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ハチ
「ここから先は・・・一歩も・・・通さん!」 197年、宛城にて張繍軍の夜襲から曹操を守り典韋は戦死する。 曹操はこの時、息子の曹昂・甥の安民までも失いながらも生き延びた。 それから数日後の話。 「・・・またか、何をしているのだは」 陽も落ち始めたとき、城門の外では一人でじっと座っていた。 屋敷へ帰ってこないを心配して夏侯惇が迎えに行く。 「、またか・・・何をしておるこんな所で」 「あ、惇兄・・・別に」 「ほら、帰るぞ」 「うん」 テクテクと夏侯惇の後をついていく。 はこの所、夕暮れまで城門にいる。 そして日が暮れる頃に夏侯惇が迎えに行くのだ。 「毎日、あそこで何をしているのだ」 「何もしてないよ」 「」 「なんにもしてないよ」 何度訊ねても答えは同じ。 『何もしてない』 じゃあ、何故わざわざ城門を抜けて一日そこにいるのだろうか? 理由はわかる気がするが、口に出す気もなかった。 数日後、曹昂を失った悲しみで丁夫人は曹操の下を離れた。 曹操は手放したくなかったが、彼女は実家へと戻ってしまった。 迎えに行くも彼女は曹操を見ようともせず機を折り続けてた。 そして今日もまた、は城門の外で遠くを見つめていた。 「元譲、はどうした?」 宛城にて多くの者を失った曹操は少し覇気が失せていた。 その上で丁婦人との離別。 「さぁな。最近ふらついておるわ」 「そうか、わしに顔を見せんのはわしを憎んでおるからか」 「孟徳、違うと思うぞ」 「大声を上げて責めてくれればいいものを、誰もわしを責めない」 「孟徳」 曹操がこれでは皆の士気も下がり鈍るだろう。 だが、自分ではどうする事もできない。 今、自分ができるのはを迎えに行くだけ。 ただ、それだけ。 「、帰るぞ」 「うん」 いつもなら、さっと立ち上がり歩き出す。 だが、今日に限って動こうとしなかった。 「、早くしろ」 「ハチ公ってさ」 「なんだ?」 「忠犬ハチ公って話があるの。ハチはね、毎日ご主人様を駅まで迎えに行くの」 ハチってなんだ?エキとはなんだ? 忠犬って言うから犬か?犬がどうした? 知らない単語が出てくるが、に聞き返す事もできず、そのまま黙って耳を傾ける。 「ずっと。ご主人様が改札口から出てくるのをジッと待ってるの。 でも、ある日、ご主人様は死んじゃうの。それでもハチはまた駅でご主人様を待ち続けるの」 「、お前何を言っておる」 「ご主人様とハチの付き合いは17ヶ月だけなんだって、けど、ハチは何年も雨の日も風の日も待ち続けたんだって」 それは、今のお前とそのハチを照らし合わせているのか? そう言葉を出しそうになる。 けど、言いたくなくて我慢する。 「周りはさ、ハチはご主人様が死んだのを知らないって言うの。本当にそうかな?賢い犬なんだよ。 ハチはとっくにご主人様が死んだのを知ってると思う。犬って結構敏感なんだよ、そう言うのって」 「でも待ち続けていたのだろう」 「うん。待ち続けたら・・・ご主人様が帰ってくるとも思ったのかな・・・ってそう思った」 は顔を伏せてしまった。 夏侯惇はの隣に腰を下ろし、の頭を撫でる。 「だが、死んだ者は帰ってはこないぞ」 「惇兄の意地悪・・・わかってるもん。それくらい」 「ならば、ここで典韋を待ち続けても仕方ないぞ」 「・・・うん。そうなんだ・・・典韋君は帰ってこない」 「もう待ち続ける真似は止めろ。無駄だ」 は苦笑しながら目元を拭った。 「酷いなぁ、惇兄ってば」 「本当の事だ」 「私ね、友だちがいなくなるっての初めてだったから。改めてここが戦乱の地なんだなって実感したよ」 「・・・」 「けどさ、少しだけ・・・少しだけでいいから泣いてもいい?」 「駄目だなんて思わないぞ、気の済むまで泣くがいい」 「・・・っ・・・惇、兄・・・」 いつも大人びた少女が子どものように泣きじゃくった。 夏侯惇はただ、ただの頭を撫で続けてやった。 にとって大切な友だちだった典韋。 夏侯惇にとっても大事な友であり仲間だ。 でも、悲しんでばかり入られない。 典韋が守り通した曹操を天下に導く為にやらなければならないことが山のようにある。 「・・・惇兄・・・惇兄は死なないでよ・・・」 「さぁな、わからん」 「嘘でもいいから、うんって言ってよ・・・意地悪」 「先のことはわからんが、やらなきゃならないことが沢山ある。簡単には死なんよ」 「絶対ね」 「・・・絶対だ」 はぎゅうっと夏侯惇に抱きつしばらく泣き続けたのだった。 秋田犬はいい…
03/06/14
19/12/22再UP
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