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「あ、ああ。す、すみません」 辺りをキョロキョロと見回していた結果、趙雲は歩いてきた人に気づかずぶつかった。 相手に対して深々と頭を下げる姿は戦場で勇敢に戦う武将であるとは到底見えない。 相手が去った後に深く溜め息をつくが探し物があるようで再び辺りを見回す。 「・・・・・・面白いなあ、趙雲さんってば」 そんな様子を少し離れた場所からは見ていた。 約束の時間まであと1時間と少し。 趙雲が探しているのは自分なのだからすぐにでも駆け寄ればいいのだが。 面白いので少し黙ってみていた。 「意地が悪いな、お前は」 「趙雲殿が知ったら怒ると思うよ?」 同じように見物人が二人。 馬超と姜維。彼らだって声をかければいいものを黙ってと同じように見ているのだから同罪だろう。 話は少し前までに遡る。 今日は巷で祭りが行われると言う。 元々がいた場所よりも祭りとなると賑やかなこの国。 何の祭りなのかは知らないが、人々はせっせと準備をして盛り上がっている。 それを見てが祭りに行きたいと言い出した。 「屋台で美味しいもの食べて、沢山遊んでさ。ね、趙雲さん暇なら行こう」 趙雲の袖を引っ張り上目でお願いしてしまう。 そんなを見ると趙雲も嫌だとは言えない。 元々反対する気はないのでいつもみたいに「いいですよ」と返事をしたい所なのだが。 「あの・・・申し訳ない。少しばかり急ぎの用がありまして昼頃にならないとご一緒できないのですが」 「えーそうなの?」 「あ、でも、昼頃には大丈夫です」 「じゃあ一緒にお昼食べれるってこと?」 「はい。あなたが良ければ」 「もち、いいに決まっているよ。趙雲さんと一緒に行けるだけでいいもん」 「では、用事が済み次第殿をお迎えにあがりますから」 「うん、わかった・・・・・・あ。やっぱなし」 は首を振る。 約束はなしと言うことなのか? 趙雲を待つくらいなら一人なり誰か別の人でも誘って祭りに行くと言うことなのか? それならそれで仕方ないと趙雲は思う。 「あのね。待ち合わせしよう」 「待ち合わせ。ですか」 「そう。いつも趙雲さんは私と出かけるとき迎えに来てくれるから。たまにはいいでしょ?」 「はあ」 「昼頃って言うから。正午ぴったりに城下広場のわけわかんない石像の前ね!」 「は、はい。正午ですね。遅れないように用事を早く済ませますから」 「いいよ。急がなくても。私待つの好きだし」 そう言っては出かける準備をすると言ってその場を離れた。 趙雲も待ち合わせに遅れないようにと用事を先に済ませることにした。 正午に城下広場のわけのわからない石像の前とのことだが。 は最初から用事もないので辺りをぶらついていた。 どこにどんな屋台があるのか見定めるのもいいだろう。手間がかからなくていい。 それに人間観察が好きだ。 祭りで賑わっている楽しそうな人々を見るのも楽しい。 は広場近くの甘味処へと入った。 祭りの影響でいつもより客が大勢いたがここはがよく行く店だ。 「いらっしゃい。あら一人?」 すっかり顔なじみになったお店のお姉さんが気軽に声をかけてくれる。 「はい。そこで待ち合わせしているんですけど、まだ時間があるから」 「そう。じゃあ軽く何か食べていってよ」 「もちろん」 空いている席に着こうかとした時、珍しい人物が店を訪れた。 「なんだ。もいるじゃねーか」 「馬超さん。姜ちゃんも」 「、趙雲殿と祭りに行くとか言ってなかった?」 「そうだけど・・・・二人がここにいるのがすごく珍しいのですか?」 「ああ、それは・・・・と店先で邪魔だな。どっか座ろうぜ」 馬超に言われて邪魔だったことに気づく。 とりあえず馬超がゆったりしたいと言い出したので二階の座敷へと案内してもらった。 「あ。ここからなら待ち合わせ場所がバッチリ見える!」 いち早く窓際へと移動する。 馬超がその卓子を挟んで向かいに座り姜維はの隣に座った。 適当に注文し、馬超たちがここにいる理由をは聞く。 「僕らは半分仕事かな?大丈夫だとは思うけど見回りをしてこいって」 「わざわざ将軍様たちが?変なの」 「だから半分。何もなきゃいいんだよ。小さい喧嘩ぐらいじゃ間に入る気もねーし」 そうは言いつつも最初からやる気はないのだろう。 だから店になど入ったのだ。 それでも酒がある店を選ばなかっただけマシだろう。 「趙雲さんの用事もそれ?」 「いや、あいつは軍師殿からの頼まれごとらしい。祭りとは関係ないようだぞ」 「ふーん」 理由はどうあれ、待ち合わせ時間までいい暇つぶし相手ができてよかった。 三人で他愛のない会話を楽しんでいると趙雲が待ち合わせ場所に姿を現した。 「あれ。趙雲殿だよね?」 「本当だ・・・・って待ち合わせ時間までまだ1時間以上もあるんですけど」 「・・・・あいつらしいな」 思ったより用事が早く済んだのだろう。 を待たせてはいけないと感じたのか、やる事がなく仕方なく早めに来ただけなのかはわからないが。 「ほら、行ってこいよ」 「そうだね。待たせちゃ悪いよね」 二人に言われるがは席を立たない。 むしろここから趙雲を見て楽しみ始めた。 卓子に頬杖をついてニコニコ笑って。 「?」 「遅れているならともかく。まだ時間はあるしね。少しだけ趙雲さん観察」 「趣味悪ぃな」 と馬超は頭の後ろに手を組むが止める気はないようだ。 を待たせてはいけないと用事を早めに済ませた趙雲。 約束の時間まで余裕はあるが、祭りで混雑することを想定して早めに出た。 だか思っていたより早くに待ち合わせ場所に到着してしまった。 「さて、どうするか・・・・」 広場にある曰く「わけわかんない石像前」に立った。 わけわからないとは言うが見た目でそう判断しているのだろう。 かの有名な漢の高祖劉邦の石像なのだが、まあ長いこと置かれているだけあって所々が欠けているので わけわからないと言われると妙に納得してしまうかもしれない。 これ、直した方がいいのでは?と趙雲は石像をマジマジと見つめてしまう。 「は。いかん。殿を待っているのだった」 石像を背にする。 の姿はないかと辺りを何度か見渡す。 少し離れた場所に建てられている見世物小屋から大きなドラの音がする。 子どもたちがそれに惹かれて駆け出していくのが目に入る。 「人形劇か・・・・」 昔の英雄を扱った摩訶不思議な冒険の人形劇。 趙雲も幼い頃見た覚えがある。 故郷は離れてもこの話はどこの場所でも語り継がれているらしい。 なんとなくまた見てみたい気もする。 でも今はを待っているので離れることはできない。 いや、待ち合わせ時間にはまだならないからいいのでは? フルフルと首を振る。 「駄目だ駄目だ。もし見ている間に殿が来たら申し訳ないし、それならば一緒に見たほうがいいだろう」 一緒に見てくれるかな? 人形劇は子どもが楽しむものだし。でも久しぶりに見たい気もするし・・・・ 「そのようなことは後で考えよう」 一人でこうして立っていると何をして良いのかわからない。 荷物を持っているわけでもないのでぶらりと手は下ろしたままで手持ち無沙汰になっている。 待ち合わせと言うのは案外暇なものだなと改めて思った。 そして大袈裟に言えば精神修行になるとも。 待ち合わせ時間より早くにきたのは自分なのだが。 がいつ来るのかと待遠しいし、早く来ないかと少しばかり苛ついてしまう。 キョロキョロ何度もそれらしき人物が居ないかと目で探してしまう。 「あとどのくらいだろうか・・・・・」 と約束した時にが言っていた。 出かける準備をすると。祭りに行くのにそんなに準備をするほどなのだろうか? 自分はいつもとさほど変わらないのに。 いつものお出かけとどこが違うのか? 思わず腕組をし考える。 だが急に違う考えが湧く。 「あ・・・・・殿が来られたらなんと言えばいいのだ?」 こんにちはと挨拶をする?なんとなくそれは変だ。 思えば待ち合わせと言うのをしたことがない。 多分その時になればすんなり言葉は出るだろうがなんだろう、少し緊張をしてきた。 「趙雲さん、さっきから面白いなあ」 はくすくすと笑う。 そんなを見て姜維が趙雲に同情してしまう。 まさか見られているなんて気づいていないだろうに。 「早く行ってあげなよ。なんか趙雲殿が可哀相だよ」 「もう少しね」 「意地が悪いな、お前は」 「馬超さんに言われたくないね」 甘味処なので基本は甘い菓子ばかり。 馬超は仕方なく胡麻団子を食べ、を軽く睨む。 「石像と睨めっこしていたかと思うと急にそわそわするし。とか思ったら真剣に考え込んでいるし」 「ぼーっと突っ立っているよりマシじゃねーの?」 「そうだけどさ。誰もあそこにいるのが趙将軍だなんて気づかないよね」 それは二人も思った。 ただのお兄ちゃんがあそこにいる。そう見える。 「でもいいじゃないか。ギラギラした目で立っていられるよりいいよ」 何事かと周囲は思うだろう。 趙雲の表情が硬くなったことには気づく。 「あれ。どうしたのかな?趙雲さん。なんか顔が怖い」 「え?」 言われて馬超たちも覗いた。 趙雲の表情は硬く拱手したままじっと動かない。 「僕たちがここにいるの気づいたのかな?」 何やっているのだと怒ってしまったとか? 「えー。だって趙雲さんちっともこっち見ないよ?」 趙雲の目線はずっと同じ所を辿っており建物の二階にまで達していない。 馬超はしばらく趙雲の顔を見た後、先ほどと同じように胡麻団子を頬張り始める。 「ありゃ、緊張してんだ」 「緊張?趙雲さんが?」 「おう。戦の時にたまに見る面だな」 「なんで今戦の時と同じ顔するわけ?」 は首を傾げる。 馬超は流石に3個目の胡麻団子を食べようか戸惑っている。 流石に元々甘いものが得意ではないので餡子が胃にもたれてきたようだ。 「あ?あーいつもがあんなじゃないけどな。戦のときですらもうちょっと余裕ある顔しているしな」 もう良いと。馬超は残った胡麻団子の皿を姜維の方へ押し付けた。 「考えてみれば俺ら待ち合わせなんかしたことねーしな」 戦で出陣する時などとは違う。 親しい仲の者たちでどこかに出かけようとした時は大抵男性が迎えに行くという形が多かったりする。 「手繋いで仲良く出仕なんかしねーだろ」 「手を繋いで・・・・ぷっ。」 馬超と趙雲。または馬超と姜維の姿で想像してしまった。 「今度やってみたら?」 「やるか阿呆・・・・ま、そういうわけだからそろそろ言ってやれよ。あのままにしておくと倒れるかもしれねーぞ」 「そんな馬鹿な」 緊張しすぎて倒れるなんて事あるだろうけど、趙雲に限ってはないだろう。 だけど、さらに馬超は付け加える。 「一応あれでも女たちにもてる奴だぞ?待ち人が来ないと周りが思えば連れて行かれるかもな」 「うっ」 趙雲ならば逆ナンされても可笑しくないとは思い急いで席を立つ。 大勢の女性に囲まれでもしたらきっと流れで連れて行かれるかもしれない。 「ここは俺らが奢ってやるよ。その代わり貸しだな」 「ば、馬超さんの意地悪!でも、ありがと、行くね」 「いってらっしゃい、」 姜維はに向かって手を振った。 「お。見ろよ姜維。の奴すげーな」 「あはは、早いですね」 二人は外へと目線を向ける。 そこには急いで趙雲に駆け寄るの姿とそれを見て顔を綻ばせた趙雲がいた。 「幸せそうな顔しちまってよ」 「羨ましいとか思ってません?」 「あー羨ましいかもな。何せ、今の俺の相手は可愛いお姉ちゃんじゃなくてお兄ちゃんだしな」 「その台詞そっくり返しますよ。馬超殿」 「趙雲さん!ごめんなさい。待たせちゃって」 馬超に言われて不安がよぎり急いで駆けてきた。 だから肩で息をしてしまう。 「殿、別にそんなに待ってはいませんから」 嘘ばっかり。は息を切らせながらも小さく笑った。 ずっと見ていたのだから、趙雲のことを。 でも時間など関係なく趙雲ならばそう答えるだろうな。 「さてと。どこに行きます?」 「あ、あの・・・あそこの見世物小屋に行きたいと待っている間に思ったのですが」 「見世物小屋?うん、行きましょうか」 は趙雲の手を取った。 この人の待ち人は自分ですよと周囲に知らしめる為に。 少しばかり意地の悪い考えだと思いながらも邪魔はされたくないから。 趙雲はの行動に驚きつつもその手を握り返す。 「待ち合わせと言うのは中々楽しかったですよ」 「本当?」 緊張していると馬超に言われていたけど。 「色々見えて面白かったです。途中少し不安もありましたけど」 見ていたので知っています。 でもそうとは言えないので相槌を打った。 見世物小屋から再び大きなドラの音が響いた。 「あ、始まるようです。行きましょう殿」 「はい」 それが二人の祭りの始まりの合図だった。 06/08/23
19/12/22再UP
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