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冷たい指先、感じる温もり。
(うっわ〜寒い、さむーい) 外に出ると冷たさよりも痛さを感じてしまうほどの風が吹いていた。 は小走りで目的の場所まで向かう。 走るたびにサクサクっと音がする。 音の正体は霜柱。がいた世界ではここ数年ではあまりお目見えできない代物だ。 暖冬だと言われているからだろう。 それに舗装されたアスファルトなどここにはないのだから。 (あ。いたいた) 目的の場所でお目当ての人を見つけては走りをやめる。 そっと。そーっと近づき、後ろから驚かしてやろうと慎重になる。 (あと少し・・・・) 霜柱を踏んで音を出すなんてドジな真似はしないように、足場を選んでそっと近づく。 お目当ての人は厩舎で愛馬の世話に向かう途中だ。 (せーのっ!) あと少し「わっ!」と声を出そうと思ったら逆に声をかけられた。 「どうかしました?殿」 「っ!」 立ち止まり振り向いたその人、趙雲。 驚かそうとしていた手を慌てて引っ込める。 「はあ。いつも趙雲には気づかれちゃうなぁ」 「またですか」 「またですよー。趙雲が驚くまで何度でも挑戦するよ」 趙雲は苦笑する。自分が驚くまでなんて。 よくわからないが、気がつけばが自分の姿を見つけると驚かそうと躍起になっていた。 だが先の言葉の通り、が驚かす前に趙雲は気づいてしまうのだ。 「あまり頻繁にやられては効果がないと思いますが?」 やはり厩舎に向かう途中だったようで、趙雲は歩き始める。 もその隣に並んで続く。 「趙雲が油断してくれればいいんだけどね」 「油断ですか」 それは無理な話だろう。 自分は仮にも戦場を駆ける武将だ。劉備や孔明の主騎としての命もある武人。 人の気配を感じたりするのは得意、身についてしまっているものだから。 熟練したものならばその気配を自在に出すことも消すこともできるのだが、は普通の子。 気配だとかだだもれと言っても過言ではない。 音を消して。などとそこにばかり気を配っている時点では無理だ。 「油断していたら寝首をかかれてしまうので無理です」 「じゃあ私にだけは油断してていいよ」 「殿にだけですか・・・・」 それはある意味すでにとも言えなくもない。 油断というのとは少々違うが、彼女には余計な気を使う必要がない。 いや、普段から張り詰めているわけではないが、心落ち着かせている。 厩舎に着き趙雲は早速愛馬の世話を始める。 飼い葉を与えたり、体を拭いてあげたり。下の者に任せればよいのだろうが 彼も馬超と同じで自分でする。 長く付き合うためには人に任せっぱなしは嫌なのだろう。 も手伝うと言い出して、二人でやった。 二人で行なったのでいつもより早めに終わった。 片づけなども終えると先ほどよりは陽が強くなっていて冷たい風も身を顰めていた。 「ありがとうございました、殿」 「いえいえどういたしましてー。楽しかったよ私は」 「そうですか」 「あ、そうだ。趙雲」 は趙雲の正面に立つ。 立つとそのまま手を伸ばし趙雲の頬に触れた。 「っ、殿!」 「えへへ、冷たい?驚いた?」 ひんやりした感触が趙雲の頬を包む。 冷たくて驚くには驚くが、それ以上に触れられていることに驚く。 すぐさま趙雲はの手を取る。 じわっと頬に感触が残ったままだ。 「驚きました。ですが、こんなに冷やしてしまったのですね」 自分の手も冷たいのだが、趙雲はの手を包み込む。 「水仕事をしたあとならばしょうがないでしょ。趙雲が気にすることないよ」 それに今は暖かい。じんわりと温もりを感じる。 趙雲の手は自分の手より大きいから。 「でも趙雲を驚かすことができてしてやったりかな」 「そんなに私を驚かしたのが嬉しいですか?別に変わった反応をするわけでもないでしょうに」 趙雲はの手を軽く擦る。 どこか暖かい室にでも入ったほうが温まるとは思うのだが、二人して外で立ち止まっている。 「嬉しいって言うか。驚いた趙雲の顔が見たかったからかな」 同じことを馬超にすれば無言で重圧をかけてきそうだし。 姜維は笑顔でくだらないことしているねーとか言いそうだし。 「もうちょっと欲を言えば、もっと驚いた顔が見たかったかなー」 大袈裟にひっくり返るかえるくらいに。 でもそこまで期待はしていない。手で頬に触れたぐらいでそこまでされたらかえって怪しいものだ。 「趣味が悪いですよ、殿」 「あはは、そうかもねー」 でも。 「そんなに私を驚かせたかったら、こういえばいいですよ」 「?」 「殿が某に嫁ぎます。とでも言えば酷く驚きますよ、私は」 しれっとした顔で何を言うのだろうか。 そんなこと嘘でも言えるはずがないのだが、こっちが驚く。 「そんな予定もないのに・・・・・あ」 小声では呟くが何かを思いついた。 は包んでくれていた趙雲の手を握り返した。 「殿?」 は上目で趙雲を捉える。 「趙雲に驚いて欲しいから私、本気で嫁いじゃおうかな」 「え」 驚くというより、胸に突き刺さった。 冗談で言ったつもりの言葉だったのだが。 「あの」 「だから私のこと貰ってくれると嬉しいな、趙雲」 「・・・・・え・・・・」 ニコっと微笑まれて、ギュッと手を握られて趙雲は驚いた。 これは、冗談だ。 先ほどの冗談の、自分を驚かせたいと言うの冗談だ。 だから、趙雲はごくりと唾を飲み込みながらも冷静になれと自分に叱咤する。 軽く咳払いしてから趙雲は口を開いた。 「殿。冗談でもそういうことは軽々しく口にしない方が良いですよ」 「あ、やっぱり?」 カラカラと笑う。 わかっていてもちょっとキツイ。この冗談は。 言いだしたのは自分なのだが、落胆してしまう。 「そのようなことを言われると、私は冗談ではなく本気に受け取ってしまいますから」 「ちょ、趙雲?」 の顔にスッと朱が走った。 「さあ、そろそろ中へ入りましょう。ずっとここに居ては風邪を引いてしまいますよ」 「あ、あの趙雲!?」 趙雲はの手を引き歩き出した。 室内へと戻って暖かい飲み物でも用意しよう。 そのうち馬超や姜維たちがやってきて賑やかな時間を過ごすことになりそうだから。 「趙雲、あのさ」 手を引かれたままのは趙雲の言葉が気になってしょうがない。 「じょ、冗談だよね?さっきの」 恥ずかしいと、聞き返すのは勇気がいるのだが黙っていられないので趙雲に問いかける。 だが趙雲は余裕たっぷりの笑みを浮かべて見せる。 「さあ?どちらでしょうか」 「え、えー趙雲!ずるいー」 冗談なのかなと思いつつも、もしそうならばいいなとは小さく笑った。 趙雲のお嫁さんなんて悪くないものだから。 「じゃあ本気になってもらえるように頑張ろうっと」 は呟いた。 趙雲の耳には届かないだろうと思っているだが 趙雲は握る手を少しだけ強めた、よく見ればその耳が赤くなっている。 しっかりと趙雲には聞こえていたようだが、はそれには気づかなかった。 最初から本気なのかもしれない。 07/02/28
19/12/22再UP
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