再会の時に。




ドリーム小説
帰ってくる。
帰ってくるのだって。
ずっと待っていたんだよ、惇兄。

ああ、でも気づいた。
私、何も変わっていないってことに。



夏侯惇が最後にその姿を見たのは二年も前になる。
従兄弟であり、仕えるべき君主でもある曹操から
長安に行って欲しいと頼まれた。
長安で領主としてしばらく治めて欲しいと。
夏侯惇は曹操の右腕であり、一番の古株。
彼を自分のそばから離す事に周囲は驚いたが
夏侯惇にしか任せられないと言うことなのだろう。
夏侯惇はそれに素直に従った。

そして二年の赴任を終えてギョウへと戻ってきたのだ。

久しぶりの都。
長安も都と呼べる場所ではあったが、それは嘗ての話。
董卓によって一度壊されてしまった。
それがようやく以前と同じように戻ったが、華やかさはこちらの方が上だった。

「惇兄!戻ってきたのだな」

「淵」

もう一人の従兄弟が出迎えてくれた。

「二年は長ぇなあ〜でも惇兄あんま変わってないか」

「長安で戦をしていたわけではない。何も変わらんよ。お前こそ変わっとらん」

もう少し痩せた方が良いだろ・・・・
そう呟いてみる。
夏侯淵は豪快に笑い飛ばす。

「無理だな。惇兄がいないから、殿の我が侭が酷いからな、こっちは体力つけて対応しなきゃならなかったし」

「アイツは・・・・」

お主にしか頼めん。
とか言っておいて、実は遊びたいだけだったのでは?そんな気がしてしまう。

「どうだ?特に変わりはないか?この前張遼と徐晃には会ったばかりだが」

二人は仕事の関係上、よく長安に来ていた。

「おう。全く変わりなし」

「そうか」

夏侯惇は微笑する。
彼の頬が緩んでいるのは、この後会うであろう少女を思ってのことだ。

「どうする、惇兄。一旦邸へ帰るか?」

「いや。一応孟徳に会っておいた方がいいだろ」

「一応なんだ」

「一応で十分だ」

きっぱり言い切る夏侯惇に夏侯淵は苦笑した。

その一応の挨拶報告等を終えて邸へ二年ぶりに帰ってきた夏侯惇。
変わらず元気でいる使用人たちに安堵しつつ、奥へ進む。
扉を前にして、少し緊張してしまう。
あの頃と変わらず元気良く飛び込んでくるのだろうかと色々考えながら

。今、戻った」

スッと扉を開ける。

「?」

「お帰りなさいませ、兄様」

「な、なんだ。それは・・・・」

床に手を着き深々と頭を下げている女性。
しかも“兄様”などと呼ばれて眉を顰めてしまう。
親しみを込めて惇兄と呼ばれてはいたが、実際兄妹ではないので妙な感じがする。

?」

「お久しぶりです」

顔をあげてニコリと笑う。
ああ、その笑顔は変わってないと安堵するも。
夏侯惇が求めていた笑みとは少し違う気もした。



「はい」

「・・・・・・」

以前ならば

「惇兄ーお帰りー」

とでも言って自分に抱きついてくる子だったのに。
ここ二年で淑やかな女性に成長したと言うのだろうか?
夏侯淵は何も変わりはないと言っていたのに、夏侯惇にしてみれば、これに一番衝撃を受けた。
一番変わっていないだろうなと思っていた少女が大人になっていたようで。

夏侯惇はそばにあった椅子に座る。
卓に片肘を乗せて頬杖をつく。
はニコニコと笑んでいる。
そんなをしばらくジッと見る。

「・・・・・・兄様?」

夏侯惇は答えない。
二年と言う月日は短いようで実はものすごく長いものだったのかと
夏侯惇は溜め息を吐きたくなった。

夏侯淵や張遼たちは、このような態度のにはもう慣れてしまって
特に何も感じないのだろうか?
だから、夏侯淵は何も変わらないと答えたわけだし。
たまに会った張遼たちもに関しては何も言っていなかった。

髪も結い上げて薄くだが化粧もされていて。
年頃の女性だったのだなと改めて思い知らされて。

ただ。
自分だけ取り残されたような気がした。

夏侯惇には何も答える気がなくなっていた。
ぼーっと片肘を着いたままだ。

(俺も慣れていくのだろうな、このに)

夏侯惇は席を立ちに背を向けた。
もう少し自分には時間が必要かもしれないと思い。

「・・・・にぃ」

振り返ると、の表情に変化が出ていた。
先ほどまでは澄ました笑顔だったのに、今は焦りが見えて口元が歪んでいる。
は立ち上がろうとするが、足元がぐらつき倒れそうになる。

「あ」

!」

夏侯惇は倒れそうになったを受け止める。

「あ、足痺れきれちゃった・・・・あ!」

「お前・・・」

慌てて口を噤むに夏侯惇は笑みが零れた。
は夏侯惇の笑みに息を吐く。

「もう・・・・せっかく頑張ったのに」

「何をだ?」

以前と変わらぬ口調に戻り、夏侯惇は安堵する。

「惇兄がやっと帰ってくるって聞いた時に、私何も変わっていないなって思ったから・・・・」

「だから?」

「大人になった私を見てもらいたかったのだけど」

付け焼刃だったようで、すぐにボロが出た。
いや、夏侯惇が自分の想像していた態度ではなかったからだ。

「惇兄、何も言ってくれないんだもん」

「当然だ、何も言えん。淵が何も変わってないと言っていた。俺はそれが嬉しかったのだがな」

「え。変わっていないのが?」

「ああ。淵が出迎えてくれた時、孟徳に先ほど会った時もだ。
 何も変わっていない、あの頃のままだと・・・・だから当然お前もそうだろうと思ったのだが」

「私は、何も変わっていないことに飽きられちゃうかなって思ったのに」

「成長するなら俺に見えるところでしてくれ。先ほどのお前は心臓に悪い」

「な!失礼ね!」

そうだ。
こんな感じだ。
夏侯惇が笑うのでは余計に腹を立てるが。
実は自分もこの状態に満足していたのですぐに消えてしまう。

「慣れないことをするものではないな」

「確かに。反省しています」

は夏侯惇に受け止められたままだと言うことに気づくが、離れようとはせず。
寧ろ腕を回して抱きついた。

「お帰り、惇兄!」

「ああ。戻ったぞ、

ようやく聞けた言葉にお互い満足するのであった。








06/05/24
19/12/22再UP