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その、背中で。
う、動けない。 いったいどうすれば良いのだろう? 夏侯惇は書庫で胡坐をかいていた。 珍しくすることもないのでのんびり書庫でも漁っていようと。 急ぎの用件でもあれば誰かが呼びに来るだろう。 できればそんなことはなく穏やかに過ぎて欲しいものだがと。 元々戦に出るよりこうして書物を漁っている方が好きだった。 意外とか思われるだろうが、先人の教えを請うのは好きなのだ。 何より従兄弟が自分よりもそれらに長けているので付き合いの延長上自然と手にすることが多かった。 夏侯惇が書庫へ踏み入れた時むわっとした空気に当てられた。 季節上仕方ない。 開けられるだけの全ての戸や窓を全開にする。 これで風でも吹けば少しは変わるだろう。 そして好きなだけ書物に目を通そう。そう思ったとき客が訪れた。 「惇兄。何してんの?」 「見てわからんか?」 夏侯惇の背中に向かって話しかけた。 誰が来たのかすぐにわかったので夏侯惇は顔もあげずに答える。 「仕事サボって孟徳様と隠し鬼」 「阿呆。なぜ孟徳と遊ばねばならん・・・・てアイツ遊んでいるのか?」 顔を上げのほうへ向けた。 「遊んでいるかは知らないよ。特に周りも騒いでいないし」 小さく安堵の息を吐いた。 だがにはその意味がわからず問いかける。 「なに、その溜め息?惇兄だって遊んでいるじゃん」 「深く考えんでいい。俺は別に遊んではおらん。珍しく仕事がないのだ、たまにはいいだろう」 「ん〜そうだね、惇兄毎日忙しいもんね・・・・で、何読んでいるの?」 「お前にはわからんだろう。説明するのが面倒臭い」 「なによー」 ぷーっと頬を膨らませる。にはなんとなくわかっている。 すでに夏侯惇の意識はその難しい書物に向かっているのだろう。 そのうちあれこれ問うても生返事しかしなくなる。返事をしてくれるだけマシということだ。 「惇兄、暇なんだ」 「一応な」 「そっか。じゃあ」 「ん?お、おい」 は夏侯惇と背中合わせに座った。 少しだけ夏侯惇の背中に重みが加わる。 「」 「いいじゃん。邪魔はしていないよ。はいはい、続きでも読んで読んで。私のことはお構いなく〜」 何をしに来たのだ、は・・・。 夏侯惇は仕方なく書物へと集中する。 最近忙しかったからかまってあげられなかったからか? だが、別に自分のところに来ずともの相手をしてくれるものなどこの城には多くいる。 寧ろかまいたくってしょうがないと言う輩が・・・・。 でも。まあそやつらよりも自分のところにきたって言うのが少しばかり優越感に浸ってしまう。 まだまだのことは渡さんぞと兄貴分として威嚇になる。 「とーんにー」 「・・・・なんだ?」 「暑い」 「ならばどけ。どこか涼しい所へ行けばいいだろう」 「面倒臭いよーもう動くのが面倒でーす。風吹かないかな」 「そうだな、吹けばここももっと過ごしやすいのだがな・・・・」 空気の流れは先程よりはいい。 でもまだ少しばかり熱気がこもっている。 「とんにー、私邪魔?」 「邪魔じゃないぞ。それより俺の方がお前のことをかまってやれんのだが、いいのか?」 「いいよ、別に。惇兄だって好きなことしたいでしょ?」 「すまんな」 「いっつも惇兄は自分より周りを優先するからね」 「そうか?」 「そうだよ」 くすくすと小さな笑いが聞こえる。 そんなに自分は他人優先にしているのだろうか?今だって自分優先でいると思うのだが。 会話はそこで途切れた。 が黙るし、夏侯惇も夢中で書物を読んでいたから。 時折吹く風がそうさせてくれたのかもしれない。 暑さが薄らいでいたから。 どれくらい夢中になっていたのだろうか? ずっと首を下に向けていたので顔をあげたとき痛かった。 「はあ。肩がこる・・・・、そろそろ飯でも食わぬか?」 「・・・・・」 「?」 背中越しに問うてもからの反応はない。 「お、おい。お前」 「・・・・・・」 まったくの無反応。 背中だけが熱くて。 はどうやら熟睡しているらしい。 起こそうかと思うのだが、なんとなく起こしづらい。 折角寝ているのにと言うところだろう。 だが、このままでは自分は彼女が起きるまで動くことができない。 あと少しで目を覚ましてくれればいいのだが、最悪ずっとこのままかもしれない。 流石にそれは夏侯惇も疲れてしまうので、仕方なく起こそうかと身体を動かそうと思った。 だが。もう一人客がやってきた。 「羨ましい光景ですね、夏侯惇殿」 「張遼・・・・」 「気持ち良さそうに寝ていますね、殿は」 のことをかまいたくてしょうがない輩、張遼だ。 「ちょうど良かった。を起こしてくれんか?」 「私がですが?嫌ですよ」 「は?何故嫌なんだ」 「気持ち良さそうに寝ているのを邪魔するなんて、私は酷い人間だと思われたくないです」 「あのなあ・・・・・それだと俺は動けぬままなのだが・・・・しょうがない、起こすか」 腹も空いてきたし、身体も痛くてしょうがない。 別にを無理にどかしたいわけではないのだが、それにだって無理な姿勢で寝たままなのは良くないだろう。 「起こすのですか?ならば私が」 「なんだ、お前・・・・」 「もっと涼しい場所に移動させてあげますよ」 待ったをかけた張遼は夏侯惇の返事も聞かずにひょいとを抱き上げる。 「お、おい。張遼」 「目を覚ましたら驚くでしょうね、殿は」 何やら上機嫌で書庫から出て行く張遼。 すぐにでも止めに入ろうと思ったのだが、身体が言う事を聞いてくれずに叶わなかった。 「まったく・・・・・まあいいか。起きなかったが悪い」 そういうことにしておこう。 後で文句を言われるようなことにならなければいいのだ。 張遼だってそう悪さはしないと思うから。 「あー」 思い切り伸びをする。 声なんか出しちゃって自分はオジサンだなあなんて苦笑しながら。 さて、この後どうしようか。 張遼がを連れて行ってしまったので昼餉を共にする者がいなくなった。 夏侯淵か徐晃らでも誘ってみようかと腰をあげようかとした時。 再びずしりと背中に重みを感じた? 「な、なんだ?子泣きじじいと言う奴か?」 「ま。酷いですわね、将軍」 「し、甄姫」 いつの間に入ってきたのだろう? や張遼が入ってきた時ですらすぐに気づいたのに、甄姫の時はまったく気づかなかった。 「お、お前までなんだ」 甄姫は先ほどのと同じように夏侯惇と背中合わせに腰を下ろしている。 との違いは彼女がぐっと体重をかけていることだ。 「ばかりずるいと思いまして。少しばかりいいではありませんか」 子どもみたいに拗ねた様子の甄姫に夏侯惇は小さく舌打ちをした。 「お前とでは違うだろう」 「まあ。女心がわかっておりませんのね。私、いっつもにヤキモチを妬いておりますよの?」 「・・・・あのなあ」 「でもの前でそんな顔をしたくないので大人ぶっているのですけど」 が「甄姫姉さん素敵です!」「憧れちゃうなあ」なんてことを言いながら慕ってくるので酷はできないのだ。 自分だって彼女を妹のように可愛がっているのは事実なのだし。 「だから、少しだけ良いではありませんか。ね?将軍」 「・・・・少しだけだぞ」 が今までいたと言う跡が夏侯惇の背中に熱として少し残っている。 「私は我がままなのでしょうね」 「我がままだな」 くっと夏侯惇が笑うのが聞こえた。甄姫は思わずムッとしてしまう。 「だが、お前の我がままなんか可愛いものだ。孟徳に比べたらな」 「・・・・・・それは喜んで良いのでしょうか?微妙ですわ」 「そうか?」 曹操の我がままと比べられてもと思う。 でも嫌がられていないので良しとしよう。 「そうですわ、将軍。先ほどの子泣きじじいというのはなんですの?」 「知らんか?から聞いた倭国にいる妖怪だそうだ」 「よ、妖怪?」 「赤子のような泣き声を出し、背負ってやるとずしりと重くなっていきその者が死ぬまで離れないとかなんとか・・・」 「ひ、酷いものと例えますのね、将軍」 ギュッと夏侯惇の背中を抓る甄姫。 「す、すまん。ちょっとした冗談だ」 「冗談でも嫌ですわ、そんなものと間違えるなんて」 「お前が音もなく姿を現したからな。驚いただけだ」 「・・・・そういうことにしといて差し上げます。けれどやはり許せませんわ」 「甄姫」 甄姫は夏侯惇から離れて立ち上がる。 「本当は昼餉でもご馳走して差し上げようと思いましたけれど、止めにいたします。 お詫びとして将軍が私にご馳走してくださいまし」 何で俺がと夏侯惇は思ったが、まあ仕方ないかと頭を掻きながら立ち上がった。 「いいだろう。それで許されるなら安いものだ」 「では参りましょうか、将軍」 にっこり笑う甄姫にはめられたと思うのは気のせいだろうか?と夏侯惇は思わずにいられなかったが 腹が減っていたのは事実なので気にするのを止めにした。 特別リクで甄惇でした。プラス夢主ってことで。
06/08/19
19/12/22再UP
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