ドリーム小説


「まったく。あいつはどこへ行ったのだ・・・」

夏侯惇は日が沈み始めたにもかかわらず戻ってこないに呆れていた。
どうせまた近所の子どもたちと川原だ広場などで夢中で遊んでいるのだろう。
お前はいったいいくつだ。とたまに夏侯惇は言いたくなる。
年頃の女性ならばもっと他に夢中になることがあるだろうにと心配になる。

子どもと遊ぶなとは言わない。
言わないが、一緒に泥だらけになって帰ってくるのはどうだろう?

「もう少し大人になってほしいものだ」

ぶつぶつ文句を言いながら、椅子にふんぞり返っている。
だが、いつまで待ってもが帰って来る気配を見せない。

もしかして、何か事件に巻き込まれた?
もしかして、怪我して動けない?

「いや、そんなわけないだろう・・・・」

どっしりとつけた右足はいつの間にかぐらぐらと揺すってしまっている。
口もへの字に曲げ、渋い表情を作っている。
明らかにが心配だという態度だ。

「・・・・・」

今度は膝に置いた手が、指がトントントンとリズムを刻んでいる。

「少し出かける」

とうとう我慢しきれずに夏侯惇は立ち上がり、使用人にそう伝え屋敷を出た。
どこに行けばがいるとは把握していないが、子どもらと一緒ならば限られると思う。
だが、その期待は破られた。
いつもと遊んでいる子たちが夏侯惇の脇を通り過ぎていった。

「おい、お前たち」

「あ、元譲さまだ〜」

笑いながら走っていた子どもたち。
夏侯惇に呼び止められてようやく気づいた。

「お前たちだけか?はどうした」

子どもたちは顔を見合わせる。

なら、とっくに別れたよ」

「そ、そうなのか?・・・・」

夏侯惇は呼び止めていた子どもたちを解放する。
子どもたちは夏侯惇に手を振りながら走り出す。
さて、どうしようか。
子どもたちが言うのなら、もうすでに帰宅しているかもしれない。

も子どもじゃないのだ、自分がここまで心配してもしょうがない気がする。

「帰るか・・・」

そう思いながらも、夏侯惇の足は屋敷とは逆へ向かう。
別にが心配だからじゃない。
なんとなく、目に入る夕焼けが綺麗でさっきまで忙しなかったから、のんびり歩くのもいいなと思ったのだ。

こんな日は珍しい。
今日は久しぶりの休暇だった。
屋敷からは出ずに書物を読んだり静かに過ごした。
はいつも通りに出歩いていたが、別に止めようとかせずにいた。

いつもならば、まだ城で執務に追われている時間。
早めに終わることがほとんどない。

最後に見た夕焼けはいつだった?
大げさな気がするが、意識してみた記憶がここ最近はない。
気がつけば辺りは薄暗くなっているか、どっぷり闇に浸かっているかだった。

「・・・・戦場で見た。ぐらいか?」

従兄弟らと見た記憶が薄っすらと残っている。

「なんだか、珍しいこともあるもんだ・・・ん?」

しばらく歩いていたら、の姿を見つけた。
自分と同じように夕焼けを見ていたらしい。

っ」

ジッと見つめていたに夏侯惇は声をかける。
自分を呼ぶ声に気づいたは辺りを見回してからようやく夏侯惇に気づき、かけてきた。
その時の顔は一瞬驚きつつも嬉しそうに笑っている。

「惇兄」

「何している?子どもたちと先ほどすれ違ったぞ」

「あ、そうなの?何をしているってわけでもないけどね。なんとなく見てた」

「夕焼けをか?」

「うん」

「綺麗なものだな」

夏侯惇は素直に感想を漏らした。
だが、は微苦笑する。

「惇兄、夕焼け好き?」

「ん?好きか嫌いかなど考えたことはないからな。ま、嫌いではないな」

「私は嫌い」

「何故だ?」

「嫌いだった。が正解かな?」

ふふっと夏侯惇の隣で笑む。
夏侯惇は夕焼けを嫌う理由が思いつかないので首を傾げる。

「私のトコはね。夕方になると子どもたちに家に帰るよう曲が流れるの。
 あれが嫌いだった。なんか寂しいなって。一緒にいた友だちと別れちゃうし」

公報の知らせで童謡赤とんぼの曲が流れる。
子どもたちに家に帰りなさいって意味で。
それが合図で子どもたちは家路につく。
一人で帰ったり、親が迎えにきたりと。

「こじつけなんだけどね。暗くなると楽しいことがなくなっちゃうみたいでさ」

まだまだ友だちと遊んでいたいって思ったから。
いつまでも太陽が昇ったままならいいのに、夜なんて来なければいいのにと。

「寝る暇がないな、それでは」

「だよね。遊ぶことしか考えてなくってね」

「自分の住まいが嫌いだったのか?」

「ううん。まだ遊びたいのにって思っても家に帰れば、家族がいて一緒にご飯食べてそれはそれで楽しかったりするの」

「我がままだな」

「子どもだもん」

「それで、夕焼けが嫌いか。ずっと遊んでいたいからと」

「そう。だから嫌いだった。あとね、迎えがないのか寂しいなって」

「迎え?」

「よくね、友だちのお母さんが『帰るわよ〜』って迎えに来て、手を繋いで一緒に帰ってるのを見たから」

でものうちは両親共働きのために、一人で家路に着くほうが多かった。
父親は特に昔から忙しい人だったから、一緒に遊ぶと言うことが少なかったし。

「羨ましいなって。歌を歌いながら手を繋いでさ」

「ほぅ」

「だから。今、惇兄が来たのが驚いたけど嬉しかった」

「お、俺は別に迎えに来たわけじゃないぞ。散歩していただけだ」

夏侯惇は少し頬を赤く染めるが、それ以上に赤い夕焼けによって気づかれない。

「わかってるって。別にいいの」

「そ、そうか」

安心したような残念なような複雑な気分になる。
だが、少し考えてからに手を差し出す。

「なに?」

「帰るぞ」

「手、繋いでいいの?」

夏侯惇が答える前には笑顔になり、その大きな手を握った。

「・・・・だが、歌は歌わん」

「なんだ。残念。一緒に赤とんぼ歌おうと思ったのにな」

「知らぬ歌など、歌えぬ」

ブスッとした顔をしながら夏侯惇は歩き始める。
隣ではくすくす笑っている。

「教えてあげるよ?」

「遠慮する」

オレンジ色の夕焼けを背にして、二人は家路に着くのだった。






05/01/15
19/12/22再UP