ヨワノハル




ドリーム小説
関平君は毎日、修行修行と忙しいらしい。
でも、たまにはお休みしてのんびりしてもらいたいって思うでしょ?

だから、無理やりにでも連れ出すって決めたのだ!






すっかり春らしいといえる陽気のこの頃。
先月は桃の花が満開で人々はそれを酒のつまみにして楽しげにしていた。
今は桜が満開になり、人々はそれを愛でるようになった。

ただ、武芸に真面目な青年だけはそれより修行の方を好んだ。

「平君」

「はっ!とりゃ!」

「平君ってば」

ブンブンと斬馬刀を振っているその青年の耳には少女の声など聞こえていないようだ。

「無視かよ・・・・・」

少女、は修行中って態度の関平に少し腹を立てる。
少しは反応しろとばかりに、は落ちていた小枝を拾い関平に向かって投げつけた。

「天誅!」

「・・・たっ!」

関平の背中に向かって飛んだ小枝はあっさり関平によって叩き落された。
そこでようやく関平はの存在に気づく。

「なんだ、か」

「・・・・なんだとは何よ、何度も声かけたでしょ!」

「そうか、すまないことをした。それで用件は何だ?」

関平は斬馬刀を地に突き刺し、自分は汗を拭っている。

「・・・・・」

?」

「平君、この後の予定は?」

「父上に稽古をつけてもらおうかと」

「却下」

「は?」

「午後は私とお出かけしましょう」

「何故だ?」

「何故でも」

関平は困ったと首を傾げる。

「では、どこへ行くんだ?の買い物に付き合えというならば拙者は遠慮する」

の買い物は無駄に時間を潰すからと関平はあっさりと答える。
馬超も待たされるのはごめんだと、の買い物には一切付き合ってくれない。
尚香や星彩などの女同士か、文句一つ言わずに相手をしてくれるのは趙雲か姜維ぐらいだ。

「か、買い物じゃないよ」

「では、どこだ?ちゃんと教えてもらわねば困る。すでに父上に稽古をと頼んでしまったからな」

私より、稽古ですか!とまったくもって武芸馬鹿の関平に苛々する。

「どこへはまだ教えないよ。関羽さんには私のほうから断ってあげる」

、それはダメだ」

「平君は私より修行を取るんだ」

「比べるのは可笑しい気がする」

「・・・・こっちとしてはそう言う風にしか思えないわけ」



とにかく、理由をちゃんと説明してくれないと関平は納得してくれないようだ。
はなんでこんなクソ真面目に惚れたのだろうかと己の好みを疑ってしまう。

「桜」

「桜?」

「平君と桜を見に行きたいの」

本当はその場所まで行って驚かせたいって思っていたが仕方なく理由を話す。

「それはまた別の日ではダメか?」

「・・・平君・・・」

やはり自分より父をとるか!
の顔は見る見るうちに不機嫌になっていく。
が、関平はまったく気づいていない。

「まだ当分の間は散ることもないだろうし、拙者としては〜」

桜を見るより関羽に稽古をつけてもらった方がいいと。

「もういい!平君とは絶対行かないから。他の人と行くからいい」

は関平に背を向ける。

「趙雲さんとか姜維君とか誘うから。大勢で行って私は楽しんでくるからね」

、別に拙者は」

「大好きな父上と楽しい修行でもなんでもすればいいじゃん。平君の馬鹿、大っ嫌い!」

拳を強く握って悔しさを現してしまう。
本当に、本当に、何故にこんな修行馬鹿が好きなんだろうって。
休む事だって大事だと思うから、関平にのんびりしてもらいたかったのに。
それよりも修行の方が今は楽しいのだろう。

悔しい。
すごく悔しい。

背を向けてしまった
気づくのが遅すぎた、完全に怒らせてしまったことに。
だから、お前はガキなんだよ・・・と馬超が見ていたら呆れられてしまうだろう。
忙しい父には滅多に稽古をつけてもらえないから、久々にそれが叶ったかと思うと嬉しくて
待遠しくて、比べたわけじゃないが、桜よりも稽古を選んでしまった。

それで大嫌い。
いや、大っ嫌い!と力強く言われてもしょうがないだろう。

関平はどうしようかと頬を軽く指で掻く。
ここは素直に言うべきだろうな。





「拙者は・・・・のこと嫌いじゃないから、他の方と行かれると困る」





これが正直な気持ち。
怒らせてしまった、悪いのは自分だけど。
やっぱり、好きな女の子が別の誰かと楽しく桜など愛でていたら面白くないわけで。

、拙者が悪かった」

「・・・・・」

「でも、本当に少し時間をくれないか?次にいつ稽古をつけてもらえるかわからないんだ」

ダメかな?無理だろうな、普通は。

「・・・・平君の稽古終わるまで待ってていい?」

「それは嬉しいけど、いつ終わるかわからないから」

やはりまた後日にしてくれと、関平は言いたいらしい。
確かにまだ桜が散ることはないだろう。

「わかった」

・・・・すまない」

「だけど、無理しないでよ?」

「あぁ」

「それと」

「ん?」

「・・・・・・・もっといいこと考えたから、やっぱ後で迎えに行くね」

「え??」

はそのまま顔も見せずに去ってしまった。
後で迎えに行くと言うのが気になる。





日が暮れるまで関羽にはみっちり稽古をつけてもらった。
関羽も息子との久しぶりの手合わせは楽しかったらしく、つい時間を忘れてしまったようだ。

「大分良くなってきたな、平」

「そうですか!ありがとうございます」

まだまだ未熟者だと思っている自分には父の褒め言葉が一番嬉しい。

「また次に手合わせするのが楽しみだ」

「拙者もです!」

には悪いことをしてしまったが、関羽に稽古をつけてもらえて本当に良かった。
自分はこれだけいい思いをしたのだから、にもちゃんと埋め合わせをしようと思う。

鍛錬所を出た辺りで関羽とは別れてしまった。
関羽はこの後軍議があるそうで、やはり忙しいらしい。
夕餉も一緒に食べたかったのだが仕方あるまい。

私邸にて風呂に入り、一日の汚れと疲れを取りホッとする。
夕餉も食べたし後はあとは寝るだけだった。
明日は朝一からでもに付き合おうとか考えていたのだが。

「こんばんは、平君」

!?なぜ、このような時間に?」

夜も遅くにが訊ねてきたと言われた時には驚いた。
後で迎えに行くとは確かに言ったが、夕方ぐらいのことだろうと思っていた。
でも来なかったので、諦めたかな?くらいにしか思わなかったのだが。

「さ、行こう。平君」

「ちょ、ちょっと待ってくれ。行くってどこに?」

「桜を見にだよ。昼間は人が多いからね、この時間ならば静かだよ」

「え、いや、でも・・・・」

「・・・・じゃあ、私一人で行くから、いい」

くるりと背を向けるに関平は慌てて引き止める。

「わかった。行く、だから一人で行くのは止せ」

「早く行こう!」

は嬉しいらしく関平の腕を引っ張る。

「ま、待った!拙者この格好のままじゃまずいだろう」

「あ・・・・あはは、じゃあ待ってる」

関平は部屋に戻り急いで着替えた。
流石に夜着のままでは出歩けないだろう。

その後でに教えられ連れてこられた場所では大きな桜が見事に咲き誇っていた。
しかも雲ひとつない満月だったためにとても綺麗に見える。

「昼間はね、大勢の人でいっぱいだけど、夜ならばって思ったんだ」

「でも危ないだろう?遅くに・・・」

「平君が一緒だから大丈夫でしょ?」

「まぁ・・・・を危険な目に合わすような真似はしない」

が一人で勝手に行ってしまわないようにと関平はの手をしっかりと繋いでいる。

「ね?綺麗だよね、桜」

「あぁ。見事だ」

「あのね、“散るは桜、薫るは梅”って言葉があるんだよ、知ってた?」

「いや?拙者はそういうのに疎くて・・・」

繋いでいない手で関平は軽く自分の髪を掻く。

「私だってそんなに詳しいわけじゃないよ、意味は多分言葉どおりだと思うけど・・・思うけどさ」

「うん?」

「咲いている時だって、桜は綺麗だしいいよね?私はそう思う」

桜の魅力は潔い散り際だと言うらしい。

「咲いている時も散る時も桜は人を楽しませてくれるんだな」

「平君は桃の花の方が好きかな?って思ったけど」

「へ?そのようなこと考えたこともないぞ?」

「そう?」

だって、大好きなお父上たちにとっては桃と言うのは大事なものだから
関平もそうなのかなと思った。

「平君はお父上大好きだからね〜」

「な、何を言うんだ、。拙者は」

「別に隠す必要ないじゃん。私より稽古選ぶし」

またその話に戻るのかと関平は頭を痛める。
でも長引かせたはいけないと、関平はの手をさらに強く握る。


「確かに父上のことはとても尊敬している。だが、拙者が一番愛しいと思うのはだ」


好き。
と言う言葉より上級の愛しいだと。
は一瞬の間を開けて何度も頷いた。

「あ、ありがとう・・・うん、嬉しい」

「それは良かった」

にこりと笑い、関平はの額に軽く口づけた。

「ねぇ、平君。少しは和んだ?」

「ん?和む?・・・・あぁ、落ち着くな」

「良かった。ね、たまにでいいからさ、またこうして夜散歩しようよ」

「夜だけか?」

「あ〜昼間も。でも、平君の方が稽古、修行で私の事放っておくでしょ?」

「もう、そのようなことしない。でないと、は他の方と行ってしまうからな」

そう言って二人は夜桜を楽しんだ。






キリ番リクでした。
ヨワノハルはそのまんま夜半の春と書いて「春の夜中」って意味です。
05/04/09