あなたがそばに。





ドリーム小説
「もう!別に私に護衛なんていらないですってば!」

「殿はあなたのことを思ってですね」

「私のことを思うなら尚更です。私は護衛をつけてもらえるような立場ではないです」

スタスタと歩く少女とその後を追う青年。

「ですが」

「私は一人でも平気です。ちょっとそこまで行くだけです」

「私はあなたの主騎です。一人で行かれては困ります」

「じゃあ困ってください」

殿!」

「趙雲は劉備様以上に心配しすぎ!あなたは私ではなく劉備様や孔明先生をお守りすべきなの!」

「しかし」

「ついてきたら、もう二度と口聞きませんから」

「そ、それは」

あからさまに絶交と宣言されてしまい、趙雲はつまる。
その隙には彼から逃げてしまった。

殿・・・・」

がっくり肩を落とす趙雲。

「くっ・・・・ははははは」

「馬超殿」

「すまん。アンタは本当に・・・・ははは」

二人のやり取りを見ていた馬超は腹を抱えて笑っている。
嫌な所を見られたと趙雲は顔を歪ませる。

「毎度毎度同じやり取りでアンタも懲りねーな」

「そう言われましても、私は殿の」

「主騎だから?それだけじゃねーだろ」

「・・・・」

趙雲の頬が赤く染まる。
そして恨めしそうに馬超を睨みつめる。
馬超はそれに怯むことなく楽しそうに笑んでいる。

「過保護すぎるんだよ。少しほっとけ」

「・・・・・・」

「あんましつこいと嫌われるぞ」

「うっ・・・・」

胃の辺りを押さえる趙雲。
は劉備たちに可愛がられている。
実の娘みたいに。
だから、何にでも心配になるのだろう。
そんなに主騎(護衛)をと趙雲をつけた。
にしてみれば、自分はただの居候。
そんな者に護衛などいらないと何度も断るのだが、劉備は聞かない。
趙雲は劉備の命令を素直に従うので、にしてみれば面白くない。

先のようなやり取りが毎回行われるのだ。

何を言われてもついてくる趙雲に、最近は絶交宣言を突きつけるようになった。
そう強く言えば、趙雲は戸惑い止まってしまう。
通常の劉備や孔明の護衛ならば、何があってもぴったり着き、己の使命を全うする趙雲だが
に強く言われると困ってしまう。
やはり馬超の言うとおり、嫌われたくないと言うのが本音だろう。

「アンタが一緒だと却って悪目立ちするんだよ。だからは嫌がるんだ」

「わ、悪目立ち、ですか・・・・」

「おう。隣に並んで一緒に行くならまだしも、アンタの一歩後ろを歩くだろ?アレが嫌みたいだぞ」

「わ、私は」

「主騎の立場として?もうそれ聞き飽きた」

馬超は趙雲にビシッと指を指す。

「逆に聞くぞ。アンタは今のままで満足か?に男ができた場合でも同じことをまっとうできるか?」

「そ、それは」

「その場合。に完全に嫌われるな。殿と同じような思いでの護衛をしているなら別にいいけどな」

「でも、私は殿から主騎をと命じられたわけで・・・・いや、あの・・・・」

馬超は前髪を掻き揚げながら溜め息を吐く。

「殿も過保護なんだよ。それが却ってを危険な目に遭わせることにだって繋がるだろうに」

「え。それは」

「あのさ、って別に殿の養子でもねーだろ?ただ娘みたいに可愛がっているだけだ」

が劉備の娘ならばそれなりの立場として主騎をつけるのは当然だろう。
先のことを考えれば、娘を同盟国に嫁がせたり、婿を迎えて先の跡継ぎを産ませたりと言う事もある。
でも、は違う。
ただの娘だ。
政治では役に立たない。
国の将軍でもある趙雲が毎日のように護衛としてについて回れば、敵国なり、賊などに
彼女が国での身分が高い人物だと思われ何か行動を起こされる可能性があるのだ。
もしかしたら賊がを誘拐目的で攫うかもと言うわけだ。

「そんな時、大事な姫君と交換だって多額の金を要求されるだろうな」

「・・・・」

「殿の性格ならば、の為にと金は出すだろう。でもそれは周囲に示しがつかない」

はあくまで、居候。
劉備が蜀を治めるようになってようやく形になってきたのに、臣下の中で劉備へ対する不満なども生まれる可能性が高い。

「ま。軍師殿がいるからそんな事にはならんだろうけど、でも、あの人ならを簡単に切り捨てるだろうな」

「馬超殿」

孔明だってを生徒の一人として可愛がっている。
そんな事ないと言いたいが・・・・劉備のためとなると断言できなかった。

「殿から命じられた以上、アンタも主騎としては職務を忠実にこなさないといけないわけだ」

「そ、そうですけど・・・・」

「だったら、外に行く時はせめて隣に並んでやれ。普通に仲良くお出かけ中です、ぐらいに見えるように」

は別に趙雲を嫌ってはいない。
ただ、一歩距離を置かれるのが嫌なのだ。
それを馬超は気づいていた。
趙雲を諌めると言うより、こうした方がいいと助言になってしまっている。
つくづく自分もに、趙雲に甘いと苦笑してしまう。

「あ。雨降ってきたな・・・・」

パラパラと葉に落ちる雫の音に気づいた。
ここ数日毎日薄い雲に覆われていた。
梅雨入りにはまだ早いと言うのに、雨が降ったり止んだりと不安定な天気が続いている。
今日もまた振って来たようだ。

「雨も降ってきた。今日のお出かけは中止。ちょうどいいだろう。な?」

「は、はい。少し考えてみます」

趙雲はまるで、今の自分の気分のようだと、空を見上げため息を吐いた。



***



は趙雲から上手く逃げれたと小さく喜び、街へと来ていた。

「趙雲と一緒なのは嬉しいけど、あからさまな護衛はちょっと勘弁なんだよね」

楽しさ半減。
殿、殿から、殿に言われてと連呼されればなんとも言えない。
劉備に可愛がられると言うのは光栄なことだとわかるが、自分はそこまで重要視される必要はない。
自分の子を可愛がればいいのにと思う。
跡継ぎとしてそれは無理なのだろうか?

「久しぶりに一人で来れたなぁ」

軽く伸びをする。
もう少し天気が良ければ文句はないのだが。

「ささっと、お目当てのお店に行こうっと」

は目的の場所へと向かう。

「こんにちは」

「いらっしゃい。あれ、今日は一人?いつものお兄さんは?」

「一人ですよ。ま、たまにはいいじゃないですか」

馴染みになっているお店だったので、店員はが一人だと言うことに少し驚いているようだ。

「この前言ってたの、あります?」

「あるよ。ちょうど取りに来る頃だろうと思っていたからね。ちょっと待ってね」

奥の方へ目当てのものを取りに行く店員。
その間、他の品をは見ていた。

「はい、これでいいでしょ?」

戻ってきた店員が見せてくれたものには頷く。

「はい。これでばっちりです」

「じゃあ包んじゃうね」

テキパキと動く店員。
これだけのやり取り実に数分程度。
趙雲から逃げている時間を思えば、実にあの時間はもったいないと思える。

(でも、趙雲に見られたくないもん)

一緒に来たら面白くないじゃないか。
何せ、これは趙雲へのモノなのだから。

「はい、どうぞ」

店員に金を払い、品物を受け取る。
そして店を出る。
その頃にはよくなっていてくれればいいと思っていた天気が更に悪くなっていた。

雨が降る前にと小走りで戻ろうとするが、途中でやはりと言うかポツポツと雨は降り出した。

「あ。最悪だなぁ、どこかで雨宿りしていこう」

すぐ止むだろうと思って近くの空き家の軒下に移動する。

「はあ〜趙雲に酷いこと言ったから罰でも当たったのかな。まったく・・・」

買った品物は濡らさないようにと懐に抱えていたからいいが、このまま降り続けていたらどうしようと困ってしまう。

「ちょっとした感謝の気持ちのつもりなんだけどな・・・これ」

渡せるかな、ちゃんと。
でも酷いことばかり言う自分だから趙雲は受け取らないかもしれない。
そう感じた。



***



日も暮れてきた。
雨の所為で、一層暗く感じる。

殿がいない?」

の世話をしていた女官に言われた。
どこかに行ったままのようで、部屋に戻っていないと。
趙雲は心当たりを探すと女官に告げた。

殿・・・」

「どうしました、趙雲殿」

「姜維。殿を見なかったか?」

姜維はと一緒にいることが多い。
孔明の下で勉強している繋がりで。
姜維に聞いてみるも反応は良くない。

「いえ。今日は見ていませんよ」

「そうか、すまない」

姜維に別れを告げて他の場所に向かう。
城内での行きそうな場所を探すのだが、どこにもいない。

「馬超殿。殿を見かけませんでしたか?」

「アンタ、また・・・・」

馬超と馬岱がいた。二人は邸に戻るようだ。
馬超は昼間言ったことを忘れたのか?と趙雲を呆れた目で見る。

「ち、違います。先ほど殿がまだ部屋に戻られていないと聞かされたので」

「アンタから逃げたままってことか」

だが、馬超もの姿は見ていない。
趙雲と別れた後、ずっと執務室で馬岱の見張りつきで仕事をしていたから。

殿なら、見ましたよ」

「岱。どこで」

「走って城から出るところをだったので、もう随分前ですね」

馬岱はそのまま馬超の執務室に向かったわけだ。

「もしかして、アンタが絶交と言われた直後のことか」

「あれから随分時間が経っていますが、まさか、まだ外に?・・・・・・」

趙雲は踵を返す。

「おい、どこに行く?」

「探しに行きます」

「って外にか!?」

馬超の声など届いていないようで趙雲はそのまま走り出した。



「もう随分こうしているけど、足も疲れたなぁ」

はしゃがみこんだ。
すぐ止むだろうと思って雨宿りをしていたのに、その気配を全く見せない。
暗くもなってきたし、少し肌寒くなってきた。

「風邪ひいたら、劉備様に更に心配かけるだろうな」

輪をかけてさらに過保護になる可能性が高い。
空を見上げ、止みそうもないなら走って帰った方が早い気がする。
は立ち上がる。
その時。


バシャバシャバシャ。


誰かが駆けて来る。
は、ああこの人も雨に降られて大変だなと思った。
その人物はの前を通り過ぎたかと思うとすぐに戻ってきた。

殿!探しました」

「趙雲・・・え、ずぶ濡れだよ!何してんの」

雨具も使わず趙雲は駆けてきた。
自分を探していたと。

「心配しました。まだあなたが戻られていないと聞いて」

「あ、あ。ごめんなさい。雨が降ってきたから雨宿りしてたの」

「いえ。ご無事で良かったです」

ホッとしたように笑みを零す趙雲。
趙雲の髪や肩、身体中から雫が滴り落ちている。

「心配してくれたのは、嬉しいけど、自分のことほったらかしはダメだよ」

「あ、あはは。そうでしたね・・・・いてもたってもいられなくて」

いつもと立場が逆だと趙雲は苦笑し、額に張り付いた前髪を軽く掻きあげる。

「主騎ってのも大変ね。やっぱり私にはそんなのいらない。趙雲は自分の仕事だってあるでしょう?」

「違います!」

少し声をあげた趙雲には目を丸くし驚く。
趙雲は声をあげてしまったことに一瞬つまらせるが、頬を赤くしながら答える。

「主騎だから、ではなく。私個人があなたの心配をしたのです」

胸の前でキュッと拳を握る。

「馬超殿に色々言われました。そして私なりに考えました。
 殿を守りたいと思うのは、殿に命じられたからではなく、私が自分で思ったことで・・・・」

が別の男と付き合うようになった場合、今と同じで護衛ができるか?
いや、できない。
きっと自分の想いを、心を閉じ込めて今よりも厳しい態度を取ってしまう気がする。

「一人の男として、殿のそばで、あなたをお守りしたい」

だから、絶交されてしまうのは嫌です。
小さく恥ずかしそうに趙雲は呟いた。
劉備に命じられたからと言うのを理由にしていた気がする。

「私、趙雲に沢山酷いこと言ったよ?そんな子でもいいの?」

「あれは私が口煩かった所為でもあります。殿が気になさる必要はないです」

「趙雲には、私より守らなくてはならない人がいるの、劉備様や孔明先生はこの国に必要だから」

だから主騎はいらない。
付き合うなら、趙子龍と言う一人の人として付き合いたい。

「趙雲は好き。でも主騎って立場の趙雲は・・・嫌いって言うか苦手」

「あ、あの殿」

「こうしてずぶ濡れになりながら私のことを探しに来てくれた理由が主騎だからじゃなくて」

趙雲の手を取る

「趙雲が私を思ってのことだっていうのが嬉しい」

殿・・・」

「あ。そうだ」

は先ほど買ったものを趙雲の手に握らせる。

「これは?」

「これを趙雲にあげたくて、どうしても一人ででかけたかったの」

小さな巾着袋。
その中には更に小さな陶器の入れ物。

「塗り薬。武人さんにそう言うの渡すのもどうかなって気もしたけど。
 怪我をした時にでも塗って。結構効き目あるんだから、これ」

それに陶器の模様も凝っていて見た目が薬だとはあまり思えない。

「趙雲の武人さんとしての手も好きだけどね」

「ありがとうございます。大事に使わせていただきます」

「なんて言うか、趙雲にはいっぱい嫌な思いさせちゃったし、お詫びとお礼と感謝の気持ち」

その他諸々沢山の気持ちを込めて。

趙雲の頬は緩む。
嫌な思いなど・・・確かに絶交すると言われて多少落ち込みはしたが
そのようなことは一瞬で吹き飛んだ。
が今、自分にしてくれたこと、言ってくれたことが嬉しくて。

「嬉しいです、殿・・・・本当に」

感極まって抱きしめたい衝動にかられるが、今の自分は雨で濡れてしまっている。
抱きしめればまでも濡れてしまう。
少しばかり押さえが利いてしまう自分の性格を恨めしく思う。

「明日」

「なに?」

「明日晴れたら、どこかに行きませんか?」

「今みたいに雨でも降ったら?」

「その時は部屋でゆっくりするのも良いものです。殿と一緒ならば楽しいですから」

「うん。私も趙雲と一緒ならばいいかな」

は微笑む。

「あなたのことは私がずっとお守りします。一人の男として、あなたが好きだから」









06/05/19
19/12/22再UP