思いと想い、届く声。



ドリーム小説
「どう?ここの生活に慣れたかい?」

「うん。大分。最初はどうなることかと思ったけど、みんな良くしてくれるし」

ニコッと微笑んだ少女に姜維はホッと安堵する。
外へと続く石段に腰を下ろしていた少女、の隣に同じように腰を下ろした。
彼女は数週間前にとある地域で保護された少女。
見慣れない衣服を着、聞きなれない単語を時折口にする。
当初は他国の間者ではないかとの疑いもあったが、そんなのはちっぽけなもので
別の遠くの世界からやってきたという。
俄には信じられないが、嘘はついてないとの様子から見てわかり今ではのんびりと劉備の世話になっている。

年が近いということもあり、姜維、関平、星彩が彼女の相手をすることが多い。
にしてみれば星彩という同性の友人ができたのが一番嬉しかったようだ。

ただ、一つだけ難点なことがあった。

「あ。趙雲殿だ。ほら、手を振ってくれているよ」

「そ、そうだね」

回廊を歩く趙雲が二人の姿を見て手を振ってくれた。
姜維は尊敬する将軍様に立ち上がり元気よく手を振り、は少しぎこちなく手を振っている。



「・・・な、なに?」

「顔が固い」

「え。そ、そんなことないよ」

えへへと笑って見せるが、どこかぎごちなく固さが残っている。
趙雲はすでに去っているため、姜維はストンと再び隣に座る。

「なんかさ、君って趙雲殿にだけ、態度がおかしいよね」

「そんなことないよー」

「ある。だって馬超殿とか関平殿、僕なんかとは結構お喋りするでしょ?」

「・・・えと」

「でも趙雲殿に対しては目も合わせないし、言葉も少ないし、今の態度だって固いし」

はスッと目線を下に落とす。

「趙雲殿はとても素晴らしい方で、尊敬できる方だよ?嫌うなんて人いないんだよ、この国じゃ」

女性に人気なのは当たり前。
よく遊んでくれるということで子どもからも人気は高い。
頼まれたら将軍様とはいえ、快く引き受けてくれるので老若男女問わず趙雲は民に慕われている。
きっと劉備に次いで人気は高いのではないだろうか?
あ、劉備は問題外で民に爆発的に慕われているが。

「別に、嫌ってなんか・・・・いないよ」

「そう?ならばいいけど、結構気にしているみたいだよ、趙雲殿。口にはしないけどさ」

「あ・・・・ごめん」

姜維はくすりと笑った。の頭を軽く撫でて立ち上がる。

「なんで、僕に謝るのかな?それに謝る理由があるならそれは趙雲殿にだろ?」



***



「・・・・・」

「どうかされましたか?」

星彩の稽古を見ている間、趙雲は少し考えことをしていた。
していたために、星彩に声をかけられて少し慌ててしまった。

「あ、いや。なんでもない。すまない、少し考え事をしていた」

「珍しいですね。趙雲殿がそのように考え事をなさるのは」

ニ三度瞬きした後に趙雲は微苦笑する。

「私だって考え事ぐらいするさ」

「いえ。そういう意味ではなく、稽古中にということです」

「あ。すまない・・・・」

別に非難しているわけではないが、星彩の多少乏しいともいえる感情の所為でつい謝ってしまう。
だが、そうではないとわかっているので、稽古中にという意味で謝った。
星彩もそれをわかっているのか、深くは追求してこない。

「なあ、星彩」

「はい」

「・・・・あ、いや、すまない。なんでもない」

「・・・・」

星彩に何を聞こうとした。
聞いた所で答えは帰ってこないだろう。そんな気がするから歯切れは悪いが訊ねるのを止めてしまう。
星彩は趙雲の態度を見て背を向ける。そして辺りを見回し、ちょうどやってきた青年の姿を見て呼んだ。

「関平」

「・・・ん?星彩。なんだ?どうかしたのか?」

幼馴染の声に関平はすぐに気づき駆けてきた。

「趙雲殿と稽古中だったのか。拙者に何か用か?」

「ええ。手合わせをしてほしいの。趙雲殿はこれから行く所があるから」

「せ、星彩?」

そんな用事は何もない。

「趙雲殿。直接聞いた方が良いです。きっとあの子は話してくれると思いますよ」

「・・・・そうだろうか・・・」

星彩には趙雲が自分に何を尋ねようとしたのかわかっていたようだ。
星彩はあの子と仲が良いから。

「関平、すまないが星彩の相手を頼む」

「はい」

星彩に礼を告げて趙雲はその場を後にした。



***



(直接聞けば良いと言われても、実際どうするべきか・・・)

趙雲は悩みながら回廊を歩いていた。
考えていたのはあの子のこと。
あの子・・・。はどういうわけか趙雲にだけ接する態度が違う。
姜維たちとは楽しそうに喋っているのが、こちらが話しかけると、少しばかりつらそうな顔をする。
彼女に何か酷い仕打ちをした記憶はない。
馬超には気づかないところで何かやっちまったんじゃないか?などと笑われたりしたが。

「あ。趙雲殿〜」

「姜維。どうかしたか?」

パタパタと駆けてくる姿はなんとなく犬を連想させる。

「お願いがあるのですが、いいですか?」

「私にか?なんだ?」

と町に出る約束をしたのですが、急に丞相に呼ばれてしまって。すみませんんが僕の変わりにお願いします!」

「え?あ。姜維」

「本当!お願いしますよー僕、伝える暇もなくて」

さっさと用件を言うだけ言って姜維は走り出した。
趙雲に拒否権など最初からないようで。
仕方なく趙雲はを探す。
どこかで待ち合わせをすでにしてるのであろう。
会う人にの居場所を聞いて、目的地まで向かった。

殿」

「・・・趙雲さん・・・・どうかしましたか?」

「あの・・・姜維に頼まれまして。急用であなたとの約束がダメになったとかで・・・」

変わりにお願いしますと言われても、正直今のと行動を共にするのは無理だと趙雲は判断する。
嫌われているのならば、一緒にいるのは互いに苦痛だろう。
は約束がダメになったことで少し落ち込んでいるようだ。

「急用ですか・・・そっか・・・」

「あ、あ・・・・良ければ、星彩か関平を呼んできましょうか」

基本的に無下にできないのが趙雲だ。
に背を向けて歩き出す。おそらくあの二人はまだ手合わせをしているだろうし。
だが、不意に引き止められた。
袖をに掴まれた。

「あ、あの・・・散歩するだけだったんで・・・・良かったら趙雲さん、一緒に行ってもらえませんか?」

「わ、私ですか・・・はあ・・・かまいませんよ」

が良いのならば。
とりあえず歩き出した。
寒くなってきたとはいえ、太陽が照っているのでほどよく気持ちがいい。
風が吹いていないからだろう。

だが、お互い黙ったままで。少し気まずい。

も必死で考えていた。
姜維に言われた。趙雲の良さを。
それを聞いたからではないが、自分の一方的な考え、思いの所為で趙雲に嫌な思いをさせたかと思うと・・・。
だが、最初から悪い人だとか嫌いだとかそのようなことを思っていたわけではない。
頑な態度を取ってしまったのにはちゃんと理由があるのだ。

「段々寒くなってきましたね・・・・風邪などひかれていませんか?」

『うぉー寒くなってきたなぁ。馬鹿は風邪ひかねーって言うけど、気をつけろよ?』

ふわりと声が被る。
姿形はまったく似ていないのに、趙雲を見ると、あの人を思い出す。

殿?どうかされましたか?」

『どーしたんだよ。俺の顔に何かついてるか?いい男だからって見惚れるなよ?』

ぶんぶんと首を横に振る。
そうは言ってもの顔は不安がいっぱいで。今にも泣きそうだ。

「あ、あの。殿。どこか具合でも悪いのですか?でしたら、戻りましょう。あ、えっと」

『おいおい。な、なんだよ。んな顔するなっての。どうしたらいいかわかんなくなるじゃねーか』

殿?」

『泣くなよ、

堪えていたものがぷっつり切れた。
心配そうに覗き込まれた顔、心配そうな声。
慣れたつもりでも、慣れていないものがあって。
大丈夫だと周りに見せても不安だと思うことがあって。
それを悟られないように、心配させないようにと思っても。
あの人の声を聞くと、ふと前に感じた心地良さを思い出し我慢していたものが我慢できなくなる。

「・・・ふ・・・・っ・・・」

ボロボロと泣き出した
趙雲はギョッとし慌てて周囲を見回す。
幸い誰にも見られていない。

「ど、どうしました。いったい。あ。あの、わ、私の所為ですか?私があなたに何か失礼なことでも」

ただ一緒に散歩していただけなのに、自分が何かと慌てる趙雲が少しばかりおかしく感じる。
は何度も首を振る。
趙雲は何も悪くない。
悪いのは自分。
思い出してしまうから。

殿・・・・」

趙雲は膝を軽く屈んでの顔をのぞきこむ。

「あなたに泣かれると少し困りますね。でも、いいですよ。好きなだけ泣いてください。すっきりするまで」

にこりと笑いかけてくれるその顔には申し訳ない気持ちでいっぱいになる。
突然意味もなく泣き出したことを追求するわけでもなく、放っておくわけでもなく。
ただただ見守ってくれる。

「あ・・・殿」

泣いているは思わずそのまま趙雲の首にかじりついた。
子どもみたいにギュッと手を回して。
趙雲は優しくその背中をさする。

「大きな子どもみたいですよ」

「ごめんなさい・・・・」

「い、いえ。別に謝る必要はないですよ」

「ううん。私は趙雲さんに謝りたいの、色々・・・・いっぱい」

「そうですか?・・・・」

「趙雲さんの声・・・・」

「はい?」

「元気出せって言ってください」

一瞬意味がわからず間が開く。
だが趙雲は言われたとおりにする。

「元気出してください」

「いつまでも泣いてるなって言って」

「いつまでも泣かないでください」

「お前なら一人でも大丈夫だって」

「あなたならば大丈夫です・・・・私たちがついていますから」

最後だけ違った。

「もう一回言ってください」

「元気出してください。いつまでも泣かないでください」

うんと何度も頷く

殿ならば大丈夫です。私たちがついていますから」

「うん」

自分から趙雲と距離を置いていたのに彼は優しすぎる。
でもそれに簡単に甘えてしまう自分が都合の良すぎて嫌になる。

「趙雲さんの声」

「はい?」

「嫌い」

「は?」

「でも大好きなんです。泣きたくなるくらい」

「・・・・・そうですか」

理由を今はまだ話せないけど。恥ずかしいから。
でも趙雲のことは嫌いとかそんなんじゃないから。
いつか話せたら聞いてください。自分の話、今日泣いてしまった理由を。

(似ているんです。趙雲さんの声。大好きだったあの人に・・・・)

だから、思い出して泣きたくなる。
でもいつまでも聞いていたくなる。









中の人繋がり。彼女の好きな人イメージは桃です。
06/12/05
19/12/22再UP