太陽と向日葵。




ドリーム小説
「関平君は向日葵だよね」

一人で鍛錬中の関平に向かってが呟いた。
そんなに遠く離れていたわけでもないので、関平にもその呟きは聞こえた。
剣を振るう手を休めて関平は顔だけのほうへ向けた。
彼女は石段に座っていた。

「拙者が何だと?」

「あれ、聞こえちゃった?向日葵。関平君向日葵知っている?」

馬鹿にされたかと思い、関平は少しムッとした。

「向日葵くらい知っている。馬鹿にするな」

「馬鹿になんかしていないよ〜ごめん、怒らせる気はなかったんだけど」

「あ、いや・・・別に怒りはしない。だが、意味はわからないぞ」

「何の?」

「拙者が向日葵だと言う意味だ」

「あー意味ね」

は答える気がないのか関平から視線をそらす。

「悪い意味なのか?向日葵に悪い意味があるなど知らないが・・・」

「ん?悪くないよ。ただね」

は立ち上がって軽く服を掃った。

「ソレを言うと、私自身がへこむから」

「は?」

「だから、言わない。じゃあね」

「あ、待て!!」

は身を翻して走り去ってしまった。
残された関平には意味がわからないし、が去ってしまった事で訪れた静けさに寂しさを感じた。




「向日葵・・・・向日葵・・・???」

鍛錬を終えて一人廊下を歩く関平。
先ほどの事が気になり、ブツブツ呟いてしまう。

「どうかしたのですか?関平殿」

「・・・向日葵・・・あ、姜維殿!」

呟いている関平を不思議に思ったのだろう、姜維が声をかけた。
関平は少し恥ずかしくなる。
変なところを見られたなぁと。
彼はまだ執務中なのだろう、両手には沢山の書簡が抱えられている。

「向日葵?向日葵がどうかしたのですか?」

「あ、いえ・・・・その・・・・が」

が?」

姜維は書簡を持ち直す。
量が量なので大変なのかもしれない。
関平は慌ててなんでもないと両手を振った。

「たいしたことはないです。申し訳ない、お忙しいのに引き止めてしまって」

「いえ、平気ですよ。それに声をかけたのはこちらですよ」

「は、はぁ。そうなのですが・・・・」

がまた関平殿に我がままでも言ったのですか?」

「そ、そのようなことはないです!」

今度は首を横にブンブン振る関平。
関平は軽くこめかみを掻く。

がなぞなぞみたいな事を言い出したので」

「?」

「拙者が向日葵のようだと・・・・」

「関平殿が向日葵?・・・・・ふーん、何故でしょうね」

「姜維殿にも意味はわかりませんか?」

関平に言われて姜維は考えてみる。


向日葵ってあの向日葵だろ?
関平殿が向日葵のようって・・・夏に咲く花だから、暑さに強いとか?
向日葵の種からは油が取れるよね。
脂性?
いや、それは流石に失礼だよね・・・・
あ、なんとなく向日葵って元気、快活って感じがするから、関平殿にぴったりとかかな?
夏男!みたいな?


姜維はアレコレ考えるも結論までは出なかった。

「向日葵みたいな人ってことですよね?」

「らしいですけど・・・」

「僕が向日葵から連想するものと言えば、大きいとか力強いとか・・・でしょうか」

だから関平は大きくて力強い人。
うん、中々良い例えではないか。
姜維はニ三回頷いた。
だが、関平の顔はイマイチすっきりしていない。

「それだと、ちょっと問題があるのです」

「問題?」

折角姜維が良い答えを出してくれたのだが・・・

はその意味を言うと自身が落ち込む。見たいな事を言っていたのです」

「関平殿が向日葵だとが落ち込むのですか?・・・・意味がわかりませんね」

「わからないのです・・・・」

自分はそんなに頭を使う事が得意ではない。
謎解きをするくらいならば普通に剣でも振るっていた方が楽しい。

「あまり深く考えない方が良いですよ」

「そうでしょうか?」

「それかに聞いてみれば良いのですよ」

「でもは落ち込むと・・・・」

「自分から言い出して内緒にしておくのはずるいですよ。関平殿のことなのだから聞く権利はあるでしょ?」

「教えてくれないような気が・・・」

「関平殿。だったら悩むだけ無駄なので忘れてしまうのが一番ですね」

「そうなのでしょうが・・・・」

関平は聞いてはみたいがを困らせたくないと言った感じの表情だ。
姜維もソレは見ていてわかるので、思わずくすりと笑んでしまう。

「姜維殿?」

「あぁ、申し訳ありません。でも関平殿はどうしてそこまで気になさるのかな?と」

「え?あ・・・・・その・・・・」

薄っすらと頬を赤く染める関平。

にその気持ちが伝わると良いですね。頑張ってください、関平殿」

「え!きょ、姜維殿!せ、拙者は」

「さて、僕はそろそろ行きますね。向日葵の意味わかりませんでしたし」

姜維は関平に軽く頭を下げ歩き出す。

「あ、ありがとうございました。姜維殿」

姜維は振り返ってニッコリ笑った。
関平は深深と頭を下げてから姜維とは反対方向へ駆けて行った。
そんな関平の後姿を姜維は見て。

「きっと、のことだから関平殿に片思いだって思っているんだろうね・・・・・」

本当は互いに好いてるのに。
ちょっとしたズレでそれにお互い気づかないのだ。

「気づかない関平殿も関平殿だけど」

苦笑しながら姜維は歩き出した。



***



それから数日が経った。
関平は自分なりにあれこれと考えるもののまったく答えが浮かばない。
義父や趙雲たちにも聞いてみた。
誰も意味などわからないと言った。
わからないが、大半は姜維が思った通りの『大きく力強い』と言う。
だが、それではが落ち込むと言うと皆も同じようにさっぱりなのだ。
馬超だけは面白がって

「関平殿より力持ちにでもなりたいのだろう」

と笑っていた。

「・・・・ふぅ」

鍛錬にも身が入らない。
このままでは良くない。
姜維の言うとおりにもう一度聞いて答えてもらえなかったら忘れてしまおうか・・・・

「関平」

「星彩!」

いつもと違って気合の入っていない後姿に星彩が声をかける。
そう言えば星彩にはまだ聞いていなかった。
と仲の良い星彩ならばわかるかもしれない。
それに今までは男性ばかりに聞いていたが、女性の視点からなら違う答えが出るかもしれない。

「星彩、拙者聞きたいことがあるのだが」

「なに?」

星彩も鍛錬を、または関平と手合わせでもと思ったのだろう。
手には得物を携えている。

「拙者は向日葵に見えるか?」

「何故そう思うの?関平は花ではないわよ」

当たり前の答えが帰ってきた。
聞き方が悪かったようだ。

「いや、が拙者を見て向日葵のようだと言うのだ。でも意味は教えてもらえなかった」

が?」

星彩はどう答えるだろう。
これで答えが出れば良いのだが。

「私にはわからないわね。でもこの前、は自分が向日葵のようだと言っていたわよ」

「・・・・は?」

また違う謎が出来た。
関平の事を向日葵のようだと言ったが、己のことも向日葵だと例えた。
意味を言うと自分が落ち込むような事を残した。
ではは自分と同じものは嫌なのだろうか?

「水の精が向日葵になってしまったから・・・と言っていたけど」

「水の精?なんだそれは」

星彩がに聞いた話はこうだった。
水の精クリュティエは、太陽神アポロンに恋をするが見向きもされなかった。
だが彼女はアポロンを想い九日九夜、地面に立ってアポロンを仰ぎ見つめるも、
太陽の光を浴び続けた彼女の体は足が地に根を下ろし、向日葵になったのだった。

「その水の精のようになってしまうかもとは笑っていたけど」

はいずれ向日葵になるってことか?」

「例えるならばそうらしいわ」

「では拙者もか?」

「・・・・・そうなるのかしら?」

星彩は首を傾げる。
神話の類はよくわからないと星彩は軽く笑った。
だから、この話より武芸の方が良いと。



***



!」

関平は星彩に聞いた話から考えるもよく意味がわからなかった。
だからに直接聞いたほうが早いと思いを探していた。

「なに?関平君。もしかして向日葵の事?」

「そ、そうだ」

は困ったような顔をする。

「関平君いろんな人に聞いたでしょ?あれから私のところにも何故だ?って質問が来るよ」

「あ、それは・・・・確かにわからなくて皆に聞いて周ったが・・・・」

「わからなかったから私に聴きに来たの?」

「そうだ。先ほど星彩にも聞いた。そうしたら水の精の話をされた。は自分も向日葵になるとか言ったのだろう?」

「・・・・・星彩に聞いたの?そう・・・・」

は一瞬悲しげな目をするが、すぐさま表情を戻す。

「関平君は向日葵の名前の由来を知っている?」

「いや、知らない」

「日廻り。日を追って回るから向日葵。
 向日葵はね、若い茎や花のときは太陽を追って向きを変えるんだよ。 養分を沢山得る為とからしいけどね」

「それが拙者とどう関係があるのだ、まったくわからないぞ」

話は最後まで聞きなさいとは関平を軽く睨む。

「星彩から水の精の話聞いたのでしょ?向日葵が太陽を追う理由は神話ではそう描かれているの」

「神に恋したが報われず向日葵になったんだよな」

「そう。関平君も私もその水の精みたいだねって事」

「・・・・・は?何故だ?何故拙者はその水の精のようになるのだ?」

向日葵が太陽を追う理由や名前の由来はわかった。
だからと言って、自分は水の精に例えられる意味がわからない。
だって、それだと、自分はまるで誰かに恋をするものの報われないと言う事ではないか。

「・・・・・・・・」

は関平の態度に口を軽く尖らせる。

、拙者は」

「星彩が太陽。それを見ている関平君が向日葵」

「え・・・」

「関平君が太陽、私が向日葵って言う事」

二人とも追っている相手からは見られないと言うこと。
星彩が自分を幼馴染として見ている事は知っている。
幼馴染として慕ってくれているのも。
同時に頼れる仲間として見られるし。
だから、それは違うのだ。

だがとしては失恋確定みたいな気分で、自分で自分の首を絞めてしまったようで苦しかった。
関平と星彩の間に自分の入る隙間は最初からなかったと思っているのだから。

・・・・違うぞ、それは」

は関平の顔をじっと見つめる。
関平は目線を地面に向けて、拳を強く握っている。
どことなく震わせているように見える。

「違うって・・・・どこが?・・・」

「拙者の太陽は星彩ではないことだ」

「そうなの・・・?嘘だぁ」

「嘘など言ってどうする!」

口調は強くとも表情は弱々しい。
悔しそうで泣きそうな顔をしている。
男の関平がだ。

「・・・・関平君?」

「拙者の太陽はだ。ずっとを見ていた。だが・・・・気づいてもらえなかったのだな」

「だって、関平君は私と言うより星彩といる方が楽しそうだし・・・」

関平はに背を向ける。
も俯いてしまう。

「そ、それは。昔からの付き合いで、星彩には気を使う事もなくて・・・・っ・・・・」

ははっと顔をあげる。

「関平君、泣いてる?」

「な、泣いてなどいない・・・・」

だが鼻を啜る音が聞こえるし、涙を拭っているのが後ろからでもわかる。

「関平君」

「す、すまぬ。男が簡単に泣いて・・・・だが、止まらないのだ」

をずっと好きだった。
が思っていた通り星彩を好きだった時期はある。
でもそれは初恋って奴なのだろうか。
幼い時の頃で、再会した時はその延長線ぐらいにしか思わなかった。

自分の想いにはまったく気づいてもらえないどころか、他の人を想っていたと思われたのは
とても悔しいし、とても悲しい。

「関平君、ごめん!」

は関平の背に抱きついた。

「だって、私は自分にも自信がなかったから。関平君が想ってくれているなんて思わないで・・・・」

「・・・・

「本当は嬉しい事なのに、でも、でも今は・・・・関平君のこと傷つけた事のほうが」

「せ、拙者は大丈夫だから。すまぬ、

「関平君」

関平は身体を反転させる。

「はっきり言うから聞いてくれ、

の顔をジッと見つめる。
彼女の手を取り一息飲む。
そして。

が好きだ。ずっと、そしてこれからもだ」

目尻がまだ濡れているが、関平らしいなと思った。

「私も、関平君が好きです。これからもずっと」

・・・・拙者は嬉しいぞ」

関平はをギュッと抱きしめる。
力強く。

「あはは、痛いよ、関平君」

「あ、す、すまぬ」

関平は腕の力を緩めた。
は関平の顔を見てニコリと笑んで言った。

「やっぱり関平君は向日葵だ」

「え?な、なぜだ?」

「えへへ、内緒です」

向日葵のように私のことを見てくれるから。

向日葵の花言葉。
崇拝、敬慕、愛慕、憧れ、あなたを見つめる、あなたはすばらしい、高慢、光輝 。











05/09/24
19/12/22再UP