3日後3日前




ドリーム小説
「・・・・はぁ」

はあるものも前に深いため息をついた。

卓の上に置いてあるそれは勇気が出せなかった証だった。

は寝台に仰向けになり寝転ぶ。
口元を尖らせ天井を睨みつける。
そうでもしないと悔しさに負けて涙が零れてしまうから。

「・・・馬鹿だなぁ、私・・・こうなるなら作らなきゃいいのに」

顔だけを卓に向ける。
自分がいた世界のものは多少違うが、それなりに丁寧に包装されたもの。
いかにも贈り物だとわかるものが卓を陣取っている。
それはそこに3日も放置されていた。

「・・・自分で食べようかな。もったいないし」

はゆっくりと身体を起こす。
ため息とともに。

卓の前に立ち、置かれたそれを見てため息ばかりでる。
まだ未練があるようで中々手が出せない。

「・・・・」

今、がなぜにこんな状態なのとかと言えば、それは3日前の出来事・・・

のいた世界では二月十四日と言えばご存知バンレンタインデー。
女性から男性にチョコレートをそえて愛の告白をする日だ。
まぁ、それだけに限らず義理チョコとして配ることもある。

この世界でも似たようなイベントがあったようでも『やってみよう!』と思ったのだ。
月英に相談して、彼女の家の厨房で二人でお菓子を作った。
もちろん月英は孔明のために。

結構、上出来。見た目も悪くない。
何度も練習したから味も悪くない。
これで完璧、後は渡すだけ!

「月英さんありがとうございます〜私一人じゃこんなに上手にできなかったかも」

「そんな事ないですよ。殿は私よりもお上手ですよ」

そう言われて照れてしまう。
彼女は軍の兵器開発を行いながらも家事もちゃんとこなす。
現代女性からすれば憧れるものだろう。

「あとは渡すだけですね。きっと渡された方は喜びますよ」

「そ、そうですか?だったらいいなぁ」

「勿論です!その方は幸せ者です。いいですね、趙雲殿は」

「な、なにを月英さん」

趙雲と名を出しただけで顔中真っ赤にする
月英は微笑む。

「普段、お世話になってるから、あ、あげるだけですよ。や、やだなぁ月英さんってば」

「うふふ、殿。照れなくて良いですよ」

「は、はぁ」

でも、本当に喜んでくれたらいいなとは思った。
月英には下手に言い訳をしてしまったが、が渡したいのは本当に趙雲なのだから。

(本当に、喜んでくれたら・・・いいなぁ)


そして、いざ趙雲のもとへ!と言う時に城では多くの女性に囲まれた男性陣を目撃する。
当然なのだが、馬超に姜維は抱えきれないほど品を貰っていた。

「す、すごすぎる・・・あの二人」

馬岱も関平も中々のようである。

「すごいね、馬岱君も」

「あ、殿!いえ、お恥ずかしいです。でも半分は従兄上にですよ」

「んな馬鹿な」

は笑う。
謙遜しなくてもいいのにと。
馬岱はよく気が利くし、武芸も達者で容姿も可愛げあって女性に人気があった。
馬超が綺麗な容姿なら馬岱は可愛い(男に失礼だろうが)って感じ。
笑うと和むそんな感じだ。

馬岱としばらく話していたら、ある一段の女性たちがそばを通る。
彼女らは場の雰囲気に似つかわしくなく沈んでいる。

「どうしたのかな?」

「あぁ、多分趙雲殿のもとへ行った方々ですね」

「え?」

馬岱は微苦笑している。

「趙雲殿は毎年誰からも受け取らないのですよ」

「そ、そうなの?」

それは知らなかった。
月英はそんなこと一言も言ってなかったし。
はバックの中にしまってある、あれの事を思い切なくなる。

「趙雲、甘いもの駄目だっけ?」

「いえ。理由は知りませんが毎年そうなんですよ。
 でも受け取ってもらえないとわかっても皆さん、毎年用意するんですよね」

「義理でも?」

「そうらしいです。あ、殿は趙雲殿に渡す予定だったのですか?」

「え!」

は慌てて首を振る。

「ううん。渡さないよ。私、渡す人いないしさ。あは、びっくりした馬岱君ってば」

嘘です。
思いっきり趙雲に渡す予定でした。
思わず口元が引きつる。

馬岱に嘘がばれただろうか?

「あ、ほら馬岱君ご指名みたいだよ」

「え、ご、ご指名だなんて」

女性が数人馬岱のもとへやってきたのでは女性たちに軽く一礼してその場を離れる。


(そっか・・・趙雲受け取らないないんだ・・・どうしようかな)

折角作ったのにと思う。
駄目で元々渡しに行こうかな?とは思う。
趙雲とは仲が良いの部類に入るだろうから、他の女性たちよりは受け取ってもらえる気がする。

(よし、行ってみるか!)

は趙雲の執務室へと向かった。

彼の執務室へ近づくたびに落胆した様子の女性たちとすれ違う。
最初は普通に歩いていたが、それがあまりに多くてなんだが怖さを感じて足取りが重くなっていく。

「・・・うげ・・最悪かも」

ちょうど執務室から泣いて出てくる女性がいた。

「・・・」

「だ、大丈夫ですか?」

思わず声をかけてしまう。
女性は泣きながらも口元に笑みを浮かべようとして気丈に振舞おうとしている。

「みっともないお姿をお見せして申し訳ありません」

「い、いえ。そんな・・・」

はそれ以上は女性に何も言えなくなってしまう。
女性もそれを察したのか、今度はニコっと笑んで行ってしまった。

「・・・」

思わず立ち尽くしてしまう。
引き返そうか、今ならまだ間に合うぞ。
そんな思いが横切る。

自分も受け取ってもらえないと思うと余計に。
さっきまでは軽い気持ちだったが、今は違う。

「あ」

考え込んでいたら目の前の扉が開き趙雲が出てきた。

「どうかしましたか?殿」

「え、あ、ちょ、趙雲。あ、いや、そのね」

上手く言葉が出てこない。

「さ、さっきね。ここから出てきた人泣いてたんだけど・・・」

「・・・あ、それは」

「他にもここに来る途中沈んだ表情の人とすれ違った・・・趙雲はお菓子受け取らないんだって?」

「は、はい」

「ふーん」

はいって確かに言ったよ。

「毎年色々用意してくださるようですが、私には受け取る気がないです」

「はぁ!?」

受け取る気がないだぁ?
思わず声を上げてしまう

「あの、殿?」

「なんで?折角みんな趙雲にって思ってるのに」

「だって、この日は男女相愛の日ですよ。女性から求愛する日で、私はそんな気持ちに答えられません」

真面目な人だ・・・

そんな言葉が良く当てはまる。
男女相愛の日って・・・そんなに深く考えるほどだろうか?あぁ真面目な人だぁ

「じゃあ、好きな人からじゃないと受け取らないってこと?」

「え、えと・・・その方がくださるのなら・・・受け取ります。多分」

「多分?なんで?」

「あ、あの・・・告白と言うか求愛するなら自分からの方がいいじゃないですか」

「あっそ」

恥ずかしいのだろう、趙雲の顔は赤い。
逆には胸の辺りがチクチクして痛くてしょうがない。
そういう理由で受け取ってもらえないなら自分が『お世話になってますから』と理由をつけても
この真面目な男は受け取らないだろう。

「ここに来たってことは殿、私に何か用事なのですか?」

「え。別に用事ないよ。通りかかっただけだよ」

「そ、そうですか。私はこれから休憩なのですが、殿も一緒のお茶でもどうですか?」

いつもなら『行く』と即答する所だが、今はそんな気分になれない。

「・・・・ううん。今日はやめておくよ」

「そうですか、残念ですね」

は趙雲と別れて部屋に戻った。


・・・てなことが3日前にあったのだ。
それから3日間趙雲とは顔をろくに合わせていない。
趙雲だけでなく他の者にもだ。

今の自分は明るく笑えないような気がしたから、日中部屋でごろごろしていた。
でも部屋には渡せなかった物が置かれている。

「・・・ぼちぼちなんとかしないと・・・マズイよねぇ」

それは賞味期限。
焼き菓子とは言え、3日も放置すればなんか怖い事になってそうだ。
一応変な臭いは出ていない。

「馬って食べるかなぁ・・・っておい」

せめて自分で食べろよ、自分。
馬が腹でも壊したらそれこそ大変な気がする。

「よし、食おう!腐ってそうならもったいないけど処分!気持ちもすっぱり切り替える!」

いつまでも引きずっていたら、何も知らない劉備たちが心配するだろうし。
残念だけど、渡さなかった自分が悪いのだ。

包装を取って、中身を出す。
うん、大丈夫そうだ。

パクリと一口入れる。
味も変ではない・・・多分大丈夫。
夏でなくて良かったと変に安堵する。

パクリパクリとく頬張っていくと右目から一筋涙が零れた。

「私って最低だなぁ・・・」

趙雲に断られるとわかっていても渡しに行った女性たち。
自分は理由を聞いて渡すのを止めた。
それなのにうじうじしてた。

彼女たちの方が辛いだろうに。
それでも彼女たちは仕事に励んでいるだろう。

一口、また一口と食べていくたびに涙が溢れる。

「・・・・」

鼻を啜りながらも食べるのは止めない。
全部食べるんだと決めた。
そして、悔しいから来年はちゃんと勇気出して渡そうと思う。

振られても、ぶつかっていった方がいい気がするし。

殿、ちょっといいですか?」

急に扉をノックされた。
声の主は趙雲だ。

わ、まずい。
今の自分は泣きながらお菓子を食ってる。
慌てて涙を拭って鼻を啜った。

「な、なに?」

「失礼しますね・・・殿?」

「ん?」

とりあえず、お菓子食べてました。って雰囲気で誤魔化そうとする。
でも趙雲はの不自然さに気づいたようだ。

「どうかされましたか?」

「何が?」

「鼻声ですよ」

「あ、花粉症かな?」

「睫毛濡れてますけど」

「欠伸でちゃって大変でさ」

「なんか泣いたあとって感じですけど」

「・・・本を読んでね、感動して泣けちゃった」

「そのお菓子は?」

「ん?お菓子はお菓子だよ。食べてただけだよ」

「・・・・」

はニコッと笑むも趙雲にはそれがうそ臭く感じる。
は何か隠しているなと。
それなりに付き合いが長いのだ。
の行動などそこそこわかる。

「では、私もいただいてもよいですか?」

「駄目!」

趙雲は手を伸ばそうとするが、はひょいと箱ごとどかす。

殿?」

「あ、えっと・・・」

これ、3日前の物だし。
腹壊したら大変ですよって言いたい。
でも3日前って言うとあの日だから、なんとなくあの日の話題は避けたい。

「お、お腹壊しちゃうかもしれないから」

「何故です?」

「わ、私が作ったものだし」

「別に平気でしょう。前に殿が作ったお菓子を食べてますよ、私は」

うん、そんな事もあった。
でもそれは趣味で作った物で、皆にもあげて・・・

殿、何かあったのですか?様子が可笑しいようで心配なのですが」

「・・・」

殿」

趙雲はに触れようとしたがが一歩下がった。
その時、手にしていた菓子箱が趙雲の手に当たり床に落としてしまった。
中身がそのまま床にこぼれてしまう。

「あ、す、すみません」

趙雲は慌てて拾おうとして膝を曲げる。

「いい、趙雲いいから。私、自分でやるから」

も膝を着いて片付けようとする。

「本当に申し訳ありません」

「趙雲が悪いわけじゃないよ、私が悪いんだ。だからいいって」

「でも」

「本当に、私が」

趙雲は手を止め見つめる。
その顔は曇っている。

「では何故、泣くのですか・・・殿」

「・・・あ、その・・・」

笑って答えたつもりなのに、涙が止まらないでいる。
へたりとは腰をつけてしまう。

「最近、貴女の様子が変だと思ってました。それは私の所為ですか?」

「あの、違う」

「3日前のこと、貴女も怒りますか?女性の気持ちを無駄にしてと。
 もう少し軽く受け止めるべきなのでしょうが、私にはそれができなくて・・・・」

貴女もってことは趙雲は誰かに言われてしまったのだろうか。

「それでも今は・・・貴女にも同じ事を思われることが辛いです。何より、泣いてる姿など・・・・」

は泣くのを止めようとごしごしと強く涙を拭う。
趙雲にそんな悲しい顔をさせたいわけじゃないのだ。

ただ、せっかく作ったものを自分で壊してしまったのが悲しくて。
趙雲には自分の気持ちをまだ隠していたくて。

でも、正直に言わないと、この先がごちゃごちゃになって二人の関係が悪くなったら嫌である。

「これ、み・・・三日前に私が作ったものだから。趙雲がこれ食べてお腹壊したら大変でしょう?」

殿・・・・」

「ちょ、趙雲に渡すつもりだったんだ、本当は。でも、誰からも受け取らないって聞いたから。
 ・・・でももったいなくて捨てられなくて・・・せめて自分で食べようって思って・・・」

肝心な事を言わないから泣いた理由にはならない。
けど、趙雲は前髪を掻き揚げ軽く掻いた。

「それは、私なりに解釈しても良いですか?」

「え・・・あ、その〜」

「私は貴女を傷つけてしまったようだ。でも嬉しいです、これは私のために作ってくださったのですよね?」

趙雲はの頬に手で触れる。

「貴女が好きです、殿」

の目は驚きで大きく見開くが、趙雲の顔が近づいてきたので自然と目を閉じてしまう。
そして唇と唇が触れた。

触れたのはほんの数秒だろうがにはそれがとても長く感じた。

「わ、私も趙雲が好き、だから」

恥ずかしさで俯きながらもはちゃんと答えた。
趙雲はにこっと笑う。
そして、二人の間に落ちている菓子をつまんで口に入れた。

「甘いですね。美味しいですよ」

「趙雲!落ちた物だよ!汚いって」

「でも、床についない部分ですし、折角貴女が作ってくださったものを」

「でもでも3日前のものだし!お腹壊したら大変だし」

は慌てて趙雲の手を掴む。
もうこれ以上食べないでくれと。

「今度、またちゃんとしたの作るから!焼きたて!焼きたてのお菓子趙雲に作るから」

「そうですか?ではこちらで我慢しますから」

「は?」

趙雲は再びの唇に自分のを重ねたのだった。

「こちらも甘いですね」








04/02/17
19/12/22再UP