。は状況の悪化に困ってしまう。

「だからね。今年も用意しようと思ったんだけど」

少々強引だが、話を元に戻してしまおう。

「ふーん」

それと、自分のことを知らないと言われる意味がわからない凌統は、少しも面白くない。

「去年みたいに、皆にお菓子作って渡そうとは思うんだけど」

「ふーん」

「喜んでくれるといいなーと思うわけで」

「喜んでくれるんじゃないの。去年もそうだったし」

「凌統君は喜んでくれないの?」

「さぁてね」

完全にふて腐れている。
これでは作戦失敗だったとはへこむ。
隠して置こうと思ったのだが。
自分の照れ隠しも下手くそすぎて、相手には違う風にとられてしまったわけだし。

「去年は義理でーすって渡しちゃったけど、今年は本命さんにはちょっと色をつけて渡そうかなと思ったんだ」

「ふーん・・・・へ?本命さん?」

そっぽを向いていた凌統がに視線を戻した。
こっちを見てくれただけでもは安堵する。

「そう。本命さん」

「・・・・・」

「だけどね。気づいちゃったんだ、私。その本命さんのことを何も知らないって」

「へー本命さんのねー」

あぁまずい。
完全に口元が緩む。

「去年ね。その本命さん。綺麗なお姉様方からたくさんの贈り物を貰っていてね。
私のちっぽけなお菓子を見たら、今年はどうにかしないと!ってちょっと焦ったの」

だから何かお菓子と一緒に本命さんの喜びそうなものを用意しようと考えた。
だけど、さっきも言ったように。
自分は案外その人の好みを知らないのだという事実に気づいた。
だから少しだけ、本人からそれとなく聞こうと思ったのだが。
不器用というか、要領が悪いのか可笑しな風になってしまったのだ。

「その本命さんが俺の知っている奴ならば、こう言うだろうね。馬鹿だよねーって」

「ば、馬鹿かな?」

凌統はニッと笑って、の頭をくしゃくしゃに撫でる。

「馬鹿だよ。本命さんが言うには、今からでも遅くないから、本命さんのことを知ってくれればいいだろうねって」

「遅くない?その本命さん、機嫌悪くしちゃったし・・・・」

「大丈夫でしょ。本命さんはサンより大人だから」

それにはどうだろうか?同意しかねないとは思う。
だけど、凌統の機嫌は直ってくれたみたいだから、ここは良しとしよう。

「本命さんはね。どんな女性から貰ったものよりも、に貰ったあの菓子が嬉しかったんだよ」

「ほ、本当?」

「あぁ。こんなこと冗談で言うわけないでしょ」

の頭を撫でていた凌統の手が、の頬へと移動する。

「りょ、凌統君・・・」

「本命さんから頼みがあるんだけど、聞いてやってくれるかい?」

「う、うん」

「これから一緒に、本命さんが喜ぶものを探しに行こうか」

の手をとり、凌統は立ち上がる。
引かれるままにも立つ。

「ま。本命さんは、と一緒にいられるならなんだっていいんだよ」

「凌統君・・・・」

「本命さん・・・・いや、俺ものこと知りたいって思うからさ」

行こうか。そう言って凌統が歩き出す。
繋いだ手を離さないようにと。

「これで甘寧がその本命さんだったら、笑うに笑えないけどねぇ」

自分は相当な思い違いをしたことになるではないかと。
だけどがしっかりと手を握り返してくれる。

「そんなことないよー。甘寧も好きだけど。それは本命さんへの好きとは違うもん」

「そいつは良かった」

「凌統君」

「ん?なに?」

隣を歩くが凌統の顔を少し恥かしそうに見上げてきた。

「凌統君の好きなもの。たくさん教えてね」

「いいよ。いくらでも教えてやるよ。あぁ、そうだ。14日当日、二人でどこか行こうか」

「え?いいの?」

「当然。その日はサンの予約しか受け付けないからさ」

誰にも邪魔されないで、当日を二人で過ごそう。
楽しみだな。って笑いあって、早く当日が来ないか待遠しい二人だった。








09/02/11
19/12/22再UP