桜人




ドリーム小説
孫堅主催の花見。
それが行われた。
雄大な長江を船で下りながら楽しもうと言うのだ。

上等な肉や珍しい酒を各自で用意して皆で囲って食した。
最初から酒が入っているものだから、船から見える桜をのんびり楽しむ者は残念ながら少なかった。
ギャーギャーと孫策を中心に騒いでいる。
孫堅も別にそれを咎めず笑っているので問題はないのだろう。

も最初は尚香たちと飲み食いしていたが、少しばかり場に酔ったのか落ち着きたくて船尾へと移動した。

「はあ〜風が気持ちいい」

手すりへと身体を預けて、流れる川をなんとなく見ていた。
頬杖をついていると、風の心地良さなどから自然と瞼が閉じていく。

「・・・・・」

あ、何か聞こえてきた。
ずっと誰かの騒ぐ声しか耳に入らなかったのに、それらを沈めるかのようにしっとりとした音が奏でられている。

「周瑜様か大喬かな・・・・」

二胡を演奏するとか言っていたような気がする。
見に行きたい気もするが、身体が動かない。
いや、動くのが億劫なのだ。

「余計に眠くなっちゃうなぁ・・・・」

くすりと笑みを浮かべてしまう。
そんなに相槌を打つ者が隣に並んだ。

「気持ちはわかるけど、船から落ちないでくれよ?まだ水は冷たいから飛び込みたくはないんでね」

「・・・・凌統君」

パチッと閉じた目を明け隣を見ると凌統がニマニマと笑んでいる。
いい気分が邪魔をされてしまったとは軽く凌統を睨む。

「一人で何してるわけ?」

「ちょっと休憩。皆のペースに合わせていたら身体がもたないもの」

「ま。俺もそうなんだけど。ほら」

「?・・・・ありがと」

竹の水筒をに差し出す凌統。
ちょうど何か飲みたいとは思っていたので素直に受け取る。
軽く一口飲むと良く冷やされていたのだろう、水が気持ちよく咽喉を潤していく。

「冷たくて美味しい」

「そうかい。それは良かった」

もしかしたら、凌統はいなくなったを探しに着てくれたのかもしれない。
船から落ちたら・・・なんてことを冗談で口にしたのも、そうなっていたらマズイと考えていたのだろう。
じゃなければ、わざわざ水筒を持って歩くこともないだろうし。

でも、そんな事を口にすれば、

「はぁ?何言っているわけ?俺自身が休憩でもしようかと思っていただけだっての」

などと否定されるに決まっているので深く追求はしない。

「桜、綺麗だよね。私、船の上での花見って初めてなんだ」

「へぇ」

「普通に木の下でビニールシート敷いて、持ってきたお弁当を食べるってのもいいんだけどね」

家族とした花見の思い出。
父親の会社の同僚一家と行ったり、近所の家族と行ったり賑やかで楽しい想い出だ。

「・・・・・」

美味しかった母の作ったおにぎり。
酒が入って酔った父は少し煩かったけど、毎日仕事で大変なんだろうなって思えばしょうがないと思った。
携帯で下から桜を撮って、友だちに花見をしているところだとメールをしたっけ。
しばらくの間他愛のないやりとりをしていたなと。

「・・・・・・っ・・・・」

?」

急に黙り込んだを不審に思い凌統はの顔を覗きこんだ。

「な、なんでもない」

何度か目元を拭う

「なんで、急に泣いているわけ?」

「な、泣いてないよ」

とは言うものの、別れてしまった家族とのことを思い出したら、急に涙が出てきた。

「しょうがないね、まったく」

凌統はポンポンと軽くの頭を叩く。

「どうしたのさ、急に」

「なんでもない〜」

「そうは見えないんだけどねぇ」

苦笑しながら今度は頭を撫で始める凌統。
目の前でなんでもないと言われても泣いている子をほっとくわけにはいかないだろう。

「桜を見てたら感傷的になっちゃったってところかねぇ」

「・・・・・」

凌統に頭を撫でられ続けられると、なんとなく小さい頃に父や祖父に同じように撫でられたことを思い出してしまう。
そうなると、涙の量が段々増えて止まらなくなる。
しゃくりあげて鼻まで啜ってしまう。

「泣くなとは言わないけどさ、なんで泣いたか教えてくれない?このままだと俺が泣かしたように見られるんだけど」

「・・・・だ、だったら、ほ、ほっといて、よ」

「バーカ。泣いている女をそのままにしておくほど俺は薄情じゃないっての」

「ば、バカは、余計、なんだから」

「はいはい」

なんでこんなに涙が出るのだろう。
それはきっと、向こうで奏でられるニ胡と珍しく優しくする凌統の所為だろう。

「む、昔ね。家族で花見した時のこと、思い出したら・・・・なんか涙出てきた」

「ふーん」

「別に、今日の花見が楽しくないわけでもないし、なんかよくわからないけど」

「寂しくなった?家族に会えないからさ」

そうなのかもしれない。
だからこくりと頷く

「家族に会えないのは・・・・確かに寂しいかもな」

凌統は身体を反転させて手すりへともたれ。
空を見上げる。
凌統にももう二度と会えない人がいる。
意味は違うかもしれないが、近しい人との別れたときのことは多少はわかるつもりだ。

「凌統君も、寂しいの?」

「・・・・たまにかな。でも気にしてもいられないし」

「うん・・・・」

その原因を作ってしまった、今は仲間と呼ぶ男がいるから。

「ま、今のには家族と呼べる人たちがいるから大丈夫でしょ」

「・・・・うん」

孫家の人々がそうだ。
は涙を拭い凌統に笑顔を向ける。

「ありがと、凌統君」

「どういたしまして」

「じゃあ、戻ろうかな、向こうに」

いつの間にかニ胡の音がやみ賑やかな声が戻っていた。
そろそろ凌統以外の人にもがいないことに気づくかもしれないし。

「まった。もう少しここにいた方がいいって」

「なんで?」

「その泣き腫らした目で戻ってみ?大騒ぎだよ」

「そ、そうかな?」

「そうだって。もう少しここから桜でも眺めてなって」

確かに少し時間を置いた方が良いかもしれない。
はチラッと凌統の顔を覗きこむ。

「凌統君も一緒にいてくれる?」

「勿論」

「良かった」

が笑うから凌統もつられて笑う。
その顔を見てなんとなく落ち着く。
いつも自分に見せる凌統の笑った顔はすました感じ、悪く言えば人を小ばかにしたような感じだ。
今のは柔らかく穏やかだ。
珍しいものが見れたと少し嬉しくなる。

「桜、綺麗だね」

「あぁ」

少し風が吹くとサラサラと桜の花びらが舞った。
川へとそれが落ちていく。
あの花びらは川から海へと流れていくのだろう。
世界は違えど、遠い倭国へと届いたらいいなって思った。

「これからどんどん桜は散っていくんだね。今が満開だし」

「そうだな・・・・なぁ

「なに?」

「明日、また桜でも見に行かないか?」

「明日?」

「そっ。明日。今度はすぐ近くでさ。そこでのんびりしてみるのもいいもんでしょ」

「じゃあお弁当持って行こう」

「そうだな」

「じゃあ約束ね、明日連れて行ってよ」

は小指を差し出す。
指切りをしろってことか。
いつもならば恥ずかしいけど、黙って小指を差し出す。
小指を絡めて約束する。

「うん、明日行こうね。凌統君」

「あぁ」

指切りをしても、なんとなく離すのがもったいなく感じ、そのま小指を繋いだままだ。

「このまま晴れてくれるといいね」

「晴れるでしょ」

「なんか凌統君が言うとそんな気がする」

「なんでさ」

「わかんない、なんとなく」

明日、晴れたらもう一度桜を見に行こう。
お弁当を持って、木の下でのんびり過ごそう。







06/04/03
19/12/22再UP