これはこれで。




ドリーム小説
「趙雲さん、はい、これ」

趙雲の執務室にが書物を数冊持ってきた。

殿」

「姜維様からです。言えばわかると言ってました」

は書物を机に置く。
趙雲は思わず噴出してしまう。

「あーひどい趙雲さん」

「すみません。しかし、姜維様ってあなたが呼ぶから、しかも言葉使い微妙に変ですよ」

「あ・・・・」

別にいいのだが、自分に対しては適当で姜維には敬語で。
一応、趙雲の方が上なのだが・・・
はしまったと言う顔をする。

「無理しなくて良いですよ、殿」

「一応、分別はつけようと思ったんですけどね、失敗かぁ」

「慣れましたか?仕事は」

「どうかな?まだ始めたばかりだし」

が急に働きたいと言い出したのは先日。
ソレを聞いた劉備らは別にがと渋るのだが、諸葛亮がいい経験になると後押ししてくれた。
でも働こうにも、に女官の真似はさせたくないと劉備らはまだ渋ったが
諸葛亮が雑用で良ければと自分の下で働かせてくれるという。
で、喜んで働き始めたのだが、いきなり諸葛亮の下では大変だと言う事でお試し期間で姜維の手伝いをしているのだ。

姜維は自分に面倒を回されたと渋っていたが。

「それに私の仕事って、今みたいに誰かに物を届けるとかお茶を淹れるぐらいだし」

掃除だとかは女官たちの仕事だし。
政事はわからないし。

「でも、始めたばかりですし。その格好も似合ってますよ」

「え、そうですか?えへへ」

文官らが着用する着物を用にと合わせたものを着ている。
色も女性らしく淡い桃色で。
髪も執務に邪魔にならないように結い上げている。

「この衣装だとお仕事してるなぁとは思えますけどね」

は笑う。
付け足して、衣装に見合うほどの仕事はしてないけどと。

「と、いつまでもお喋りしててはダメですよね。では、私はこれで」

「はい。ありがとうございました、殿」

は趙雲に一礼して執務を出る。
その際に趙雲は席を立ち先に扉を開けてあげる。
趙雲のさり気なさに、は笑顔で答えた。

ゆっくりと歩く彼女の後姿を見ながら趙雲は軽く息を吐く。

が仕事を始めたことは劉備らほどではないが心配してしまう。
空いた時間は一緒にいることが多かったが、それは減ってしまったし。

何よりも、仕事を始めてからのは大人しくて少し物足りない。





趙雲がその日、目にしたものは彼にとって面白くなかった。

「うぎゃ!」

色気のない悲鳴に趙雲は反応した。
これはだ。
声のした方に行こうとした時、先客がいた。

「と!大丈夫か

「だ、大丈夫。ありがとう、馬超さん」

転びそうになったを馬超が片腕で支えたのだ。
馬超の左腕はの腰に回されている。

「あはは」

馬超はようやくを解放する。
も両腕に抱えていた物を持ち直す。

「お前、これで何度目だ?俺は会う度に助けてやってる気がするけどな」

「何度目かなんて覚えてないよ。でもそんなに転んでる?私って」

「転んでるな、自覚ないのかよ・・・・俺がそばにいる時は別にいいけどよ。一人で歩いてると危なっかしいな」

「そんなに子どもじゃないですー!」

「転んでるだろ?ほら、髪に草がついてるぞ」

「え」

馬超はくすくすと笑いながらの髪についていた葉をとった。

「こ、転んでないよ!単に上から降ってきたものかもしれないでしょーが」

は顔を真っ赤にさせて反論するが馬超のほうが一枚上手だった。

「降ってきたね・・・この葉っぱはどうみても地面に生えてる奴だぞ」

「馬超さんの意地悪」

「ははは、悪い。ま、あまり無理するなよ」

「うん」

の肩をポンと軽く叩いて馬超は歩き出した。
も頑張ろうと気合を入れて一歩踏み出す。
だが、裾を踏んでまたも転びそうになる。

「う、うわぁ!」

!」

またも馬超に助けられた。
今度はその逞しい胸に抱きとめられて。

「お前な・・・さっき言ったばかりだろうが」

呆れてしまう馬超。

「あは、あははは・・・・すみません」

はただ笑うしかなかった。

「ほら、貸せ。途中まで持って行ってやるよ」

貸せと言うより、すでにの腕からひったくるように馬超は荷物を奪う。

「あ、いいよ」

「危なっかしいって言ったろ?届けるのに時間かかるぞ」

「あ、ありがとう」

「いいって。で、どこまでだ?」

「黄忠さんのところ」

「わかった。行くそ」

は馬超と並んで歩き出した。

「・・・・」

少し離れた場所とはいえ、一部始終を黙ってみていた趙雲。
いつもはをからかうようなことばかりの馬超が、とても紳士的に接していて。
なんだかそれが面白くなく感じてしまう。
も馬超には頼ってますって感じだし。
しかも話を聞いていると、さっきのようなやり取りが今のが初めてではないようだし。

「・・・・・」

「どうしたい?趙雲殿」

「え!?あ、ホウ統殿!別に何も」

いつの間に目の前にいたのだろう、ホウ統の姿に趙雲は驚いた。

「なんかすごい顔してたね、お前さん。いい男が台無しだよ」

「すごい顔、ですか」

どんなだろうか、少々気になるが、ソレを見られていたのを恥ずかしく感じる。
趙雲は頬を指で掻いて誤魔化そうとする。

「ま、気長にやんな。焦ってはいけねーよ」

「ほ、ホウ統殿?」

ホホホッと笑いホウ統は趙雲の横を通り抜けていく。
ホウ統も馬超とのやり取りを見ていたのだろうか?
恥ずかしい・・・


また別の日のこと・・・

「もう、これで何回目だろうね」

呆れているような姜維の声が通りかかった趙雲の耳に入った。

「さ、3回目くらいかな〜」

「3回目・・・13回目の間違いじゃないの?」

姜維が話している相手はのようだ。
趙雲は鍛錬所に行く途中で、水飲み場としても使用されている井戸が近くにある。
そこでと姜維が何かしていた。
二人は趙雲の姿に気づかないようだ。

「13回もヘマしてないもん」

「してるよ。もっとかな〜」

「姜維君も意地悪だ」

「なに、その“も”ってのは」

「馬超さんも同じこと言うからね」

「へぇー馬超殿にも迷惑かけてるんだ・・・・本当しょうがないなぁ」

「もう!皆してしょうがないって言う!」

「本当の事だし」

言葉からはが怒っているように聴こえるが、表情は自分も参ってますといった感じで
そんなに機嫌が悪くは感じない。

は桶に汲んだ水で着物の袖を濡らしていた。

「落ちるかな?」

「そんなに酷くはないから大丈夫だよ」

「あーせっかくの着物なのに・・・」

「そう思うのならば気をつけなきゃ。何で同じ失敗を何度もするかな」

姜維はの作業を見ながらくつくつ笑う。
は恥ずかしそうに着物に沁みた汚れを取っている。

「孔明先生も、姜維君もすごいよね。スラスラ〜って書いちゃうし。私まだ筆はなれないよ」

「筆で文字を書くなんて僕らは日常だし。そのうちもなれるよ」

「なれるかな?」

「慣れてもらわなきゃ困るよ、こっちとしては。一々仕事を中断しなくてはならないんだからね」

「はーい」

どうやら、硯に着物の袖をつけてしまったらしい。
淡い桃色の袖が墨で汚れたから落としに来たようだ。

「よし、落ちた!」

「あとは乾かすだけだね。ソレ脱いで干しておこうか」

「うん」

「少し寒いなら僕のを貸すから」

「平気」

「そう?でもちゃんと言ってね。君に風邪でも引かせたら後が大変なんだからね」

「はーい」

「じゃあ行こうか」

趙雲は思わず二人の目に触れないよう実を隠してしまった。
二人は特に気づきもせずに行ってしまった。
二人の姿が見えなくなってから趙雲は頭を抱えた。

「なんで、私が隠れる必要があるんだ・・・」

はぁと深く溜め息をつく。
姜維もの先輩として頑張っているようなのは良い事だと思う。
もそんな姜維を頼っているようだし。

けれど、自分的にはものすごーーーーくつまらない。

自分にも頼って欲しいから?
いや、違う。

が困っている時に自分がそばにいなければそれは意味がないことだし。
自分の前ではは特に困った様子もないし。
じゃあ、なんだ?



「私の前でだけ、態度が違う・・・」



無視されたとかそう言うのではなく、なんと言うか・・・

「はぁ〜」

深く考えるのも気持ちが滅入るだけなのでこれ以上は考えまいと趙雲は立ち上がり鍛錬所に向かった。



***



「趙雲さん、孔明先生からのお届け物でーす」

「・・・・あ、はい」

が自分の執務室に諸葛亮からだという荷物を持って入ってきた。
笑顔でに答えるも、反応が少し遅れた。

「どこに起きますか?」

「あ・・・適当に置いといてください」

「はーい」

は邪魔にならないような場所を選び荷物を置いた。
そして、趙雲のほうに振り返って、懐から何か出した。

「趙雲さん、趙雲さん。見て見てーじゃーん!初任給〜」

は嬉しそうに趙雲に銭の入った小袋を見せた。
どうやら、今日、給料をもらったらしい。

「良かったですね」

「ま、出来がよくないのでそんなに多くないですけどね」

趙雲らに比べたらすずめの涙ですとは言う。

「で、ですね。初任給はいつもお世話になっている人のために使おうって思って」

「はぁ」

「趙雲さん、お昼食べに行きませんか?私がご馳走しますから。そんなに豪華じゃないけど・・・」

は照れながら言う。
でも言われた趙雲は素直に喜べない。
別に自分は何もしてないしと。

「私は良いですよ。他の方を誘ってみてはどうですか?・・・・馬超殿とか・・・」

思わず本音が出た。
あからさま過ぎたと言ってしまってから気づく。

「馬超さん、ですか?」

「あ、あぁ・・・その・・・私は何もしてませんし」

役に立ってもいないし。

「そんな事ないですよ?」

「いや、本当に私は遠慮しますから」

「・・・・」

「あ、あははは・・・」

「趙雲さん、なんか怒ってます?私何かしましたか?」

は手に持った小袋をキュッと握る。

「いえ!別に怒ってなどいません」

「でも、なんか変です」

「何も変じゃないですよ」

「・・・・と言うか拗ねてる?」

「え!?」

言われた趙雲の顔が一瞬にして赤くなった。
怒ったからではなく図星で恥ずかしくて。
そんな顔の趙雲は初めてだったのでは一瞬呆けてしまう。

「す、拗ねてなんかいませんよ!なんて言うか、本当に私は馬超殿や姜維に比べたら何も役に立ってないですし」

「?」

「なんか仲間外れみたいな気がしたとか、しないとか」

「・・・ぷっ、あは、あははは」

「いや、本当に。拗ねてなんか・・・殿?」

突然笑い出す
趙雲は何がなんだかわからない。
ついでに自分が何を口走ったのかも気づいていない。

「なんで趙雲さんを仲間はずれにするんですか?」

「え、いや・・・」

趙雲は苦笑交じりでバツが悪い顔をしている。

「なんでですか?」

誤魔化すと言うのは可笑しい気もするが、変なことを口走った後だ、言ってしまおう。

殿が仕事を始めてから、少し物足りないなと・・・私の前では大人びているようで
 私の手などいらぬ様な気がして・・・ただ、馬超殿や姜維の前では以前と変わった様子もなく
 どちらかと言えば、その・・・・仲が良いなぁ・・・・と・・・」

「も、もしかして、見てたんですか!?」

趙雲の顔も赤いのだが、趙雲が見ていたらしいことを知っての顔も赤くなる。

「はい、何度か・・・」

「やだ、恥ずかしい〜趙雲さんには見られたくなったのに」

「私に?」

の手から小袋が落ちてしまうのが、拾いもせずに手は頬を覆っている。
趙雲はそんなに見てはいけないところだったのかと少し気落ちする。

「だって、趙雲さんにはダメな自分見て欲しくなったですから」

「は?」

「ん〜、なんて言うか、しっかり働いている自分を見て欲しかったから」

「えーと」

「だって失敗した所ばかり見られるのって嫌じゃないですか。うわ〜恥ずかしい〜」

つまりそれは・・・
趙雲にはしっかりした自分を見て欲しいと・・・思わず趙雲の顔は緩む。

「私の前でそんなに無理しなくて良いですよ、いつも通りのあなたでいてください」

「・・・・」

「ほら、せっかくのお給金を落としてはダメですよ」

趙雲は進んでの足元に落ちている小袋を拾いの手に持たせる。

「・・・・」

「お昼、食べに行きましょうか?殿」

馬超と姜維との違いを知って簡単に気持ちが変わった。
さっきまで拗ねていた自分なんか忘れてしまうくらい、モヤモヤ感は失せている。
それどころか、喜びのほうが大きい。

(これは期待してもいいのだろうか?)

緩みっぱなしの自分の顔。

「さ、行きましょうか、殿」

「うん」

とりあえずは、二人でゆっくりお食事しましょう。

「あ、もう転ばなくなったんですよ、私」

は趙雲の隣を歩きながらそう言った。

「そうなのですか?」

「ほら、着物の裾を引っ掛けない程度の長さにして、袖も汚さないように作業中は事務のオバサンがするような奴してるの」

こーんなのと、は説明してくれる。

「だから、もう大丈夫です!」

これからは周りの手を煩わすことなくできますと拳を握る。

「そうですか、でも、私にはいつでも頼ってくれてもいいですよ」

「・・・・か、考えておきます」

少し頬を染めるに趙雲は笑うのだった。







キリ番リクでした。
04/11/29
19/12/22再UP