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初めてその姿を目にした時、気高いとか高貴なって言葉が浮かんだ。
でも、話してみたら・・・
(子どもっぽいなぁ・・・・)
って思えて笑ってしまったら、初対面で殴られた。
「痛い・・・・」
「すみません!すみません!本当にすみませんでした!」
「いや、馬岱殿が謝ることないですよ。私が悪かったのですから」
水で濡らした手拭で頬を冷やしている趙雲。
その彼の前で何度も頭を下げて謝っているのは馬岱。
彼は従兄弟の馬超と共に劉備軍へと降ったばかりだった。
「趙将軍に落ち度は何もないと思います。悪いのは兄上ですから」
「あ〜なんと言うか・・・」
悪いのは本当に自分なのだ。
最初の第一印象とは少し違い、意外に子どもっぽいのだなぁと思ったのだし。
それが顔に出たというか、呟いてしまったのだろう。
馬超の耳に入ってしまい、彼が腹を立てて自分を殴ったのだ。
「本当に私が悪かったのですよ。馬超殿の立場を危うくしてしまうようなことをしてしまった」
「はぁ」
「さ、私のことなど気にせず、馬超殿のところへ戻られよ」
「でも」
「平気ですよ」
にっこりと笑って馬岱の背中を押した。
彼が去った後に、椅子に腰を下ろし溜め息をついた。
自分を勢いとは言え殴ってしまった馬超を周囲はどう思っただろうか?
喧嘩っ早いと思ってアレコレ噂してなきゃいいが。
誰だって最初からうまく行くとは思わないが、つまずかせてしまった気がする。
仲間として迎えたのに・・・
「悪いのは私なのだからな」
***
以前から噂は聞いていた。
長坂の英雄だとか、容姿端麗で人望も厚いとか。
そいつの事を一言で例えるときっと多くの人間が『誠実』と答えるだろうみたいな話も聞いた。
実際に奴が戦っている姿を見た時に、綺麗だと思えた。
そいつと肩を並べて戦えることを楽しみにしている自分がいたのだから。
だが、会って話をしてみたら、そいつの呟きが聴こえた。
「・・・・子どもっぽいなぁ・・・」
とな。
思わずカッとなって殴ってしまった。
馬超は一人自室の寝台で頭を抱えていた。
新しい場所での第一歩な時に殿の有能な部下を大勢の人の前で殴ってしまったことに対してのことで悩んだ。
のではなく。
馬超の言う、そいつに“子どもっぽい”と言われたことに。
変に気にしてしまって、彼がどの辺を見てそう思ったのかが気になった。
顔?
いやいや、顔が子どもっぽいと言うならば自分よりも従兄弟の方が童顔である。
性格?
まだろくに知りもしないうちに決定付けることはないとは思う。
言動?
何か自分は変なこと言ったか?
普通に話をしたつもりだったが・・・・
あれこれ考えてもちっとも子どもっぽいと言われた理由がわからない。
年は確かに馬超の方が下なのはわかっている。
と言っても3つじゃないか。
彼から見てその三歳差ってのは大きいもので、自分は鼻たらした小僧にでも見えたのか?
「くそっ、腹が立つな」
初対面でそんなこと言われるとは思わなかった。
何か言われてすぐに手が出たことに対して子どもっぽいと言われたならわかるが
今回は手が出る前だし。
「・・・・・趙子龍か・・・・」
劉備から彼を紹介された時、なんだか胸が躍る思いだった。
長坂の英雄だからか?
違う・・・とは思うが憧れがどこかにあったらしい。
「従兄上!」
声をあげて入って来たのは従兄弟の馬岱。
自分に代わって趙雲に謝りに行くとか言っていたが終わったらしい。
「なんだ、岱」
「趙将軍の頬腫れてました。ご自分で謝りに行くべきです」
「煩い」
「従兄上」
馬超は馬岱からの小言を逃れる為か、身体をごろりと横にして彼に背を見せる。
「普通ならば刑罰ものですぞ!」
「ならば好きに罰すればいい。俺はかまわん」
「そう言う態度が子どもっぽいって言うんです!」
「な!」
馬超は思わず起き上がり、馬岱を睨む。
だが、従兄弟も負けじと睨みかえす。
すぐさま負けてしまったのは馬超の方だ。
負けたというより、諦めたの方が近いかもしれない。
「なんでお前とまで喧嘩しなきゃいけないんだよ・・・」
再び身体を倒してしまう。腕を枕代わりにして。
「従兄上。お願いですから、趙将軍に謝りに行ってくださいよ」
「気が向いたらな」
「従兄上!」
「わかったから、喚くな」
去れと言わんばかりに手を振る馬超に馬岱は仕方なく部屋を出る。
「殴ったのは悪いと思うが、向こうがあんなこと言わなきゃよ」
ブツブツ文句しか出てこない。
別に貫禄をつけてみようと意識したわけでもないのに。
気分が晴れないまま馬超は不貞寝してしまうのだった。
***
朝。城の廊下でばったり趙雲と出会った。
自分が殴ってしまった頬はすでに腫れはひいて目立っていなかったので安心した。
ただ、なんと言葉を出せばいいか迷ってしまっている自分がいる。
さきに言葉をくれたのは趙雲だった。
「おはようございます。馬超殿」
「・・・・あ、あぁ・・・」
「どうしました?」
「・・・・」
どうしたと趙雲の方が首を傾げている。
「お、怒らないのか?あ、いや、怒ってないのですか?」
「何をです?」
趙雲はにこりと笑う。
「昨日、俺、私が貴公を殴ってしまったことに」
「あぁ。アレですか、私が怒る理由はないですよ?むしろあなたに失礼な事をしてしまったではないですか」
「・・・・」
「私の方こそ謝らねばと思っていたのですよ」
「・・・ひとつ聞きたいことがあるのだが、良いですか?」
「はい、どうぞ」
「その・・・・私に向かって“子どもっぽい”と言われたが何故ですか?」
ずっと考えても理由が思い浮かばない。
こんな事を聞いたら余計にそう思われてしまうかもとも思ったが、はっきりさせたいと思ったので口にする。
趙雲の方は、言っても平気だろうか?と少し戸惑う。
「あ〜その〜」
「隠さず言って欲しい」
「参ったなぁ」
「多分、馬超殿怒ると思いますし」
「怒らない」
まっすぐに自分を見つめる目に趙雲は困ってしまう。
正直、あまり本人に知られたくないのだ。
「趙雲殿!」
根が真面目なんだなと趙雲は思った。
曲がった事が大嫌いと言うか、でもそう言う人間は趙雲も嫌いではない。
「似てるなぁと思ったので」
「?・・・何にですか?」
後頭部を掻きながら、ぽつりぽつりと呟いた。
「長坂などの戦の話をねだる子どもの目に」
「は?」
「なんと言うか、目がキラキラしていたなぁと・・・・・・」
それは、つまり。
自己紹介をした時に、噂を聞いていた趙雲に会えた自分は英雄にでもあったかのように目を輝かせていたと。
それが子どもっぽかったと・・・
憧れは確かにあったことは認めるが、再びムカッとくる馬超。
なんとなくだが、弟扱いされたような、年の差を見せ付けられたような気がする。
「ふざけるな!」
「うわっ!」
またも拳を振るうも今度は趙雲も避ける。
「避けるな!」
「そんな無茶言わないでくださいよ。殴られると痛いんですよ?」
何度も振るうも避けられる一方で、自分の手に槍がないのが恨めしく思う。
「その余裕ありの態度がまたムカツクぞ!」
「余裕なんてないですよ」
「嘘をつくな!」
「許してくださいよ、馬超殿」
「あぁ、許してやるから、その分一発殴らせろ!」
「それは嫌です。さっき怒らないと言ったでしょう?」
「知らんな!」
「困ったなぁ」
朝の廊下で騒いでいる二人の姿に、皆何事かと駆けつける。
劉備と孔明もそれを見たが止めはしない。
「殿。止めなくて宜しいのですか?」
「平気であろう。趙雲の顔見てるとそう思うぞ」
「まぁ、確かに・・・・」
趙雲は実に楽しげな表情をしている。
かしこまった態度をしていた馬超も素を出しているようである。
「二人ともいい大人なのだから、そのうち止めるだろう」
「いい大人はあのようなことはしないと思うのですが」
「うーん。では仲良くじゃれているだけと言う事にしておこう」
「・・・それもどうかと・・・」
のほほんとしている君主に孔明は頭痛を感じるが、自分も止める気はないので従うことにした。
「皆のもの。自分たちの持ち場に戻るのだ。あの二人ならば大丈夫だ」
早く散れと劉備は野次馬たちを解散させる。
結局、趙雲を殴ることも叶わず、疲れてその場に腰を下ろしてしまった馬超。
趙雲も息を整えながら座り込んだ。
「くそ・・・・なんだ、アンタ・・・」
「な、なんだと言われましても。殴られるのが嫌ですから逃げただけですよ」
「・・・・だったら、もっと手っ取り早い方法が・・・はぁ、いくらでもあっただろうに」
「そう、ですかね?」
「あぁ、アンタの腕前なら・・・な」
「そんな事ないと思いますけどね・・・・はぁ、疲れた」
「朝から、何してるんだ、俺は・・・」
これから仕事だと言うのに。
「やっぱアンタ・・・ムカツクな。ガキ扱いしやがって・・・」
「してませんよ。酷いなぁ」
「その余裕がムカツク」
「もう、しつこいですよ」
あははと趙雲は笑う。
その笑いに馬超は眉を寄せるが、文句のひとつでもと思うが、また子ども扱いされては叶わないと止めにする。
「では、改めて。これからよろしくお願いします。馬超殿」
「な、なんだ急に」
「ちゃんと挨拶しておこうと思ったので。これから共に進むわけですから」
「変な奴」
「そうですか?」
趙雲は立ち上がり馬超に手を差し伸べた。
「とりあえず、お疲れでしょう?お茶でもどうですか?」
「・・・・」
「茶菓子もつけますよ?」
「不味いのは食わないからな」
趙雲の手を取り立ち上がる。
変なはじまりだが、これからが楽しみな気がした。
「大丈夫。美味しいですよ」
にこりと笑う趙雲。
どうやら、彼の術中にうまくはまったようだ。
「ま、悪くないがな」
05/01/04
19/12/22再UP
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