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待ち人来たら
―『殿』 って言う声が好き。 『そんなに心配することはないですよ』 って言いながら優しく頭を撫でてくれるのが好き。 『では、参りましょうか』 って差し伸べてくれる大きな手が好き。 趙雲さんが好きです。 たくさん、いっぱい、言葉や態度では足りないくらい、趙雲さんが好き。 私のことは妹でも、友だちでも、最悪知人程度とでも思ってくれていいので、好きでいさせてください。 我が侭は言わないから。 この気持ちは、私の中に隠しておくから。 だから、私のことは嫌いにならないで下さい。 ね?趙雲さん。 成都はとても静かだった。 前君主からこの地を治める者が劉備に変わったことで民には特に変化もなかった。 劉備による政治で潤い始め、安心して暮らし始めている。 だが、外はそうでもなかった。 魏とは睨み合いが続き、兵を出兵することになった。 戦には関係ないは、今回、どこで戦が起こることなど知らない。 いや、心配をさせまいとして劉備らは知らせるつもりがないのだろう。 それは少し甘やかしすぎかとは思うが。 なので、その戦の為に多くの兵士が成都を出立する。 趙雲もその一人で先陣を任され一ヶ月ほど前に出立している。 成都に残っているのは劉備と孔明のみだった。 静かな城内。 いつも会わせる顔がないのは寂しい。 残っている劉備や孔明だって毎日執務がある為に忙しい。 「いつ帰ってくるのかな・・・毎日つまんないや」 仕事もないはただただ暇で。 趙雲たちの無事を祈るも、祈りが効いているのか不安にもなる。 普段の行動も縮小され限定されてしまう。 今日はどこで、何をしようか? 自然との足は趙雲の執務室へと向っていた。 そっと扉を開け中を覗く。 当然のようにひっそりとした部屋。 本当は勝手に入ってはいけないのだろうが、は足を踏み入れる。 一通り見回してみる。 趙雲らしいと言う雰囲気がする執務室。 いつもここで彼が書簡などに目を通している姿を見ていた。 たまに目が合うと、前髪を掻き笑う趙雲。 『面白くないですよ?こんな所を見ても』 『これが済んだら、お茶にでもしましょうか、殿』 そんな時間が好きだった。 ―誰もいないね、いつになったらここの部屋の主は帰ってくるのかな? 執務室の隣には仮眠室がある。 寝台とちょっとした棚に小さな卓に椅子。 ほとんど、こっちには入ったことはない。 ここは趙雲が休むための部屋だから。 仮眠室の扉も開け覗いてみる。 当然だが、誰もいない。 ここで寝る人物はいないのだから、寝台には布団もない。 はそこへ腰掛け手で軽く摩る。 今はただの台かもしれない。 ゴトン は寝台に寝転んだ。 ―早く帰ってこないかな 趙雲さんが帰ってきたら、何しようかな? 春は桃が綺麗に咲くのですよね? 夏は木陰で涼むのもいいですよね 秋になったら虫の声を聞きながら散歩したり 冬は部屋で暖を取りながら話をしましょう 私はここに着て日が浅いです。 趙雲さんといっぱい、いっぱい、いーーーっぱい思いで作りたいです。 早く、帰ってきてください、独りは寂しいです・・・ 「独りは・・・寂しいです・・・」 はゆっくり目を閉じた。 誰もいないはずの部屋なのに、趙雲がいたと思える場所にいるだけで、今は良かった。 そうしていつの間にか眠りについた。 *** が寝ている間に、趙雲たちが成都へ帰還した。 前もって知らせが届くものだが、どうやら劉備らはにわざと黙っていたようだ。 帰ってきたぞ。 と、劉備がに知らせようとしたのだが、の姿は見えない。 劉備らはが趙雲の執務室で寝てしまっていることを知らないのだ。 「あぁ、まとめて後で報告する」 趙雲は久しぶりに自分の執務室に足を踏み入れる。 帰還した早々にやらねばならない雑務ができた。 屋敷に戻って一休みしたかったが、それは仕方がない。 夜には宴があると言う、何とかそれまでに仕上げてしまおう。 「ん?」 「どうかされましたか?」 副官に尋ねられる。 「あ、いや・・・」 少し隣の部屋の戸が開いている。 気にする必要もないのだが、自分がいない間に勝手に出入りされたと思うと気にしてしまう。 「では、私は丞相へこの書簡を渡してまいります」 「あぁ頼む」 趙雲は何気に仮眠室をチラッと覗く。 「あ」 「将軍?」 趙雲は口元を手で押さえ声を殺してながら笑う。 「どうかされましたか?」 「いや、大したことではない。すまない、途中で女官が誰かに被子を持ってきてくるよう頼めるかな」 「はい、構いませんが」 「なるべく早く頼む。風邪を引かれたら大変だ」 楽しそうに言う趙雲に副官も仮眠室を覗いて納得した。 「早くに持ってこさせましょう」 優秀な副官は執務室を後にする。 それから数分も経たないうちに女官の一人が薄手の被子を持ってきてくれた。 趙雲はそれを受け取りそっと、にかけてあげる。 「見ないと思ったら、ここで寝ていたとは・・・」 自分の帰りをここで待っていてくれたのかな? とか思わず勝手に解釈してしまう。 可愛い寝顔に趙雲は笑む。 「さて、先にあっちを片付けないとな」 ずっと見ていたい気もするが、仕事は疎かにできない。 机に戻り、書簡を広げる。 ・・・でも、ちょっと見てみたいから 目を覚ました時のの反応が楽しみなので、戸は開けっ放しにしてみる。 ここからだと、よく見える。 「早く目を覚まさないかな、殿・・・」 くすりと笑う趙雲だった。 はなんだが、体がぽかぽかしている感じがした。 温かくて、気持ちいい。 そんな温かさで目が覚める。 いつの間にかかけられた被子に気づく。 まだ眠いし、気持ちいいのでもう少しこのままでいようと被子に顔を埋める。 「・・・???・・・」 ふと思う。 なんで被子がかけられているの? だって、今この部屋には誰もいないはずなのに・・・? 薄っすらと目を開けると、扉が開けっ放しになっていて、そこから趙雲の姿が見える。 「・・・え?・・・あ、れ?・・・」 ゆっくりと身体を起こす。 趙雲の方も気づいたようでにっこり笑った。 「おはようございます、殿。気持ち良さそうに眠ってましたよ」 「あ・・・そ、その・・・」 「珍しい物が見れて良かったですよ」 ようやく状況がわかってきた。 勝手に寝てしまった自分に被子をかけてくれたのは、戦から帰還した趙雲で。 起きるまでずっと寝顔を見られてました。 そう思ったら、趙雲に会えた嬉しさよりも、寝顔を見られた恥ずかしさが勝った。 「うわぁ」 はバッと被子をかぶって寝台に倒れこんだ。 反応がわかりやすくて趙雲は楽しくてしょうがない。 ゆっくりとに近づく。 (恥ずかしい、うわぁ〜涎とかたらしてないよね?口開けっ放しとかさぁ・・・みっともないよぉ〜) 今の自分はきっと顔を真っ赤にしているに違いない。 顔中暑くなってきている。 「殿」 趙雲は寝台に腰掛け被子の上からの頭を撫でる。 思わずの身体はビクついてしまう。 「殿、ただいま戻りましたよ」 「・・・・」 「どうしたのですか?せっかく久しぶりに会えたのですから顔を見せてはくれませんか」 「・・・ずい・・・」 「は?」 蚊が鳴くような小さな声では呟く。 「・・・恥ずかしいです・・・」 趙雲はくつくつと笑う。 「殿、顔見せて下さいよ」 「あ、あとで」 「今じゃ駄目なのですか?」 「だって寝起きの顔ですよ?きっと変です〜」 「そう言われましても、先ほど散々殿の寝顔を拝見しましたし」 「!!」 「殿、顔を見せてください。そして私を安心させてくれませんか?」 趙雲はの耳元で一団と優しく囁く。 「貴女に出迎えていただかないと帰ってきた気がしませんから」 そう言われては包まった被子から少しだけ顔を出す。 耳まで真っ赤になっている。 再びゆっくりと身体を起こす。 「殿、ただいま」 「・・・」 にっこり笑う趙雲。 ずっと待っていた笑顔。 さっきまでの恥ずかしさは薄れ、も笑む。 「おかえりなさい、趙雲さん」 「また貴女のその笑顔に会えて安心しました・・・おまけに寝顔まで見れましたし」 「ちょ、趙雲さん!恥ずかしいからやめてくださいよ〜」 「なんでですか?とても可愛い寝顔でしたよ」 「趙雲さんってば」 「あははは、さて。まだ寝てますか?」 「遠慮します、もう起きます」 「そうですか?別に私は構いませんよ、殿の寝顔を見れますし」 「いーやーー」 は被子を趙雲にバッと投げかけ、自分は寝台を降りて部屋から走り去ってしまう。 趙雲は笑いながら被子を畳み、寝台に置く。 再び机について残った雑務を再開させる。 すると、視線を感じる。 見ればが扉から少しだけ顔を覗かせている。 「趙雲さん」 「はい、なんでしょう?殿」 「いっぱい、いっぱい、いーーっぱい遊びましょうね」 「殿・・・」 「趙雲さんとたくさん思い出を作りたいです」 そう言っては扉を閉め駆けていった。 趙雲は笑った。 「そうですね、これから沢山の思い出を作りましょう」 キリ番リクでした。
03/08/26
19/12/22再UP
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