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乙女心と秋の空。
サッサッサッと箒で掃く音と共に。 パラパラパラと落ちてくる音。 「はぁ・・・」 それにともなく溜め息に。 「くっ・・・」 我慢していたけど、我慢できずに漏れた笑い声。 「なーにやってんだか」 「うるさい、凌統君!」 「悪い悪い。一生懸命やってんだもんな、サンは」 「なんかバカにされているような気がする」 竹箒の柄の部分を突き出される凌統。 そんなことはないと降参だと手を出すも、は不機嫌なままだ。 「そんなことはないさ。そう思われるなんて心外だねぇ」 「凌統君の口調がもろ人を小ばかにしているように聞こえるの」 「おいおい。いつもの俺だってのに、それは酷いって」 「だったら、見ていないで手伝ってよ」 「嫌だね。が自分でやるって言ったんでしょ?」 凌統はツーンとそっぽを向き、はそんな凌統にムッと口を尖らせる。 「言ったけどさあ・・・・なんか腹がたつわけ」 「それは誰に対して?俺?それとも落ち葉?」 「両方」 間髪居れずに答えたに凌統はくっと笑う。 紅や黄色に色付いてきた葉たちが、今はこぞって落ちてくる。 ちょっと風に吹かれればいとも簡単にパラパラと。 そうすると、庭には落ち葉でいっぱいになるのだ。 凌統の邸を訪れていたが掃除ぐらいしなさいよ。と凌統に言うも。 「なーんで、俺がしなくちゃならないわけ?」 と面倒臭いと言い出した。 確かに凌家の庭掃除など、やる人間はいくらでもいよう。 一応それを仕事としている人もいるのだ。 だけど、なんとなくそのまんまというのを見ていて、片付け魔とまでは行かないが がならば私が!と言い出した。 それを凌統がのんびり椅子に腰掛け見ていたと言うわけだ。 「掃いても、掃いてもきりがない〜もうここらで止めちゃおうかな。厭きた」 「おいおい。厭きたとか言わないでくれよ。がやるって自分で言い出したんだぞ」 「そうだけど。考えてみれば別に私がやらなくても良い事に今更気づいたから」 掃いても掃いても落ちてくる葉っぱ。 いっその事、木をガツンと蹴って落とせる分は落としてしまおうかと思った。 「それって言葉悪くない?せめて軽く揺らすって程度にして欲しいんだけど?」 「あ。声に出てた?」 「何も適当に植えているわけじゃないんだし?一本一本に精霊だって宿っているんだからさ」 「・・・・」 ポカンと口をあけてしまう。 「なに?」 「・・・・凌統君の口からそんな言葉が出ると思わなかった」 「は?」 「精霊が宿るって。ものすごい現実主義っていうか、そういうの信じてなさそうだもん」 の言い草に凌統は苦笑する。 「別に深く信仰しているわけじゃないさ。だけど、よく聞かされていたからさ」 「ふーん」 「だって、そういうのあるでしょ?」 「迷信ッて奴?そうだねぇ・・・・・」 迷信と信仰は違うものだと思うだが、あえて凌統は口にしなかった。 「長く使った物には宿るっていうよね。あー猫って百年経つと妖怪になるっていうじゃん!」 「少し話が違う気がする」 やっぱり口に出た。 だけどは気にした風はない。 「猫ってそんなに長生きすんの?」 「するから妖怪になるんじゃないの?」 「それって・・・いいことなのかい?妖怪って・・・」 「あー・・・・妖怪にも良い妖怪と悪い妖怪がいるから問題はないよ」 どんな妖怪だ、それは。 落ち葉掃除から妖怪話になるなんて誰が想像付くだろうか。 凌統は話を元に戻す。 の手は完全に止まったままだ。 「ところで、その集めた葉っぱをどうするつもりなんだ?」 「んー・・・・焼き芋でもする?それが王道でしょう」 「安い王道だねぇ」 「嫌なら凌統君にはあげないよ」 「その落ち葉俺んちのだよな」 「じゃあ最後まで責任見なさいよ」 「なんで、落ち葉の責任なんか見なくちゃならないんだか・・・どうせならに責任をとってやりたいくらいだね」 凌統の一言に、の顔が真っ赤になる。 凌統はにやりと笑う。 「紅葉みたいに真っ赤だな」 「う、ううううるさい!また人のことからかう!」 「からかってなんかいないさ」 本気の本音。 だけど、いつも相手は本気にしてくれない。 自分の態度が悪いのか、本気が通じていないのか。 「少なくとも、どうでもいい奴をわざわざ休日に、邸なんかに呼んだりはしないと思うけどね」 「・・・・・や、あの・・・・と、友だちだし」 「友だちねぇ」 それは正直今の自分には酷な言葉だろう。 「にとって、俺ってなに?どういう風に見えるわけ?」 「え・・・なにって・・・」 ギュッと竹箒の柄を握る。 少し俯き加減で凌統の様子を窺うように上目遣いで見ている。 「と、友だちって思ってたけど」 「ま。普通はそういう答えしか出ないだろうね」 凌統は両手を後頭部の後ろに組み空を見上げる。 「はさ」 「な、なに?」 「好きな奴っている?」 「えぇ。なによ、急に・・・・そんな話」 「俺としては気になるものだし。ま、誰が相手だろうと負ける気はないけどね」 ニッと笑ってみせる凌統。 「だから教えてよ。好きな奴」 「・・・・・え、や、やだよ・・・そんなの」 当然の反応だろう。 「じゃあ・・・・まさかと思うが、甘寧じゃないよな?」 「さあ?」 「陸遜?幼平殿?子義さん?・・・・・殿?」 「知らない」 「あー他に思い当たる人いたかなー・・・・」 凌統は知っている人の顔を一つ一つ思い浮かべていく。 一応既婚者は外して。 指折り数えても、多分こいつか?と思えるのは先にあげた人物ばかり。 しかもだ。 その誰もがとは仲がいい。 「甘寧なんて言ったら最悪なんですけど」 「それは甘寧に失礼でしょうが」 「なに、その反応。本当に甘寧?」 「ち、違うよ!」 甘寧は頼れるお兄ちゃんのような人だ。 気兼ねすることなく気さくに相手をしてくれて。 でも、同じ頼れるならば、周泰のほうが何倍も上で。 普段無口で何考えているのかわからないけど、困っていることがあれば即座に力になってくれる人だ。 同年代で二人のような感じで接することができるのは陸遜だろう。 「ふーん。悪い印象は持っていないわけだ」 「ま、また口に出てた!」 「でも、好きな人とは違うわけだ。誰なんだろうね、の好きな奴って」 「ぎゃ、逆に聞くけど。凌統君のそれ・・・本気なの?信じて良いわけ?」 少し強気で質問してくる。 これは心外だと凌統は目を丸くする。 「俺、嘘は言ったことないけど?信用してくれないんだ」 「・・・だ、だって・・・・」 「だって、何?」 「凌統君の周りって綺麗なお姉さんがいつもいるし・・・・別に私じゃなくても・・・・」 「その人たちと俺が付き合っているのならば、そう思われても仕方ないのだけど・・・そんな仲の人いないし」 勝手に言い寄ってくる輩はいるものの、が思うような深い仲の人物などいない。 そんなに自分は軽く見られているのかと、軽く傷つく。 「じゃあ・・・どうしたら信用してくれるわけ?」 「え・・・そ、そんなこと言われてもわからないよ・・・」 眉を寄せて困った顔をする。 困らせたいわけじゃないが、信じてもらいたくて攻めすぎたようだ。 「いや、もういいや。とりあえず、俺のこれからを見てもらえればいいわけだし」 に、好きな女にそんな顔をさせたいわけじゃないのだ。 それに今のままだと、が自分から逃げてしまいそうで怖い。 「芋でも用意するとしましょうか」 「へ?」 凌統は立ち上がる。 「集めた落ち葉で焼き芋やるんでしょ?芋がなきゃできないからねぇ」 色気の欠片もないことだけど。 今は一緒に楽しむだけでも十分というわけだ。 色気より食い気と決め付けてしまっているようだが。 「あ、あああの凌統君!」 なにどもっているのだ。と凌統はくつくつ笑う。 「なに?芋にも注文あんの?どこ産の芋が良いとかって?生憎だけどあるのは普通の芋だよ」 「違う!あの、その・・・・」 もじもじしながら指を絡める。 だが、意を決し言う。 「わ、私だって。別にどうでもいい人と休日に会おうなんて思わないんだからね!」 それだけ言うと、竹箒を置いて走り出した。 「おい!!」 「いいいい芋。買ってくる!」 振り返り、真っ赤な顔をし凌統にそう告げて出て行ってしまう。 「え。芋ぐらいうちにあるってーの・・・・しょうがないねぇ、言い逃げかい?」 凌統は後頭部を軽く掻きながら苦笑する。 少しは自分の本気ってのが通じたのかなと思いながら。 戻ってきたらどんな言葉と態度で迎えようか。 これは良いように受け取って構わないのだろう? 甘寧や陸遜。周泰・・・・。 彼らよりも一歩前進したと思えばいいのかもしれない。 「今度はちゃんとはっきり言ってやるさ」 先ほども茶化したつもりはないけど。 まだちゃんと気持ちを言葉にしていない。 だから、早く戻っておいで・・・。 「って、思ったのにさ・・・なんで、あんたらいるわけ?」 焚き火の用意をしていた凌統。 ただいま!なんて元気な声で戻ってきたを見て頬を緩ませるがそれも一瞬で消えた。 「別にいいじゃねーか。が焼き芋やるからって言うからよ」 「みんなでやるのも楽しいと思いますよ?」 「・・・・芋だ・・・・・」 「す、すまんな。凌統。大勢で押しかけて」 甘寧、陸遜、周泰、呂蒙がと一緒にいる。 「あの、サン?」 「あ、あははは。お芋買ってくれたの呂蒙さんだし・・・・いいよね?」 「はぁ、しょうがないね。帰れと追い返せるわけないんだから」 「ついでにメシ食ってくかー?」 「うるさいよ、あんた。食費取るよ」 甘い甘い休日よりも賑やかな休日へと変わったのだった。 07/11/19
19/12/22再UP
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